22匹目 VSラースベアー
今回キリが悪かったので長いです
「ぎ、ぎにゃああああああああああああああああああああああああ!!!???」
草木を掻き分け俺達の前に巨大な赤い熊が現れた!
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
くま!クマ!ベアー!
ひぃー!
いや、クマも好きだし可愛いと思うけども!流石に起き上がると8mを超える鮮血の様に真っ赤な熊に突然出会ったらびびるわ!むしろちびるわ!いや、ちびらないけども!
怖い怖い怖い!いかん思考が混乱してる。ここは1つ。
「戦略的撤退!!」
「ホー!」
「きゅい!」
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
三十六計逃げるになんとか!意味は知らないけど逃げるが勝ちみたいなもんだろ。多分。
ふっ、大熊よ。見たところお前は攻撃力特化だろう?俺達の鍛えられた敏捷力には付いて来れまい!
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
付いて来れまい!
「ガウウウウウウウウウウウウ!」
……付いて、これ、ま……。
「ガウウウウウウウウウウ!!」
クマ速ぇええええええええええええええええええええええええええ!
いや、速度的にはこちらの方が若干速いのだろう。すこーしずつ離してはいるが、振り切ることがなかなか出来ない。
ガキン
「グペ!?」
バッキバキに草木をへし折り迫ってくる赤大熊の恐怖から全力で逃亡している俺が大樹を避けた瞬間突然透明な壁が現れ俺の進行を阻んだ。
「きゅい!?」
「ホゥ!?」
いや、俺の顔の前だけじゃない。俺の正面に一面全て透明な壁が出現していて、ボーパルとミズキもその壁に阻まれて地面に落ちる。
これは……まさか……アレか?歴代のゲームに代々存在するあの……
ボスからは逃げられない!!
状態なのか!?
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
「ヒイイイイイイイイ!?」
「ぴゅい!?」
「ホヒョー!?」
背後は壁。左には大樹がそびえたち移動不可。そんな状況で追いついてきたラースベアーについ変な声を出してしまう。
ボーパルとミズキもなんか聞いたこと無い声出してるし!
「ガァア!」
あわあわしている間に追いついたラースベアーが巨大な熊の手を振りかぶって迫る。
右方向へは回避できるけど、今かわしたらとっさに動けないミズキに当たる!!
「こなくそ!」
ラースベアーにぶつかりに行く様に飛び出し。手にした杖を全力で左から右へ振り切り、今まさに振り下ろされている最中の熊の手を横から弾き軌道を逸らせる。
否逸らせようとした。
かつん
「へ?」
予想していた重い手ごたえとは裏腹に小さな乾いた音を立てて腕は大した抵抗も無く振り切れた。
「きゅい!」
直後衝撃。
「そげぶ!?」
飛び出したボーパルに右わき腹を蹴られた俺は左の大樹にべちゃっと叩きつけられる。一拍の間も置かず振り下ろされたラースベアーの手が元俺の体があった位置。今俺の振りきった右手がある位置を通過する。
って、痛ってぇぇぇぇぇぇぇえ!
いや痛くはないけども!痛覚はカットしたままだけども!自分の手が無いのってすっげぇ違和感がぱねぇ!
ちっ、殆どゆとりは無いが少しでも後ろに下がって状況の確認を!
ボーパルとミズキは……無事か。
俺の右手は肩から綺麗に消滅していた。流石にちぎれた右手が転がっていたりはしないか。ホラーすぎるし。
プレイヤー ユウ Lv10
状態 恐怖 欠損
HPは残り……17パーセント。
17パーセントォ!?
ふぁっ!?
なんでもう2割切ってんだ!?えぇっ!?俺が食らった攻撃はボーパルとラースベアーの2撃だけだよな!?。腕が吹き飛んだ事も含めてどんだけ攻撃力あんだよあの熊!?
……って、あああああああああああああ!!
忘れてた……。ボーパルのクラスチェンジやらなにやらに驚いて、あの妙に強い野犬共と戦ったあと回復するのわすれてたあああああああああああ!!
俺の、バカチンがああああああああああああ!!
