154匹目 勝利の女神
長くなったので分割~
残り半分も近いうちに上げます。多分今日中かな?
「……くっ、爆弾の数が心もとなく、!イナリちゃん避けて!」
「コーン!!」
3人でなんとか捌いていた攻撃を2人で捌き続けるのは、やはり無理があるのだろう。
フィアちゃんの声に焦りの割合が増え始め、近くに落ちたリンゴの果汁を頭から被ったりもした。
だが、なんとか耐え切った。俺の詠唱はこれで終わりだ!
「~~~『共鳴召喚』!『ティーニャ』!!」
『~~~!』
詠唱の終了と同時に、俺の内側からティーニャの楽しそうな声が響き、視界の隅に刻々とカウントを刻むタイマーが現れる。共鳴召喚のレベルアップで共鳴時間の上昇を選択したから、タイマーに表示される時間は2分から減少していってる。
今までの2倍と言えば沢山増えたような気になるが、2分じゃまだまだ短い。俺のやろうとしている事からして、下手したらギリギリになってしまうだろう。
また、俺の体の感触そのものも変化した。背からはリトルエンジェルの天使の羽が生え、風に煽られる髪がいつもよりも細く、綺麗な金髪へと変化している。
この前ミズキと共鳴召喚したときにも翼が生えたが、猛禽類であるフクロウの翼と、天使の羽では感覚が少し違うな。ミズキの翼とティーニャの羽はサイズが違い過ぎるから、じっくりと見比べた事はあんまり無かったが、今度見比べるのも面白いかもしれない。
……とか、考えてる場合じゃねぇ!時間が2分しか無いんだってばよ!
「……ユウさん……その姿は……」
「説明はあと!しっかり捕まって!イナリ!後は任せた!」
「コーン!」
奥義『共鳴召喚』
その効果はステータスとスキルの一部上乗せと、アバター操作の一部補助だ。
アバター操作の一部補助と言っても元々の俺の体である五体の操作権は俺にある。俺の中にいるティーニャが俺の体で操作できるのは共鳴召喚で追加された羽と、魔法ぐらいだ。
いや、それだけでもかなり助かるんだけどな。
「……ユウさ、きゃっ!」
「うし、行くぞ!ティーニャ!援護頼む!」
『~~~!』
ミズキと共鳴召喚していたときの、力強く羽ばたいて空を飛ぶ感覚とは違う。極自然にふわりと浮かぶように飛んだ俺は、フィアちゃんの脇に手を入れて持ち上げ、しっかりと正面から抱き寄せた。
両手は塞がるが、これからやる事に手は使わないから問題なし。
フィアちゃんもしっかり俺の背中に手を回した事を確認した俺は、ヒラヒラと舞い落ち続ける落葉を見据え全力で飛びあがった。
俺が今回共鳴召喚でティーニャから借りたスキルは『浮遊』『並列詠唱』『高速詠唱』の3つだ。
ミズキの持っている『高速飛行』や『輸送機』が欲しかったところでもあるが、ミズキは今召喚中だから仕方が無い。それに、舞い散る落葉の中を突破するのならば、弾幕を張れるティーニャの能力もありがたい。
問題があるとすれば、俺のMPがどれだけ持つのかと、浮遊の飛行速度がどの程度あるのかという事だが……
「う、お……!?」
『~~!~~!!』
俺の体を襲ったGが予想外の大きく、うっかり落葉に突き刺さりそうになったが、ティーニャが咄嗟に発動させたウォーターボールで落葉の向きを逸らしてくれたおかげで柔らかな腹の部分に激突するだけで済んだ。
いや、ちょっと待って!浮遊速過ぎない!?プカプカ浮くことしか出来なさそうなスキル名なのに、下手した飛行よりも速いかもしれないぞ!
おかしいな。ティーニャが使っていた時は、俺の全力ダッシュと同等ぐらいの速度しか出て無かったのに……
ん……?いや、待てよ?俺の手の平にちょこんと乗るサイズのティーニャが俺の全力ダッシュと同等の速度で飛ぶって、実はかなり速いんじゃないか?
体の大きさが10分の1になったら、移動しなきゃいけない距離が10倍になるのと殆ど同義だもんな。つまりティーニャのサイズで俺の全力ダッシュと同等の速度で飛べるって事は、俺のサイズになったら全力ダッシュの10倍ぐらいの速度で飛べると。
……いやいや、そんなバカな。そんなのどう考えても浮遊では無いだろ。なんかバグっぽいけど今は速い方が助かるからまぁいいか。
「んじゃ、レッツゴー!」
「……ま、待ってください。もうちょっとスピードをぅ~~~~~~!」
『~~~~!』
フィアちゃんがティーニャみたいな声を出してるけど、ごめんね。時間制限がある以上ゆっくりはしてられないんだよね。
まぁ、フィアちゃんの器用値と筋力値ならしがみ付くだけなら大丈夫だろう。
俺もフィアちゃんが落ちない様にフィアちゃんの脇の下から両手を背中に回して、服まで掴んでるしね。仮に落ちるとしたらスポーンとフィアちゃんのワンピースがすっぽ抜けた時ぐらいだな。親方!空から裸の女の子が!
