27匹目 毒消し丸
今回長めです。
ちゃうねん。簡潔に纏めようと思うねんけどキャラが勝手に喋りだすねん・・・
「フィ~ア~ちゃん。あ~そび~ましょ」
次にやって来たのはエルとフィアのアトリエだ。と言うのも昨日ヒールクリームを買ったばかりなのにもう全部消費してしまったから追加を確保しなくてはならない。こんどは軍資金がたんまりとあるし未知の新エリアにも行く予定だから多めに買っておこう。
「フィ~ア~ちゃん」
ぎぃ……
「……何ですか、フィアは忙しいのです。夜中に突然やってきて嫌がるフィアに無理やり触って喜ぶような変態さんと遊んでる暇はないのです」
フィアちゃんが扉をちょこっとだけ開けて、片方の目を扉の外にだしてジト目で俺を睨んでくる。可愛い。
「いやー、あの時は悪かったよ。FWOに来てから始めて初対面で男だって分かってもらえて、それが嬉しくってつい……」
「……?、一人称は俺だし、男口調で話しているのに女の人と間違われるのですか……?」
「うん。自分では良く分からないけど俺って女顔らしくてな……昔から時々間違えられていたんだけどこっちに来てから更に酷くなった気がするな……」
いや、9割方うさぎさん装備の所為だとは思うけども。そういえばフィアちゃん達の前でうさぎさん装備を着たことは無かったなあ。
……フィアちゃんに着てもらうのはありだな。心がピョンピョンしそう。
「……………………はぁ」
ぎいいいいいいぃ
と、相変わらず立て付けが悪いのか、きしむ様な音を響かせながら扉がゆっくりと開いていく。
「およよ?」
「……はぁ」
「いや、人の顔をまっすぐ見てため息つかないで欲しいんだけど」
「……しょうがないので、今回だけは許してあげます。中に入ってください。ただし次同じことをしたら許しませんから」
「おう。次からはちゃんとフィアちゃんの許可をとってから触るようにするよ」
「……許可を出すことは無いので触ろうとしないでください」
「えー」
先導するフィアちゃんに付いて、昨日も通された工房へと入る。
……何だかんだ言いつつも、扉を開けた瞬間ダッシュで距離を取られたであろう昨日に比べれば、フィアちゃんとも距離が縮まっている(物理的に)気がしてちょっと嬉しかったりしたりする。
「~♪」
「……?どうかしたのですか?」
「んー?別になんでもないよ」
「……そうですか。それで今日はどんな御用ですか、姉さんなら出かけてますよ」
「え?フィアちゃんと遊ぼうかと思って」
「…… ……そうですか。それで今日はどんな御用ですか、姉さんなら出かけてますよ」
「え?フィアちゃんで遊ぼうかと思って」
「…… …… ……そうですか。それで今日はどんな御用ですか、姉さんなら出かけてますよ」
「え?フィアちゃんを弄ぼうかと思って」
「…… …… …… 帰ってください」
「ごめんなさい調子に乗りました」
だからその先端にトゲ鉄球が付いた鎖をしまってください。
多分ストレージから取り出しているんだろうけど、取り出しているところが全く見えない。気付いたらフィアちゃんの手に自身の半分ほどのサイズのトゲ鉄球付きの鎖が握られていた。
あれかな?重量が百トンあったりするのかな?モーニングスターってハンマーの仲間っぽいし。
「……はぁ。それで本当はどんな御用ですか」
「うん。ヒールクリームをまた貰おうかと思って」
「……また、ですか。昨日5つ買っていったばかりですよね」
なに昨日の今日で使い切ってんの?どんだけダメージ食らってんの?バカなの?死ぬの?と言わんばかりのジト目で見られた。
フィアちゃんは滅多に表情が動かないけれど、その分目がいろんな感情を表していると思う。
ボーパル達もモンスターだから表情は動かないのでボーパル達で鍛えられたとも考えられるけどもボーパル達は身振り、翼振り、耳振り、何とか考えを伝えようとしてくるので何を考えているのか推測するのはそれほど難しくはない。
ボーパル達は俺が言っていることは分かってるから合ってるか確かめることは簡単だしな。
「森の奥でな。超でっかい熊に襲われたんだよ。その戦闘で結構ダメージ貰ってさ。ヒールクリーム全部使っちゃったんだよ」
本当はそれ以前の野犬の方から食らったダメージの方がでかかったりしたが、わざわざ言う必要も無いだろう。
「……なるほど。それで泣いて逃げてきた訳ですね」
「逃げて無いよ!勝ったよ!俺殆ど活躍してないけども!」
「……えっ?それは本当に驚きです……泣いたのは否定しないのですね」
「そこ掘り下げなくて良くない!?気付いてもそっとしておこうよ!」
「……冗談です。さっきのお返しです」
声を荒げる俺の対角線上の一番遠い席に座るフィアちゃんの口の端がちょっと上がった気がした。
笑ったのか?そんな顔をされたらこれ以上は何も言えなくなるじゃないか。
「……でも驚いたのは本当です。あなたにラースベアーが倒せるとは思えませんから」
「微妙に傷つく言い回しだけど……それは単に運が良かったからとしか言えないな。なんか新エリアに行けるようになったみたいだしそっちも探索行きたいんだよね」
「……どれくらいですか」
「へ?」
「……予算はどれくらいなのですか」
うーんそうだな、回復アイテムはいくらあっても困るものでは無いけど全額注ぎ込んで極貧生活に戻るのもバカらしいし半額ぐらいにしとくか?
