193匹目 第五層へ
「きゅい!」
「ん?ボーパルこれ欲しいの?」
兎嵐鎌片手にどうしたものかと悩んでいると頂戴頂戴と腕をふりふりしながらボーパルがぴょんぴょんしてアピールしてる。
どうせ使えないしあげるのはいいんだが……この鎌メチャクチャ使いづらそうなんだけど、ボーパルは使いこなせるのか?というかハンマーをゲットしたばっかりで次は鎌ってボーパルは一体何を目指しているんだ……まぁ、ある意味首狩り兎と鎌はピッタリの組み合わせかもしれないけども。
「じゃあ、ちょっと装備してみて使いこなせそうならあげるね。難しそうならハンマーを極める方を優先するんだよ?」
「きゅい!」
装備箇所が両手両足になっていたから足装備が外れちゃうかもと思ったが、問題無く装備できたな。
よく考えれば俺も手袋をしながら武器持ってるもんな。足に鎌を括り付けても靴が脱げたりはしないか。
ボーパルの装備した兎嵐鎌は、くるぶしの辺りでバンドで固定された刃が踵側から足の裏へと伸び、ボーパルの履いている風斬りの脚甲と結合されながら足先まで届いている。
スケートのシューズの様になった風斬りの脚甲に両手に握っている両刃の鎌。確かにこれは訓練しないと使いこなせはしないだろうなぁ。歩く事すら厳しそうだ。厳しそう……なんだけどなぁ。
「きゅい~♪きゅいっ♪」
「……ボーパル楽しそうだなぁ」
「コーン!」
セットスキル:滑走の効果か、足に付いた刃だけでアイススケートみたいに地を滑って移動するボーパルがフィギュアスケートの様にジャンプしてクルクル回ったり、上体を倒しながら平行移動している。
ボーパル器用すぎんだろ……ステータスは殆ど器用に振ってないはずなんだが、何回か転んだだけでコツを掴んだみたいでヌルヌル動いてる。
俺なんか前にスケートに行ったときは結局滑れず仕舞いだったのに……やっぱり身長が低いからバランスが取りやすいのかな?あれ?それならなんで俺が滑れな……ちっちゃくないよ!うん。スケートに身長は関係ないんだ。いいね?
「きゅい~♪」
「ホー!」
変幻自在で縦横無尽に急停止して急発進。直角カーブに垂直跳びからの空中機動で空を滑るボーパルをミズキが追っかけて立体鬼ごっこをしている。
なんか……ボーパルの動きが更に変な事になってきてる気がするんだが……
スキルで滑ってるからか行動に予備動作が無い。加速減速どころか直角カーブまで唐突にクキッと曲がるんだが……あれって刃の向いている方向以外にも進めるのか……物理の法則が乱れる!
まぁ、ボーパルだしな。今更か。
にしても流石鑑定結果に”扱いが非常に難しい”って書いてあるだけあるな。あんなのボーパル並みの体捌きが出来ないと絶対に身動きが取れないって。俺も滑ってみたいけど、右足と左足がバラバラに動いて股裂き(物理)になりそうな気しかしない。グロ映像かな?
「よし。ドロップの鑑定も回収も完了っと。おーい。踊ってないでそろそろ行くぞ~」
「きゅい!」
「ホー!」
「コーン!」
山の様にあったドロップの武器を回収し終わる頃にはボーパルとミズキの立体鬼ごっこにイナリが加わって何故かダンス大会になっていた。音楽は三人で歌ってたな。
かわいくて非常によろしいんだけど……ボーパル達は歌って踊って戦えるモンスターでも目指しているのかな?確かに演舞っていうよりは演武だったけどね。演武は基本。
にしても、今回のボス戦は武器が山のように手に入ったな。FWOでは確かに武器は消耗品ではあるが、使い捨てってわけじゃないしこんなにいっぱいは要らないんだが……特に槍がヤバイ。ウチのパーティじゃ誰も使わないのに文字通り山のようにある。鉄製みたいだし売れ残ってもミヤヒナなら鉄材として買ってくれるかな?
《運営インフォが1件届いています》
「うおっ。ビックリした。インフォ?どうしたんだ急に」
「きゅい?」
こういうのって日付が変わるときとかキリのいい時に送られるもんじゃないの?なんか想定外の事でも起きたのかな?
《アップデート情報》
第四層のエリアボス戦におけるいくつかの不具合を修正しました。
あっ、なんかデジャブが……ゴメンね仕事増やしちゃって。でも俺は悪くないんだよ?
てか修正早すぎない?死のウサミミと戦闘したのってさっきなんだけど……はっ!貴様!見ているなっ!
まぁ、運営なんだからプレイヤーのログの管理も仕事なんだけどね。
「メェェ……」
「にゃぁぁ~」
「2人ともおはよ~。さて、これから移動するんだが……どこに行こう?」
「きゅい?」
折角エリアボスを倒したし隣のエリアを覗きに行ってもいいんだが、レベル上げをするならちょっと戻ってウサギ狩りをするべきなんだよなぁ。レベル的に。
あ、兎の結魔魂書も手に入れたしレベル上げの前に召喚モンスターも増やしたいんだった。むむむ……
「よし!レベル上げとモンスター召喚も大事だけど、めっちゃ気になるから先に第五層を先っちょだけ覗いてこよっか。もしかしたらグリフォンとかが飛んでるかもしれないしね」
「きゅい!」
「ホー!」
やっぱり最前線への移動にかかる時間が長すぎるんだよ……俺を乗せて飛べるモンスターが欲しい!または中間地点を!泉を我に!
