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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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カーライルと暗殺事件

 

「暗殺者って、昨日言ってた邪教団絡みのか?」

「そうだ。中でも、現在進行形でまだまだ死人が

増えそうな所があってな」

 昨日も何人か殺されてる事件があるようだ、と

彼は言っていた。


「メディ・ミラを知ってるな?」

「ああ、薬と錬金術の街だな」


 メディ・ミラは湖と森林の国ロウナンにある都市で、

その昔、薬学と錬金術の礎を作り、後に象徴として

崇められた術師の名を持つ街だ。


「私、薬草の知識と薬学スキルのアップのために

何度か行った事あるけど……」


 アキノが口ごもらせながら言った。

 彼女がその街に抱く印象と、暗殺者という物騒な言葉が

どうしても噛み合わないのだ。


 近くには魔法石と性質の似た、魔力を含んだ鉱物が

数多く取れる山があり、薬品の素材となる薬草や毒草などの

植物も豊富に生えていて自然豊か。

 各地で滾々(こんこん)と湧き出る水も澄んでいて、様々な湿度や

温度を保つ洞窟もあり、薬品や錬金術の調合には最適だ。


 そのため、術師メディ・ミラの後進となる人材を育てるべく、

薬学や錬金術の学校も存在している。

 ちなみに薬師や錬金術師に職を変えるには、ここで

スキルを学び、手続きが必要になってくる。


「薬学と錬金術を学ぶ街で、どうして暗殺者の話に

なるんだ?」

「それは、その街の暗部に触れないとな」

「暗部?」

 カーライルは煙草を咥えながら喋り始める。


「あの街、裏では違法薬物が相当出回ってて、素材の

違法な密輸もされてるんだ」

「違法薬物?」


「薬学を学べる学校、野生に生えてる素材。なかなか

手に入らない調合用器具もそこでは普通に売られてる。

となれば、そういう商売をやる奴等が出てくるんだ」

 売り物を作れる人間がいて、それが大金になるなら、

やる者はいるだろう。


「そこで昔から売買を一手に扱ってるのが、ファルロ

ファミリーだ」

「ファミリー?」

「まあ、あれだ。リアルの世界で言う、カタギじゃない

連中。もっと平たく言えば、マフィアだな」


 この世界にもそういった組織が幾つも存在している。

 元は乱世の時代、一族を守る為に協力し合っていた

者達が形成した同族のグループである。

 ある意味、ギルドに近い物と言えなくもない。

 自衛のためであり、当時は犯罪とは無縁であった。


 しかし地域で力を持ち、それなりに権力を持つように

なると法に触れる事を生業とするものも出てきた。

 組織の維持や勢力拡大など、一応理由は挙げられるが

力を持った者達の行動としては自然かもしれない。


「そういう言葉が出てくると、暗殺者って言葉にも

何だか真実味が出てくるわね」

「そいつらが誰かを暗殺したのか?」

「いや、まあ聞いてくれ」

 カーライルは再び煙草をふかす。


「今まで違法薬物は、街とは切っても切れない関係で、

実際取り締りの方も結構緩めだったんだが、最近新しく

決まった街の議会議員の何人かが取り締りを強化すると

言い出してな。そしたらだ、1人2人と続けて死体で

見つかったんだそうだ」


「それをファルロファミリーが? そこと邪教団が

繋がってるって事か?」


「それがどうにも分からない。ファミリーの肩を

持つわけじゃないが、ファルロファミリーは割と

良心的な組織なんだ」

 仮にもマフィア組織に良心的とは妙な評価である。


「取り扱う違法薬物は依存性の弱い物ばかりだし、

規定量以上の国外持ち出しが禁じられてる薬草を

決まりより多く流したりもしてるが、それだけだ。

すぐにすぐ、誰かを殺すだの、消すだのって組織

じゃないんだ」


「随分と穏やかな組織なんだな」

「穏やかって言うより、古くから組織そのものが

街に根付いてるんだ。だから違法な行為はするが

死人が出るような取引や商売はしないっていう、

ファミリーなりの掟があるらしい」

 実態は不明だが、何とものんびりした組織だ。

 田舎で野菜を売っているわけでもあるまいに。


「じゃあ、邪教団とは関係ない話なんじゃないの?」

「いや、2人目が殺された場所で邪教団の暗殺者が

目撃されたらしい」


 姿を見せ付ける、という暗殺者にあるまじき行いを

邪教団の暗殺者はする事がある。

 恐怖の象徴として姿を見せ付ける事で、自分達が

関わっているとアピールするのだ。


「なんか、いまいちよく分からない事件だな」

「だから調べてみたらどうかと思ってな」

「そもそもなんで俺達が?」


「そりゃ、ルイーザ殺害事件で大活躍したんだから、

捜査はお手の物だろ」

「探偵業やってるつもりはないんだけどなあ」

 自ら首を突っ込んで解決に導きはしたが、あれは

あくまで成り行き上そうなっただけだ。


「ところでカーライル、そのマフィアとかにやたらと

詳しいのはどうしてなの?」

 裏に通じすぎているとアキノは疑問に思った。


「俺が吸ってるこいつも、材料自体はマフィア経由で

入ってきたものらしいんだ。魔力回復によく効くから

お気に入りの葉だ。それで少しツテで調べてみたら、

邪教団の影が見え隠れしてたってわけだ」


「邪教団は魔族の崇拝者だからな。ヨシュアさんが

言ってたように、関係者を見つけられそうなら俺達が

積極的に関わって叩いておくのも1つの手か」





「──っていう話を持ち掛けられたんだ」

 宿泊棟の一室で刀剣の手入れをしていたリュウドに、

ユウキは話を聞かせた。

 リュウドもトレーナーとして主に剣を使うビギナーに

体捌きなどを教え、これから数日はフリーの身だ。


「そういう事なら協力しよう。これ以上、新たな被害者を

増やさせるわけにはいくまい。邪教団の凶手は絶たねばならん」

 そう言い、抜き身だった刀を鞘に戻す。

 カチンと鯉口が鳴った。


「話を持ち掛けたカーライルは行くのか?」

「今日は別の場所へ冒険の予定があるそうだけど、

話を振った以上、自分も後から必ず行くってさ」

「あとはミナに出発の許可を取れば大丈夫ね」


「わたしもついてく」

 なんだかんだでここまで着いて来たアプリコットが

ユウキの袖を引っ張った。


「アプリコットはお留守番」

「えー。わたし強いよ。暗殺者なんかパンチ1発で

やっつけちゃうよ」


 こう見えてアプリコットも、それなりのレベルにまで

到達している。

 エルドラド人の並の暗殺者なら、一撃で倒してしまう

可能性もない訳ではない。


「じゃあ、何か美味しいお土産を買ってくるからさ。

だからお留守番ね」

「うん、ならお留守番する」

 戦力になるかどうかは別の問題として、すぐはしゃぐ

チビッコを連れて調査は出来ない。


「それじゃ、おねえちゃんにちょっと許可をもらって、

薬学の都市メディ・ミラに足を運ぶとするか」


王国を後ろ盾に、1つの組織として動き出したギルドのお話。

大冒険をするにもお金と権力とコネは大事です。

普通なら簡単に王族と接点など持てないので。

主人公達がこれから活動する足場を築いたエピソードでした。

激しい展開はありませんでしたが、ここが良かった悪かった

という感想がありましたら、コメントをどうぞお願いします。

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