「ガアアアアアアアアア!」
ラースベアーが逃げ道を塞ぐように右から左へとフックを放つ。
後ろは壁。左は木。右からは熊の手。正面は熊。ならば逃げ道は……
「跳躍ぅぅううううううう」
上だ!!
セットスキル:跳躍。ついてきたはいいものの索敵と違い今まで全く使い道の無かったスキルを始めて使う。
「う、お!」
ピョーンとその場で垂直に3m程飛び上がる。
「ガァ!?」
そこにラースベアーが突っ込んできたので、その頭を踏み台にさらに跳躍。ボーパルも俺に続いてラースベアーを踏み台にして空に舞う。ミズキは自前の翼で追いかけてくる。
俺が目指すは上。大樹から生えている枝だ。
「とぉ、どぉ、けぇえええええええ!!」
「きゅいいいいいいいいい!」
果たして俺の願いは届いた。
太い枝へと辛うじて引っかかった指を支点に全力で力を込め、しがみついてくるボーパルごと体を枝の上に放り投げる。
そのときチラと見た眼下では『俺を踏み台にしただとぉ!?』と驚愕に染まっていたラースベアーの表情が徐々に真っ赤に、怒りに染まっていっていくのが見えた。
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
ラースベアーは立ち上がると8mほどもあった。今俺がいる枝は良くても7m程。ここだとラースベアーの手が届く!
「跳躍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「きゅい!」
「ホー!」
上へ、上へ、もっと上へ。アイツの手が届かないところへ!
「跳躍跳躍跳躍跳躍」
頂上付近まで一気に駆け上がり一息つく。ここまで来ればあの巨大熊も追って来れ、ま……・い。
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
登って来たぁぁぁぁぁぁ!!
いや、いくら大樹とはいえあんたには小さ過ぎますから!回した腕が後ろでくっ付きそうになってるじゃねぇか!
ミシミシいってる!上に登ってくる程、木がミシミシいって曲がっていってるぅぅぅぅ!!
ってそんな事より逃げないと!次かすったら俺死んじゃう!とはいえ上に行くにはもう限界がある付近に飛び移れそうな大きな木は無いし、下に飛び降りたら落下ダメージで死にそうだ。
詰んだ。
ファイヤーボールで攻撃することは出来るが大樹ごと燃やしそうだ。ほんと火魔法使いにくい。絶対別の魔法覚えてやる。
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
「ヒッ!」
怖い怖い怖い。
ラースベアーが吠えるたびに恐怖が拡がり体がすくむ。
徐々に距離を詰めてくるラースベアーに対して俺は何も出来なかった。
だからこそ、この状況を打開するために”彼女達”が動いたのはある意味では当然だったのかもしれない。
「きゅい」
「ホー」
軽い目配せと小さなささやきで意思疎通をはかった後にぴょんとボーパルが枝から飛び降りる。
「!ボーパル!?」
ユウの悲壮さを感じさせる叫びを背中で受け止めながらも宙を舞うボーパルは眼下から迫るラースベアー。その大樹に回した腕の右肩、というか右二の腕に着陸する。
「ガウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
当然自分の腕の上にボーパルが我が物顔で乗っているのをラースベアーが許す筈もなく右腕を木から外しブンブン振るも体全体でヒシッと抱きついたボーパルを振り払う事が出来ない。
その内、
「ホー!!」
上空からミズキが襲撃をかける。
「ガァ!?」
ボーパルに意識を集中しているラースベアーの無防備な鼻っ面に爪を食い込ませて着地したミズキがラースベアーの目玉をくり抜きにかかる。
さすがに目玉を抉られては敵わないとボーパルの振りほどきを中断し必至に顔を振ってミズキを振り落とそうとするも、余計に鼻っ面に爪を食い込ませるだけに終わる。
「きゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
再度木にしがみつき安定したラースベアーの右腕の上。ボーパルは静かに右足を振り上げ”溜め”に入る。
「ホー!ホー!」
振りほどかれ無いように必至に足に力を込め、爪を食い込ませているミズキはばっさばっさと翼をはためかせてラースベアーの視界を遮りボーパルに注意が向かないように奮闘する。
「きゅい!」
「ホ~!」
ボーパルからの合図と共に足に込めていた力を緩めたミズキがラースベアーの首を振る勢いに吹っ飛ばされる。
「フンッ」
やっとこさミズキを振り切ったラースベアーは鼻息1つボーパルの方へ振り向こうとし。
「きゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「!?」
ドゴン!!
