246匹目 第二回闘技大会本選第二試合中堅戦
さっさと闘技大会を終わらせたいと思ってはいるんだよ?うん。思ってはいるんだけどねぇ・・・
『よ、よし!気を取り直して中堅戦を始めるぜぇ!』
『商人怖い……料理人怖いよぉ……』
「私達の出番デスよフィア!」
「……ふぅ。早く終わらせて読書に戻りましょう」
初戦はこちらが勝ちましたし、フィア達は気楽に行けそうです。
あのリアと名乗った商人はなかなかのやり手みたいです。いつの間にかアトリエから調合品を仕入れる契約を姉さんと結んでいるみたいですし、さっきの試合もそうでした。
リアさんが持っていたフライパンはフィアも製作を手伝ったのですが、イナリちゃんの狐火を一回受けただけで真っ白に変色し、吸収しきれなかった熱が手を焼いていました。
持っているだけでも辛かったでしょうし、もう一度受けたら溶けていたはずなのに全く表に出さずに微笑む姿は、仲間でも少し恐ろしかったのは秘密です……。
『有効な手段ではあったからな。俺は嫌いじゃないぜ?』
『むぅ~。そうだね。切り替えて次行こ~』
「リアが頑張ったのデス!私達もガッツを見せるデスよ!」
「……ハッタリと脅しだけで勝つのはフィア達には向いてない気がします……」
あの包丁でクリティカル率が上がると言っても微々たるものです。リアさんは手持ちのカードを効率的に使い、口八丁でイナリちゃんをギブアップさせました。フィア達に同じことができるとは思えません。
『最初にステージに上がって来たのは、生産万歳チームだぜ!あの2人はなんと、NPCの上にレア職な錬金術師だぜ!』
『フィアちゃんとエルちゃんだね~。2人ともかわいいよね!姉妹で錬金術師なんだよ~』
「気にしなくていいデスよ!私達には私達の戦い方があるデス!」
「……フィア達は戦士ではなく、錬金術師ですけどね……」
ステージに上がると明るいライトに照らされました。フィア達の姿は街中のあらゆる所に放送されているはずです。
……本当になんでフィアはこんな所に居るのでしょう?
ユウさんに貰った、この真っ赤な背負い鞄のお礼と、姉さんがノリノリだったからって言うのは分かっていますが、腑に落ちない気分です……
『いや、フィアとエルは愛称であってフルネームは別……まぁいっか。長くて呼びにくいし』
『今更フルネームで呼んでも誰か分からなくなるしね~』
「……むぅ。なんだかムカムカしてきました。少しストレス発散に付き合ってもらいましょう」
「デース!その意気デス!」
両手を握って気合を入れたフィアの隣で、姉さんが腕を天に突き上げてやる気を出しています。
いえ、やる気を出すのは構わないのですが……姉さんが片手で持ってるそのカゴは錬金術で容量を拡張してあって、爆弾が沢山詰まっているので振り回すのは本当に止めて欲しいです。姉さんがうっかりしたら戦う前に2人とも真っ黒焦げです。
『対するユウチームの選手は……ミズキ選手とティーニャ選手だぜ!』
『キャー!二人ともかわいいー!』
「ホー!」
「~~!」
「むむっ!相手はミズキとティーニャデスか!」
「……2人とも手強いですね」
手強くないのはユウさんぐらいですが。戦うとは思えないヒラヒラのドレス着てますしね。まぁ、姉さんも人の事は言えませんが……。
『両チーム揃ったところで試合開始だぜ!』
『四人ともがんばれ~!』
「ホー!」
「~~~!!」
「むむっ。いきなり空に飛ぶデスか……」
「……やりにくいですね」
試合開始と同時にミズキちゃんとティーニャちゃんが空高くへと飛び上ってしまいました。上を取られるのも距離を取られるのも厄介ですね……。
『ユウチームは飛行タイプ2人って感じだぜ』
『錬金少女達が爆弾で攻撃してくるからかな?空に投げるのって大変そうだもんね~』
