番外編:ホームパーティ
サモナーよ!私は帰ってきた!!
いや~ここ1ヶ月ほど私生活が忙しくて更新できませんでしたが、そろそろ再開しま~す。
エタりはしないので大丈夫です。問題ない。
とりあえず今回はキャラの特徴を思い出すための閑話を1つ。何ヶ月も石化して放置されているエルさんはそのうち助けに行きますんで。もうちっと待っててね。
「それじゃあ!ユウの新築を祝って~」
「「「かんぱ~い!」」」
「きゅい!」
「ホー!」
「メェ!」
「にゃぁ」
「コーン!」
「「「「~~~~!」」」」
とある日曜日の夜。全員のログイン時間があった今日。フェアリーガーデンにある俺の家で新築祝いのパーティを開く事になった。
俺的にはゲームで家を買っただけでパーティを開く程ではないと思うんだが、家を造ったレン君から情報をリークされたみんなが、是非やろうと言い出したのだ。
・・・というか、こいつらは理由はなんでもいいからただ集まって騒ぎたかっただけだろう。
いや、いいんだけどさ。これから家がみんなのたまり場になりそうで・・・ただでさえもお隣さんのリーンちゃんと、フェアリー達が賑やかなのに、その上暇人が集まってきたらウィアナちゃんが寝不足で倒れちゃうよ。
まぁ、フェアリーガーデンに入るにはフェアリーの協力か、遡上の宝珠が必要だから大丈夫だろう。たぶん。リーンちゃんが夢の国の年間フリーパスとかを発行しなければ大丈夫。
「もう!お姉ちゃんたらこんな素敵な場所に家を建てたんならもっと早く教えてよ!そしたら毎日でも遊びに来てたのに!」
「全くだぜ。まさか親友が気付かぬうちに一国一城の主になってるとはな・・・」
「゛素敵な家゛を建てたじゃなくて゛素敵な場所に゛家を建てたって言ってる辺りに本音が出てるぞ。
タクも、涙を拭うフリをするんじゃねえ。たかがゲームで家を買ったぐらいで大袈裟な・・・」
乾杯をして、真っ先に俺に話しかけてきたのは悪友と妹の2人だな。
この2人は単体でも喧しいのに揃うと更にはしゃぎ出して手に終えなくなるんだよなぁ・・・
「そう言うユウだって可愛い物と者が絡んだ時の行動力が異常だろうが。いったい何度尻拭いをさせられたことか・・・」
「だよねぇ。むしろあたしが可愛い物好きになったのもお姉ちゃんが原因のところが大きいからね。
ねぇタクさん、知ってる?この前お姉ちゃんの部屋に行ったらまた新しい人形が増えてたんだよ。等身大のピカチ―――」
「はいはい。俺が悪い俺が悪い。だからシルフは勝手に人の部屋に入って内情をバラすな。というかいつの間に入ったし」
特に部屋に鍵とか無いから普通に入れるけども。
「いや、前の休みにお昼どうするか聞いても返事なかったからFWOやってるのかな~と思って入ったらFWOやってたから帰ったんだよ」
「・・・納得出来るようで納得出来無いんだがこのもやもやを伝えるにはどうすればいいんだ・・・」
理由になっているようでなってないんだよなぁ。
まぁ、シルフが微妙にズレてるのはいつもの事だけど。
「お前ら兄妹は本当仲いいよな。俺は兄弟とか居ないから時々羨ましくなるぞ」
タクにそう言われて俺とシルフは互いに顔を見合わせて軽く首を傾げた。
俺達ってそんなに仲いいかね?シルフ以外とは兄妹になったこと無いから分からん。
「あ~、でも確かに学校で聞く他の兄弟の話とかと比べたらあたし達は仲いいかもね。だって、『ウチの兄貴マジキモイんですけど』とか、『外で会ったら絶対声かけられたくない』とかは思ってないし」
「怖っ。最近の中学生口悪っ!」
俺もちょっと前まで中学生だったけどそこまで口悪くはなかったと思うぞ?それか、男女の違いか?
