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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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今後のギルドと方向性

 

 ギルドが国の公認になってから、半月が経った。


 公認の決定は王都民にも知らされ、それはすぐに

広まっていった。

 民には、王都防衛に力を貸してくれるという条件が

好評のようだ。


 平穏な生活に見えて、誰もが心のどこかで魔族の

侵攻に戦々恐々としている。

 か弱き自分達の剣となり、盾になってくれると、

数々の魔王クラスを封印してきた異界人が確約して

くれたのだから、それだけで信頼感は増すという

ものだ。


 公認の知らせは行商人や旅人、あるいは遠出した

プレイヤーによって各地にもたらされた。

 その成果もあって、『みんなの会』への加入者は

倍増し、既存の傘下ギルドや新たに加わった大小

ギルドを含め、総メンバー数は2500人を超えた。


 こちらの世界に来てしまった人数は定かではないが、

これは既にそこらのギルドとは桁違いになっている。

 この数字が連合へ向けての第1歩である事に間違い

ない。


 これは転送魔法陣と検索機能の一部復旧で、遠方から

一先ず王都に戻ってきて旧知の仲間と落ち合おうとする

プレイヤーが増え、そのまま加入希望というケースが

多かったせいもある。


 成り行きで入った者も確かに多かったが、最大手の

『みんなの会』と、ある意味騒動のほとぼりが冷めた

『冒険者達の集い』が連携しているとあって、安心感

から加入を決めた者が多かった。


 マキシが加入予定者に、定期的にローテーションで

街の守備隊として数日待機もあると伝えたが、異を

唱える者は少なかった。


 それ以前に魔族側に寝返った者の話を正直に伝え、

ライザロスの動向などから魔族の侵攻速度が増して

いる事は伝えてあったので、プレイヤーとして自覚を

持った者も多いようだった。


 当然、自由を愛し、好き勝手に冒険をしたいという

プレイヤーもいて、そういったタイプは加入見合わせ

という形になった。


 戦力は1人でも欲しいが、強制的に加入させるのでは

いくら連合と言えども意味合いが変わってくる。

 自由意志を尊重した上で、参加してくれるプレイヤーを

『みんなの会』では求めているのだ。



 冒険しようにも実力不足のビギナー、行く当てのない

ソロも噂を聞きつけて集まってきた。

 マキシは以前から計画していた戦力の底上げとして、

ビギナーの集中的レベルアップを打ち出した。


 トレーナーというレベル上げ専属で付きっ切りになる

ベテランを決め、経験値や職業熟練度などを効率的に

得られるポイントへと遠征する。


 全くのビギナーから、弱いセカンドキャラでログイン

してしまった中身はベテランの低レベルプレイヤーまで、

それぞれトレーナーが引率する形で育成の旅に出る。


 ここでユウキから意見が出た。

 この世界ではリアルに近い生態系があり、モンスターも

乱獲してしまえばその生息数は激減してしまうと言う。

 設定資料集を読み込んで覚えていた設定である。


 ゲームの設定そのままに世界の摂理が動いているため、

レベル上げはこの意見を取り入れる事となった。


 古戦場跡地や悪霊の森など、アンデッドが中心の場所、

あるいは魔法生物研究所内廃棄物処理場などの魔法で

作られた擬似生物を相手にしていくという方針だ。


 実際、これらはいくらでも湧いてくるタイプなので

レベル上げには打って付けだと言える。


 なお丸1日に亘って戦闘を続けるので消耗も大きい。

 体力が低く、精神に耐性の少ないビギナーでは尚更だ。

 少しでも気力体力を維持する為、持っていく食料も、

HPやMPに回復効果のあるものが選ばれた。


 ただただ苦しいだけの訓練には決してならないよう、

食事はブラッドが腕によりをかけたレシピとした。


 携帯性に優れ、本物の味を再現できるスープの素や

何種もの薬草を練り込みつつ絶妙な甘味と塩気で

味付けた固焼きパンは、モチベーションの維持にも

繋がるほど上出来だった。



 昔取った杵柄でトレーナーを引き受けたユウキは、

その日、すっかり日の落ちた王都に戻ってきた。


 転送魔法陣は日常的に使われるようになり、移動の

要として重宝している。

 これが無ければ、日帰りで遠方までレベル上げに

 行くなど無理だったのだ。


 ビギナーに、ドロップアイテムや消耗品の補充を

しているとチャットウインドウが開いた。

 ミナからだった。


(お疲れ様。これからちょっとした話があるの。

今から拠点まで来てくれる?)

