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冒険者達の集い  作者: イトー
薬学と錬金術の都市メディ・ミラ
98/173

ユウキ達と暗殺者

 

 脱力した暗殺者。

 だが全く油断ならない。

 ここで、すみませんでしたごめんさいと無抵抗で

捕まるはずがないのだ。


 下ろした腕が一瞬クロークの中に隠れる。

 するとそこから、常人では捉えられないほどの

速度でスローイングナイフが放たれた。


 ただし、常人の目には、だ。

 リュウドは前に出ると、鍛え上げた動体視力で

それらを全て払い落とす。

 投擲での奇襲など、ある程度読みの範囲内だ。


 攻撃を防がれた暗殺者だが、これは向こうも

想定内だったのだろう。

 このモーションにより、互いに生まれた僅かな

隙を見抜き、一瞬で踵を返した。


 投げナイフは逃げを打つための布石。

 目の前に現れた異界人の出方を窺うための、

ワンアクションに過ぎなかった。


 非情の世界に生きる者はリアリストである。

 勝てない、失敗だと悟れば、下手に粘らずに

すぐにその場を立ち去る。

 恐れ(おのの)いて逃げるのではなく、戦略的撤退だ。


 潔く逃げに転じた暗殺者は脱兎の如く、その

強靭な脚力を以って一気に加速する。

 このままでは教会の表側から人の多い街中へと

逃げ切られてしまう。


「インフェルノ!」

 カーライルが呪文を唱えると、5メートルほどの

火柱が上がり、暗殺者の進路を塞いだ。

 その数は間を置かず、1本ずつ増えていく。


 火柱はやがてまとまって炎の壁となり、暗殺者の

退路を遮断した。

 左右に逃げようとするも、そちらにも既に壁が

そり立っており、背後でも壁が完成しつつある。


 今まで冷静そのものだった暗殺者が、迫り来る

炎の壁にはっきりと動揺を示している。

 それは動作に無駄が出ている事から見て取れた。


「このまま、身動きが取れなくなる程度に火を

通させてもらうぜ」

 四方の壁が完成すれば、そこは全てを焼き焦がす

巨大なオーブンと化す。


 火柱の連発で退路を断ち、高熱での範囲攻撃。

 魔術師がソロで素早いモンスターを相手にする時、

追い込み漁のように仕留める戦法である。


 本能で動く鳥獣のモンスターなら、それで十分、

完全撃破が望めただろう。

 だがしかし、相手は過酷な環境で暗殺術を体得

した人間だ。


 暗殺者は振り向くと、完成しつつある後方の壁に

体当たりした。

 激しく炎上しているが、未完の壁はすき間のある

火柱の集まりに過ぎない。


 クロークの所々に引火しながら、暗殺者は火炎の

囲いを脱した。

 信じ難いレベルで諦めを知らない。

 その強靭な精神力がサバイバリティを押し上げる。


 湿った地面に転がり消火したが、逃げる先には

ユウキ、リュウド、アキノが待ち構えている。

 リュウドが逃がすまいと踏み込んで剣を振るう。


 ガキィと音がして、剣が止められた。

 何本あるか定かではないが、袖の中からスペアの

アサシンダガーを出し、受け止めたのだ。


 リュウドの斬撃を片手で受ける膂力とテクニック、

剣の腕前は相当のものだ。

 動きが止まった瞬間を狙い、ユウキがワンドを

向ける。


 と同時に、暗殺者はダガーを巻き込みように

動かしてリュウドの剣から逃れると、蛇が這う

ように、地に伏すほど低い姿勢でユウキへ肉迫した。


 至近距離──ここからでは大きな爆発を伴うような

広域攻撃魔法は選択しない、使うならシンプルな

ものを選ぶはず、と読んでの行動だった。

 そしてそれは見事に的中する。


 ユウキが狙っていたのは、コンパクトな動作で

発射できる、光の矢で相手の動きを封じる魔法。

 その弾速は速い、速いのだが──。


「くそっ!」

 苦し紛れで魔法が放たれたが、その矢は

マスクの数センチ先を飛び去っていった。


 彼が外したのではない。

 シンプルな魔法の大多数にある欠点──軌道が

直線であるが故に、見切られたのだ。


「たあっ!」

 ユウキの横を通り抜けた暗殺者の鼻先に、

アキノのロッドでの突きが放たれた。

 精神力で形作られた槍の穂先が、顔面を

捉えるかと思われた瞬間、


「え!?」

 突き出されたロッドの上に、暗殺者は

飛び乗っていた。

 そしてそこを足場に大きく跳躍する。

 軽業師も玄人裸足の、何たる身の軽さか。


 あっという間に、3人は突破されてしまった。

 暗殺者はモンスターには該当しない。

 高度な戦闘技術を身に付けた人間なのだ。


「レイ・スティンガー!」

 カーライルが指からピストルならぬ機関銃の

ように、光線を連射する。


 精度が落ちたとは言え、光線はかすりはする。

 だが暗殺者は振り向かずに走り続け、背中に

目が付いているのかと錯覚するほど正確な回避で

直撃弾を避けた。


 逃げ切らせてはいけない。

 4人はすぐに後を追う。

 だが暗殺者は風のように墓地を走り抜け、

クロークを揺らして鉄の柵を飛び越えた。


「ひいぃ!」

 恐らく、外で恐々と様子を窺っていたであろう

ファントの悲鳴が轟いた。


 へたり込んだ彼を数秒見つめた後、暗殺者は

住宅街へと続く路地に入り込む。

 もう、完全にユウキ達の視界から消えていた。



 ユウキ達が柵の前まで来ると、

「た、助けて! い、今、暗殺者が僕の前を! 

あああ、暗殺者を見たら殺されてしまうぅ!」

 ファントが柵を掴み、無実を訴える死刑囚の

ように外から叫んできた。


「逃がしたか」

 リュウドが適当に無視しながら言った。


「やれやれ。邪教団の暗殺者は各地で暗躍してる

とは聞いてたが、なかなかしぶとそうじゃないか」

 カーライルが中折れ帽を被り直す。


 ユウキは追跡を諦め、振り返って墓地を眺めた。

 無力化されたファミリーのボディガード達が所々で

倒れ、幹部やボス達もその場を動こうとしない。


 この状況を不幸中の幸い、と呼ぶのはおかしいか。

 暗殺を阻止できたのは幸運そのものだ。

「ユウキ、怪我してる人達、治療してあげないと」

「ああ、そうしよう。人数が多いから手分けして」


 あれが相手では、普通の人間はひとたまりも無い。

 早く見つけ出して倒さなければ被害は増える一方だ。

 今度ばかりは人間だからと言って容赦できないな。


 対抗策は無いものかと頭を捻りながら、ユウキは、

未だ警戒しているラルバンのもとへ向かった。


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