てか、世のお兄ちゃん達ボロクソだな。うちはシルフでよかったよ。能天気だけど。
「・・・はっ!・・・なぁ、ユウ・・・兄妹は犯罪だぞ?」
「お前はいったい何に気づいたんだよ・・・いや、いい。言わなくていい。どうせろくでもないから」
「そうだよタクさん。リアルにお兄ちゃんを好きな妹なんて居ないよ。ファンタジーやメルヘンじゃあ無いんだから」
ないわー。世にはシスコンなる人種も居るらしいけど、リアルに妹が居る身としては妹が恋愛対象になることはないわー。
「よーし!今日はいっぱい食べていっぱい騒ぐよ~!カラオケマシーンカモン!」
「急に歌うよ~!」「急に踊るよ~!」
ふと、そんな声が俺の耳に入ったかと思うと、急に部屋中に聞き覚えのある音楽が流れだし、部屋の片隅にはいつの間にか即席のステージの様なものが出来ており、スライムでできているんじゃないかと思うほど変幻自在にポヨンポヨンと跳ねながら音楽を流す機械とその前でポーズを決めているチビッ子生産職の姿が。
「「「はじま~る歌♪」」」
・・・何か急にカラオケが始まったんだけど。
カラオケというか、ミュージカル?なんか創作ダンスっぽいものを踊りながら歌ってるし。3人の踊りがバラバラなのがすごいシュールなんだけど。
3人ともがちっこくてかわいいから微笑ましいけど、タクあたりがやってたら殴り飛ばしてたわ。
「「「嘘は無い!」」」
アイテムボックスから取り出した剣と銃とメカメカしい拳を装着した3人が激しくなるBGMに合わせてズンチャカズンチャカと踊りも激しくなっていく。
3人とも楽しそうでなによりだな。
というか羨ましい。適合者が3人も揃ってるとかマジ羨ましい。あんなに神アニメなのに何故か知名度が低いから友達とカラオケとか行っても一緒に歌ってくれる人が居ないんだよなぁ・・・
更には楽しい雰囲気を感じ取ったフェアリー達やティーニャとリーンちゃんが即席のステージに乱入して逆立ち状態で飛びながら盆踊りを踊ったり、ウマウマしたりしてる。
って、おい。誰だリーンちゃんにウマウマ教えた奴。
指と腰の動きが完璧で可愛さが百倍じゃないか。いや、それよりも本心から楽しそうなのが伝わってくる満面の笑顔がリーンちゃんの魅力を何倍にも引き立てているんだな。うむ。
「おーい。レン君達~。カラオケするのはいいんだけど、もちっとボリューム落として。流石にでかすぎ」
楽しそうなのは結構なんだが、マイクで増幅されてるのに、3人とも魂を絞り出すかのように全力で、最大で、まっすぐに、一直線に歌うものだから家中にこだまして大変な事になってる。
耳がいいボーパルなんか両手で耳を押さえながらウィアナちゃんのスカートに頭を突っ込んでプルプルしてる。かわいい。スカートからはみ出てるもふもふのお尻をワシッと掴みたい。
「そいつは聞けない相談だね!」
「人命と等しく。家の誕生もまた、祝わなければならないもの!」
「みんなで集まって遊べる機会なんだよ?なのに、全力で歌えないなんておかしいよ!」
「のっ、のっ、のじゃ、のじゃ♪」
「「「~~~♪」」」
なるほど・・・
って、それはカラオケの音量を下げちゃダメな理由にはなってないよね?
