222匹目 まさか私に踏んで欲しいんですか?
第五層から脱兎のごとく逃げ出した次の朝。俺はフェアリーガーデンにログインした。
いや、前回のログアウトから日付は変わってないけども、俺的には寝るまでが1日だから。そして起きた時が朝だから。今日起きた時はお昼を回ってたけども、朝だから。
……なんか最近日付が変わってから寝てお昼過ぎに起きる事が多い気がするなぁ。夏休みが終わってからちゃんと起きられるのか心配だな。
……て、あれ?
「……あ、あれれ~?おかしいな?家がどこにも見当たらないぞ?お、俺ログインする場所間違えたかな?はっ、まさかまだ寝ぼけてるのかな?もうお昼過ぎてるのにな~。おっかしいなぁ~……」
いや、正確には家が見当たらないと言うより、家があったはずの場所に別の物が鎮座してるんだが……
あれ?ここって俺の知ってるフェアリーガーデンで合ってるよね?かなり景観が変わってるんだけど、実は別のフェアリーガーデンに間違って出てきたりしてないよね……?
「んん?おぉ!ユウなのじゃ!お帰りなのじゃ!」
「「「「~~~~!!」」」」
「あぁ、うん。ただいまリーンちゃん……ところでこれは一体何事?」
「服が変わってたから一瞬誰か分からなかったのじゃ!」とこっちに満面の笑みで駆け寄りながら告げるリーンちゃんと、スケスケの生地が珍しいのかスカートの内側に潜り込んで遊びだすフェアリー達を宥めながら、俺が指差した先。ホームがあったはずのその場所にはでっかい円柱状の壁が聳え立っていた。
……いや、分かってる。現実逃避をしても何にも始まらないって。でもね。世の中には分かっていても理解を拒む事ってあると思うんだ。
天高く聳え立つ壁にしか見えない物体は単なる障害物では無い。巨大すぎて壁か柱にしか見えないけれども、上を見上げれば青々とした強い生命力に溢れる緑が天を覆っており、それが確かに息づいている1本の大樹である事が分かる。
つまるところ……
「俺の家が木に飲み込まれてるぅぅぅぅぅぅ!!」
ということだ。
確かに殆ど留守にしていたけども、新築で高かったのに……
はっ!ちょっと待って!?家が木に飲み込まれてるって事は、家が待機場所に設定されているボーパル達まで生き埋めに!?
もしかしたらウィアナちゃんまで一緒に埋まってるかも!ヤバイよヤバイよ!
「?ユウが何を言っておるのか分からんのじゃが……ユウの家ならあそこじゃぞ?」
「「「「~~~?」」」」
「へ?」
リーンちゃんと愉快な妖精達が指を刺した通りぶっとい大樹へと視線を向けて……そのままスススッと上昇していく小さな指につられて木の天辺の方を見ると……なんか見えた。
「ユウが陽当たりを気にしておったからの!天辺に移設してみたのじゃ!」
「「「「~~~!」」」」
「いや、そういう問題なのか……?」
腰に手を当ててドヤ顔をしているリーンちゃんと、それを真似するフェアリー達はすっごいかわいいけども「陽当たりが悪い?なら家を持ちあげればいいじゃない!」ってそんなんあり?ま、まぁ。ありなんだろうな。ゲームだし。
というか、それ以前にこの大樹が急に発生したことの説明が欲しいんだが……いや、まぁ。説明が無くとも何となく分かるけどさぁ。それでも、ね?
「きゅい~~!」
「うおぉう!?」
俺が何とも言えない微妙な表情で大樹とその天辺にある木のお家というある意味妖精の花園にピッタリと言えなくもないセットを眺めていると、聞き覚えのある鳴き声と共に、空からボーパルが走り幅跳びで降ってきて、俺の顔面にお腹で着地した。
ビックリした!もふっとした!いやいや、ゲームだからこそ”もふっ!”で済んだけど、下手したら一発で首の骨がイっちゃうレベルの衝撃がきたからね!?むしろ安全エリアであるフェアリーガーデンの外だったら即死もありえたよマジで!
「ホ~……ホゥ!ホー!」
「きゅい?きゅきゅい」
ボーパルのダイビングアタックの影響で後ろに倒れ込んだ俺のお腹へと、飛び降りたボーパルを追って降りてきたミズキが着地して、俺の顔から引っぺがしたボーパルにお説教をし、ボーパルが俺の胸の上で土下座で謝ってる。
いや、いいんだよ。別にダメージは無いし、反省してるんならそれで。
でもさぁ……2人共俺の上からは退こうとしないのな。なに?ログアウトしてる間離れてたから寂しいの?もぅ~2人ともかわいいんだから!大好きだぁ!!
