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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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ルーゼニア国公認ギルド

 

「ユウキちゃん、よくやってくれたわ!」

 跳ね橋の前で待機していたミナは、謁見の結果を

聞いてユウキに抱き付いた。


 爆乳で胸を圧迫され、呼吸困難になりかけながら

ユウキは委細を伝える。


「で、公認は約束してもらえたけど、正式な会議で

ルールを決めたいって。後で使者が来るらしいよ。

代表者は皆で参加する事になるみたい」


「そうなの」

 ミナに動じる様子はない。

「そういう事もあるだろうと思って、もう草案は

練ってあるのよ。ふふ、作っておいて良かった」


 ミナはよほど上機嫌なのか、ユウキを抱き締めながら

頬にチュッチュッとキスをし始めた。

 この辺の愛情表現はアプリコットと変わらない。


 そんな彼女だが、先を見る確かな目線を持っている。

 1手、2手先を予想しながら行動できないようでは

大型ギルドを細部まで統べる事は難しい。


 それが出来る彼女だからこそ、プレイヤーの連合を

作ろうという発想が出てくるのだろう。

 連合をどう運営するか、既にヴィジョンはあるはずだ。


 ユウキは結局、それから1度も放してもらえずに

拠点にまで辿り着いた。




 謁見の翌朝。

 早速、国王からの使者がギルドの拠点を訪れた。

 午後にギルドの代表者5人ほどで登城するように、

との通達だ。


 メンバーはミナ、ヨシュア、ユウキ、マキシ、

それにアキノで行く事となった。

 アキノの人選は、彼女の一言によって王子レオンが

公認を推したように見えたからだ。


 ミナが普段着用しているグランドハイプリーストの

女性専用衣装、グランドハイプリーステスの僧衣は

立派な正装で、彼女はこれで出る事にした。


 ヨシュアの聖騎士の鎧も、式典にも出られるほどの

正装であり、彼もこれを選んだ。

 マキシ、ユウキ、アキノは例のローブで参加する。



 城に着くと、昨日とは別の部屋に通された。

 天井が高く、大きな窓には半分ほど赤いカーテンが

掛かっている。


 良く言えばゆったりした空間、悪く言えば無駄に

広いその部屋には長方形のテーブルがあり、一目で

ここが会議の場なのだと分かった。


 着席して待っていると、部屋の奥の扉からぞろぞろ

人が入ってくる。

 昨日の財務大臣、続いて国土管理大臣、外務大臣、

防衛大臣といった国政の要となる人物たち。


 続いてスマートなベスト姿のレオンが入ってくると、

最後に国王が入室した。

 この面子を揃えた事から、国側の真摯さが分かる。


 起立して恭しく彼等を出迎えたユウキ達に、国王は、

「うむ、そなたらがギルドの代表者か」

 初対面の3人は深くお辞儀をして名を名乗った。


「会議の主旨は分かっていると思う。公認はするが、

互いに求める物があろう。今日はその摺り合せを

行ってもらいたい」



 王国側とみんなの会のメンバーは向かい合って座り、

公認におけるルール決めを始めた。

 会議と言っても、自分の意見を押し通すために言葉を

ぶつけ合うような事にはならず、ほとんどギルド側の

言い分が認められていく。


 王国側が公認の意味を、ある種の同盟的な協力関係と

捉えてくれているようだ。

 みんなの会の打ち出した草案が、友好的なカラーを

前面に出して、受け入れやすい形で条件を出していた

のも効いているらしい。


 口先だけで後は適当に放っておかれる公認ではなく、

ギブアンドテイクとしての関係が構築されていく。

 それはギルドと国が密接になるという、ミナとマキシが

望んでいた当初の目標と合致した。


 痩身の外務大臣がサインされた証書を持ちながら、

「他国、特に親ルーゼニアの国で有力者や警察機構に

掛け合う時は外交官と変わらない権限を与えましょう。

緊急の要件ならすぐ取り次いでもらえるはずです」


 神出鬼没な魔族や最近凶暴化が著しいモンスターから

一般人を守るには、戦闘開始前に避難させなければ

ならない。

 それには、避難指示や誘導が出来る組織との連携が

必須となってくる。


「ありがとうございます。そういった権限があれば

異界人はよりスムーズに活動できます」

 ヨシュアが頭を下げた。


 他国で重要な施設に出入りしたり、今後起こりうる