あと、タクが首根っこを押さえてるから止まってるけど、シルフがリーンちゃん達にルパンダイブして舐め、もとい撫で回しそうになってるぞ。
「ぶっちゃけこの機会に布教しようかな~って」
「私達の歌が少しでもみんなの心に残ると信じて・・・!」「私達の歌を聞けー!」
布教か。それなら仕方ないな。
てか、ミヤちゃんそれ別のアニメや。
「あらあら、遊ぶのはいいけど他の人の迷惑にはなっちゃダメよ?はい、ギューン」
「「「あぁ!」」」
サビのいいところで表れた保護者にあっさりと音量を下げられ目に見えてテンションまで下がっていく3人娘達(1人男の子)。音量が落ちて落ち着きを取り戻した部屋にボソボソとした3人の歌声がしばらく響き、それもじきに終わった。
一曲終わったら踊っていたフェアリー達も解散して、会場の様々な場所で踊りだした。音楽があろうが無かろうが楽しいから踊ってるんだな。フェアリー達は遊びに関しては無尽蔵の体力を持ってるからなぁ・・・
「むぅ。どさくさ布教作戦は失敗だね」
「致命的失敗だね」「ファンブルだね」
「今回の作戦が失敗したのは全てリーダーの責任です」「リーダー・レンが無能な反逆者だったので失敗したのです」
「えっ?ボクが悪いの!?」
「リーダーが反逆者だったのにここまでやってのけた私達は完璧で幸福です!」「リーダーは責任を持ってユウさんに謝って来て!」
「リーダーになった覚えは無いんだけど・・・えっと、ごめんねユウ君。ちょっとはしゃぎすぎちゃった」
「いや、そんなに気にしなくてもいいぞ。次から気をつけてくれればいいから」
意図も容易く行われるえげつない行為で、責任を押し付けられたレン君が俺に謝りに来たけど、別に怒るほどのことは無い。
むしろレン君に全てを押し付けたミヤヒナの方がレン君の後ろで「あらあら、うふふ」と微笑むリアさんに肩を捕まれてビクッとしてる。
南無三。
「それよりも、こんなカラオケマシーンなんていつの間に作ったんだ?いや、ボーパル号に乗ってるボーパルブラスターに比べれば技術レベルは低いのかも知れんけど」
いつの間に作ったのかって言うか、作れたのか?っていう驚きだな。いや、運営のトップがあの2人だしカラオケぐらいはあり得るのか?
「ユウ君の言いたい事はよくわかるよ。でも大丈夫!今回は短編だから!短編集の方に投げておけば万事オーライだよ!」
「・・・ごめん。ちょっとなに言ってるか分からない」
カラオケマシーンの話から何をどう脱線したらそうなったし。
「カラオケマシーンは何か頑張ったら出来たよ。遊びにこそ全力投球!それが僕達生産職だからね!」
「やりたいことをやるだけだよ!」「やりたくない宿題はやらないだけだよ!」
あ、いつの間にかレン君を挟む様に復活してきたミヤヒナの後ろに、後ろに!!
「みぎゃ~!」「ひぎゃ~!」
「あらあら、この子達ったら。2人の事は私に任せてユウ君達はパーティに戻ってらっしゃい。ね?」
「「・・・」」コクコク
いつもと同じようにニッコリと目以外で笑うリアさんに言い知れぬ恐怖が背筋を過った俺達は、ただただ頷く事しかできなかったという。
リアさんがミヤヒナの首根っこを両手で摘まんで、猫のようにぶら下げながら途中退場し、カラオケマシーンには利用者が現れるまでBGMを流すステレオの役目を任せて、俺はレン君と別れた。
向かう先はパーティの最中なのに部屋の隅っこで本を読んでいる少女だ。
「フィアちゃーん。楽しんでる?」
「・・・ん。あなたですか。新築おめでとうございます」
「んにゃぁ」
本だけじゃなく、お気に入りの椅子までアトリエから持ち込んでいたフィアちゃんは、パーティの喧騒から離れるように部屋の隅に座って本を開いていた。
同じく騒がしいのが苦手で避難してきたのであろうノゾミが、フィアちゃんの膝の上で丸くなってるな。
2人とも騒がしいのは好きじゃなさそうだから楽しんでるか心配だったけど、ちゃっかり飲み物と食べ物は確保してるし、心なしかいつもより楽しそうな表情をしてるから大丈夫だろう。ノゾミに関しては嫌ならとっくに部屋から出てるだろうしな。
ちなみにフィアちゃんと一緒に遊びに来たエルは、初対面の人しかいない筈なのに既に馴染んでシルフ達とどんちゃん騒ぎをしている。
今はシルフとリーンちゃんとエルの3人でときめきポポ□ンを歌いながら踊ってるな。
シルフしか元ネタを知らない上にうろ覚えだからダンスは適当だけど、乱入してきたフェアリー達やボーパルが楽しそうにステージを跳ね回ってるのを見るだけで癒されるわ~
