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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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国王の信頼

 


「まずは礼を言おう。そなたらの働きにより、

ルイーザの死に隠されていた陰謀が明かされ、

そしてそれを企んだ悪辣な者供を捕らえる事が

出来た」


 ワイダルと手を組んでいた議員達は逃げ切った

かのように思われたが、王国側からも追及され、

何人かは逮捕と言う形になったらしい。

 ユウキは昨日、マキシからそう聞いた。


「ユウキと言ったな。わしはその潔い正義感に

心打たれた」

「いえ、当然の事をしたまでで」


「次にリュウド。手練れと言われていた真犯人を

よくぞ打ち破った。騎士団も賞賛しているぞ」

 レオン、と国王は鎧姿の男を呼んだ。

 それが王子の名前なのだろう。


 そのレオンが1歩、リュウドの前に歩み出る。

「騎士団長のレオンだ。臆する事無く、真っ向から

果敢に斬り合ったその姿勢、我ら騎士団も見習い

たいものだ。ルイーザも無念を晴らせた事だろう」


「有り難い御言葉。曲がった事は正さねばならぬと、

その己の信念に従ったまででございます」

 リュウドは腰を折り、礼を返した。


「アキノ。村では犯人の手下達と勇敢に戦い、負傷

したオーク達を手当てし、また2人をよく支えたと

聞いている。立派であったぞ」


「異界人の力を人助けに使え、私も本望です」

 弱きを助け、強きを挫く──勇者や英雄と呼ばれる

異界人の有るべき姿だろう。



「今回の事件の事後処理において、オークの村から

大量に埋蔵されていた魔法石が見つかった。これも

そなたらの手柄だ」

 国王は、大臣ハックマンと中年の男を呼んだ。


 ユウキ達は今は知らないが、財務大臣であるらしい。

 国土や軍備など他の重要なポストにも関わっていて、

強い影響力を持っている男のようだ。


 大臣は1つ咳払いをする。

「この国にとって大量の魔法石は宝そのもの。村長が

望んでいる福祉事業などにも追加予算が組めますし、

魔法石を武具や結界に活用する事で、魔族への備えも

高められますな。いやいや、本当にありがたい」


 ユウキ達が事件を解決した事で、それは回り回って、

大きな国益となったようだ。


「わしはこの大手柄に報いたいと思う。望みの褒美を

申すが良い。相応のゴールドか? それとも王国が

保存している、世にも珍しい武器防具を望むか?」


 ここが切り出すタイミングだな。

 ユウキはあえて落ち着いた表情を作り、

「いえ、金銭も武具も望みません」


「褒美はいらぬと申すか?」

「いいえ。それ以外で陛下にお願いがあるのです」

「ほう。申してみよ」


 はい、とユウキは頭を下げる。

「我々のギルドを陛下に公認して頂きたいのです」

「わしに公認とな? 異界人が各々で組織を作って

活動しているのは知っているが」


「はい。異界人は大小のコミュニティを作り、行動

しています。ですが規模はそれなりにあるものの、

我々には肩書きがありません。日夜モンスターと戦い、

魔族とも各地で死闘を繰り広げておりますが、その

実態は街から街へと渡り歩く流浪の旅人やジプシーと

何ら変わらないのです」


「ふむ」

 国王は顎を撫でた。

 プレイヤーは特定の街を集合場所にしたり、居住区に

家を持つ者もいるが、基本的に定住者ではない。

 英雄と呼ばれているが、これという特権は無いのだ。


「地位と栄誉の証明に、公認を求めるか」

「それもあります。公認を頂ければギルドに加わる者は

今よりも増え、団結力も増す事でしょう。また、国外で

魔族の襲撃に遭遇した際など、その国の有力者に急を

要する協力を頼みたい時、陛下が公認した者であれば

意思疎通も円滑に行えるはずです」



「つまり、公認によりそれなりの権限が得たいと」

「はい。恐れ多くも、その通りにございます」

 国王は再び顎に手をやり、髭を撫でる。


「こういった申し出は初めてだ。長年に亘り、わしは

異界人を見てきた。頼みを聞いてもらい、褒美を出した

事も幾度と無くある。しかし、公認が欲しいなどという

願いは1度として無かった」


 公認を得た先に何を見据えているのだ?