てか、泉ほんと少なすぎじゃね?各エリアに一個ずつぐらいあってもいいと思うんだが……俺が見逃してるだけかな?マップを隅から隅まで歩いているわけじゃないしなぁ……マップが広すぎるんだよ!狭いよりいいけども!
「え~と。この丘を登り切れば第五層のはずなんだが……お、おぉ~?すげぇ~!」
「コーン!」
エリアの壁を越えて見下ろした第五層はイナリの体と同じ黄金色の麦穂が一面に広がっており、風が吹く度にたなびく麦穂が波の様に波紋を広げている。
第五層に生えているのは麦だけではない様で、何かの根菜や低木が生えているのも見えるな。
……いや”生えている”じゃなくて”植えてある”かな。だって、明らかに畑だもん。第五層は畑エリアっぽいな。
それと遠くには壁っぽい物も見えるな。あそこだけ異質だしボスエリアなのかな?
「メェエ!」
「あ、ちょ。アイギス。落ち着けって!拾い食いする前に鑑定を……って。えぇい!ボーパル止めてきて!」
「きゅい!」
こういう時だけ動きの速いアイギスが視界一杯に植えてある野菜達に突撃していくのを止めるべく、斜面を急速度で滑走してシャカシャカ走っているアイギスに並ぶと、言っても聞かないアイギスを殴って止めようと拳を振りかぶり……
ちょっ!ボーパルさん!鎌!鎌持ってるの忘れてないよね!?アイギスなら死にはしないだろうけどフレンドリーファイアで大ダメージなんて嫌だからね!?
「きゅい!?」
「メェエ!?」
しかし、俺が思い浮かべた最悪の予想は思いもよらない結果で覆された。
ボーパルが鎌を放り投げて叩きつけた拳は衝撃のみをアイギスへと伝え、ダメージはシステムメッセージと共に無効化され、足を滑らしたアイギスが突っ込んだ麦畑からもシステムメッセージと共にアイギスが弾かれた。
安全エリア内のためダメージ無効……?他の人が所有する土地です……?
「え?ここの畑って全部プレイヤーが植えたのか!?あ、いや、プレイヤーとは言ってないか。NPCの可能性もあるもんな。というか安全エリア?エリアの端なのに?まさか第五層全てが安全エリアなのか?」
「ホー?」
なんか今までの常識が一気に崩れ去った気がするんだが……えっと、とりあえずアイギス大丈夫か?
「メェ~」
「まったく。何があるか分かんないんだから一人で突っ走っちゃダメでしょ?お腹が空いたんなら言ってくれればオヤツをあげるんだから……ってか、さっきオヤツ食べたばっかりじゃん!」
照れたようにメェェと鳴くアイギスにクッキーを放り投げてから俺も麦畑に手を伸ばしてみる。
う~ん。やっぱり畑の境界線辺りで弾かれるな。安全エリアなら戦闘も無いだろうしもうちょっと探索をしてもいいんだが……
「あーーーーーっ!!麦泥棒!!」
「っ!?」
「にゃっ!?」
進むべきか退くべきか考えつつ、触れない麦畑をツンツンしていると突然大きな声が聞こえてきて、面白そうな気配を感じて並んでツンツンしていたノゾミと一緒に飛び上がって声のした方向を勢いよく振り返った。
というかボーパルさん!あなた普通の顔してますけど接近に気づいてたなら教えてよっ!まぁ、ボーパルが教えなかった時点で相手に危害を加えるつもりが無いって事なんだろうけど、不名誉な勘違いを受けているみたいだから弁明しなくては!あながち間違ってもいない気もするけど未遂だから!セーフ!
「い、いや俺はっ……!?」
だが、俺が必死に考えた言い訳は喉でつっかえて出てくることは無く、代わりに引きつる様に鋭く吸い込んだ息が胸の内へと落ちていった。
振り向いた俺の視界で、私怒ってます!と全身で表すように腰に両手を当ててむっとした顔をしている少女は、アニメでしか見たことが無いような袖の短いセーラー服を着ており、輝くような白銀の髪を流している。
銀糸の様に細い髪はかなりの量があるものの、ボリュームと言う点ではそれほどでもない。それ故に……少女の頭の天辺からぴょこんと生えている2つのイヌ耳と、お尻から生えているもふもふのイヌ尻尾が見間違い様も無く俺の目にハッキリと映った。
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想のほうへお願いします。
イヌミミっ娘キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!
ボーパルと同じ銀髪ですってよ。セーラー服ですってよ。
・・・なんでセーラー服?
いや、元ネタと言うか参考画像がセーラー服着てたんだよ。だからテトメトは悪くないんだよ?テトメトがセーラー萌えじゃないんだよ?本当だよ?
今回の書籍化小話~
・・・書籍の後書きって何書けばいいんだろう・・・いつものノリじゃ多分ダメだよねぇ・・・困った。締め切りが・・・