まぁ、FWO内なら装備を解除しない限り服は脱げないから大丈夫だけどな。いや、逆にFWO内だからこそ空から女の子が落ちてくる可能性は高いか。空の落し物だな。
「~~!~~!!」
『~~!~~!!』
セリフにしたら2人共同じ事を言っているように見えるけど、方や悲鳴で方や笑い声だ。どっちがどっちかは言うまでもあるまい。
浮遊のスキルには、飛行中の周囲の状況把握能力がセットで付いているのか、結構な速度で飛んでるのに周囲に何があるのかバッチリ把握出来ているので、俺はフィアちゃんほど取り乱してはいない。
リンゴの赤が見えれば早めに回避しておいて、先端から落下してくる葉っぱはちょっとズレれば当たらないし、横から魔法で殴ってもいい。ヒラヒラと広がって落ちてくる葉っぱが一番邪魔だが、当たってもダメージは無いから最悪ぶち抜いてもいいし、いざとなれば空歩で無理やり軌道を曲げて緊急回避もできるからどうとでもなるだろう枝は最初から届かないエリアの端っこを飛んでるから問題なし。
思ったより快適なフライト(状況把握の恩恵が受けれない1名を除く)だが、最大の難所がまだ残っている。エルダートレントの枝葉はボスエリア全てを覆う様に生えている。つまり、このまま真上に飛び続ければ、地面に落ちた勢いでサクッと突き刺さる切れ味の良い葉っぱが生い茂る中を突破しなきゃならないわけだ。
アイギス辺りを盾に突撃するならともかく、生身で突っ込みたくは無いなぁ……
かといって防御系のアクティブスキルも覚えてないし……今度マントでも買おうかな。体をすっぽりと隠せるマントがあればまだ違うだろう。ヒラリとしたら攻撃が全て曲がるマントとか無いかなぁ。無いか。
「~~~『アクアジャベリン』!」
『~~~!』
俺とティーニャが唱えた魔法が殆ど同時に発動し、俺の正面へ水でできた槍が4つ現れる。矢印型をした4つの槍は、全力で飛行する俺の少し先を僅かに渦を描く様に旋回しながら飛んでいる。
並列に、高速で詠唱ができても、そもそも発動できる魔法の種類がしょっぱいので、俺にできるのはこれぐらいだ。
水でできた槍は火で作るよりも長持ちするだろうが、それだけだ。完全に突き抜けるまでは持たないだろう。だが無いよりは断然マシだ。
「~~~『ガード・エンチェント』!っ!」
『~~~~~~~』
気休めの防御力上昇のエンチェントを発動し、飾り物でしかない天使の羽で胸に抱いたフィアちゃんを包んで葉っぱの海に突っ込む。
残り時間20秒。葉っぱが掠るのは仕方が無いにしても、太めの枝に直撃して失速したら目も当てられない。だから俺の頭は羽で庇わず、キッ!と睨みつけた正面では水の傘が開いていた。
『~~~!!!』
いや、傘じゃない。あれは巨大な槍だ。
俺とティーニャで生み出した4つの水の槍。その制御を奪ったティーニャが魔法を発動させた後で魔法を混ぜている。
起きた結果でいえば、ティーニャの持っている魔力圧縮とそんなに変わらない。だが、全く違う方法で生み出された巨大な水の槍は、ドリルや渦潮を思わせる螺旋を描きながら俺の直前を飛翔し、その回転でもって巨大な葉っぱを逸らしながら爆走する。
キャ~、ティーニャさんステキ~!!と俺が心の中でティーニャに喝采を送っている間にも、ティーニャ特製の大槍は葉っぱを弾き、葉っぱに触れる毎に徐々に徐々に構成する水を剥がされていく。
次の水槍の準備をするには、ティーニャの力が必要だ。だが、ティーニャは今の水槍を制御するので手一杯で、俺には制御が難しすぎて無理!というかMPがヤバイ。共鳴時間が切れるまで飛び続けられるぐらいのMPは残ってるけど、重なった枝葉の中からじゃ出口まであとどのぐらいなのか分からない。
終わりが見えないって言うのは思った以上に精神にクル物がある。何せ俺の視界では命綱である水の槍と、MPがガリガリ削られているのも、俺達の命を脅かす葉っぱがほんのすぐ横を通り過ぎていくのも浮遊のおかげでバッチリ見えているからな。
こりゃ、流石に無茶だったか?
破滅が目の前まで迫っているのを全身で感じて、背筋に冷たいものが走っているっていうのに妙に冷静なのはこれがゲームだからかね?別に死んでも死ぬわけじゃないしな。
今回はちょっと油断しすぎたな。見通しが甘すぎたって言い換えてもいいけど。次はちゃんと準備して勝つぞ!
と、諦めた方が楽だし、賢い生き方なんだろうなぁ~。
でもさ、俺の中のティーニャはまだ諦めて無いんだよ。破滅への秒読みは進んでるのに、確実に来る破滅の時を一秒でも、一瞬でも引き伸ばそうと必至になってるのが伝わって来るんだよ。
それに何より、今俺は1人じゃ無い。俺が抱える腕の中には、必至に身を縮めながら俺にしがみ付いてくるフィアちゃんも居るんだ。これで俺が真っ先に諦める訳にはいかないだろ?勝利の女神は、諦めない奴が好きらしいぜ?
「ホー!!」
ほらな?
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想のほうへお願いします。
いやぁ、今回はシリアスでしたねぇ。
・・・今更だけど、ボスって召喚できるよね?エルダートレントを町で召喚したら・・・ガクブル
あと、業務連絡。『150匹目 VSエルダートレント』で、奥義の成長内容を書き忘れてたので追加しました。うっかりうっかり。