あ、ついにイナリとミズキも乱入した。
イナリは大きな筆しっぽをもっさもっさと振り回しながら、ステップを踏む様にタシタシと前足で交互にステージを叩いて踊っている。
ミズキはフェアリー達と編隊飛行をするようにステージの上を旋回して、ホーホー鳴いてるな。
あ、ブレイクダンスっぽい動きでピョンピョンしていたボーパルが、ミズキとイナリを足場に立体機動で演舞っぽい動きを始めた。
どんどん加速して跳ね回るボーパルは既に残像しか見えない。
今更だけど、ウサギってなんだっけ・・・
演舞は基本。
と、そこへリアさんのOHANASIが終ったのか解放されたミヤヒナも、レン君の手を引いてステージに上がって踊りだしたものだから、あの一角だけダンス会場みたいになってる。
参加してないのはステージの前でタンバリンを叩いてるタクと、あらあらうふふと微笑みながら見つめているリアさんと、混ざりたいけど自分から言い出せないから誰か誘ってくれないかとうろうろしているウィアナちゃんと、喰うだけ喰ってソファーでイビキをかいているアイギスと、この場にいる3人だな。
俺的には見てるだけで満足というかお腹いっぱいだ。恐らくタクも同じだろう。
はしゃぐ女子のテンションに合わせると碌なことにならないということは、今までの経験で証明されてるからな。
ショッピングなんて行った日にはこっちが歩き疲れてヘトヘトになってるのに、シルフだけが艶々した顔で次の店にスキップで入っていくからな。
なんなの?女子は買い物で体力を回復するの?ショッピングモールに並んでいる店は全て宿屋なの?
あの謎ポテンシャルだけは未だに解明出来ないな。タク曰く俺とシルフは似た者兄妹らしいがそんなことは無いだろう。
まぁ、エルとフィアちゃんほど正反対でも無いが。
「・・・姉妹や兄弟は性格が反転するとよく言われていますよ」
「んー、そうか?兄妹だからって反転するとは限らんと思うけど」
似た者兄妹は否定したけど、流石に反転とまではいかないよな。むしろ全く似てない兄弟とか、本当に兄弟なのか疑うレベルだし。
「・・・片方がちゃらんぽらんだともう片方はしっかり者になるとよく言われてますよ」
「なるほど。納得した」
なんと言う説得力だ。これは同意せずにはいられないな。
「ちょっとー!聞こえてるよー!誰がちゃらんぽらんだって!?」
「お姉ちゃんに向かってそんなことを言うなんて酷いデスよ!」
あ、その単語に反応したってことはちゃらんぽらんである自覚はあったんだな。それが良いことなのか悪いことなのかは置いておくとして。
「・・・ふぅ」
「・・・んにゃぁ」
丁度一曲終わり、ステージから降りた所で俺達の会話が耳に入ったらしく、何やら騒ぎながら此方へ向かってくる姉と妹を見て平穏な時間の終了を悟ったフィアちゃんは、全く進んでいなかった読書を諦めて本をお片付け。ノゾミはのそりとフィアちゃんの膝を降りて次の安住の地を求めて部屋の隅へ
「むっ?ノゾミなのじゃ!ノゾミも一緒に歌うのじゃ!」
「「「~~~!」」」
「んにゃ!?」
行こうとして途中でリーンちゃんに見つかってステージへとドナドナされていった。
片手で荷物の様にノゾミを抱えたリーンちゃんはステージへ移動する途中で、ステージに上がろうかどうしょうか悩んでいるウィアナちゃんもゲッチュして連行していった。
ウィアナちゃんはステージへと引っ張り上げようとしてくるリーンちゃんの手を振りほどこうとしてるみたいだけど、リーンちゃんはこの部屋にいる中じゃ最強だからな。レベル0のウィアナちゃんじゃ万に一つも逃げ出すことは出来ないだろう。
というかそもそも、嫌がってるのはそぶりだけだろうし、遊びに関してリーンちゃんとフェアリー達が妥協することは無いから諦めるしか無いんだけどな。
「やはやは~。フィアちゃんはなんでこんな隅っこにいるの?一緒に踊ろうよ!」
「デス!フィアも一緒にパーティを楽しむデス!」
「・・・いえ、フィアは・・・あ、ちょっ・・・」
俺がノゾミとウィアナちゃんに合掌している間に接近してきたシルフとエルが、フィアちゃんの両手をそれぞれ持って部屋の中心へと連れて行こうとしているな。
あ、フィアちゃんがアイコンタクト送ってきてる。なんかメッチャ見てくる。
ウィンクしておこう。キラッ☆
「・・・何してるんですか。この人達はフィアでは止められないので助けてください」
「いや、なんかこっち見てたから。ウィンク求めてたのかなって」
違ったみたいだな。キラッ☆の角度が悪かったのかな。あえて左手でやってみるとか?
