157匹目 フライハイ
本日も2話目です。(異常気象等に)ご注意を。
”ぽふん”と腑抜けた音と共に全てが夢幻であったように消えうせ。唐突にパラシュート無しのスカイダイビング。あるいは紐なしのバンジージャンプが開始された。
「あ、あさはかなりぃいいいいいいいいい!!」
「……っ!?!?ユウさんの、ばかぁぁぁあああああああ!?」
「ホー!?」
「きゅい!」
いや、消えたのは足場だけで本当に全てが消えたわけではない。
残ったのは指が食い込むんじゃないかってほどに強くきつく俺にしがみ付き、珍しく絶叫を上げているフィアちゃんと、戦闘終了で翼が復活したから飛べるようにはなったが、俺とフィアちゃん。2人の体重を持ち上げる事は出来ず、俺の右手に爪を食い込ませまくってるミズキ。それと、俺達と同じく自由落下している筈なのにクルクル回転して妙に楽しそうなボーパルだな。
「落ちてます落ちてます!地面が落ちてます!!」
「フィアちゃん落ち着いて。こういう時こそ冷静になる必要があるんだよ。あ、リンゴジュース飲む?」
右腕をミズキに引っ張られて足から落ちる格好になりながら、左手にコップに入ったリンゴジュースを取り出したんだが正面からフィアちゃんに抱きつかれているから飲みにくい。
むぅ……ストローも買ってくるべきだったか。
「……え?あ、はい。いただきます……って、落ち着いてる場合じゃないです!!え、えーっと、何か使えるものは……」
俺がインベントリからリンゴジュースを取り出すのを見たフィアちゃんが、足だけで俺にしがみ付いて自分のインベントリに何か役立つものは無いかと「アレでもない。コレでもない」と空中にアイテムをばら撒きながら探してる。
……劇場版のネコ型ロボットかな?タイムマシンと、電話ボックスが定期的に壊れるやつ。ちゃんとメンテしないから……
「……えーと、えーと。あ、ありました!テレレレ~ン!地球破壊ばく、あ、間違えました。これじゃないです」
「いやいや!ちょっと待って!今なに出したの!?あぁ!しかもその辺にポイって捨てるし!」
落下する俺達の周囲には謎の薬品やらクッキーやらが散乱してる。さっきの戦闘で爆弾を殆ど使い切ってたから良かったけど、これで爆弾も撒いてたら着地に成功しても爆死してたんじゃね?
……いや、今さっきドクロやら、黄色地に黒の風車のマークやらが書かれた物をポイしてた気もするけど、あれはネタアイテムだと信じてる。決してエルが護身用にフィアちゃんに持たせた本物って事は無い筈だ……!!
「はぁ……全く。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。だって地上にはイナリがいるからね。イナリの尻尾は物理耐性が付いてるんだ。衝撃を包み込んで分散させる系のね。だから心配しなくてもイナリがもふもふのしっぽで俺達をキャッチしてくれるさ」
「……なるほど。だからユウさんはそんなに落ち着いているんですね。イナリちゃんがキャッチしてくれるなら確かに安心です。イナリちゃんが……イナリ、ちゃん……が……」
俺の言葉を聞いたからか、俺が落ち着いているのを見たからか、ほっと息を吐いたフィアちゃんがイナリを探すようにキョロキョロと視線を下に彷徨わせてる。いやぁ、そんなことしても見えないんじゃない?だってワンピースを着て足から真下に落ちてる所為でスカートが凄い勢いではためいてるし。
だが、はためくだけで捲れないのは流石だ。反重力スカートは2次元女子の嗜みとは聞くけど、ゲーム女子は形状記憶スカートが普通なのかね?
「……あ、あの。ユウさん……」
「ん?どうしたのフィアちゃん。下見たら気持ち悪くなった?」
イナリを探してキョロキョロしていたフィアちゃんが、心なしか血の気の引いた青白い顔で俺の方を見てきたので、飲みかけのリンゴジュースを上げる事にした。どうせ落ちたら零れて消えるだろうしね。
「……い、イナリちゃんが逃げてる気がするんですが……」
「いや、まさかそんなバカな……」
フィアちゃんが若干震えながら指差した先へ俺も視線を向ける。
ふむふむ。あの黄金色のふさふさしっぽは確かにイナリだな。4本もあるふさふさしっぽが右へ左へ、ふさふさもふもふ……うん。なんでイナリのお尻しか見えないんだろうね。助けに向かってるならお顔が見えないとダメだよね。というか地面までもう数十メートルしかないのにあの距離だと間に合わないよね。つまり……つまり?
