8匹目 VSカラスの集団
「きゅい!」
現実逃避気味に何処かいい訳じみた思考を頭の中でまわしていると、ずっと腕に抱えたままだったボーパルが早く降ろせとばかりに暴れだし、それでやっと俺の意識が現実に回帰した。
「えーと、色々と突っ込みたいことはあるが。……とりあえず助けるぞボーパル!」
「きゅい!」
《Cクエスト『錬金少女との邂逅』を発見しました受理しますか? Y/N》
なんか出てきたけど今はそれどころじゃないので放置!
すると勝手にYESが選択されインフォは消えた。行動で選択を示したってとこかね、良く分からんけど。
「きゅいーーーー!」
「カァ!?」
もはや十八番になりつつあるボーパルの先制体当たりが少女に攻撃するために低空に下りていたカラスの一匹にクリティカルヒット。
そのままもつれ合うように地面に転がりカラスの上を取ったボーパルが地団駄を踏むようにカラスの背中に連続で踏み付けをして1羽目のHPバーを消し飛ばす。
「えっ?……え?」
「「「カーーーーー」」」
突如現れた小さな救世主に困惑の声を漏らす少女を放置し、カラス達のヘイトが仲間を倒したボーパルへ向かう。
いくらボーパルが素早かろうと有利な上空から数に物を言わせた連続攻撃をされれば捕まるのは時間の問題だろう。さっきみたいな全力の体当たりには助走が必要だしそもそも迂闊に飛び上がれば格好の的だからな。
だがもちろん俺がそんなことはさせない。
「ふっ!」
上段。右斜め上へと構えた杖を太刀の様に打ち下ろしボーパルに迫ろうとしていたカラスの内1匹を打ち落とす。
「ガァ!?」
驚きの声を上げ地に落ちたカラスが振り向いた時にはすでに腰だめまで引き戻していた杖を槍の様に突きだし叩き潰す。
「シッ!」
「ギャガ……」
地面に落ちているがゆえに衝撃を余すことなく受け止めたカラスはそれでもHPを1割ほど残していた。
「ハァ!!」
見るからにフラフラで飛ぶどころか起き上がることすらできそうにないカラスへと、俺は薙刀のように足元を薙ぎ払いとどめを刺す。
さすがにHPが無くなったカラスは払いを受けた勢いのまま地面を転がり近くの藪へと突っ込んだ。これで踏んづけて転ぶこともないだろう。
しかし3確か、なかなかに厳しい。なぜなら、
「「「カーーーー!!」」」
これ以降はあいつらがそう簡単に連続攻撃を許すとは思えないからだ。
未だぱっと見じゃ何羽か数え切れないほど飛んでいるカラスが明らかに俺とボーパルに敵意を向けているのが分かる。
これは面倒くさい持久戦になりそうだ。
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「らぁあ!」
「「カーーー!!」」
また1羽カラスを落とした。これまで何匹のカラスを落としたかもう覚えていない。だが、飛んでいる数よりも地に落ちている数のほうが増えてきたのは確かだ。
「カーーー」
「きゅぃぃーーー」
すでに夜の帳もおり、この場にいるものに無傷なものはいない。度重なる波状攻撃を捌き切れずに俺のHPも5割を下回りもうすぐ4割にさしかかろうとしているし、カラスどもも半分以上が落ち、生き残っているやつも少なからず反撃をもらいHPが5割を下回っているものがほとんどだ。
そしてそれはボーパルも同じ。ボーパルのHPは5割どころか2割を下回っており当たり所が悪ければ次の一撃で沈んでしまうかもしれない。何しろボーパルには有効な攻撃手段が体当たりしかなくカラスは攻撃時以外は上空を飛んでおりへたに飛び上がれば袋叩きにあう。攻撃時にカウンターを当てようにも急降下して突撃してくるカラス相手に真正面からぶつかれば双方ダメージは必至だから、突撃を回避してからの反転体当たりしか無いのだが悠長な反撃を許すほどカラスの連携は甘くない。
