182匹目 主従関係
・・・なんか最近更新が多い気がする。
気のせいかな?
「こちらユウーク。施設への潜入に成功した。これより内部の調査に入る」
「にゃぁ……?」
突然コソコソと独り言を言い始めた俺に対してノゾミがバカを見るような冷たい目で見つめてくる。
いいじゃん別に。潜入ってなったらやりたくなったんだよ。
「さて、とりあえず防壁の中には潜入できた訳だが……本当に偵察したいのは砦の方なんだよなぁ」
「んにゃ」
という訳で俺達は今砦をぐるっと囲んでいる石造りの防壁の中に潜入している……防壁?城壁?意味が伝わればこまけぇことはいいんだよ。もっとホンシツを見ようよ。
「……にしても警戒が思ったよりザルだったな……やっぱり潜入するのも考慮されてるって事だろうな」
周囲警戒と攻め込みにくさの為に小山の天辺に作られているのだろうこの砦だが、背の高い草に隠れるように匍匐前進で近づいたら一切バレなかった。もしかしたらバレてる上で見逃されてる可能性もあるが、壁を登って窓から侵入するのを黙って見ている理由も無いだろうから違うだろう。
というか、ゲームだから汚れたり破ける事は無いとはいえ、ミニスカ着物を着て匍匐前進したり壁に張り付いてよじ登ったりする姿はシュールだったろうな……と想像すると思わず口元がにやけてくる。
……そして唐突にニヨニヨしだした俺を見るノゾミの視線が更に冷めて完全に不審者か変質者を見る目になってる。ちゃうねん。ちょっと思い出し笑いというか、思いつき笑いをしてただけやねん。
でもジト目のノゾミもやっぱりかわいいなぁ~。ぎゅってしてスリスリしたい。流石に時と場所を弁えて我慢するけども。……なでなでぐらいならいいよね?
「きゅい?」
「「……!?」」
あんまり物音をたてずにノゾミをなでなでしようと、俺の胸ぐらいまである大きな木箱の上に乗るノゾミへとゆっくり向かわせた俺の手を、ノゾミが同じ速度で一定の距離を保ちながら体を逸らして避けていくので、ならばと反対の手も出して挟み撃ちだぁ~とかして遊んでいると、よく聞き慣れた、だが微妙に違う声が俺達の潜伏している部屋に響いた。
慌ててノゾミを捕獲した俺はその声が聞こえてきた方向からは木箱で死角となる位置に飛び込み、ノゾミの口を塞いで俺自身も必死に息を殺す。
俺とノゾミの2人パーティである以上、近接状態で隠れてるのがバレたら本当にどうしようもない。
ちらりと確認したMPはまだ半分残ってるな。一応飴を口に放り込んでおこう。うん。おいしい。
「きゅい……きゅい……」
俺達からは死角になる位置の扉を開けて入ってきたウサギは何事かを呟きながら部屋の中を歩き回っているみたいだな。
隠形状態中は姿が見えなくなって、MPが切れるかこちらから殴りかかるまで足音や声も聞こえなくなるから、一箇所にジッとしてればバレる事は無いとは思うが……完璧に安心できるのかと言えばそういう訳でもない。
分かっている弱点として、隠形ではボーパルの空間察知を誤魔化す事は出来ない。敵がそれに類似する能力を持っていたら俺達の位置は筒抜けだろう。
次に、精神が高い相手には効き難い。これはどうも隠形をかけた人と相手の魔力と精神で対抗ロールしてるっぽい。とはいえ、若干相手の精神が俺の魔力を上回ったからといって即座にバレる訳じゃないからこっちはそんなに心配しなくても大丈夫だけどな。
最後に、隠形中に触って音が出ないのは触っている物だけって事だ。これが中々に厄介で、例えば木箱をぶん殴っても音は出ないし、押しても木箱が床と擦れてなるズリズリって音は木箱からはしない。但し、床からはする。しかも木箱が1人でに動いてる姿まで目撃されたらここに居ますよ~って宣伝しているようなものだ。
そして隠形は相手に怪しまれれば怪しまれる程バレる確率が上がる……うん。これ完全にスニーキングミッション様のスキルだな。それなんて金属歯車?
まぁ、何が言いたいのかというと、隠形を使ってるからといって石コロの仮面を装備していたり、ダンボールを被っているような安心感を得られるはずもなく、必死で物陰に身を隠し「バレませんようにバレませんようにバレませんように」とお祈りするしか無いって事を言いたかった訳だ。
もうね。心臓バックバクですよ。胸に抱いてるノゾミが弾き飛ばされるんじゃないかってぐらい心臓が高鳴ってる。もちろん悪い意味でね!
誤魔化すために脳内で隠形の仕様を長ったらしく確認したりしたけど全く落ちつかねえ。やべぇ。怖い。でも楽しい。でも怖い!やばいやばい。何がやばいって超やばい!
「きゅい……きゅぅ?」
「~~~~!!?」
ひぃ~!近い近い近い近い近い!!
とんっ。と軽い音を立ててさっきまでノゾミがいた木箱の上に着地したウサギは、その木箱の陰で必死に身を縮めている俺達には気づかずに、しばしクルクルと俺達が侵入した倉庫らしき小部屋を見回して「気のせいか……」って感じの鳴き声を零して部屋から出ていった。
ふ、ふぃ~。危なかったぜぇ……どうやらあのウサギは強力な索敵スキルも、高い精神も持ってなかったみたいだな。セーフ!