「……ん、これだけあれば十分です。少し待っていてください」
そういうとフィアちゃんはイスから立ち上がりチョコチョコと歩いておそらく倉庫があるであろう扉へと歩いていった。
「……ふぅ~」
……少なくとも嫌われてはいないと思う。
前回叩き出せれちゃったからな。男が怖いと言っていたフィアちゃんに本格的に嫌われていたらどうしようかと、意識して道化を演じるような振る舞いをしてしまったが(8割素)最後のほうでは俺に冗談を言い返してほんの少しだが笑ってくれた。
これはあきらかな進展だろう。このまま行けばフィアちゃんと友達になれる日も近いに違いない。
……でも、友達になるってどういう状態の事を言うのだろうか。
二人で買い物に出かければ友達だろうか?買出しぐらいなら友達じゃない気がする。買いたい物も無いのに一緒に回るなら友達な気がする。
二人で食事に出かければ友達だろうか?食事しながら打ち合わせとかしてたら違う気がする。会話を楽しんでいたら友達な気がする。
相手の家に行くのは友達だろうか?今日みたいに薬を買いにきたのでは違う気がする。理由も無しに遊びに来たのなら友達な気がする。
うーん。友達になるって難しい。方向性は間違って無い気がするんだけどなー。
「……お待たせしました」
「んーん、ちょっと考え事してたらすぐだったから大丈夫だよ」
「……そうですか。ではこれを」
そう言ってフィアちゃんは持って来た薬を入れたカゴを俺に手渡し……はせず足元に置いて後に下がる。
……そこまで取りに来いと。そりゃあね?投げて渡されるとか長い竿の先端に引っ掛けて渡されるとかよりはいいよ?でも、どうしても距離感を感じて寂しくなってしまう。
まあ、そんな事をいつまでも言っていられないので、さっそくカゴを回収に行くと中にはいつものヒールクリームがゴロゴロ入っていたのとなにやら毒々しい紫色の小さな飴玉が入っていた。
「これは?」
袋に入っている飴玉?を摘み上げて鑑定する。
【アイテム:回復アイテム】毒消し丸 レア度2
錬金術で作成されたアイテム
飲むと状態異常”毒”を解除する
「……それは毒消し丸です。それを飲めば毒を解毒できます。森の奥地には毒を持ったモンスターがいっぱいいると姉さんが言ってました。持っていけばきっと役に立つはずです。……すごく苦いですが」
「お、おう。すごく苦いのか……」
「……すごく、すごーく苦いですが、せっかく用意したので持って行ってください。効き目は保障します。味は保障しませんが。あ、カゴは返してください」
「……お気遣い感謝します……」
カゴの中身だけをストレージにしまってカゴは返す。
返そうと近づいたら近づいた分だけ逃げられた為、仕方なくテーブルの上に置いて後で回収してもらおう。
「……もし、森で毒袋を拾ったら持って来てください。毒消し丸の材料になります。薬草もあればヒールクリームを作れます。……誰かさんが買い占めてしまったので在庫が無くなりましたからね」
《クエスト『毒袋の納品』を発見しました受理しますか? Y/N》
《クエスト『薬草の納品』を発見しました受理しますか? Y/N》
「取ってくるのはいいんだけど、どこで取れるんだ?」
《クエスト『毒袋の納品』を受理しました》
《クエスト『薬草の納品』を受理しました》
「……毒袋は毒ヘビのモンスターが落とすそうです。薬草は街を出たらその辺に生えているので地面を鑑定してください」
「りょーかい。じゃあ、行ってきます!」
「……いってらっしy、……どうしてフィアがあなたを見送らなければいけないのですか。ここはあなたの家じゃないです。帰って来なくていいので、挨拶はさよならです」
「ちぇー、じゃあ、またね」
「…… …… …… また、会いましょう」
「えっ?何だって?」
「……!何でもないです。ニヤニヤしないでください気持ち悪いです。やっぱりユウさんは変態さんです。変態さんと同じ部屋に居るのは耐えられないので今すぐ出てってください。今、すぐに」
「分かった、分かった!直ぐ帰るからトゲ鉄球の角で突かないでくれ!」
そして今日も追い出されてしまった。
でも昨日に比べれば態度も柔らかかった気がするし、フィアちゃんと友達になれるように頑張ろうか。
とりあえずはネコと新エリア探索が先だけどな!
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