「ああ。これから行くよ」


 定例の報告会だろうか。

 そうでなくても、似たようなものだろう。

 屋台から漂う、焼いた肉の香ばしい匂いに鼻を

くすぐられながら、ユウキは拠点へ向かった。



 いつものように拠点に行くと、会議室へ入る。

 既にメンバーは揃っていて、ミナとヨシュアと

マキシ、そして同盟・傘下ギルドの代表数名が

テーブルに座っていた。

 ユウキも軽く頭を下げ、適当な席に座る。


「では、今回の報告会を始めたいと思います」

 ミナが会の開始を宣言する。


「まずは僕から。大変喜ばしい報告が入って

きました」

 マキシが早速切り出す。


「ルージェタニアで募集した魔術師の1人を

連れて、ダンジョンに挑んでいたヨアンナ隊が

攻略に成功しました! 最深部の発信装置は

解除されたそうです」


 会場に、おおっと声が上がる。

 ユウキもヨアンナの名を聞き、思い出す。

 この世界に来た時、最初に話しかけたのが例の

ヨアンナ達のパーティーだ。


 あれからそれほど接点は無かったが、大勢の

加入者の中に彼女達はいた。

 メンバーは皆ベテランで、実力者である。

 迷宮に挑戦していくパーティーはそれなりに

いるものの、一時撤退を繰り返す隊も多く、

彼女達が頭1つ抜けた事になる。


「これで攻略に拍車が掛かれば幸いです」

 成功例は更なる多くの成功を生むだろう。

 初クリアは各々のパーティーに良い影響を

与えてくれるはずだ。


「こちらから良いかな?」

 魔術師ギルド・ソーサリー&ソーサリーの

マスター、カーライルが許可を求めた。

 青白い顔に目元のメイクが印象的な妖人だ。


「各地を渡り歩いて気になったんだが、最近、

邪教団の動きが活発になってるらしい」

「魔族崇拝者が集まってる、あれかい?」


 マスターアーチャーの異名を持つヴァリヨネフ

が確認するように聞いた。

 ベテランであれば邪教団が何なのか知っている。


 魔族を崇拝する者が作った教団であり、表立った

活動はせず、規模は正確には把握できていない。

 またプレイヤーのアサシンとは別に、暗殺者の

組織を抱えているという。

 様々な事件の裏に、その存在を見え隠れさせる

警戒すべき集団だ。


「その邪教団から差し向けられた暗殺者が暗躍

してる街があるらしい。詳しい事は分からないが

住人のうち何人かが手に掛かったとか」


「邪教団は魔族そのものと繋がっているとも言う。

尻尾を掴めるなら、その事件の解決にプレイヤーが

関わるのも良いと思うな」

 ヨシュアが言った。


 邪教団の信者は人知れず街中に紛れ込んでいる。

 その者が魔族の襲撃を手配しないとも限らない。

 チャンスがあれば、容赦なく潰しておくべきだ。



「状況を見て、近いうちにそちらに行ける人を

派遣しましょう。……派遣と言えば、お城から

またお声が掛かったの」

 そう言ってミナは、手紙を取り出した。


 テーブルの中央にスッと置く。

 手紙は既に中身を確認済みで、王家の紋章の形に

封蝋がされた跡がある。

 王家から送られてきた正式なものだろう。


「パーティーにご招待、だそうよ」

「パーティー?」

「パーティー」

 ミナとユウキの間で数回、鸚鵡返しの応酬となった。


「公認されたという事で、一応お披露目みたいな

ものなんでしょう。お世話になる相手に挨拶を

するには丁度良いんじゃないかしら」


 招待状を送られたのだから、断る事は出来まい。

 無下にすれば折角近付いた距離は離れ、王の心証も

悪くなるかもしれない。

 素直に招待されて、無難にこなすのが大人の対応だ。


「あの会議に出たメンバーは出席は必須なんですって。

そう言われたからにはオシャレして行かないとね」


 ミナは堅苦しく考えていないようだ。

 むしろ、他の繋がりも作れるチャンスだとでも

思っているのかもしれない。


 他にはこれという報告や議題はなく、パーティーの

日付けを確認すると、自然と会はお開きとなった。




 夜も更けて、ユウキは新しく建てられた別棟にいた。

 ここはギルドのメンバーなら自由に泊まれる簡易

ホテルのようなもので、ベッド・テーブルセット・

魔法石製のランプと、丁度ビジネスホテルくらいの

質素な作りだが休むのには過不足ない。


 仮にもギルド代表者の1人であるユウキには専用の

部屋が与えられていた。

 自宅は放置したままだし、拠点の近くで生活した方が

何かと便利だから最近はこのライフスタイルだ。



 パーティー用の正装を1着新調しておくようにって

言われたけど、どこで買ってくれば良いかな。

 ベッドに寝転がってそんな事を考えていると、勢い

良くドアが開いた。


「ユウキ、いっしょに寝よ」

 枕を持参したアプリコットだ。


「空いてる部屋で寝れば良いじゃないか」

「いっしょに寝たいから来たの」

 枕をぽーんとユウキの枕の隣に投げると、ぴょんと

アプリコットはジャンプしてベッドに飛び乗る。

 そして、


「ユウキ、ぎゅうー」

 仰向けのユウキにそのまま抱きついて来る。

 身長からして、小学生にじゃれ付かれているような

ものでユウキもそれほど動じない。


 このまま、出ていけと突っ返すのも可哀想なので、

よしよしと頭を撫でると一緒に寝る事にする。

 突然頬にキスされ、


「おやすみのチュー、ユウキもして」

 と言われたので、倣うように軽くやってみると、

嬉しそうに頭を胸にこすり付けてくる。

 なかなか可愛いものだとユウキは素直に思った。


 普段より少し早いが、ランプを消し、真っ暗な

部屋の中で背中を撫でてやる。

 そこでユウキはふと考えた。


「アプリコット。最近、もといた世界の事を

考える時間ってあるか?」

「あんまり考えない。もうよく覚えてないし」


「覚えてない?」

「覚えてなくはないけど。気にしなくなった。

ジュース飲んでお菓子食べてる今がしあわせ」


 自分の意識も変わってきている。

 ユウキはそう自覚し始めていた。


 最初はこの世界からの脱出を考えていた。

 だが今は、打倒魔族を何より最優先にして、

それに何の疑問も持たなくなってきている。


 自分がリアルの世界でどんな生活をしていたのか。

 向こうで心配されたり騒ぎになっているのでは

ないか、と考える時間が確実に減ってきている。


 これは、魔族と戦っているというキャラの設定が、

自分に馴染んできたというだけなのだろうか?

 それとも、もっと他の何かが。


 その不可解さをアプリコットの体温で誤魔化しながら、

ユウキはそのまま眠る事にした。



感想やリアクションがなく、そろそろ

潮時なのかなと悟る

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