「やりにくくてもやれる事をやるだけデス!行くデスよ!フィア!」
「……仕方ないですね。やれるだけはやりましょう」
ジャラジャラと両手でモーニングスターを構えて、杖を構えた姉さんの隣に並びます。
詠唱時間を与えるとこちらが不利です。直ぐにでも攻撃を当てて詠唱を途切れさせたいところです。
「飛んでけ~!デスッ!」
「……シッ!」
アクションスキル<マジカルシュート>
アクションスキル<昇竜打ち>
姉さんが杖の先端に出現した魔法の球を上空に打ち出し、フィアのトゲトゲ鉄球が鎖の尾を引きながら天に駆け上がります。
対空攻撃ができるスキルの中では最速の物を選んだのですが……。
「ホー!」
「~~~!」
マジックスキル<ウィンドアロー>
アクションスキル<魔力圧縮>
『生産チームがユウチームに遠距離スキルを放つが、ミズキ選手に打ち落とされてティーニャ選手にかわされたぜ!』
『ミズキちゃんはティーニャちゃんの護衛をしてるみたいだね~。短い詠唱の魔法を並列で待機させてて、相手の攻撃の迎撃にとってあるみたい。ティーニャちゃんも前回の試合で捕まっちゃったのを反省してるみたいで空を飛び回ってるから当てるのは難しいかもね~』
「やっぱりスキルで当てるのは難しいデスか……」
「……最初から分かっていた事です。出し惜しみは無しでいきましょう」
両手武器のトゲトゲ鉄球を仕舞い、姉さんが渡してくれた爆弾を握ります。
この爆弾はなにかあった時用に作っておいた高いやつなので使いたくなかったんですが……。致し方ありません。ミズキちゃんとティーニャちゃんには戦場の華になってもらいましょう。打ち上げ花火です。
「こっちの方が私らしいデス!」
「……当たって!」
アクションスキル<投擲>
「ホー!!」
マジックスキル<ウィンドアロー>
『エル選手が大砲で爆弾を打ち出し、フィア選手が砲弾に負けず劣らずの速度で爆弾をぶん投げるぜ!』
『フィアちゃんの爆発する魔球だね~。ミズキちゃんがギリギリで打ち落としに成功したよ~』
「どんどん行くデスよー!今日は在庫一掃セールデス!」
「……請求は後でユウさん宛に送っておきましょう」
姉さんが片手に持ったカゴをひっくり返して、中の爆弾を全て外に出しました。
次の試合にも勝ち上がるつもりなら、全ての爆弾を使いきってしまうのは下策なのですが……。ここで負けてしまえばどのみち次はありません。使えるものは全て使ってしまいましょう。
『エル選手のカゴから、明らかに入りきらない数の爆弾が転がりでて小山になったぁ!』
『錬金術でカゴの容量を増やしてたみたいだね~。未来の道具とか入ってそうでワクワクするよ~。実際は爆弾ばっかりだけど~』
「全部乗せミックスをごちそうするデス!」
「……お残しは許しません」
姉さん特注の錬金大砲に、順番に爆弾を放り込みます。
錬金大砲は、複数の爆弾を混ぜられる特殊な大砲です。
炎・火・雷・木・氷・水・毒の七色の爆弾を飲み込んだこの一撃なら、如何にミズキちゃんといえど一溜りもないでしょう。
……この一撃で、アトリエの利益の三ヶ月分はしますので、効いてくれなければ困ってしまいます。
「ファイヤー!デース!」
アクションスキル<簡易錬金>
『エル選手が片足で踏みつけた大砲がスパークを放つぜ!』
『杖をビシィ!っとミズキちゃん達に突き付けたら、七色の閃光が大砲から飛び出したよ~!虹色できれ~』
「冥途の土産に教えてやるデス!七つの力が混ざり合った砲撃は、あらゆる物を分解する極光のレーザーとなるのデース!!」
「……何故でしょう。急に嫌な予感がしてきました」
姉さんが放った七色の本流は、狙いたがわずミズキちゃんとティーニャちゃんに迫り、避ける暇も与えません。
……いえ、むしろ初めから避ける気配が無かったような……?