と派手な音と共に炸裂したボーパルの”溜め蹴り”で強制的に反対を向かせられる。
スキル:溜め蹴り
足を振り上げた体勢で”溜め”をすることで蹴りの威力を上げる事が出来るスキル。
蹴りの威力は”溜め”の時間が長いほど上昇する。正し上昇値には上限有り。
”溜め”の間は動くことが出来ず、蹴りを放つまで”溜め”を自分の意思で解除することは出来ない。
限界まで溜めたボーパルの渾身の蹴りだがHP的には5%ほどしか削れていない。
だが、その蹴りはラースベアーの体に脅威を感じさせるには十分だったようだ。
左を向こうと首を回している途中に蹴りで強制的に右を向かされたラースベアーの体は、首を痛めないよう首の力を抜いて力に従い右を向いた。
「きゅいきゅいきゅい!」
溜め蹴りの反動をラースベアーに流したボーパルは右から左へと振りぬいた右足に引っ張られる様に跳躍。
ラースベアーの顔の正面の幹に足を付けるとそのまま三角跳びの要領で全力全開で踏み切る!!
「きゅいい!」
ドバン!!
と、さっきの溜め蹴りにも勝るとも劣らない爆音を響かせ踏み切ったボーパルが右を向いたラースベアーの左頬。溜め蹴りが当たったところと同じ場所に蹴りかかる!!
「きゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
貫けえええええええええええええええええええええええええええええ!!
と、ばかりに叫びながら撃ちはなったボーパルの蹴りは、溜め蹴りのダメージで力の入らないラースベアーの首では耐え切れず……
ゴキュン
と、首から鳴ってはならない類の音を出して更に90度ラースベアーの首が右に回る。
正面から見ると完全に首が真後ろを向いている形だ。完全にホラー映像である。
「きゅいい~~」
ラースベアーの顔を蹴り抜いた形になったボーパルは、当然の様にそのまま宙に飛び出してしまう。
ユウとは違い瀕死な訳ではないから即死することは無いかもしれないが大ダメージは免れないだろう。
「ホーーーーーーーーーーーーー!!」
きゅっと目をつぶり来るだろう衝撃にじっと備えるボーパルへと何とか体勢を整えたミズキが半ば体当たりをするようにぶつかり、近くの枝の上へと諸共に転がりこむ。
「きゅい~」
「ホ~」
クルクルと目を回すボーパルとミズキの前を、大樹にしがみ付いていられなくなった。ラースベア-が真っ逆さまに落ちていき。ドドーン、と森が揺れる程の大音響が鳴り響く。
「きゅい……」
枝葉の隙間からそっと下を覗き込み、ラースベアーがピクピクと痙攣しつつも起き上がる気配が無い事を確認したボーパルは、やっと勝利した実感が湧いてきたのかピョンピョン飛び跳ねて全身で喜びを表す。
「きゅい~♪きゅい~♪きゅいっ!っきゅぅ!」
「ホー!」
「きゅいぃ」
狭い枝の上で勝利の舞いなんか踊っていた所為で当然の様に落ちかけたボーパルだが、こんなこともあろうかと背後に回りこんでいたミズキが背を押すことで枝の上に押し戻される。きゅいきゅい、とテレつつお礼を言うボーパルだがちょっと経つとまた喜びが再燃してきたのか踊り始め、また、落ちかけるを何回か繰り返していた。
……こうして初のボス戦はユウがビビッている間に小さな2人の活躍によって大勢が決したのだった。
ボーパルが初の首狩りを経験してしまった・・・
・・・えっ?この物語の主人公?ボーパルですが何か?サモナーなんて召喚獣が本体でしょう?