「・・・た・す・け・て・く・だ・さ・い!」
「へいへい・・・2人共~フィアちゃんは俺とお話してるから2人で踊ってきてくれ~」
何故かフィアちゃんを連れて行こうとしている2人よりも俺に対してのヘイトが貯まってきたので2人の説得に入る。
ぶっちゃけフィアちゃんが照れて真っ赤になりながらステージの上で踊っている姿をRECしたい気もあるから、大分おざなりな説得だけどな。
はっ!逆にステージに上ったらノリノリでピョンピョンする可能性もあるのか!?イタズラ笑顔でピョンピョン。なにそれかわいい。満面の笑みで踊るフィアちゃんとか是非見てみたい。
「・・・むぅ。微妙に引っかかる言い方ですが、否定するほど間違ってはいません」
折角助けに入ったのになにやら不満そうに俺にジト目を向けるフィアちゃん。
やる気がなかったのがバレたのかな?
はっ、それともウィンクを求めているのかも。
「・・・ウィンクは求めていません」
何故バレたし。絆だな。
「・・・ねぇねぇエルちゃん。この2人完全にアレだよね。ラブコメの波動を感じるよ」ひそひそ
「・・・デース。アトリエに遊びに来ている時も思ってましたが完全にアレデス。目と目が合う瞬間に好きだと気づいてますデス」ひそひそ
俺とフィアちゃんが絆を確かめ合っている間に、シルフとエルも何かひそひそ喋ってる。
出会って間もないのに仲いいなぁ。
まぁ、2人ともコミュ力高いし波長が合ったんだろうな。
「にゃ~♪」
と、そこへステージから澄んだ鳴き声が響いてきた。
わざわざ書いたのか、黒字でミカン箱と書かれた段ボールを重ねた上にちょこんと座らさせられたノゾミが、目の前に設置されているマイクへと声を出している。
「にゃ~にゃにゃ~♪にゃぁあ~♪」
ノゾミは言葉は喋れない。ノゾミが喋れるのはにゃぁという鳴き声だけだ。
それだけではなんの意味も持たないその単語は、しかしノゾミが喉を震わせる度に響き、重なり、流れ。旋律となり、音楽となり、歌となる。
「にゃにゃ~にゃ~にゃ。にゃん♪」
歌詞は無い。楽譜も無ければ曲名すら無いその歌は、だが、それがどうした?と。
そんなものは歌を着飾らせる装飾でしかなく、本質はもっと簡単で、単純なものだろう?