 そう国王は率直に聞いた。

 ユウキも真摯に答える。


「巷で神鳴りの日と呼ばれる怪異が起き、あの日から

我々異界人に備わっていた遠方の仲間を探し出す能力、

距離を隔てて会話をする力が弱まってしまいました」


「なにやら王都の内外で異変が起きたらしく、何日か

慌しかったが、そなたらにもそのような事が」


 異変が起こったのです、とアキノが言った。

「時を同じくして転送魔法陣の停止、海流の異常。

そして突如、謎の建造物が多数出現しました」


「それについては逐次報告を受けておる。漁師町では

不漁が続き、交易の拠点であるカーベインでは海運に

支障が出ていると」


「それらは私供(わたくしども)の行動を抑え込もうと、魔族が行った

妨害のようなのです」

「なんと魔族!? そなたらは既に突き止めたのか」


「陛下、宜しいでしょうか?」

 大臣が突然、国王に発言の許可を取った。

 魔族、というキーワードに過敏に反応したように。


「彼等の日々の功績は目覚しく、今回も素晴らしい

働きをしました。ですが、だからと言って容易く公認

していいものかどうか」

 伺いを立てると、大臣はユウキ達に向き直る。


「公認とは国王の名、そしてルーゼニアの名を背負って

行動するも同じ。他国へ出向いた際にはこの国の代表と

言っても過言ではないのです。当然、責任ある行動が

求められる。特に、か弱い民を傷付けるような真似など

以っての外」


 ユウキ達は、大臣が何を言いたいのか察した。

 必ず突っ込まれると思っていた、あれだ。


「いいですか? 城内にも例の噂は届いているのです。

異界人の中から、魔族に寝返った者がいるという噂が。

その者達は魔族と共に村を焼き、住人を虐殺したと」


「……そなたらも、知ってはいるであろう?」

「はい」

 知っている範囲で正直に述べよ。

 国王がそう言い、続けて、


「そなたらの見解を聞きたい。噂は、誠であるか?」

「……認めたくありませんでしたが、本当の事です」

「実際に見聞きしたかのようだな。して、その根拠は?」


「はい。1度、寝返った者に敵として遭遇し、仲間が

刃を交えました。彼等は魔族から力を与えられ、もう、

完全に禍々しい者達の軍門に下っています」


 むうぅ、と国王が唸った。

 レオンとハックマン、彼等のそばやユウキ達の後ろに

控えていた衛兵達も声を上げる。


「だからこそ公認していただき、今こそ我々が1つに

団結しなければならないのです」

「その意気は分かるが」


 国王は明確な返答を渋る。

 身内から裏切り者を出した集団が、公認を頼むのは

相当図々しいだろう。

 ユウキもそれは自覚している。


 国王からすれば、任命責任もある。

 権限を与えた途端、異界人が暴走して各国でトラブル

を起こし、火種を撒き散らすしたりしたらどうなるか。

 魔族には当然注意すべきだが、国際問題も厄介。


 なので、大臣のように進言する者がいるのも当然だ。

 話を打ち切られたら、恐らく公認の機会は消失する。

 リュウドが取り付くように言った。


「寝返ったのは元々邪まな心を持っていたごく一部の

者達。我々が寝返った者を打ち破るためにも、公認を

して頂き、より強い組織力を持たねばなりません」


 自分達は良心があり、裏切った者達は悪者だった。

 単純な図式にすればそれで済むが、説得力に欠ける。

 国王が認めるだけのアピールをしなければ。


 ユウキは言う。

「陛下。我々はカーベインで、魔族が妨害していると

いう手掛かりを数日前に掴み、現状を打開するため、

その原因になっているとされるダンジョンを攻略して

きたのです」


「むう。既に対策を立て、行動に移していたとは」

 感心する国王に、ユウキは双角の塔で起きた出来事を

語りだした。


 カーベインの沖にある島に、突然塔が現れたこと。

 街の者が魔術師と調査した結果、そこから妨害の術が

発せられていること。

 攻略を目指すある商人の(もと)に集い、島へと渡ったこと。


「我々は次々湧き出てくる亡者を退け、凶暴な腐敗竜

ドラゴンゾンビを打ち破りました」

 これには国王も表情を歪めた。

 レオンも眉を寄せ、大臣は、ううっと声を出した。

 ドラゴンゾンビは誰もが(おのの)く醜悪なモンスターだ。


「ドラゴンゾンビ!? そのような凶悪なモンスターが、

商人が行き交う交易都市の、すぐ近くにいたと!?」

「はい。苦戦しましたが仲間と協力して撃滅しました」

 (おご)らずに真実を語ると、ユウキは懐に手を入れ、


「これがその件についての感謝状です。陛下、どうぞ

ご確認下さい」