「きゅい~!」
「ホー!」
「む?楽しそうじゃな!わらわも混ぜるのじゃ~!」
「「「「「~~~~~~~♪」」」」」
ボーパル達のあまりのかわいさに、思わずぎゅっと抱きしめてゴロゴロと地面を転がると、新しい遊びと判断したリーンちゃんとフェアリー達が群がってきてあっという間におしくらまんじゅうになってしまった。
いや、転がるのが新しい遊びなら団子になられた時点で転がれないからね!?無理に転がったらフェアリー達下敷きにしちゃうし!嫌だよ俺クイー〇チャッピーみたいにプチプチフェアリー潰しちゃうの!安全エリアだからノーダメだけども!
「ユウお姉ちゃん。帰ってきてたんですね。気づきませんでした」
「おぉ!ウィアナちゃんいい所に!すまんがちょっと助けて!」
「のじゃ~~~♪」
「「「「「~~~~~~~♪」」」」」
ちんまいリーンちゃんとフェアリー達でも数が増えると重いんだよ!
どうしたもんかなぁと考えていると、天から救いの声が降ってきたので、ウィアナちゃんに助けを求めたんだが……
なんかウィアナちゃん、イナリと一緒にでっかい葉っぱに乗ってゆっくり降りてきてるんだけど、なにあれ。エレベーター?
木の天辺までどうやって上るんだろう?って思ってたんだが、ずいぶんとファンタジーな移動手段ですねぇ。ただ、見た目が普通の葉っぱだから曲線ばっかりだし、手すりも無いから俺は乗りたくないんだが……安全性大丈夫?落ちても死なないから大丈夫とか言わないよね?ね?
「私はユウお姉ちゃんにお話しがあるのです。あっちで遊んでてください」
「コーン!」
「「「「「~~~~~~~♪」」」」」
「のじゃ~~~♪」
地面に倒れてプレスされている俺の近くまで歩いてきたウィアナちゃんがそう言い、イナリがしっぽをふりふりしながら俺の周りを練り歩くと、俺に引っ付いていたフェアリー達がみんなイナリを追いかけて飛んでいった。
センキューイナリ!助かったぜ!俺にもあとでもふらせてねー!
……どうでもいいけど、リーンちゃんの「のじゃ」がもはや口癖じゃなくって鳴き声になってる気が……まぁ、今更か。
「ユウお姉ちゃん」
あんなにピッタリくっ付いてたのにあっさりとみんなが去って行って、ちょっぴり寂しい思いをボーパル達を抱えて誤魔化していた俺にウィアナちゃんが手を差し出してくれた。
ウィアナちゃんやっさしー。ここに居るのって楽しい事第一な人ばっかりだからな~……おい、そこ。類友とか言わない。
「ウィアナちゃんありがと~」
「――――は?何を勘違いしているんですか?」
ウィアナちゃんが差し出した手に俺の手を重ねようとしたらペチンと跳ね除けられた。
え、えぇ……?助けるために手を伸ばしてくれたんじゃないの……?
「何故私がユウお姉ちゃんを助ける必要があるのですか?そもそもいくらお似合いとは言えいつまで地べたに寝転がっているのですか。まさか私に踏んで欲しいんですか?」
「好んで踏まれる趣味は俺には無いよ!」
だからその楽しそうに浮かべた笑顔と右足を今すぐ止めてください!
くっ。なんか最近ウィアナちゃんにも余裕が出来てきたからか、からかわれる事が増えている気がする……。
こういうウィアナちゃんが調子に乗っている時の対処法は1つ!
「お願いボーパル!」
「きゅい?きゅいきゅい!」
「ひっ。ご、ごめんなさい。わ、私とユウお姉ちゃんはとっても仲良しですぅ!あ、ユウお姉ちゃんそのお洋服とっても素敵ですね!」
わ~お。すごい取って付けた様なお世辞を貰ってしまった!
相変わらずウィアナちゃんはボーパルの事が怖いみたいだね。
こんなにかわいくてもふもふなのにね~?
「きゅい?」
うん。ボーパルは今日ももふもふかわいいぜ!
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想の方へお願いします。
VRMMOでサモナー始めましたの1巻が1月10日に発売予定!お楽しみに!
ウィアナちゃんのキャラがあの天然ドSっ娘引っ張られてる自覚はある・・・
だがそれもまた良し!マイカレンダーを覗くのは日課です。
今回は予定していた半分ぐらいまでしかお話が進まなかったので次回は早めにあげ・・・れたらいいなぁ。
ではでは。また次回!