と語りかける様に、その歌でもって証明するかのように堂々と響き渡る。
「にゃんにゃんにゃ~ん♪」
楽しい。ただただ愉快で面白い。
理由はないし、必要も無い。
ステージの上でしっぽをくゆらせながら、上半身を左右に振りつつ歌声をあげるノゾミは心底楽しそうで、そのノゾミと一緒にステージに立つリーンちゃんやフェアリー達も今までで最高の笑顔でクルクルと回っている。
まだ、あんまり俺やリーンちゃん以外の人間が得意じゃないウィアナちゃんも、ノゾミの歌のあとに続いて口ずさみながら体の、心の赴くままに自分の思いを表現している。
「混ざりたいけど、自分から話しかけるのは恥ずかしいし怖い」とオロオロしているウィアナちゃんもかわいいけど、やっぱり女の子は笑ってるのが一番かわいいな。
それに、ウィアナちゃんもシルフにロックオンされたからな。このパーティ中は1人の時間はもう取れないだろう。
レベル0で体力の無いウィアナちゃんには酷な話だが・・・すまんな。俺にはウィアナちゃんに関わらずにシルフの興味をなるべく向けさせない様にすることしか出来なかった。
ロックオンされたならもう手遅れだ。幸運を祈る。
ちょんちょん
「ん?」
折角だし俺も乱入して踊ってこようかと一歩を踏み出す直前に、俺の服の背中をちょこっとだけ摘まんで止められた。
そんなかわいらしい止められ方をされたら進めないじゃないか。
いや、フィアちゃんのお呼びならばどんな呼ばれ方でも止まるけども。
「・・・嫌な予感がするので今のうちに外に出ませんか」
「あ~」
確かに、俺でさえも思わず体が動き出してしまいそうなほどの楽しい音楽だ。楽しい事が大好きどころか命かけてる節まであるこのメンツと一緒に居たら確実に巻き込まれるな。
ぶっちゃけ巻き込まれるのもいいかなと思ってるんだけど・・・
「・・・騒がしいのは苦手です。でも1人ぼっちも嫌なんです」
「んじゃ。ちょっと月でも見に行くか」
フィアちゃんに一緒に居たいとお願いされたら断れる訳がないじゃないですか~
「ほぅ・・・」
「ふわ・・・」
盛り上がるパーティー会場をこっそりと抜け出して外に出ると。空に浮かぶ、まん丸で大きな月と湖に移る月の2つが俺達を迎えてくれた。
いつもはフェアリー達が常に飛びまわっているこの湖だが、今はフェアリーガーデンにいるフェアリーの殆どがノゾミの歌に釣られてログハウスに集まっているので、珍しく穏やかな時間が流れている。
「月が綺麗ですね」
「・・・ウサギがお餅をついてますからね」
その返しは予想外だわ~
まさかの月が綺麗なのはウサギのおかげ説。
「・・・フィア相手に文学で勝負を挑んだのが間違いです」
ふふんと挑発するように得意げに笑って俺を見上げるフィアちゃんの顔が、月明かりに照らせれてふんわりと浮かび上がる。
あらかわいい。
「え~、ネタが分かってるんならそれこそ、『私も同じ気持ちです』ぐらい言ってくれてもいいのに~」
「・・・あなたはフィアをなんだと思ってるんですか・・・」
おぅ。『またバカな事言ってる・・・』みたいなジト目で見られてしまった。
どんな顔でも月光の下だと魅力10割増しに見えるから不思議。月光補正ぱねぇ。
「・・・フィ・も・じ気・ち・すよ」
「ん?何か言った?」
月光に照らされたフィアちゃんに見惚れていると、ふっと視線をそらしたフィアちゃんが小さな声で何かを呟いていた。
ウサギさん装備なら聞き取れたのかもしれないけど、キツネさん装備の俺じゃあ聞き取れないぐらいの、本当に小さな呟きだった。
「・・・なんでもありません。湖に映っている月が綺麗ですねと言ったんです」
俺から逸らした視線を湖に固定したままそう言うフィアちゃんは、心なしか少し拗ねているような印象を受ける。
んー、なんで?女の子の気持ちは分からないな・・・
「じゃあ、もうちょっと近くで見てみるか?」
「・・・え?」
分からない事は考えても仕方ないので一旦置いておいて、湖へ映る月を見つめるフィアちゃんの手を取って湖へと足を踏み出す。
「~~~~『フロートウォーター』」
「・・・あ、ちょっ・・・」