「いやぁ~ドキドキしたなぁ。ノゾミ」
「……もご」
ゆっくりと平静に戻っていく心音を感じながら、胸に抱くノゾミのぬくもりを確かめる様にぎゅっと抱きしめる。
いや~、ホント心臓に悪いな!寿命がちょっと縮んだ気がするぞ。見つかったら死ぬって状況は思ったより精神にくるな。すぐにリスポーンするとは言え心細くてたまらなかったわ~。
「まったく。危うく潜入して最初の部屋でガメオベラするところだったぜ……隠形様様だな!」
「もが、ふご。んにゅ……」
ノゾミが俺の腕の中でもぞもぞしているくすぐったい感触が伝わってくる。
あぁ、もうかわいいなぁノゾミは!やっぱりノゾミは癒しだわ~。もし俺1人だったらとっとと死んでデスルーラしてるもん。1人じゃ無いって最高やなって。
「ん~?どうしたのノゾミ~?そんなに暴れたら危ないぞ~?まださっきのウサギが近くにいるかもだし大人しく……」
「……がぅ!」
「!?痛っ!!……たくはないけども痛い!精神的に痛い!」
「にゃぁん」
ノゾミの口を押さえていた指をガブリとやられた。
痛覚的には痛くは無いんだが、ノゾミの鋭い犬歯が指に突き刺さって貫通しかけてるのは本当怖いから止めて!痛覚は無いのに視覚情報だけで痛くなるから!
「んにゃぁ」
ビックリして拘束の緩んだ俺の腕からノゾミがスルリと抜け出して、俺からちょっと離れた所でペロペロくしくしと顔を洗っている。めっちゃ洗ってる。まだ洗ってる。
そ、そんなに嫌だったの……?なんかごめんよ……
「……ふにゃぁ」
「ん。気はすんだか?」
結局ノゾミが満足いくまでの毛繕いをした時には、この倉庫の探索はあらかた終了していた。
曲線を描く防壁の中に作られた部屋は細長く、防壁が伸びている方向の両方に扉があり、窓は俺達が侵入してきた側だけにある。窓のある反対側は壁しかなく、この防壁の幅がどれぐらいなのかは推察できない。もしかしたらこの壁の向こうは防壁の内側なのかもしれないし、まだ部屋があるのかも分からないって事だな。ぶち抜いて見れば分かるんだが、盛大に場所がバレるから絶対にゴメンだな。
部屋中に乱雑に積んである木箱の中身は基本食料みたいだな。リンゴとか人参とか弾丸とかキャベツとか入ってた。
……うん。自分でも変な事言ってる自覚はある。とりあえず弾丸はあるだけパクッといた。危ないし。食料は全部レアリティ1とかだったから戻しておいた。別にいらん。
2つある扉は片方がさっきウサギが入ってきて出て行った大きな扉で、木箱の運搬用の出入り口っぽい感じだな。もう片方が鍵が掛かっている普通の大きさの扉だ。ウサギの砦のはずなのに俺が余裕で通れるサイズの扉が付いてるとか親切設計だな。なおウサギ相手には不親切設計のもよう。
「……と、まぁ大体そんな感じだな」
「にゃぁ」
俺がこの部屋を散策した成果をノゾミに告げると、「報告ご苦労」って感じで労をねぎらわれた。
あれれ~?おかしいぞ~?ご主人様はどっちだっけ~?
確かにノゾミは女王様気質っぽい片鱗はあるけどさ……まぁ。かわいいからいっか!(陥落)
「そんな訳でこれから先に進むにはウサギとバッタリ会うのを覚悟して大きい扉を進むか、吹き飛ばした扉がどこかにぶつかって音が出るのを覚悟して小さい扉を蹴破って進むか、一旦外に出て別の所から入るかの3択かな?」
「んにゃ……」
どの選択肢もそれなりにリスクがあるが……あえて選ぶなら一旦外に出るルートかな。
大きな扉はその先も大きな部屋に繋がっている可能性が高いし、さっきのウサギがまだ扉の近くに居た場合、扉が勝手に開く様子を目撃されるかもしれない。それはマズイ。
小さな扉はそもそも蹴破れるのかという疑問があるし、勢いよく吹っ飛んだ扉が轟音を立てて一気に囲まれるかもしれない。
それなら多少消極的な意見でもここは一旦引いてリスクを避けるべき時な気がするんだよなぁ……
「んにゃあ」
「え?何?付いて来いって?」
「にゃあ」
私に続けとばかりにテクテク歩くノゾミに付いて行き、3つある出入り口の1つの前に付いた。
で?どうするの?ここから出るの?
「にゃあ。みゃみゃん。んにゃ。にゃぁぁおん」
「えっと……すまんノゾミ……俺猫語は分からないんだ……」
「……。にゃぁ……」
……倉庫の一角でノゾミの寂しそうな呟きが響いた……
う、うん。今度ウィアナちゃんに頼んで猫語の翻訳方法を教えてもらおう。そうしよう……
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想の方へお願いします。
主従関係・・・あっ(察し)
何故探索が進まないのか。その理由が分からないのです。おっかしいなぁ。サクッと死ぬ予定だったのになぁ。思ったよりしぶとい。頑張って殺していこうと思います。まる。




