142匹目 とあるオーク達の受難・・・
2話連続更新です。
今回は完全にネタ回です。オークの知性が高いように見えますが、なんかたまたま知性が高かっただけで、全部のモンスターがこうでは無いはずなので罪悪感を覚える必要は無いです。オークだし。
闇の中を泳ぐ様に意識と無意識を繰り返していた私の自我が呼び出される。
どうやら仕事のようだ。私と同じ様に呼び出された自我は2つ。あれは……ガストとサイゼだな。最近はよく一緒になる2匹だ。今日の仕事も無事に終わらせられるといいんだが……
「っと、着いたみたいだな」
「みてーだな。はぁ~ぁ。今日もくそったれな仕事の時間だ。最近仕事が多くていけねえよ。なぁ?」
「そ、そんなとこを言っちゃダメだよ……?それに仕事が無い時は何も出来ないでしょ……?」
「そうは言うけどサイゼよ~。俺達の仕事って何故かハチャメチャな行動をしてるニンゲンをプチっと潰すだけだぜ?やりがいを感じろってほうが無理だぞ」
「そ、そんなことは……あるけど……魔法使いなのに前に飛び出してきたり、使えもしない魔法を使おうとしたり……ニンゲンってもしかしておバカさんの事なのかな……?」
「そうだぜ!そうに違いないぜ!俺達はバカな人間がチョーシに乗らねーように躾てやってんだ!ニンゲン共には感謝してもらわねーとな!!」
「そ、そう……なのかな?」
大きな声に自信を漲らせて喋る若者がガストで、少し内気な少年がサイゼだ。最近はこの3匹でパーティを組んで仕事に当たっている。その仕事とはニンゲンを倒す事。
それもただ倒すだけじゃない。何故かトンチンカンな行動ばかりを取るニンゲンを一方的に潰すだけの簡単なお仕事だ。
「いつまで、話ているつもりだ?早く仕事をこなしに行くぞ」
「ご、ごめんなさい……」
「へへっ、サーセン。でも今まで動かずに俺達の話を聞いていた兄貴も実は一緒に話したかったんでしょう?」
「むぅ……バカな事を言ってないで早く行くぞ。今日の狩場もすぐ近くだ」
「は、はい!」
「へーい」
特に気配を隠したりもせずにノシノシと歩く。ニンゲンは気配を読む能力が低いからこれでもバレた事はない。
大した時間もかけずに狩場に到着した。沢山のフェアリーが飛ぶ音と声が聞こえてくる。
さて、それでは仕事開始だ。
「3匹同時に行くぞ。私に合わせろ」
「いつものっすよね。バッチリっすよ」
「が、がんばります……」
「行くぞ……3……2……1……」
「「「ブヒィイイイイイイイイ!!」」」
「「「オークが来たぞ~逃っげろ~!!」」」
雄たけびを上げながら森から飛び出した私達の姿をみて、フェアリーが散り散りに逃げ出す。
ここまでは予定通り。さて、今日の獲物は……
「なんだぁ……?メスガキ2匹しかいねーぞ。けっ、ちったぁ歯ごたえがある奴がいるかと期待してたのによー」
「あ、あのモンスター達もニンゲンの仲間なのかな?みんな倒れてるけど……」
ガストとサイゼの言う通り。フェアリーが逃げた後の狩場には石碑の前に座っているニンゲンの子供のメスと、私達の顔を呆然と見たあと、周りにキョロキョロと視線を彷徨わせている子供のメスしか居ないな。
他にはひっくり返ってるヤギや気絶しているキツネや頭を押さえてふらふらしているウサギがいるが物の数じゃないな。
ガストの言ったとおり、これは今までに無いほどの楽勝だ。
「おい。サイゼ。お前が行ってこいよ!あの棒立ちしているガキならお前でも簡単に殺せんだろ!なぁ~に。危なくなったら助けに行ってやるからよ!ほら!行って来い!」
「え、え~?ボ、ボクに出来るかなぁ……う、うん。でもボクもこのパーティの一員なんだ!頑張らなきゃだよね!」
ガストに背を押せれ、一歩前に押し出されたサイゼがそのまま棒立ちをしている子供に駆け寄り、子供の身長の半分はありそうな拳を叩きつける。
これで1匹。後は座り込んだままのもう1匹を潰せば今回の仕事は終了……
私達3匹はそう信じていた。
「アイギスガーーーーード!!」
「なの!?」
「「「なにぃ!?」」」
サイゼの拳が当たる直前になって動きだした子供は、近くでひっくり返っていたヤギの後ろ足を掴みサイゼの拳に叩きつけて、その勢いで後ろに跳んでサイゼの拳をかわした。
あ、あの子供……仲間を一体なんだと思ってやがるんだ!?