急に湖へと足を踏み出した俺に引っ張られるフィアちゃんは、驚いたように目を丸くしているが不意をつかれたからか手を引かれるままに一歩二歩と足を踏み出して、そのまま湖の上へと足を乗せた。
「・・・水に、沈まない?」
「まぁ、そういう魔法だからね」
水の上に立つ俺とフィアちゃんの足元からは、小さな波紋が広がっているがそれだけで足は水の中に全く沈んでいかないし、靴に水が入ってきたりもしない。
すごいことはすごいんだが、あんまり使い道の無い魔法なんだよなぁ。まぁ、今使ってるけど。
「・・・すごいです」
最初の何歩かはおっかなビックリ足を踏み出していたフィアちゃんだったが、すぐに慣れたようで月下の湖の上を歩き回って波紋を作って遊んでいる。
跳んで、跳ねて、回って。
湖の水を掬い上げるように足を振るって、月光を全身で浴びるように両手を広げて。
月明かりに照らされたステージを舞うフィアちゃんは、フェアリー達よりもよっぽど神秘的で妖精みたいだ。
「・・・ん。あなたも一緒に踊りましょう」
フィアちゃんがはしゃいでいるのを、俺が微笑ましく見ているのに気付いたフィアちゃんは、月明かりでも分かるほど顔を赤くして照れて、俺を巻き込もうとしたのか踊りに誘ってくる。
「それじゃ、一緒に踊ろうか」
「・・・はい」
お誘いを受けたら断る訳にはいくまい。
フィアちゃんの差し出した手を取って月明かりの下、クルクルと回る。
踊りなんか習ったことは無いからまともに踊れはしないけど、それはフィアちゃんも同じようで、ログハウスから聞こえてくる音楽に合わせて2人で両手を繋いでクルクルと回るだけだ。
それでも周りに誰も居ない幻想的な空間で、互いに手を取り顔を見詰め合って踊るのは時間を忘れるほどに楽しくて・・・
「・・・フィアちゃん。俺、フィアちゃんに言わなきゃならない事があるんだ」
「・・・なんですか?」
今更こんな事を言っても仕方ないことは分かっている。でも、伝えない訳にはいかない。何故なら気付いてしまったから。一度気付いてしまえばもう忘れる事なんて出来やしない。
「あのな、フィアちゃん。実は・・・」
「・・・はい」
どちらからともなく踊りを止め、広い湖のほぼ中央あたりで手を繋ぎあったまま見つめあう。
踊っている間に岸からずいぶんと離れてしまったようで、ログハウスの明かりがずいぶん遠くに見える。
今この場で手をとりあう俺達の姿を見ているのは、空で大きく輝くお月様だけだ。
「実は・・・フロートウォーターの効果時間がもう切れそう」
「・・・はい?」
バッシャーーン!!
フィアちゃんがポカンとした表情をした次の瞬間にフロートウォーターの効果が切れて2人、手を繋いだまま湖へと沈み・・・始まりの街の噴水から出てきた。
「「ぷはぁ!」」
あ、そうか。フロートウォーターが重ねがけできないから、陸地まで間に合わない以上沈むしかないと思いこんでたけど、始まりの街へ跳べばよかったのか。うっかりうっかり。
んじゃ、もっかいフェアリーガーデンにジャンプっと。
「・・・うぅ。濡れてしまいました・・・」
「だな。靴ん中までべっちゃべちゃだぞ」
湖の淵に座り込んでうへぇ~って顔で、互いに自分の服を引っ張った後に顔を見合わせる。
服がすけすけになってるのもあるが、俺もそうだが、フィアちゃんも髪が長いからその髪がほっぺや服に絡まってなかなかに悲惨な姿になってるな。
「くふっ」
「・・・ふふふ」
お互いの姿を見合った俺達は、同じタイミングで吹き出してクスクスと笑いあう。
お互いに酷い格好してるだろうからなぁ・・・そりゃ笑みも漏れるわ。
「お~い。おねぇちゃ~ん。メール見たけどなにが・・・って、なんでビシャビシャなの!?濡れ場なの!?」
「濡れ場ってお前。意味違わねーか?」
「ユウ君。服のまま泳ぐのはやめておいた方がいいよ?」
「レン君がユウさんの服を剥ごうとしているよ」「レン君がユウさんを裸に剥こうとしてるね」
「あらあら。はい。このタオルを使って」
「フィアとユウが居ないと思ったら2人で泳いでたんデスね!」
「のじゃ!湖で泳ぐのならわらわも混ぜてほしいのじゃ!」
「「「~~~!!」」」