 彼は国王の前に(ひざまず)き、数通の手紙を渡した。


「うむ。おお、これはカーベインの商人衆のもの。海運が

正常化し、海路上の安全を取り戻せたと。商船護衛隊の

総司令官と近隣の漁村からも感謝状をもらったのか」


 これがヨシュア達のパーティーに、カーベインまで

行って、貰って来てもらったものである。

 仕込みや捏造された手紙ではない。

 誰もが認める、確かな功績があったという証拠だ。


「昨日から転送魔法陣が一部復旧したのも、その塔の

攻略が上手くいったからなんです」

 アキノが援護した。


 国王は魔法陣の機能が戻りつつあるという報告を

受けていた。

 転送魔法陣はプレイヤーが使うだけでなく、王族が

外交などの公務に使用する事も多々あるのだ。


「……そなたらが前向きである事は重々分かった。

それは評価しよう。しかし、魔族の手がすぐ近くにまで

迫っていたとは」


「陛下はご存知かと思われますが、魔族の侵攻が

厳しくなったライザロス帝国は、オルテックから

マシンを輸入し、軍備を高めているそうです」


「そう聞いておる。あの軍事国家のライザロスが

更なる武力強化をしなければならんとは」

不安の色を滲ませる国王に、大臣も同調した。


「ライザロスは軍事費を数割増しにしているとか。

あの守りを突破される危険は無いとは思われますが、

魔族は神出鬼没。最早、他人事ではありませんぞ」


「もしルーゼニアに魔族の軍勢が押し寄せるような

危機があれば、我々ギルドが率先して守りましょう」

 顔をしかめる2人にユウキが言った。


 公認とは国とギルドの距離をより近付けるもの。

 密接な関係となり、民を守る選択肢の1つとして、

公認はありなのだと国王に分かってもらわなくては。

 しかし国王は、


「ルーゼニアには自慢の騎士団と攻撃魔術師隊を含む、

精鋭揃いの軍隊がある。いかに攻められようと守りは

万全のはずだ」


 そう言った国王の顔がすぐに曇った。

 アキノが間髪入れずに否定、反論したのだ。


「大変なご無礼と承知で申し上げます。魔族の軍勢が

押し寄せてしまったら、たとえ精強な騎士団の力でも

食い止める事は困難ではないかと」


 これに大臣が、少々ではあるが声を荒げた。

「異界人の、数多の魔族と戦ってきた実力は認めるが。

騎士団団長であり、我が国の第一王子であらせられる

レオン様がいる前で、その発言はあまりにも無礼っ」


 だがアキノの発言を、レオン本人がフォローした。

「騎士団長の俺の前でも臆せずに自ら意見するとは、

随分と(したた)かではないか。肝も据わっているようだ。

アキノ、と言ったな」


「はい。出過ぎた無礼な発言、謝ります」

「ははっよいのだ。それが経験を積んだ異界人の率直な

予想なのだろうからな。悔しいが、認めねばなるまい」


「はい。ありがとうございます」

「うん。その正直な物の言い方と、見た目に寄らぬ胆力。

気に入ったぞ」

「えっ」


 父上、とレオンがガチャリと鎧を鳴らし、王座の父と

目を合わせた。


「公認、認めてやるべきだと思います。異界人は魔族に

対抗するための(かなめ)。それに高度に組織化された異界人の

拠点が王国にあるというだけで、牙を剥いて侵攻を狙う

魔族への牽制になりましょう。万が一、襲撃された際も、

これだけ心強い味方は他におりますまい」


「レオン、お前は公認を推すのだな」

「彼等からは、実にポジティブな意思が感じられます。

商人衆から感謝状を渡されたのも、善意を持って行動

している証。これは、悪意を持って寝返った者達とは

正反対の性質と言えましょう。彼等と彼等のギルドが

十分信用に足る物であると考えて良いはずです」


「うむ。大臣はどうか?」

「はっ。レオン様がそこまで信頼していらっしゃるの

なら、私も今後の異界人の動向を信用いたしましょう。

彼等に依存してはいけませんが、力を持つ異界人が

我が国を中心に活動する事は、安寧の日々を願う民に

とっても大きな意味を持つ事になりましょう」


 国王リカールは腕組みをし、深く逡巡する。

 眉間にシワを寄せ、穴が開くほど一点を睨み、そして、

「今回の謁見はここまでとする」

 とユウキ達に告げた。


「あ、あの、国王陛下」

 席を立つ国王を呼び止めようとすると、

「後で使者を送る。次はそなたらのギルドの代表者達を

全て呼ばねばなるまい」


「え?」

「望み通り、国王であるわしがギルドを公認しよう。

そのために、謁見ではなく、正規の会議の場でルールを

決めねばな」



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