26匹目 レンの工房
地図頼りにたどり着いたレン君の工房はどう見ても木造の一軒家だった。
~レンの工房。木と布のお店~
って看板が掛かってるから場所は間違いないとは思うけど、コレ絶対工房じゃないよね。外装間違えてない?
ピンポーン
「はーい!今行くよー!」
FWO内で初めて見たドアチャイムを押したら中からレンの声が聞こえてきた。
うん。やっぱりここだけ剣と魔法のファンタジーじゃ無くなってるな。
「あ、ユウさん!いらっしゃい!待ってたよ!ようこそボクの家へ!」
やっぱり家じゃないのか!?
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「リアさんから話しは聞いてるよ。新しい杖が欲しいんだって?前の杖はもしかして折れちゃったのかな?だめだよ耐久値の管理はちゃんとしないと。新しい杖は前のと同じのでいいかな?本当はもっといいのを作ってあげたいんだけどまだカシよりも性能のいい木材が見つかってないんだよね。ユウさんもどこかで木材見つけたら持ってきてよ買い取るからね。それじゃあちょっと倉庫に行って来るからお茶でも飲んで待っててね。あ、後ボーパルちゃんを召喚しておいてね。直ぐに戻ってくるからね~」
「お、おう。お構いなく……」
リビングに通されて、お茶を出されて、一方的に捲くし立てられて、放置された。
部屋のなかには電灯の灯りが点り、テレビやソファーやダイニングキッチンまである。これ完全にリアルの家と変わらんな。
折角ゲームの中なんだからリアルじゃ出来ないような家に住みたい気もするけどな。空中庭園みたいな。
でも現実っぽい家も落着くのかもな。他人の趣味にとやかく言うつもりはないし。でも、工房ではないと思う。
「きゅい!」
「ホー!」
理由は分からないけどボーパルを召喚しておいて欲しいと頼まれたから召喚して一緒にミズキも召喚する。
レン君もボーパル達を愛でたいのかな?それなら俺も語れるぞ?
初めて来た部屋に興奮したようで、しばらくあっちへピョコピョコこっちでバサバサしてたボーパル達だが、ボーパルはソファの上が気に入ったらしく丸まって動かなくなってしまった。ミズキは電灯からぶら下がるヒモにじゃれついていた。
ってミズキ!それに、じゃれついちゃいけません!それ引っ張ったら電気が、あーあ。豆電球になっちゃった。
もう。おとなしくしてなさい。
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「ごめんね、待ったよね?」
「ううん。今来たところ」
「?ユウさんが来てからもう20分は経ってるよね?」
「あ、はい。気にしないでください」
「?」
ツッコミ不在の時にボケても滑った感がハンパ無い。ボケたことにも気付いてもらえないってなんか無性に恥ずかしくなってくる。
「とりあえずコレが新しいカシのロッドだよ!」
まだ数日しか握ってないのにずいぶん見慣れたカシのロッドをレン君から受け取る。
……ばっちり代金もとられて。
「あの時よりもスキルレベル上がってるし、ちゃんと代金も貰ったから前のよりも能力は上がってると思うけどそれでも似たり寄ったりなんだよね。闘技大会があるみたいだしそろそろ新素材が市場に回ってくれると嬉しいんだけどねぇ……」
「ん、ありがとう。今度こそは壊さないように大事にするよ」
「うん。その子をよろしくね」
ニコっと微笑むレン君は、その手に赤いタオル?を取り出してキョロキョロする。
「そのフクロウは新しい召喚モンスターだよね?あれ?ボーパルちゃんは?」
「ボーパルなら俺の後ろで寝てるよ」
「きゅい?」
自分の事が話しに出たのが分かったのかボーパルが頭を起こしたらしく長いミミの先端がピョコピョコしてるのがソファーの背もたれ越しに見える。可愛い。
「ボーパルちゃんおいでー」
「きゅい?きゅい!」
呼ばれたのが分かったボーパルがソファーから跳び出てきて机の上に座りレン君の方を首を傾げて見ている。お行儀悪いけど可愛いからいいよね。
部屋に来てから召喚したから足も汚れていないだろうし。
「じゃーん!ボーパルちゃんにマフラー作ってみましたー!あっ、もちろんお代はもらうよ?」
そういってレン君は手に持っていた赤いマフラーを広げてボーパルに見せてる。
【アクセサリー:首】勝利のマフラー レア度2
防御力+5 重量1 耐久値100
風がなくてもたなびく赤いマフラー
装備者には勝利を運ぶといわれている
【効果】
なし
「きゅい!きゅいきゅい!」
自分へのプレゼントと聞いて目を輝かせて喜んでいるボーパル。
くっ、なんてうまい売り込みなんだ!!これじゃあ買うしかないじゃないか!!!
……まぁ、レン君がボーパルの為に編んでくれた時点で買わない選択肢は無いけどな。
「これで……出来た!」
「きゅい!きゅい~」
レン君にマフラーを巻いてもらったボーパルが心なしか胸を張って俺達に自慢してくる。室内なのに真横にたなびく真っ赤なマフラーが純白の毛並みに赤いお目目のボーパルとマッチして物語の主人公みたいでかっこいい。
真っ赤な色は主人公の色だからな。怯えていなくてもいいんだよな。別に怯えてないけど。
「ホ~……」
浮かれるボーパルと対照的にミズキがションボリしている気がする。
レン君はミズキの存在を知らなかっただろうからしょうがないとはいえボーパルだけプレゼントを貰ったような物だからな。
「なぁ、レン君。何かミズキが装備できそうなものってないかな?」
「ん~ごめんね。ボクも探してみたんだけど流石にフクロウに合う装備は無かったよ……」
用意してあった筈の杖を取ってくるには遅いなぁ、と思っていたけどミズキの装備を探していてくれたのか。
「ホ~」
「きゅいー。きゅい!」
レン君の言葉に、がっくりと肩を落としているように見えるミズキの所にボーパルが近づいていってそっと自分の首に巻いてあるマフラーを差し出す。
フルフルと首を振って受け取りを拒むミズキに、一切引かずにずいずいとマフラーを押し付けるボーパル。
やがて根負けしたように首を差し出すミズキにボーパルが器用にマフラーの片側を巻きつけ満足そうに一鳴きしている。
無理やりマフラーを巻きつけられた形になったミズキだがこちらも満更では無さそうにばさばさと止まったまま翼を羽ばたかせている。
「友情だねぇ……」
「ああ。……でも、あのままだったら戦闘が出来ないどころかミズキは飛ぶ事も出来ないけどな」
「うん。それに異常装備でマフラーの効果も出ないしね。……ねぇ2人共。今度までにミズキちゃんの分のマフラーも編んでおくからそのマフラーはボーパルちゃんが使ったらいいと思うよ。」
「きゅい……」
「ホー……」
「ちゃんと作っておくからさ。またおいで?」
「きゅい!」
「ホー!」
ミズキがマフラーから首を抜くとまたマフラーが真横にたなびき始める。何度見てもかっこいいなアレ。俺も欲しいなぁ。
でもちょっと厨二臭が漂ってるんだよなー。どうしようかなーとか考えている間にウサギさん装備の修復を頼むのを忘れて帰ってしまった。
まぁ、耐久値はまだ残ってるし大丈夫だろう。出戻りするほどじゃあ無い。
ボーパルを送還しなおした時にマフラーも一緒に消えたので一々装備しなおす必要が無いのも地味に嬉しかった。
さて、と。森にネコを捕まえに行く前にあそこに寄っておかないとな。
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