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19匹目 フィアちゃん

 

「……ようこそ。エルとフィアのアトリエへ」


 そう挨拶をした少女は自分のスカートの両端を掴み少し持ち上げ膝を軽く曲げ頭を下げた。


 ……5m先で


 遠いわ!俺は玄関の前にずっといたわけだからフィアちゃん?は玄関を押したあとダッシュで離れてさっきの礼をしたわけで……なにゆえ!?


「お、おう。俺はエルの知り合いでユウ、ってさっきも名乗ったか、よろしく。えーと、フィアちゃ」

「近寄らないでください」


「おおう!?」


 扉を開けてくれたのだから中に入れてくれるのかと思ったのに、まさかのセリフを食っての拒絶につんのめる。

 え、何なの?入れてくれるために扉を開けたんじゃないの?


「……こっちです」


 そして今度は俺を放置してトコトコ奥に歩いていくし……

 いや、放置してはいないか。こっちですって事は、ついて来いってことで、中に入れってことで……?


 分からない!俺には複雑な女心は理解できない!


 とりあえず状況的について来いってことっぽいからフィアちゃんが入っていった奥の部屋へとおそるおそる進む。


 廊下の角から頭だけ覗かせて確認した部屋は工房の様だった。学校の給食を作るようなでかい鍋?壷?が正面の壁に半ば埋まるように設置されておりその右隣の壁際にはフラスコに入った緑の液体やら、試験管に入った紫の液体やら、その他名状しがたい何かやらが並んでいる。また、反対側にはズラーっと本棚が並んでおり、その中央には4人席のテーブルとイスが置いてある。フィアちゃんが立っているのはこのテーブル辺りだ。

 玄関から直通で工房だし、この部屋は応接室も兼ねているのかな?


 工房と応接室が吹き抜けで繋がっているのもどうかと思うが、外から見た感じこのアトリエの間取りは工房のスペースで殆ど埋まってしまっている様に見えるので仕方ないのかもしれない。

 まさか、『調合しながら来客の対応も出来れば時間の短縮になるデス!』という理由ではあるまい。


 ……まさか、な。


「……ここに座っててください」


「あ、はい」


 フィアちゃんは目の前のイスを指で差し示した後、工房へと入ってきた俺から逃げるように背後の扉に……というか逃げた。脱兎のごとく。


 ……ここまで露骨な反応をされれば認めるしかあるまい。俺はフィアちゃんに嫌われている、と。


 扉を開けてもらったときフィアちゃんが言っていた『夜中に突然訪れる無遠慮で迷惑な客でも姉さんと約束をしているのならば追い返すわけには行きません』というのはまるっきりの本心で、俺がお姉さん(エル)と約束をしていたから仕方なく家にあげただけ。本心では”迷惑”と思っているのだろう。


 ……いや、本心ではというか、態度に思いっきり出ているけども。


「俺なんか嫌われる様なことしたかなぁ……」


 リアルタイムで迷惑をかけている自覚はあるが、それだけで近寄るなとまで言われるものなのだろうか?


 初対面の女の子(可愛い)にめっちゃ警戒して避けられるって、心情的にクルものがあるから、好かれてるとまではいかなくとも、せめてもう少し警戒を解いてもらいたい所だがどうしたものか……


 ……


 …………


 ………………


「……ヒマだ」


 フィアちゃん帰ってこないし……


 まさかの放置プレイ?

 さっきの言葉は『……(姉が帰ってくるまで)ここに座っててください』って意味だったりするのか?


 それだと俺はいつ来るのか分からない待ち人をイスに座ってただボーっと待ち続ける事になるんだが……


 ムリムリムリムリ!現代っ子に何もせずに座って待っていろとかムリですから!せめてスマホを!なろう小説を俺に!


 ……うーん。かといってここから動くのもな。座っててくださいって言われたし、これ以上フィアちゃんに嫌われる要素は増やしたくないし……。


 ボーパル達に会いたい……ん?これ名案しゃね?ボーパル達と触れ合えて俺はハッピー。フィアちゃんも何の罪も無いボーパル達を嫌ったりはしないだろうし、むしろボーパル達のかわゆさにメロメロになるのは必至!そしてボーパル達を間に挟んでフィアちゃんとも接近(物理)出来ることもまた必然!


「これぞパーフェクトプラン!!」


「……お待たせ、しました」


「あ、いえ。全然待ってないので大丈夫です」


 ガタゴト、とイスを引いて座りなおす。

 聞こえたかな?聞こえたよな……叫んだし……


 うおおおおおおお。はずい!超恥ずかしい!


 というか、フィアちゃん絶対盗み聞きしてたろ!登場のタイミングがばっちり過ぎるわ!


「……?」


 1人羞恥に悶える俺へと冷たい視線(ユウ主観)を浴びせつつヨタヨタとテーブル上のユウの対角線上まで移動したフィアちゃんが抱えていた何かをゴトゴトと机に落とす。


「……倉庫にあったヒールクリームはこれで全部だけど、足ります、か?」


 机に転がっているヒールクリームは優に20個はある。それだけあれば全然足りるけど問題は、


「お金があんまりないから今買えるだけ欲しいんだけど」


「……いくらあるのですか?」


 所持金を伝えるとフィアちゃんは、あーでもないこーでもないとヒールクリームを仕分け始めた。どうも個体ごとに効果に微妙なばらつきがあるらしくそれによって値段も僅かに変化するため最適な組み合わせを考えているらしい。


 ……俺の事が嫌いなのかと思っていたけど違うのか?それともプロ意識で半端な仕事は出来ないとかそういうのか?

 なんにせよ想像していたよりかは嫌われていなさそうで何よりだ。


 となると後問題は……抜け毛だな。ボーパル達を召喚してボーパルの抜け毛が薬品に入って爆発したりしたら目もあてられないし。いや、抜け毛があるのか知らんが。


「……よし。決まりました。コレとコレと後、コレt」


 バァアン!


「たっだいっまデース!!」


「コレ……に……」


「フィアー!どこデスかー!お姉ちゃんが帰ってきたのデスよーーーーー!」


 ズザザザザーっと音が聞こえるほど右足で地面を削りながらドリフトして工房に飛び込んできたエルがフィアちゃんをロックオンする。


「会いたかったデスよーーーーー!!」


「……うるさいです」


 フィアちゃんへと全力で駆け寄ったエルはそのまま大ジャンプ。フィアちゃんへと飛び掛りを……いや、アレはただのジャンピング抱きつきではない!?アレは……アレは……ル○ンダイブだ!!


 空中で姿勢を整え両手を合わせ頭からフィアちゃんにダイブするエル(服は着ている)に対しフィアちゃんは横に半歩移動するだけで直撃コースを避けると無造作に、流れるように右手を掲げた。

 いや、掲げたというよりは添えたといったほうが正しいか、フィアの上げた右手が固定されている位置は一瞬前まで自分の頭があった場所であり、そして、


「ぐぴぇ」


 現在エルの頭が通過しようとしたその斜線上にある。

 フィアちゃんは腕を動かしていないが、自分の前に進む力で相対的にカウンターを食らったようになったエルはフィアちゃんの右手が当たっている顎を基点に下方向に半回転。背中からドスンと落ちるとそのまま地面を滑っていって壁にぶつかって止まった。


「……」

「……」

「……」


「……それと、コレを含めた5つがいいと思います」


「えっ!?放置!?アレだけのことがあったのに何も無かったみたいに突然本筋に戻されても!!」


 何故だろうFWOを始めてからツッコミばかりしている気がする……。そして俺以外の人の突っ込みは暴力か無視の2択しか無いような気も……。どうしてこうなった。


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