市街地での魔族との衝突を想定すれば、発言力は

あるに越した事はないだろう。


 貴重な遺跡として国が管理し、盗掘を防ぐために

結界で封鎖されているダンジョンなどもある。

 もしそこを探索する必要が生じた時、許可を取る

のにも手順が短縮されるというわけだ。


「王国側としては、魔族の襲撃に備えて、ギルドに

王都の守備隊を結成してもらいたいのだが」

 軍備全般を管轄する防衛大臣の言葉だ。

 がっしりした体格で声も野太い。


「それはつまり、常時、規定の人数を王都に常駐して

欲しいという事でしょうか?」

 マキシが応じる。


「その通りだ。魔族に対して有効かつ、即応力の

ある戦力があれば国としても大いに助かる」

 襲撃での被害は防衛部隊の初動で変わる。

 並の兵士で対応するより、プレイヤーが壁として

立ち塞がればそこで食い止められる可能性は高い。


「分かりました。今は大半が冒険に出ていますが、

ローテーションで守備隊任務を課そうと思います」


「騎士団団長として、異界人との連携を考えたい。

共に訓練する機会が欲しい、どうか?」

「ではスケジュールを調整しておきます。精強な

騎士団と共に行動すれば、魔族の脅威をものとも

しない堅牢な守備が実現できましょう」


 答えながら、マキシはメンバーを想定する。

 守りに適した重装騎兵、狙撃で対応するアーチャー

や防御魔法の使い手などでシフトを組ませたい。

 騎士団や軍隊との連携を視野に入れ、互いの長所を

生かせる編制が鍵となる。



「突然現れた建造物などが、魔族の仕業だという話を

聞きましたが」

 グレーの髪と口髭、眼鏡をした物腰の柔らかそうな

国土管理大臣が何枚もの地図をテーブルに並べる。


「こちらも、国土管理局を使って出来るだけ調査を

しています。この地図で神鳴りの日以前との比較が

出来ると思います。無論、謎の建造物への立ち入りは

全面許可しますので是非攻略にお役立てください」


「ありがとうございます。活用させていただきます」

 ミナは地図を眺め、感謝の笑みを返した。


 国内のダンジョンを把握できるのは大きな1歩だ。

 国の公的な調査という名目でダンジョンに入れば、

近隣の住民からも情報が得やすいだろう。


「わしからの要望としては、まずヤシマへの海路を

確保してもらいたい。潮の流れは魔族の作る迷宮を

突破すれば元通りになるのであろう?」


 ヨシュアが受け答えた。

「迷宮の中に恐らく、妨害魔法を発信する装置が

あると思われます。それを止めるには特殊な解術を

会得した魔術師が必要です。現在、ルージェタニア

へ出向いた仲間にその募集を伝えたところです」


「そうか。転送魔法陣の完全なる復旧にも海路は

必須となろう。それに民の生活もかかっている。

海路が元通りになれば、国が所有する船を何隻か

ギルドにやろう」


 船を下賜(かし)するとは太っ腹である。

 RPGでは割とよく見かける展開ではあるが。

 これは気前の良さだけではなく、国王がそれだけ

異界人に期待している証拠だ。



 粛々と会議は進み、ほぼ全ての条件が決まった。

 互いの言い分が通り、公認の件は成功と言えた。


「これで公認の話は整ったわけだが。代表者の

ミナ、そなたはギルドをどうしたいと考える?」

 みんなの会代表のミナは一言求められると、


「まずは国王陛下の温かな御厚意に感謝させて

いただきます。これでギルドは躍進出来ます。

陛下のご質問にお答えします。私はギルドを、

魔族と戦う連合へと昇華させる事が目的です」


「連合か」

「はい。あらゆる垣根を越えて異界人が手を

取り合い、協力し、魔族に対抗する剣となり、

また力無き民を守る守護の盾となるために」


 ミナはユウキとヨシュアに目配せして、

「私の『みんなの会』を母体とし、かつて大きな

規模を誇り、理想と信念を抱え、大勢の異界人を

迎え入れていた『冒険者達の集い』を精神的支柱

として……魔族を打ち破るとここに宣言します」


 ミナは揺るがない眼差しで言い切った。

 普段の柔和な笑顔とは違う、毅然とした表情で。


 決して大声では無かったが、その発言の威力は

波のように部屋の隅々へと広がり、テーブルに座る

者達には空気が震えているとさえ思えたほどだ。

 それほど彼女の決意表明は強かった。


 よくぞ言った、と国王は頷いた。

「では今日ここから始めよう。我らとそなたらが

魔族打倒のため、互いに結び合い、手を取り合う

関係を」


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