209匹目 あたしの友達
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『ないてる。あのこないてる。たすけて。クレアたすけて』
この子の”声”が聞こえるようになったのはいつからだったかしら……おばあちゃんにこの巫女装束を貰った時だから……もう結構経つのね。
あたしの”友達”はちょっと普通と違っているの。その姿も声もあたし以外には見ることも聞くことも出来ない。
初めて声を聞いたときは何を言っているのかもよく分からなくって、姿を見る事も触れ合う事もできなかったわ。
急に頭の中に響いてくる謎の声に取り乱したあたしは怖くて不安であたしの中の声を否定して、閉じこもったのよ。
そんなあたしを皆は心配して、慰めてくれたわ。
でもね。時間が経つにつれて頭の中の声ははっきりして、”友達”の姿も見える様になったの。互いに触れ合い、言葉を交わすうちにあたし達は友達になったわ。
そんなあたしを皆は……心配して、慰めてくれたわ。
誰もあたしの言う事を信じてはくれなかったの。あたしの”友達”の言葉も存在も友達になったという事も。
言葉を重ねれば重ねる程みんなは心配そうな顔をする。みんながあたしの事を心から心配してくれているのは分かるけど……悲しくて寂しくてあたしはもうみんなに友達の話をするのは止めたわ。
みんなが信じてくれなくても”友達”はここに居る。みんなが分からなくてもあたしだけは分かっている。それで十分なのよ。十分……なのよ。
なのに……
「信じるさ。当たり前だろう?」
水が上から下へ流れる様に。朝になれば太陽が昇る様に。夜になれば月が輝く様に。
言葉通り当たり前の事を言う様にあいつはあたしにそう言った。
あたしの顔を見つめて不思議そうに首を傾げるあいつは気づいていない。
あいつにとって当たり前でしかない、たった一言があたしにとってどれだけ重くて貴重だったのかを。
あいつのたった一言でどれだけ……あたしが救われたのかを。
あの日以来あたしは誰にも”友達”の事を話していない。”友達”のおかげで何かを知った時や決めた時は全部「勘よ!」で押し通してきた。
なのに今あたしはあいつに聖獣の声が聞こえると伝えていた。
”友達”が中継してあたしの頭に響いている聖獣の鳴き声は悲壮的で何かしてあげたいと思うけれど……
それだけでずっと内緒にしていたあたしの秘密を話すかしら?
『好きなの?あいつ好きなの?』
な、なななななにゃにを言ってるのよあなたは!あ、あいつの事なんて好きなわけないじゃない!
第一あなたにはあたしの好きな人のタイプを教えてたじゃない。あたしはすっごく優しくて強くてかっこいい人にしか尻尾を許さないの!
そりゃ、あいつもまぁまぁ優しいわよ?町で困っている人を見かけたら全員助けてるし、自分がやりたくてやった事だから報酬は要らないとか言っちゃうし?
それに、アリスを助けるためにこんな危険な所まで乗り込んであたしの我が儘まで聞いて足手まといでしかないあたしを連れてくるぐらいだもん。優しいというかもうお人好しの部類よね。
強さも……おばあちゃんには絶対敵わないでしょうけどこの町でも上位の強さじゃないかしら?
さっきの山羊の角が生えたあいつの強さは圧倒的だったわ……危険だって教えられてそれでも引き受けた囮役だったけど、漆黒の光に視界を塗りつぶされた時はもうダメだと思ったもの。
なのにあいつはあたしが死を覚悟した攻撃を庇ってなんともないどころか、次の瞬間には敵のボスを殴り飛ばしていたのよ。
防御力も速度も攻撃力も圧倒的過ぎてあたしじゃどれぐらい凄いのかすら分からなかったわ。それにあいつの強さはあいつだけの物じゃない。今も空中で聖獣と渡り合っているウサギとフクロウとキツネもあいつの力の一部なのだから。それら全てを含めるなら……この町のナンバー2はあいつかもしれないわね……
で、でもかっこよさなら!ほら、あいつってもふもふなら誰でも手を出そうとする最低な奴じゃない!あたしのおかげで奇跡的に前科持ちになって無い様なものだわ!やっぱりあいつにはあたしが付いてないとダメね!……あれ?