「ちょっとリーン!こんなところで服を脱いだらダメよ!同性の幼子しか愛せない変態が目の前にいるんだから・・・」
「きゅい!」
「ホー!」
「メェエエ」
「~~!」
「にゃむ」
「コーン!」
湖に沈む前にシルフにだけ救援のメールを送っておいたんだが・・・結局全員出てきたな。
というか、纏めて喋られても返事できねぇよ。服が乾くだけの時間は稼げたけどさ。
「よいしょっと。ほら、フィアちゃん手かして」
助けに来たはずなのに誰も手を貸してくれなかったから、自分で起き上がってフィアちゃんに手を差し出す。
フィアちゃんの服もすっかり乾いたようで、青みがかった長い銀髪もサラサラと風に揺られている。
フィアちゃんの視線は、俺の後ろで俺達を放置して喧々諤々と騒ぎ続ける他のメンバーから、俺の顔に移り、差し伸ばした俺の手へと移った。
「・・・まったく」
そう呟いたフィアちゃんが俺の手を掴んだので力を込めて引っ張り上げた。
「・・・バカばっか、ですね」
手を伸ばせば抱きしめられそうな至近距離で自嘲気味にそう呟いたフィアちゃんの表情は、声音とは反してとても楽しそうで、思わず抱きしめそうになったけど未だに後ろで騒ぎ続けるみんなのおかげで踏みとどまった。
あぶないあぶない。危うくシルフみたいにブタ箱に叩き込まれるところだったぜ。
「ふっふっふー。外で遊ぶ事も考慮して花火も容易してあるよー!」
「打ち上げ花火もあるよ~!」「線香花火もあるよ~!」
相変わらずあの3人は用意がいいな。
レン君がズラ~っと手持ち花火を並べて、ミヤヒナが上向きの大砲みたいなのをドンドン並べていく。
「ネオアームス○ロング・サイク○ンジェット・ア○ムストロング砲じゃねーか。完成度たけーな」
「とぅ!花火8刀流だよ!」
「むむ、ならこっちは花火16刀流なのじゃ!」
タクのボケが完全にスルーされて、シルフとリーンちゃんがバカな男子みたいな事やってる。
というか、あのままだと、用意してある花火が全部あの2人に取られかねないぞ!
「フィアちゃん行くよ!花火なくなっちゃう!」
「・・・はぁ。やれやれです」
どこぞの巻き込まれ系主人公みたいなセリフを呟くフィアちゃんはやっぱり笑顔で、やる必要は無いと思っていたホームパーティをやってよかったと思わせるには十分な物だった。
「あぁぁぁぁ!打ち上げ花火が倒れた!!」
「花火がログハウスの方に向いてるよ!?」「導火線に火は点いてるから止められないよ!?」
ひゅぅ~~~~ドカァアアアアアアン!!!
「・・・」
「・・・」「・・・」
「「「「・・・」」」」
「ま、まぁ。失敗は誰にでもあるよね。てへっ」
「形あるものはいつかは壊れるからね。えへっ」「偶々今日が寿命だったんだよ。あはっ」
「新築パーティで家を破壊する奴があるかぁあああああああああああ!!!今すぐ直して来い!!!」
「「「は~い・・・」」」
全く、あの3人組は。壊れた家が呪文1つ直る世界じゃなかったら訴訟ものだぞ・・・
「あ、ついでだし変形合体機能付けようか」
「ボーパル号と合体して巨大ロボにしようよ!」「家の中がグチャグチャになるけどロマンだからしかたないよね!」
「良くないわ!!元通りに直せ!!」
「「「は~~~い・・・」」」
まったく。油断も隙もありゃしねぇ・・・
「・・・バカばっか、ですね」
おう・・・俺以外誰も止めに入らないあたりで激しく同意するよ・・・・
もふもふ!
誤字脱字だらけだと思うので感想のほうへお願いします。
閑話を書き始めるとキャラが動き続けて締められなくなるのがテトメトの悪い癖。
本当は全員と話して終わるはずだったのに、何故かノゾミのライブが始まるし、フィアちゃんと2人でパーテイを抜け出して勝手に新魔法を作って月光の下で踊りだすし、花火大会が始まるし、家が吹き飛ぶし。
最後は巻きで無理やり締めました。最後適当な感じになっちゃったけどこのままじゃいつまで経っても終わらないからね。今日中に投稿したかったから仕方ないね。
それでも1万2千文字・・・まぁまぁまぁまぁ。
次回は早めに投稿・・・出来たらいいんだけど、急遽来週から2週間熊本に出張に行くことになったので遅れるかも。
すまぬ。
 




