17匹目 メイン盾
「『挑発』っす!!」
「メ゛ェェェェェェェ!!」
行きとは違い山を下りつつ策敵に引っ掛かったコウモリとヤギはサーチ&デスしながら進む。
……え?カメ?あんな時間泥棒に構っている暇は無い。ドロップの甲羅は防具の材料にはいいらしいけども、
ガキンとメイン盾がヤギの突進をタワーシールドで受け止めその勢いを完全に殺し、動きを止める。
「今っす!」
「よくやった、テツ!うおおおおおおお『スラッシュ』!」
「~~~『ウォーターボール』!」
「~~~『ファイヤーボール』!」
「きゅい!」
「ホー!」
動きの止まったヤギの背後からタクの振り下ろす鉄剣が、左右から火球と水球が、体の下に滑り込んだボーパルから蹴り上げが、高空からミズキの降下攻撃がヤギの体に多段ヒットする。
「ぐ、グメェェェェェェ!!」
俺達のほぼ最高火力をクリティカルに食らってヤギは断末魔の叫びを上げ、コテンと倒れる。
俺達の連携もだいぶ錬度が上がりHP半分以下で行動させる事なく倒すことが出来るようになってきた。
ヤギは自分のHPが半分以下になると怒り狂うバーサークモードみたいになるとこがある。
ヤギはこれがあるからやりにくい。攻撃を加えるほど闘志が燃え上がり攻撃が苛烈に、動きが荒々しくなる。
そのくせしてHPが本当にピンチになると全力で逃げ出しもする。木をひょいひょい登り枝から枝へと飛び移って逃げていくヤギを始めて見た時は開いた口が塞がらなかったものだ。
タク達の話では起きている時のヤギは、この逃走モードに近い動きをするらしいからなかなか捕まらないのも納得である。
むしろ何故寝ているときは簡単に不意を打てるのか、ゲームの都合上の問題ですね分かります。
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「おつかれー」
「きゅいー」
「ホー」
戦闘終了後、ぶっ続けで移動と戦闘を続けていたためちょっと小休止をいれることになった。
ボーパルとミズキをモフリつつ、マップを確認すると街までの距離はちょうど半分ほど。このまま戦闘を続けて行くとしても街までは一時間くらいかな?
山を下るほどエンカウント率は落ちていっているし、麓まで下りきったら出てくるのはラットだ、それぐらいなら一瞬で片がつく。
……にしてもミズキの羽毛はフカフカだな指がズプズプ沈んで包まれる感触がする。
ボーパルのモフモフの毛皮をモフるのとはまた違う感触で撫で比べているのも楽しい。
「ホ~」
「きゅい~」
さすさすしている右手へと体ごとこすりつけるようになでなでを要求してうっとりと目を細めるミズキに、背中をなでるほどうにょーんと伸びていく、たれボーパル。かわいい。
なんだ?ここは天国か?
「あちゃー、ドロップ何も出なかったっす……」
「もー、またなの?しっかりしなさいよ!」
「えぇぇ!?おれっちの所為じゃないっすよ!ドロップ率の問題っす!」
「ユウちゃんは、ちゃんとドロップ出してるじゃない。あなたの運が極端に悪いだけじゃないの?日頃の行いが悪いからね」
「ヒドイっす!そんなに言うならリカっちが剥ぎ取り代わりにやるっす!」
「イヤよ面倒くさい。雑用は下っ端の仕事でしょう?」
「先輩!おれっちの方がリカっちよりも先にこのパーティにいた先輩っす!」
「どっちが先にパーティにいたかなんて瑣末な問題よ。先輩だからって無理やり後輩に言うことをきかせる様なパーティではこれから命を預けて戦い続けることはできないわよ?もっと広い心を持ちなさい」
「面倒くさいからって先輩に雑用を押し付けた張本人が言ったので無ければ心に響くいい言葉っすね!
たいちょ~、隊長からもビシッと言ってやって欲しいっす。新入りが調子に乗ってるっす」
「…………犯人はテツ」(ぼそっ)
「隊長!?おれっちの話ちゃんと聞いてたっすか!?」
「ああ、すまんすまん……犯人はテツ!!」(ビシッ)
「言い方の問題じゃ無いっす!!そこは誰もこだわって無いっす!というか隊長もおれっちが悪いと思ってるんすね……」
「いや、冗談だって。俺がお前に酷い事言う訳ないだろう?第一……」
「そうね、私もちょっとからかっただけでこれでも感謝してるのよ?それに……」
「隊長……りかっち……」
「「俺(私)がそんな弱い者イジメをする訳ないだろ(じゃない)!」」
「うぉぉおおおおおおおんっすぅぅぅぅぅぅぅぅ」
上げて落とすまさかの裏切りに四つんばいになってうなだれるテツ。
……所で目の前で繰り広げられているコレはなんだ?コントか?拍手でもしとけばいいのか?
