Episode3
「小川…杏…ふぅん」
その文書に描かれた文字、そこには興味深いものがあった。
”夢” という文字だ。
この子には、夢があるのだという。
この学校に…そんな子がいるなんて…。
守山高等学校は、ただの学校ではない。
この学校という概念だけがそこにあり、それ以外はない。
要するに、この世界そのものが 校舎 だけなのだ。
その 校舎 で、 夢 というのは本来存在しない。
校内で一生を過ごし、校内で一生を終える。
生まれ、育ち、学び、それが命尽きるまで続く。
その中で…その中でこの子は…小川 杏は、夢を持っている。
ここから…出るという夢を。
「面白いじゃないか…興味が湧いた…さて、私も準備をするとしよう…の!」
と、文書を書いた本を納める。
「信玄公、そろそろ行きやせんと」
「そうだな、では行くとしようの…!」
長身の赤髪に白の袴。
背中には 『風林火山』 と描かれた黒文字がある。
その目立った服装は、校舎でも有名である。
ちなみに、女だ。
(--- 1-05教室 ---)
X-XX教室。
最初のXが階層を表し、次の二つのXが教室の種類を現している。
僕らは、これらを総称して、1-05(いー・ぜろごう)教室と呼んでいたり、
4-01(しー・ぜろいち)教室と呼んでいる。
そして、この1-05教室もそうだが、各教室はやたら広い。
体育館…と呼んでも差し支えないだろう。
縦幅50mと横幅20mは、教室とは程遠い。
そこでただ筆記の勉学を行うのではなく、僕らは技能授業と呼ばれるものを受ける。
技能授業とは、自分の能力を向上させるために取られる授業の事で、
要は運動だ。
「あー…じゃあ、柴崎…前に出てこい」
「はい」
と、僕の隣にいたロンゲ茶髪の柴崎が担当教師の所へと向かう。
このクラスは平均的なクラスレベルを持つ生徒が集まっている。
と、柴崎が担当教師に講師されながら、それを僕らは眺めている。
これをしろと言っているのだろう。
ちなみに、内容は組み手だ。
ダンッダンッ
床を大きく蹴る音、
ドンッ
誰かが、床に投げられる音。
そんな音だけが、この教室を満たした。
僕も、またその一つ…。
「小川!腰が入ってないぞ!」
「ぐっ…」
僕のアビリティは、武器が無ければ発動しない。
加えて相手は、僕よりも徒手格闘に長けている。
こんなの…
「おい、小川!お前、真面目に勝負する気があんのか!」
「…こんなの…勝負でもなんでもない…」
僕はそう零す。
すると、担当教師が近づいてきて…
僕を思いっきり殴りつけてきた。
「ってぇ…何するんですか!」
「お前は、相手との正当な勝負を、自分の能力がないというだけで投げ捨てるのか?
だったら、お前はこれからも負け犬だぞ」
「負け…犬…」
突きつけられたその言葉は、僕にはとてつもなく残酷だった。
「戦え、お前はそのためにここにいる」
「…」
そう、ここでは 戦うこと が 生きること に繋がる。
そのため、自己強化を怠らないようにするのが必要だ。
…ああ、早くここから抜け出したい。
この狂った世界から。