「~~~~!!」
マジックスキル<エンジェル>
ダブルマジック<エンジェル>
『おぉっと!ティーニャ選手!この砲撃を真正面から迎え撃つつもりだぜ!七色のレーザーと純白のビームがステージの上空でせめぎ合う!!』
『ティーニャちゃんの天使の翼の延長線上に二つの魔法陣が現れたね~。ティーニャちゃんが両手で輪っかを作って照準したら、2つの魔法陣からビームがでたよ~。こっちもきれ~』
「無駄デス!錬金術の基本の一つである分解に特化した砲撃は!魔力さえも分解してしまうのデス!」
「……単発の魔法や結界ならともかく、ビームタイプにはあまり意味はありませんけどね」
次から次へと照射され続けるティーニャちゃんのビームは、姉さんのレーザーに分解され続けながらも勢いを衰える様子はありません。
「~~~~!!!」
「ば、バカな!?デス!?ティーニャの魔力は底なしデスか!?」
「…………」
ちっとも威力が衰えないビームと撃ち合えば、こうなるのは明白です。
エネルギーが尽きかけて威力が落ちてきた姉さんのレーザーを、ティーニャちゃんのビームが押し込んで来ました。
……爆死は嫌なので距離をとっておきましょう。
『ここにきて拮抗が崩れたぜ!ティーニャ選手のレーザーがビームを押し返す!!』
『トドメとばかりに、ティーニャちゃんが気合いを入れたらレーザーがもっと太くなったよ~。エルちゃんも頑張らないと飲み込まれちゃう!』
「くっ、かくなるうえは……三十六計逃げるになんとかデス!」
「ホー!」
マジックスキル<影縫い>
おっと。危ないです。いつのまにか地上に近づいていたミズキちゃんから、影色の羽根が飛ばされてきました。
フィアは取り出したトゲトゲ鉄球で叩き潰すことに成功しましたが、ミズキちゃんに背中を向けていた姉さんは対応しきれずに影を縫い付けられ、両手をバンザイして逃げ出している途中のポーズで固まってしまいました。
『撃ち合いに勝つのをサクッと諦めたエル選手が逃げ出そうとするが、回り込んでいたミズキ選手の影縫いが決まってその場に縫い付けられたぜ!』
『その間に迫るよ~!ティーニャちゃんのレーザーがすぐそこに~!』
「~~~!!!」
「くぅぅぅ!あ、アトリエの錬金術は世界一イイイイ!!」
あ、姉さんが変な叫びをあげながらレーザーに飲まれました。
最後までアトリエの宣伝を忘れない姿勢を褒めるべきなのでしょうか……いえ、調子に乗るので止めておきましょう。勝てたのなら褒めても良かったのですが……。
ドゴォォォォォォン!
