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18匹目 アトリエ訪問

日間ランキング8位ですって!

これは連続投稿するしかないね

「始まりの街よ!私は帰ってきた!」


「タクうるさい」


 という訳で帰ってきました始まりの街。

 タク達の助言で仕方なく初期装備を身にまといボーパル達を送還した俺と愉快な仲間達は中央の噴水広場まで足を進めそこで今日はお開きにすることとなった。


「んじゃ、俺たちは今日はこれでログアウトする(おちる)けど、ユウはまだ居るのか?」


「んー、どうするかな」


 メニューからリアル時間をチェックすると午後8時。そろそろ夕飯時だけど。今日の晩飯もカレーだろうから好きにチンして、食べて、皿洗って、しまっとけという、セルフサービス式だろうから夕食は実質いつでもOKなんだが……。朝からトイレ以外ぶっ通しでログインしていて何も食べていないから意識したらお腹すいてきた……。


 ちなみにトイレはテントのアイテムで一時ログアウトして行って来た。俺もあとでリアさんから買おう。


「やっぱり腹へったから俺も一旦ログアウトするわ」


「ん、了解。どのみち俺達はもう入らないから今日はお別れだな」


「ユウちゃんまたね」


「またっす!」


「……テツ、挨拶が分かりにくいわ、”っす”って付けるのやめなさい。大体何よ”っす”て意味が分からないわ」


「唐突におれっちのアイデンティティーが全否定されたっす!?」


 きゃいきゃいと最後までやかましい(にぎやかな)タクパーティと別れリアルに戻る。


 明かりの点いていない誰も居ない部屋で目覚めた時はちょっと寂しかったが即行でカレーを食べて風呂に入ってFWOに戻る。


 明日も休みだ。タク達じゃないが完徹するつもりでゲームをしても問題はあるまい。


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 ログインしたのは午後9時。

 昼夜の切替は午前0時だからまだ夜だ。


 さっそくボーパル達を召喚……と、言いたい所だがせっかくうさぎさんセットを外しているのにボーパル達を出したら何も意味が無くなるので泣く泣く延期に、


「さて、何をしよう……?」


 山に行ってレベルも上がった。聞いた感じ森の方が山より敵は弱いらしいし今なら俺達だけで行っても大丈夫かもしれないが、手持ちにヒールクリームが無いのが痛い。回復手段もなしに未知の敵に挑むほど無鉄砲じゃ無い。

 ではヒールクリームを買いに行ってはどうかと言うと今度は先立つものが無い。

 ウサギの肉と毛皮の代金の受け取りは明日だし手持ちは無い。


 詰んだな。完。


 ……とりあえずフレンドリストを見る限りリアさんは入ってるし顔見せに行こう。


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「はい、コレがヤギとコウモリのドロップの代金ね。ウサギの代金とシチューはもうちょっと待ってね」


「ありがとうございます」


 何となく資金調達=ウサギのドロップアイテムと連想していたけど別に今日の成果を売ればいいじゃないと気づいたのはリアさんの屋台が見えてきたぐらいのこと。


 売ったのはヤギのミルクとコウモリの牙の2種類。コウモリの牙は数があるが単価が低く、ヤギのミルクは単価が高いが数が2つしかない。

 封印した分はドロップが出ないのでぴったり封印完了数だけ狩ったイワガメのドロップもない。

 一先ずリンゴ2つも買えない極貧状態からは脱却したがヒールクリームが買えるだけの金額があるのかどうかは分からない。まあ値段を聞いてみて足りなければ当初の予定通り前借りに来よう。


「一過性のものだと思うけれど、あなたも大変ね。せっかく苦労して集めた装備を着ることも出来ないなんて」


「んー、それは別にいいんですけどボーパル達と離れるのが辛いですね……今もどこからか俺を呼ぶボーパル達の声が聞こえる気が……」


「……あなた学生でしょう?そんな調子で月曜日から学校大丈夫なの?」


「………………………………善処します」


「間がすごい気になるんだけど……」


「なーに、金曜日からは夏休みに入りますから大丈夫ですよ。平日だって放課後はゲームできますしね。心配しすぎです」


「なら、いいんだけど……」


 疑わしげに視線を向けるリアさんと情報交換……いや、情報提供をしてもらう。テントはウサギのドロップの代金から天引きしてもうことになったり、ボーパル達と一緒に寝れる宿屋の場所を教えてもらったり、ボーパル達が入るようなバスケットのアイテムは存在しないという情報に絶望したり。


 ……一方的に教えてもらってばかりで悪いけどもこちらから提供できそうな情報は特に無いしな。


 ボーパル達と早く会いたいから聞くこと聞いたら退散させてもらった。

 訝しげだった視線がだんだん心配そうな視線にかわっていっていたのは気づいていたが心配しすぎだと思う。ちゃんと交渉も出来たし俺だって四六時中ボーパル達のことを考えてる訳じゃないしな!