ゆえにボーパルは回避に徹して時折俺に集中しているカラスを背後から強襲して挑発をし続けてくれている。
だがボーパルがいくら速いといっても、そんな状態がいつまでも持つはずもない。
カラスの数も減ってきて、与えるダメージが増え、受けるダメージが減っていったがそれでもじりじりとかすりダメージでボーパルのHPは減っていきついにその時を迎える。
「きゅい!?」
「ボーパル!」
カラスの降下攻撃をかわした着地を狙われた攻撃に回避しきれなかったボーパルがついに直撃を受けてしまう。
残り少ないHPが恐ろしい勢いで減っていきそして、
「きゅ―――――――」
ボーパルの姿が一瞬ぶれた後霞の様に消えてしまう。
………………いや、分かっている。ボーパルは死んだんじゃないデスペナルティで1日召喚出来なくなっただけだ。また明日になれば元気な姿を見せてくれるだろう。
だが、それでも……
「お前ら……もういい。チマチマした削り合いは終わりだ!死にたいやつから前へでろ!」
「「カーーーー!!」」
残るカラスはあと6匹。全羽体力が半分以下でどこと無く飛行もぎこちなくなっているが、対する俺も残りHPは3割ほどで、精神的疲労で体の動きも鈍くなってきていた。俺がいまだに立っていられるのは今まで攻勢に出ずひたすらヘイト集めに徹していたのとボーパルの献身的なサポートのおかげだ。
だが堪えるのはもう終わりだ。
とりあえず目の前に着地しているボーパルにとどめを刺してくれやがったやつの頭をかち割る。
「ガッ―――」
残り5羽。
背中に衝撃。痛みを伴わない酷い不快感だけが発生することへの違和感にはどうにもなれない。
「ぐっ、んのぉ!」
「カァ!?」
その攻撃をある程度予測していた俺はすぐさま体を反転。回転力を存分に乗せた殴打を横からもろにぶつけて弾き飛ばす。真横にかっとんだカラスは太い木にぶつかり沈黙。残り4羽。
「「「カーーー!」」」
3方向からの同時攻撃。とりあえずサイドステップで2羽を一直線上に並べこれで2方向。サイドステップした方向から接近したカラスの1羽へとそっと杖を合わせ巻き込むように回転。十分体制が崩れたところで斜め前から迫る2羽目へとスイング。
驚き急停止する2羽目を無視し前へと踏み込む。
正面から迫る3羽目に対し限界まで腰を落として避ける。カラスが頭上を素通りしたのを確認したのち後ろ足を返してふたえで反転。無様にも空中で激突してもつれる様に失速していた1羽目と2羽のカラスを追撃し1羽を仕留める。残り2羽。
「カーーー!」
さっきかわした。3羽目のカラスが空中で転回。速度を十分に乗せて突撃してくるのを正眼に構えて迎え撃つ。
バサッ
耳に届いた小さな羽ばたき音と背筋を駆け上がった嫌な予感に従い大きく横にとび回転受身で直ぐに立ち上がる。
まわりながら横目で見たさっきまで俺がいた場所には矢のような速度で突っ込む背後に回りこんだ2羽目のカラスが。
危なかったと息をつく間も無く機動を修正した3羽目のカラスが迫る。なんとか起き上がってはいるが重心がまだぶれている為即座の回避も迎撃も出来ない。
衝撃。
中ほどでカラスの突撃を受けた杖はミシミシと嫌な音を出しつつも受けきった。
完全に速度を殺しきったカラスの足を左手で掴みそのまま地面へと叩きつけた。
「ギャガ……」
起き上がるまもなく踏みにじって終了。残り1羽。
「カーーーー!」
他の仲間が全滅しているのになおも俺に向かってくるのは仲間を殺されたことに対する怒りからか。あるいは戦力差も分からないバカなのか。
まあどっちでもいい。そっちから向かってきてくれるのならば迎え撃つまでだ。
これで、残り、0羽。
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