『せめぎ合いを勝ったティーニャ選手のレーザーが、大砲ごとエル選手を飲み込んで大爆発したぜ!!』
『エルちゃんがカゴから出してた爆弾の山に引火したみたいだね~。真っ白なレーザーに、カラフルな爆炎が混ざってキレ~』
あぁ……持ってきた爆弾が全滅してしまいました……。確かに綺麗ですが、値段と損益を知っていると素直に喜べません。切り札だった錬金大砲まで壊れてしまいました……作るの大変でしたのに……。
「きゅぅ~……」
『エル選手が戦闘不能で場外に転移されたぜ!』
『あの爆発の中心にいたんだからしょうがないよね~……あれ?フィアちゃんは?』
「~~~?」
「ホー!」
「……ちぇっ。見つかってしまいましたか」
爆煙に上手く紛れてティーニャちゃんの上を取れたのですが、ミズキちゃんに見つかってしまいました。
姉さんが持っていた爆弾は全滅してしまいましたが、フィアの背負い鞄の中にはトリモチ付きの投網が入っているのですが……見つかってしまっては、ただでは当たってくれないでしょうね。
『おおっと!フィア選手がいつの間にかステージの限界ギリギリを飛行しているぜ!その飛行手段は……真っ赤なランドセルから生えた天使の羽だぜ!!』
『キャー!フィアちゃんかーわいー♪水色髪で落ち着いた色合いのお洋服を着た女の子が赤いランドセルを担いでるだけでも微笑ましいのに、天使の羽まで生えて軽やかに空を飛んでるなんて、もー素敵!かわいい!お持ち帰りー!』
『お、おぅ。落ち着けメト。キャラが変わってるぞ』
「~~~!!」
「ホー!」
フィアを見つけたティーニャちゃんとミズキちゃんの魔力が膨れ上がるのを感じます。
ティーニャちゃんは動きを読まれないように時々蛇行しながらステージへと墜落していき、代わりにミズキちゃんがフィアの方へと上がってきました。
先ほどと同じく、ミズキちゃんが時間を稼いでティーニャちゃんの一撃で仕留めるつもりなのでしょう。なので、フィアは……。
「……降参です」
「ホー!……ホー?」
「~~~?~~~?」
フィアが口を開いた瞬間に、何がきても対応できるようにミズキちゃんの周りに風が渦巻いて……すぐに掻き消えました。
むぅ。降参を宣言したのに試合が終わりませんね。両手をあげる必要があったのでしょうか?
「……降参です。フィア一人ではティーニャちゃんとミズキちゃんの二人には勝てません」
「ホー!」
「~~~!」
『そこまで!フィア選手の降参で試合終了だぜ!!』
『むむぅ。天使フィアちゃんの活躍をもうちょっと見たかったな~』
負けてしまいましたが、フィアはどうしても勝ちたかったわけでもありませんし、いいでしょう。チームメイトへの義理の分ぐらいは戦いました。
『本選第二試合中堅戦!勝者ミズキ選手とティーニャ選手だぜ!!おめでとう!!』
『今回は、二人の飛行と魔法による徹底的なアウトレンジ戦法が嵌まったね~。エルちゃんとフィアちゃんも頑張ったけど、相性の問題もあるからね~。あと、フィアちゃんはかわいい』
ごそごそ。
ふぅ。鞄に入れていたフィアの愛読書は無事ですね。リタイアして大正解でした。では、続きを読みましょう。
もふもふ!
VRMMOでサモナー始めましたの1~3巻が大好評発売中!
最新刊である4巻も12月10日に発売したよ!イナリもユウ君も超かわいいから是非見てみてね!
マンガ版のVサモの更新も明日だからそっちも要チェックだよ~。
そして今回は4巻のイラストをあれやこれや公開!
四巻の書影!明らかに違うユウ君のキツネたん装備!!
もうめっちゃかわいいよね。好き。大好き。イナリもかっこいいんだよこれが。あ~好き。本屋で眺めてニヤニヤしてたわ。
イラスト担当の秋咲りお先生が応援イラストも描いてくれたよ~。
イナリの笑顔が眩しすぎるぅ!かわゆす!もふりたい!もふもふ祭りしたい!!ユウ君のお耳もはむはむしたいけどね!!
ストレートもいいけど、髪を上げてるのもいいよね~。うなじうなじ。こしょこしょしてやりたい。
まだまだ魅力的な挿絵や、カラーの魔人ちゃんとかも見れるから、Vサモ四巻是非買ってね!もちろん挿絵だけじゃなくて、内容も加筆した箇所がたくさんあるからそこも見どころだよ。トーテムポールとか天使とか。