ち、違うのよ!べ、別にあたしがあいつと一緒に居たいとかじゃなくって!ほら、あいつって普段はちゃらんぽらんなダメ人間だけど、決めるときは決める奴じゃない?アリスを助けに行くのも即決で決めたし、ボスもぶっ飛ばしたし、誰も信じてくれなかったあたしの言う事を信じてくれたし……おかげで心が凄く軽くなったもの。ずっと心にこびりついていた孤独が剥がれ落ちたみたい。
でもね。長年心の片隅を埋めていた孤独が消えてなくなったけど、心に穴があいたりはしていいないのよ。剥がれて消えた孤独の代わりにあたしの心には……はっ!あ、あたし何考えてるんだろ。違う違う!気のせいよ!気の迷い!そうに違いないわ!
『すきなんだ!クレアすきなんだ!』
うっさい!黙りなさい!噛み殺すわよっ!
「にゃ~にゃにゃにゃぁ~♪」
『てれてる!クレアてれてる!』とか茶化してくる”友達”の声を心の中から追い出しているあたしを呼び戻したのは1つの歌声だった。
力が漲るアップテンポな曲であり、しんみりと心に染みわたる優しい歌であり、泣けるほどに美しい不思議な歌を歌うのはあいつの配下のネコね。たしか名前は……ノゾミちゃんだったかしら?
いつの間にか薄暗かった部屋はぼんやりとした幻想的な明かりに包まれていて、祭壇の上にちょこんと座ったノゾミちゃんの歌声に合わせて光が大きくなったり小さくなったりして、まるでこの部屋自体がノゾミちゃんの歌のために作られたステージみたい。
「綺麗……」
ノゾミちゃんの不思議な歌を聞いていると体がぽかぽかと温かくなって内側から力が湧いてくるみたいだわ。まるでぽかぽかの陽だまりにいるみたい。
ずっと感じていたいポカポカだったけど、直ぐに歌は聞こえるのにポカポカは感じなくなってしまったわ。
『よろこんでる!あのこよろこんでる!きもちいいって!せーかきもちいいって!』
「せーか?それがあの歌の事なの?」
「グルゥゥゥゥゥ!?」
せーか、せいか、聖歌?聖なる歌かしら?
確かに空中で苦し気に身を捩っている聖獣の体から出ている闇のチカラが少しずつ削れていってるわね。
いける。これならあの子を救う事が出来るかもしれないわ!あいつは本当にあたしの言った事を信じてあの子を救おうと……あたしの為に……
お、お、落ち着けあたしぃ!気の迷い!迷ってるだけだからぁ!ありえないからぁ!!
「グルゥゥゥ!!」
「わりぃがこっから先は一方通行だ!」
「きゅい!」
「ホー!」
「コーン!」
「にゃ~♪」
空中で身もだえていた聖獣が全身からゾッとするほどの勢いで闇を吹きだしてノゾミちゃんを守る為に立ちふさがるあいつを睨みつけている。
怖い。睨みつけられているのはあたしじゃ無いのに心が凍えて体が震えちゃう。
でも、あいつなら。あたしにはどうしようも無いけどあいつなら!
『とめられない。ダメとめられない』
「どういう事?」って聞く前にフクロウ、ミズキちゃんの脇を闇の刃を巻き散らす聖獣が突破した。
『まとってる。のこったやみぜんぶまとってる』
”友達”の言葉を飲み込む間にウサギ、ボーパルちゃんと切り結んで聖獣が突破した。
『たりない。あいつだけじゃたりない』
”友達”の声だけが聞こえるゆっくりになっていく視界の中でキツネ、イナリちゃんを弾き飛ばして聖獣が突破した。
『やられちゃう。あいつやられちゃう』
心臓が耳の横に付いたみたいにバクバクと鼓動がうるさい。
どんどん時間が遅くなって、色が無くなっていく視界のなかで誰も止められない聖獣の爪があいつに迫る。
イヤよ……あたしの我が儘で誰かがやられるのは……ううん。あいつがやられるのはイヤッ!