 -----------------------------------------------


「うし、ここだな」


 始まりの街の西通りから2本それた横道にある一つの建物の前でその店に掛かっている看板を見上げる。


 でっかいフラスコの絵が描いてある上に、これまたデカデカと ア ト リ エ と扇状に書いてあるここが目的地で間違いないだろう。地図(マップ)上でもここになっているし。


 夜中に俺の都合だけで訪れるのは迷惑だろうとは思うけどタク達の反応を見る限りヒールクリームって結構優秀な回復手段らしいんだよね。

 それにポーションはプレイヤー達が買占めちゃって常時品薄状態で高騰しているらしいからな。生産者から直接買えるなら安くあがるかも知れないし、ペナルティ(税金)は出るかもだけど、


 ……ところで、俺はここがエルの錬金術のアトリエだろうと思って来ているからいいけど、単に工房(アトリエ)とだけ書かれていても何をしているところなのか分からないんじゃなかろうか……


 もっとこう……”エルネスのアトリエ ~FWOの錬金術士~ ”って感じの方が伝わるのではないか。


 ダメかな?ダメか。



 コン コン コン


「すみませーん」


 ドアチャイムが無かったので扉をノックする。良く間違えがちだけど2回ノックはトイレらしいな。その聞きかじりのマメ知識をドヤ顔でえっらそうに語るタクのうざさと共に覚えている。タクは殴った。


 ……


 返事が無い。留守か、あるいは寝てるのか?

 ん?でも明かりは点いてるな。気づかなかったのか?


 コン コン コン


「すみませーん」


 ……唐突だけどけどキツネもかわいいよね。リアルでは見たこと無いけど。探せばいるかな?居るとしたら森か、あるいは雪原とかにいそうなイメージ。

 あとは……火属性っぽいから火山とか?いや流石にそれは無いか。狐火を出せたとしても自身が火に強いかは別問題だろうし。


 ……


 反応がない。明かりは点いてるから居ることはいると思うんだけど、調合中で手が離せないとかかな?あるいはお風呂とか。


 とにかく今日は出直すか。効果は落ちるし価格が高いらしいけどポーションをリアさんの所で仕入れて、


「………………どちら様ですか」


 ともすれば聞き逃してしまいそうなほどのか細い声がドアの向こうから投げかけられる。

 予想していたハキハキとした元気に溢れるエルの声とは対照的な儚い、ささやく様な、温度の感じられない声にびっくりしてつい考えていた返事が喉に詰まってしまう。


「っ……あ、ユ、ユウといいます。ここはエルさんの錬金術のアトリエで合っているでしょうか?」


「……はい。ここはエルネス(姉さん)のアトリエであってます。……それで、なにか御用ですか」


「あ、うん。ヒールクリームを作って貰おうかなーっと思って来たんだけど。お姉さんは出かけているの?」


 冷たい感情の見えにくい声音で分かりにくいが、エルの妹と名乗ったとおりその声からは幾分幼そうな印象も受け、思わず張っていた緊張がほぐれると共に言葉自体も砕けて柔らかくなる。

 やっぱり敬語?丁寧語?は疲れる。言葉しか変わらないのに体全体が緊張しているような気分になる。


 ……え?リアさんの前では敬語だった?あの人と話すときは何故か自然とですます調になるんだよな。なんでだろう?リアさんはそんなの気にしなさそうなのに。


「……ヒールクリームの納品依頼ですか……姉さんは今採取に出かけていていません。帰ってくるにはまだしばらく掛かると思いますが、姉さんと約束をしていたのですか?」


「いや、してないけど……」


「約束もしてないのにこんな夜中に女性の住む家の扉を叩いたのですか」


「うっ……いや、前に君のお姉さんに『いつでも遊びに来てくれていいデス』って言われたから……」


「………………」


 返事が無くなった。あきれて物も言えないってことか?

 いくらなんでも夜中に突然訪れるのはやっぱりまずかったか……。

 まぁ、尋ね人も今日は居ないみたいだし出直しますかね。


「……お姉さんも留守みたいだし、また改めて」


 ギィイ


 お伺いします。と言い切る前に俺と少女を隔てていた扉が重重しい音を立てて開く。

 建てつけが悪いのかな?


「…………はぁ」


 開いた扉の向こう。部屋の中から指す光でくらんだ目でも分かる小さなシルエットがあからさまなため息をつく。


「夜中に突然訪れる無遠慮で迷惑な客でも姉さんと約束をしているのならば追い返すわけには行きません」


 部屋が明るいとは言っても太陽を直視するのとは違う。目は直ぐに慣れて少女の姿を捉える。

 空色の透き通る様な長髪を頭の右側だけ結んだ特徴的な髪型に、同色の瞳。エルのハデな服装とは対照的な黒っぽい地味なワンピースタイプの服という出で立ちに何処か姉に対する対抗意識を感じるような気がするのは穿ちすぎだろうか?


 光に慣れ目の焦点が自分に合ったのを確認した少女はそっと自分のスカートの両端を掴み少し持ち上げ膝を軽く曲げ頭を下げる。


「……ようこそ。エルとフィアのアトリエへ」


 そう挨拶をした少女は陶器のように白い肌にニコリともしない表情もあいまって、よく出来た人形の様だと、そう思った。


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