orzの姿勢のまま動かないテツを放置してタクとリカさんは雑談を再開してるし。
いたたまれないよぅ。誰か触れてあげてよぅ。
完全に起き上がるタイミング逃しちゃってるよ。なんかチラチラこっち見てるし。行きたくねー、かかわると面倒くさそう。
あっ、だから2人とも放置してるのか。
「…………で、でも盾職がいるだけで戦闘はだいぶん安定するよな。なんていうか……安心感が違うというか……」
これは割りと本心だったりする。うちのパーティは2羽とも防御よりも回避寄りで打たれ弱いからな。でかい盾であえて攻撃を受けて敵を押さえつける盾職が居るだけでパーティ全体の負傷率や度合いを抑えられて安全に戦闘が出来る。その安心感はなかなかのものだ。
だからといて盾職をやるつもりはないけど。ストレス溜まりそうだし。
「っすよね!おれっち、ちょー重要っすよね!いやー、それほどのこともあるっす!」
「復活早!」
俺のセリフを言い終わるかどうかぐらいでバネ仕掛けのおもちゃの様に飛びあがったテツが胸を張りつつ宣言する。
うざい。激しくウザイ。タクとはまたちょっと違うベクトルのうざさに近くにいるだけで疲れてくる。
ああ、早くボーパルとミズキの所に戻りたい。
「んー、まぁ助かってるのは確かだな肉盾のおかげで俺も攻撃に集中できるし」
「そうね、肉壁がいるから安全に詠唱できるという面も確かにあるわね」
「2人とも……フォローの言葉なのににおれっちの呼び方に悪意が見えるのは気のせいっすかね……?」
「「気のせいだ(よ)」」
どう見てもコントです。本当にありがとうございました。
まぁ、なんだかんだ言いつつテツも楽しそうだしこのパーティでのいじられ役なんだろうな。
……ちょっとうらやましいと思ってみたり。
ボーパルやミズキになにか不満があるわけでもないしこれからも仲間のモンスターをどんどん増やしていくことに変わりは無いけれどモンスター達は喋れないからな。こちらの言うことは理解しているようだし、感情があるのも一緒に居れば分かるけど。
それでもタク達みたいに冗談を言い合い笑いあうようなことは出来ない。
「きゅい~?」
「ホ~?」
ボーパルとミズキが突然だまりこんだ俺を心配そうに覗き込んでくる。
2羽揃って首を傾げる姿がかわいらしくてつい口元が緩む。
「いや、大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」
「きゅい!」
「ホー!」
屈んで2羽を撫でてやると嬉しそうに鳴き、頭を摺り寄せてくる。
別にサモナーだからといって他のプレイヤーとパーティを組んではいけない訳でも、ましてや話しかけてはいけないなんてことははない。現に今もタク達とパーティを組んでるしな。
だから俺が感じた羨望も寂寥も嫉妬も孤独も的外れにも程がある感情だ。
だから俺はボーパル達に言葉を話して欲しいわけでは……いや、それもありか?
『ごしゅじんさま、かまって~』
『ごしゅじんさま、だっこー!』
『えへへ~、ごしゅじんさま、ほめて、ほめて~』
……有りかもしれない。
このモコフワ、プリチーな2羽にそんなことを言われて胸に飛び込まれてすりすりなんてされた日にはもう。
冒険に出ずに街に引きこもって一日中じゃれあっている自信がある。
ああ!でももし2羽に『ごしゅじんさまなんてキライ!』とか言われた日にはFWOにログインできず自室に引きこもる自信がある。
「……ふたりはいつまでも今のままでいてくれな?」
「きゅい?」
「ほー?」
頭の毛をくしゃくしゃにされながらも俺を見上げる2羽。あ~もう!かわいいな~
ステータスを自分で割り振りできてスキルも好きなの取得できるなら職分けた意味なくね?という意味の質問をもらったのでスキル関連の説明を入れます。
例えば召還魔法や交易、いくつかの上位スキルなんかは職の系統ごとの専門スキルでスキルに関係した職じゃないと覚えられませんが基本的に最下位のスキルは全職で取得できます。
ですがもちろんデメリットもあります。
例えば火魔法のスキルを取得したとします。
マジックユーザーは取得にSPを2消費しますが、
ファイターとプロデューサーはSPを5消費します。
サモナーは3です。
そしてスキルの効果にも影響します。
剣スキルの『スラッシュ』を使用したとします。
同攻撃力の場合ファイターのスラッシュの威力を100とすると
マジックユーザーとプロデューサーの威力が50
サモナーの威力が30ほどです。
魔法の効率はマジックユーザーの8割くらいですね。
ちなみにコレはパッシブスキルにも影響するので同レベル同ステータス同スキルのサモナーと他の職がタイマンで戦えばほぼ確実にサモナーが負けることになりますね。
スキルを取らずに殴りあえば互角ですが。
なので全スキルを取得できるとはいえ自分の職にあったスキルじゃないと効率がひたすら悪い上に上位のスキルを覚えられないのであまり得は無いです。
サモナーは召還魔法特化なのでほぼ全てのスキルの効率が本職より悪い訳ですね。まぁそれを補って余りあるほど召還魔法が強すぎるんですが・・・




