表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
82/173

謁見に向けて

 

 謁見の打ち合わせとギルドでの今後の役割を

決めると、お茶会と称された事実上の会議は

終了した。


「ユウキ君、僕等が引き受けた役目は必ず

こなしてくるよ」

「すみません、遠出を頼んじゃって」

「大丈夫だよ。そのための転送魔法陣だ」


 ヨシュアのパーティーは部屋を出て行った。

 謁見の場で、ユウキ達が行った善意ある行動を

示すため、彼等は向かう場所が出来たのだ。


 マキシも席を立つ。

「ユウキさんが街に戻ったと知らせるため、

僕は城へ行きます。準備諸々を考慮して、

使者に謁見は後日に、とお願いしてきます。

さすがに今すぐ来いとはならないでしょう」


 正式な場に出て、その上で公認の話をする

のだからそれなりに準備は必要となる。

 滅多にない機会だからこそミスは出来ない。


「あたしらはこれといってやる事もねえから

この拠点の中を少しぶらつくか。泊まって

良いなら、宿代も浮くし」


 また何かあったらな、とラリィはユウキに

言って部屋を出て行く。

 アルスとベガも一礼して、後に続いた。


「さて、ユウキちゃん達は衣装合わせを

しましょう」

「やっぱり正装じゃないとダメだよね」

「そうよ、さすがにそれで謁見はまずい

でしょう」


 ユウキ達の服装は、プレイヤーの身なり

としては何らおかしくない。

 だがこれから行うのは国王との謁見である。


 プレイヤーの装備は、言うなれば冒険を

する為の実用的なユニフォーム。

 伝説の装備や魔力を秘めていると言っても、

それは仕事着である事には変わりない。


 軍服とも違い、リアルの世界で例えるなら、

現場仕事で泥だらけになる作業着と同じ。

 それでは謁見は無理というものだ。



「袖を通してみて。サイズ合ってるでしょ?」

 ユウキ達は衣装室に連れて行かれた。

 こういう場合を考え、空き部屋2つを更衣用に

改装しておいたらしい。


 それぞれの部屋で着替えるのはユウキとアキノ。

 リュウドは、正装は自前の物がある、と言って

服の提供を断った。


 着替え終えたユウキは、ミナとリュウドが待つ

部屋へと戻った。

 スーツをゆったりめにしたような上品なローブ。

 これがこの世界での一般的な礼服であるようだ。


「サイズ、計ったようにぴったりだ」

「ユウキちゃんに抱き付いた時の感覚で寸法を

頼んでおいたのよ」

 ミナの両腕は仕立て屋のメジャー並に正確らしい。


「割と普通の格好で良かったよ」

「普通?」

「いや、フェリーチャが凄い格好してたからさ」


 彼は豪商特有の奇抜なファッションを思い出す。

 もしあんな格好で謁見に臨んだら、不敬な輩だと

して近衛兵に斬られても文句は言えない。


「お待たせ」

 続いて、アキノが着替えを終えた。

 清楚な白いローブで、腰に薄いピンクのサッシュが

巻かれている。

 これも女性用としては平均的な礼服だ。


「どうかな?」

 アキノは、いの一番にユウキに感想を求める。


「良いんじゃないかな。ビシッとしすぎてないし。

うん、よく似合ってる。俺は凄く綺麗だと思うよ。

これなら謁見も安心して行けそうだ」


 本当に単なる感想なのだが、思わせぶりな発言を

してしまうのはユウキの元からの性格なのだ。


 ミナがリュウドに耳打ちした。

「ユウキちゃんって意外と、ああいう事を平然と

女の子に言えるタイプなのね」

「本人に深い意味は無いのだろう。分かってて

言っているとすれば、奴にはたらしの才能がある」



 また元の服装に着替えると、4人は完成したての

別棟へと足を運んだ。

 これからプレイヤーの本拠地となるかもしれない

施設なのだから、一目見ておくためだ。


 拠点から200メートルほど歩いた所に建つそれは、

3階建てで丁度学校の校舎のようである。

 簡素だが居住性を高めてあり、ホテルのようだとも

言い表せるだろう。


「また立派なものを作ったもんだなあ」

「ここで十分休んで、ここから冒険に出る。そういう

コンセプトで頼んでみたの。休むための部屋だけじゃ

なくて、地下に大浴場もあるの」


 本当に旅館のようだ。

 生傷と疲労の絶えないプレイヤーにとって、体を

清潔に保ち、芯から温める入浴の意味合いは大きい。


 それに日本サーバー出身の者は、シャワーよりも

風呂を好む者が多い。

 冒険で磨り減った心身を回復させるには、最上級の

設備だろう。


「おねえちゃん、本格的にこの拠点をプレイヤーの

集合場所にするつもりなんだね」

「そうよ。どれだけお金を投げ打っても、皆が

戦いに備えられる場所作りをしないと。それは

必ず、必ず必要になるはずだから」


 ミナは並々ならぬ意気を見せる。

 それは大型ギルドを率いるリーダーの使命感か。

 あるいは魔族に敢然と立ち向かう闘志の表れか。


「おっきいお風呂あるなら、ユウキといっしょに

はいる」

 突然、どこからともなく現れたアプリコットが

ユウキに飛び付いた。


「別々に入らないと怒られちゃうよ。ねえ?」

 混浴じゃあるまいし、とミナに振るが、


「確かにそうだけど。ユウキちゃん、良ければ

おねえちゃんとも一緒に入る?」

 などと言って、ピタッと体を付けて来る。


「またそういう冗談を」

「んー? これからギルドを共同で運営していく

仲なんだから、親交を深める為に裸の付き合いが

あっても良いのよ? むしろほら、スキンシップ

する事でより密接な意思疎通ができちゃうかも」


 ミナとアプリコットにサンドイッチにされた

ユウキは、

「いやぁそこまで言われたらなあ」

 と満更でもない顔になったが、アキノがまるで

重度の眼精疲労を抱えているかのような目付きを

していたので、遠慮した。


「ユウキさん、報告に行ってきましたよ」

 入浴の辞退を申し出たところに、マキシが現れた。

 城が目と鼻の先とは言え、戻るのがかなり早い。

 余分や不手際なく、スマートに用件を済ませたの

だろう。


「それで、謁見の話は、日程とかどういう感じ?」

「今日は、国王は公務の都合で時間が取れないと。

日々多忙で都合の良い時間が限られているという

事なので、提案された時間で了解してきました」


「いつから?」

 ユウキが聞くとマキシは、

「謁見は明日の昼間に決まりました」

 淡々と言い、眼鏡の位置を直した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