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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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悪意と善意

 

「戦う──そのための組織か」

 アベルが言った。

 ギルドは戦うためだけに作るものではない。

 それをあえて戦いに限定しようと言うのだ。


「そう、魔族と戦うために結集するの」

 ミナの瞳が並々ならぬ意欲を発している。

 リーダーシップを発揮する者の目だ。


「ユウキちゃん達が旅立ってすぐ、魔族の

様子が気になってこちらで情報を集めたの」

 ミナがマキシに目配せする。

 彼はそれに応じた。


「主に商人から伝わってきた話なのですが。

魔族によるライザロスへの侵攻が以前よりも

厳しくなっているようで。その影響なのか、

モンスターが増え、魔族に感化されている

らしく、凶暴化しているものも多いようです」


 殺戮で壊滅した村の情報も商人経由だった。

 行商人の噂話の信憑性は高いだろう。

 フェリーチャもそのネットワークで情報を

入手していた。


「遠出から帰ったメンバーの話では、各地で

プレイヤーがモンスターに対応はしているが、

結果はまちまちで倒されない事もあるそうで」


 何とどう戦うかは、パーティーのリーダーが

決める。

 率先して撃破しようと思わなければ、あまり

関わらずに素通りする事もあるだろう。


「僕は転送魔法陣や検索の機能停止は、魔族の

手による妨害なのではないか、と仮説を立てて

いました。それを塔の攻略に当たって下さった

皆さんが証明してくれたのです」


「魔族はこちらの分断を進めているわけだな」

 リュウドが下唇の辺りを噛む。


「魔族を倒す為に異界人が現れた。それがこの

ゲームの基本設定なんだから、そりゃあ敵側も

俺達が集まらないようにするよ」

 ユウキが言った。


「魔族はプレイヤーを危険視している、という

事ですね?」

 アルスの確認を、リーリンが受け取った。


「そりゃそうよ。短期的な封印、ってな理屈に

なってるけど、プレイヤーがどれだけ魔族側の

ボスクラスを倒してきたか」


 バージョンアップの度に高難度ダンジョンが

追加され、その最後にはバージョン最強という

触れ込みの魔族がボスとして登場する。


 苦難の末、毎回そのボスは倒される訳だから、

魔族としては逆恨みも溜まりに溜まっている

はずだ。


「魔族がこちらの力を分断するために妨害を

仕掛けているなら、直接殺しにくる可能性も

出てくると私は思っているの」

 ミナが警戒心の面持ちを作るが、くろうは、


「プレイヤーは死なないだろ? 死んだって

多少レベルが下がった状態で蘇生するってん

なら、殺しに来たってこわかねえさ」


「現段階では、そう。でも、何をされたら

蘇生しない、というサンプルはまだ無いの。

もしも、プレイヤーを完全に殺し切る魔術を

魔族が使えるとしたら?」


 1つの可能性の話だ。

 しかし、そういった死に至らしめる魔法や

特殊技が存在しないとは言い切れない。


「俺はおねえちゃんの想定はありうると思う。

ソウルユーザーの技で魔族が使う術を幾つか

覚えてるけど、どれも魂の根源を侵すような、

自分でも使いたくないおぞましい物ばかりだ」


 即死技や発狂しかねないほどの恐怖を精神に

刻む技、対象の生命力を丸々吸収する技など、

挙げれば切りがないくらいにどれも凶悪だ。


「プレイヤーは不死身なだけで、1度死んだら

しばらく戦線離脱を余儀なくされるって話を、

私聞いた事があるわ」

 カーベインへの途中、立ち寄った町でアキノが

耳にした話だ。


 戦いで痛みには慣れているが、死んだ瞬間に

味わった痛みや恐怖は強く心身に刻まれる。

 それが一種のトラウマや心的障害となるようだ。


 復活しても数日は塞ぎ込んでいるのがざらで、

個人差はあるだろうが2度と戦えなくなる者も

出てくるかもしれない。


「どんな手を使ってくるか分からない魔族に、

プレイヤーがなるべく戦死者を出さないように

対抗していくには、戦力の集中と分散、情報の

共有がスムーズな連合を組むべきなの」


 そこで話は最初の『公認』へと戻る。

「俗な言い方だけど、国王に公認されればギルドには