『わかった!たすけるわかった!よんで!なまえよんで!』
灰色になった世界で”友達”があたしに触れた瞬間。”友達”の名前とチカラがあたしに流れ込んできた。
たしかにこれなら聖獣を止められるかもしれない……でもこれじゃ、あいつも纏めてやられちゃう。
お願い。聖獣から離れて。あとはあたしが、あたし達が引き受けるから!だからッ!!
「うおぉぉぉぉぉ!?」
「グルゥゥゥ!」
伝わるはずがない。繋がるはずがない。なのにあいつは聖獣が目の前に迫った状況でいきなり横に大きく跳び避けた。
最後の守りなのに。あいつが抜かれたらおしまいなのに。言葉も無く、行動も無く、思いだけで通じ合い、信じて、託してくれたッ!
心が熱い。聖獣の威圧で感じた凍えなんて全部溶かしてなお燃え盛る心の熱で血が魔力が煮えたぎって迸る。
お願いあたしの”友達”。あたしの魔力。思い。全部持ってっていいから!だからッ!
「万象を凍てつかせて!『フェンリル』!」
『まかせて!こおらせるまかせて!』
「えぇ!?」
「グルゥ!?」
あたしからごっそりと魔力を抜き取ったあたしの”友達”。氷の聖獣フェンリルが小さな銀狼の姿で顕現して、風の聖獣グリフォンを凍らせて動きを封じる。
未熟なあたしとフェンリルの力じゃグリフォンを完全に封じる事は出来ずに、半身を凍らせただけで力尽きちゃったわ。
でも大丈夫。ノゾミちゃんに振るわれた凶刃は止められた。聖獣は振るえる闇の全てを出し切ったからこの突撃を止められた時点でおしまい。
これであたし達の勝ちよ!!
「グ……グルァァァ!!」
「にゃ~あ˝!?」
あたし達の勝ちなのに……なんで……なんで聖獣の闇の爪がノゾミちゃんの喉を貫いているのよ!?
そんな悲鳴と絶望の中で、全ての力を出し切ったあたしの意識は闇に沈んでいった……
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想の方へお願いします。
VRMMOでサモナー始めましたの1巻が・・・じきに発売予定!お楽しみに!
おや?発売中止になったのにテンプレが変わってないぞ?オカシイナーナンデダロナー(棒)
まぁ、書籍に関しては続報を待てという事で、本編の話~。
書きたいなぁ~って言ってたクレア視点なわけですが・・・とりあえず一言。
設定とは後から生えるものだ。
おかしいなぁ~。初めて出てきた時は単なる第一町人のもふもふでしか無かったのに・・・気づけば聖獣フェンリルの巫女のヒロインに!大出世だな!
銀髪だったのはフェンリル意識した訳じゃなく、元ネタが銀髪セーラーだったからだし、オオカミになったのはウツロおばあちゃんのキャラがオオカミだったからの後付けだし、勘って言ってたのはただの勘のつもりだったし、聖獣の声が聞こえたのはクレアが付いてきた理由をなんとか捻りだしたからだし・・・
全ての後付け設定が混ざり合った結果聖獣フェンリルの巫女になりました。後付けって怖い。
せて、次回のお話はすでに原稿が出来てるのでいつでも飛ばせるんだけど・・・今晩ぐらいに速達で送っときます。
内容的には今回の話のユウ視点だね。
・・・クレア視点がすっごくシリアスだったからな~。きっとユウ視点もシリアスなんだろうな~(棒)