「ま、ま、まだあわてるような時間じゃあわわわわわわわ!」
「ふぇえええええ!ユウさんを信じたフィアがバカでしたぁ!!姉さんごめんなさぃいいいい!」
酷い言われようだけど、フリーフォールをしている原因は俺のうっかりだからなんも言えねぇ!
……い、いや。まだだ!まだ諦めるわけにはいかない!
まだ俺には。俺達には最後の手段が残っている!
「……!」
アツアツのバカップルでもこんなに相手を求めはしないだろうとい程に強く強く。絞め殺す程に強く抱き合っていたフィアちゃんも俺と同じ思考に至ったのか、鋭く息を吸い込んだのを肌で感じる。
さぁ叫ぼう。最後にして最大の切り札を!
「「助けて、ボーパル(ちゃん)!!」」
「きゅい!!」
イナリが助けてくれるという希望から、誰も助けてくれないという絶望への落差で割とガチで泣きが入っている俺とフィアちゃんの叫びに、力強く答えたその鳴き声は俺達の下から聞こえてきた。
いつの間に……と思う間も無く、空を泳ぐようにバタ足で接近してきたボーパルがクルリと体勢を入れ替え、俺のお尻に足を置いたボーパルが……
「きゅい!」
「はぅ!」
「きゃっ!」
ボーパルのちっちゃなあんよがメリメリってお尻に割り込んでくるぅ!
ボーパルにマジ蹴りされたらお尻から真っ二つに裂けてもおかしくないし、蹴り上げるというよりかは、足で押し上げる感じだった上に回復魔法も同時にかけられたのだろう。HPはむしろ回復してるんだが、根っこが刺さりかけて敏感になっているお尻にさらなる異物感が……いや、分かるよ?俺達を蹴り上げて勢いを殺そうとしてるんでしょ?足裏を合わせられればベストだけど、咄嗟にスカイラ○ハリケーンは出来ないもんな。痛覚が無い俺なら蹴っても対して問題ないもんな。分かってるけど胸に渦巻くこのモヤモヤ感はどこへもって行けばいいんだ……
ズドム!!
「きゅいぃ!!」
俺達を蹴り上げ加速して地面へと落ちたボーパルが跳ねる様に加速して空中に戻ってくる。
派手な音を出して着地したわりに、ボーパル自体にダメージは殆ど無さそうだ。衝撃の殆どを地面に流したのかな?どうすればそんな事ができるのかは分からないが、ボーパルだしな。
……って、あれ?地面に降りたはずのボーパルが加速しながら俺達の方へと跳躍してくる理由って……
「きゅい!」
「はにゃぁ!?」
足裏を合わせて蹴り合おうとしたのに、膝を曲げた所為で蹴り易くなったお尻にまた小さなあんよガガガ……
そうだよね!ボーパルはスカイ○ブハリケーン知らないもんね!俺と蹴りあうよりもボーパルの裁量で蹴る力を変えた方が安全だもんね!チクショウ!
……結局俺の身体能力でも無事に着地できる速度になるまで後3回俺のお尻は蹴り上げられる事になる。
ふっ。フィアちゃんを助けるためなら俺のお尻の異物感ぐらい安いものよ!!
……ぐすん。
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想のほうへお願いします。
とりあえず一段落かなぁ・・・ユウ君の尻がピンチなのはそれを求める感想がちょこちょことあったからで、テトメトの趣味じゃないです。まぁ、ここまで読んでくれてるなら分かると思いますが。
あ、後、来週は仕事が忙しいからこんなに更新できないですマル
それと前回の後書きに書き忘れたけど、ボーパルがエルダートレントの頭頂部に開けたクレーターは”溜め蹴り”の応用です。姿が消えてからずっとチャージしてたんだね。それで、ユウ達の声が木の上から聞こえたから解放したと。おそろしや。
次回はドロップの確認とクラスチェンジラッシュです。遅くなる事必至のラインナップですわ~
追伸:今台風速報を見たら日本のかなり南を進んでいた台風が突如直角カーブをして日本に向かってるんだけど違うよね!?ね!?