名実共に(はく)が付くの。それは重要なポイントになると

私は考えてる」


 中小のギルドが機能しづらくなっている中、公認が

話題になって広まれば、プレイヤーが集まってくる。

 メンバーは増やせるし、一般人からの信頼も得られ、

デメリットは無い。


「私は、ギルドの名前を上げたいわけじゃないの。

実際の話、ギルドはこの世界の国に対して何の権限も

持っていない。発言力や影響力が薄いのよ」


 設定上、神官はクラルヴァイン、魔術師はルージェタニア、

聖騎士は聖座十字会、といったように所属している所から

それなりの格を承認されているが、それはあくまで設定上。

 強い発言力には繋がらない。


「でも公認の肩書きがつけば、他国で活動する時にも

そちらの有力者に協力を頼めるし。名ばかりの英雄や

勇者ではなくて、細かい対応を国にお願いする事も

きっと可能になるはずよ」


 ミナの構想をごく簡単に説明するとこうだ。

 権力と結び付き、公認を得て、ギルドの知名度と信頼度を

上げ、メンバーを増やす。


 暮らしていく上でのルールを決める事で、プレイヤーの

一般人への犯罪も減らしていけるはず。

 その上でプレイヤーを各地に展開していく。

 魔族と戦うために。


 強大な規模を誇る敵と渡り合うために、こちらも進化する

ように大きくならなければならない。

 ギルド同士は元々繋がりがあったが、それはお互いの

連絡が取りやすい、くらいのものだった。


 それを更に円滑に出来るよう、世界中にある大小問わず

幾つものギルドから、ギルドという(くく)りを取っ払って、

1つに束ねるのが彼女の考える連合システムだ。


「発言力を持たせたくねえ奴もいるんじゃねえか?」

 物足りなそうにお茶を飲んでいたラリィが言った。

 そこに言い添えるように、リュウドが継いだ。


「強力な力を持っていても、今までこれという権限が

無かったから私達は許されていた、とは言えないか? 

だが力に発言力が加わるとなると、脅威を感じる者が

増えるのではないだろうか?」


 確かに増えるでしょうね、とミナは即答した。

「政治への介入、もっと極端に言えばクーデターを

企んでいる、なんて疑いを掛けられるかもしれない」

 彼女はこれから起こる現実を受け止めている。


 クーデター、武力による政権奪取は十分可能だ。

 現在この部屋にいるプレイヤー達がその気になれば、

ルーゼニア城を落とす事もさほど難しくはない。


 彼等には、プレイヤーには出来てしまう。

 だからこそ、それを否定しても、もしかしたらと

不安がる者が出てきてしまうのだ。



「国王の側近や大臣には、魔族と戦うプレイヤーを

高く評価する一方、全面的には信用していない者も

いるそうなんです」


「そうなんだ? そりゃまずいじゃないか」

 謁見で公認を頼んでこいと言われたが、ユウキは

こんな話は初耳だった。


「ええ。公認を申し出ても、良い顔はされない

でしょう。それに、魔族に寝返った者がいると

いう話は既に知られているはず。そこを確実に

突いてこられる事を踏まえた上で、僕は彼等に

対する釈明文などを考えていたのですが」


「私たちは、わるもんじゃないよ」

 プリン・アラモードをパクパクと食べていた

アプリコットが唐突に言った。


「私たちが良いもんだって、ちゃんと言えば

王様は分かってくれるよ。だって、お礼を

言うためにユウキを呼んでくれる王様だもん」


 彼女は話を聞いていたらしい。

 真摯に伝えれば通じる、と言いたいのだろう。

 更に付け加えるかと思われたが、アプリコットは

バタークッキーをサクサクと食べ始めた。


「信用されて無いなら、逆を言えば、その側近

だが大臣を黙らせるくらいアピールが出来れば

良いわけだよな」

 ユウキはシンプルな結論に到達したようだ。


「俺達は絶対に裏切らない、国や民を魔族から

守るためにも俺達異界人の力は必要なんだって

伝えられれば、公認してくれるはずさ」


「具体的にどう伝えます? ただ自分達は安全

だと口に出しただけでは、どうせ口先だけだと

取りつく島も与えられない可能性も」


「口先だけじゃないよ。寝返った奴等が悪意で

敵対を示したのなら、俺達は善意の確証となる

ものを示せば良いんだ」



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