サイゼの拳をもろに受けたヤギは子供の隣を吹き飛んでいき、背後の木にぶつかって止まった。
自分の所為で仲間が吹き飛んだのに、子供は後ろを全く気にした様子も無く私達を睨みつけている。
やられた仲間には価値は無いってか……このガキは仲間を便利な道具としか思ってねえのか?本当にクズだな。ここで成敗してくれる!
ジャララ……ドスン!!
一瞬のアイコンタクトで意志を統一した私達が一斉に飛びかかろうとした瞬間。子供の方から聞こえてきた金属音で出足を潰される。
子供が取り出したのは黒く冷たい光を放つ長い鎖に繋がれた、この世の悪意を形にしたような禍々しいトゲ付きの鉄球。
いままで一度も見たことが無いのに、その見た目だけで凶悪な武器であることが本能的に理解させられてしまう恐ろしい凶器。
「てめえらの血はなに色だーっ!死にたい奴からかかって来いーっ!!」
子供特有の高く、大きく、心の奥まで響く声。
3対1なのにふてぶてしく嗤いながらのその叫びは、有利な筈の私達を鎖で縛りつけたかのようにその場に釘付けにした。
「あ、兄貴!こいつやべぇよ!マジキチだよ!」
「こ、怖い……に、逃げようよ……今ならまだ、逃げれるよ」
「う、うむ……」
心の奥から湧き出てくる恐怖。生存本能とでも呼ぶべき生きるための機能が全力で危険を知らせてくる。
ここは逃げるべき……だが、敵は1匹の子供だけだ。3匹で囲めば……だが、私を慕ってくれる2匹を危険にさらすわけには……しかし、仕事を途中で放棄するぐらいなら当たって砕けるほうが……
私は決断を下せなかった。逃げたいという恐怖と、逃げるわけにはいかないという使命感に挟まれ、動きを完全に止めてしまった。3対1でも恐怖を覚える相手を前にそれは決定的すぎる隙となった。
「ファイアーボール!」
「ぎゃ、ぎゃあああああ!?」
「「サ、サイゼーッ!!」」
気絶していると思っていたキツネから飛び出した火球がサイゼの顔に命中し一瞬で燃え上がらせる。恐ろしい威力の一撃だ。その一撃でサイゼのHPが半分になってしまった。
さらに突然の奇襲に気をとられ、サイゼへと意識を向けてしまった私達の耳に再びあの声が響く……
「ナイス、イナリ!いや、ティーニャか?どっちでもいいがよくやった!いっけえええええ!」
振るわれたの一本の鎖。その先に繋がるのは死を具現化したような狂気の物体。
瞬間私とガストは鉄球に頭を跡形も無く粉砕されたサイゼを幻視した。
だが、横から凪ぐように飛んできた鉄球はサイゼを大きく外れ、後方を旋回してくる。これじゃあサイゼにぶつかるのは鎖の部分だし、当たるのは胸ぐらいの位置だ。
子供が狙いを外したんだろう。サイゼが死ななくてよかった。
そう思った瞬間。鎖がサイゼに触れ……サイゼを中心として急加速した鉄球が私達の周りをグルグルと回り、私達を一瞬で縛りあげた。
「ぐおぉおおおお!?」
「な、なんだこの鎖は!?ぐっ、外れねえ!」
「い、痛い……た、助けてあにき……」
「と、トゲトゲ鉄球つえぇ……」
「ごしゅじん!私がんばりましたー!」
3匹共が全力で鎖を引きちぎろうとするが鎖は一向に外れる様子がない。
私達がもがいている間に、一旦私達から離れていた子供が右手でヤギを引きずり、左手でフェアリーを握りこんで私達に近づいて来た。また、あの嗤いを顔に浮かべて……
こわいこわいこわいこわいこわいころされるころされるころされる
ぐっ、だが……だが私は……!!
「ニンゲンの子供よ……聞け!私がこのチームのリーダーだ!全責任は私にある!殺すなら私だけにしろ!!」
「「あ、あにきぃ~~」」
ふっ、泣くな2匹とも。私が死んでもお前らさえ生きていれば私はそれで……
「ちょっと、何言ってるか分からないですねぇ」
そんなー(´・ω・`)
「お前の罪を数えろ!汚物は消毒じゃー!!」
「ファイアーボーーール!」
「「「ギャァアアアア!この悪魔ぁあああああ!オーク殺しぃいいいいい!!」」」
「チャーシュー3つの出来上がり!紐じゃ無くて鎖で縛って焼いてある所が美味しさの秘訣だな!」
「完璧なめでたしめでたしですね。ごしゅじん!」
次の俺達は……きっとニンゲンの子供達には喧嘩を売らない完璧なオークに生まれてくる……と、いいなぁ……
ちなみにこの後、とある少年がとある少女を連れてもう一度ここを訪れようと考えていることを、この場で封印されてしまったオーク達には知るすべは無かった……
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想のほうへお願いします。
次回はユウ視点です。そっちを見ればマジキチなユウの言動も多少は理解できるかも・・・?




