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冒険者達の集い  作者: イトー
始まり
8/173

オークの村の村長

 

「おめえさん達、あのビッグボアを仕留めただか」

 戦闘終結の場へ駆け付けたオークは、巨体に折られた木々や足跡を見て、そう察したようだった。


 オークと言うと腰巻きだけの姿を思い浮かべるが、村民のオークは恐らく自分達で作ったと思われる布と獣皮のシャツを着ている。


 文化なのか人間と共存しようとする配慮からなのかは分からない。


「平気か、怪我ぁねえか?」

 強面だが、心優しいようだ。訛りが何とも親しみ深い。

 ユウキとアキノは、大丈夫、と立ち上がった。


 リュウドが浴びた返り血はほとんど消えかかっていた。

 モンスターが消えるのと一緒に消えてしまうのだろうか。


「てぇしたもんだ、やっぱ異界人はつえんだな。ところで、こんな所まで何しにきただ? 薬草摘みか?」

「いや、俺達は王立警察の代理で来たんです」

 ユウキは刑事ドラマで見掛ける仕草で、手帳を見せた。


「異界人が代理……? 騎士様が殺された事か?」

 にこやかだったオークの眉間にしわが寄る。


「ここでの事件について事情を聞いてきてくれと頼まれ、うわっ」

 オークが人の倍はありそうな太い指でユウキの両肩をグイッと掴んだ。


「なあ、連れて行かれた村のもんはいつ戻ってくるんだ、あいつらはそんな事するような奴じゃねえ」


 穏やかな性格なのだろうが、興奮するとやはり顔が怖い。

 落ち着いてくれ、とリュウドが掌を前に制止した。


「私達に頼んだ者は、オークの仕業では無いと思っている。それをより確かなものとする為、こうして直接話を聞きに来たのだ」


 オークはそれを聞くと自重するように落ち着きを取り戻し、

「分かった、難しい事は分かんねえけど……村ぁ来てくれ」

 3人を先導し始めた。


 そのオーク(ドンズと言うらしい)に案内されて着いたオークの村は、森を切り開いて作られた何とも牧歌的な村だった。


 住居は煙突のあるログハウス風で、ゆったりした間隔で30軒ほど建っている。


 木の柵で区切られた畑では農作物が育てられていて、今はちょうどトマトのような実が生っている。

 家畜として牛や鶏を飼っている家もあるようだ。


 村の横を流れる小川は、生活用水や農作業にも使われているのだろう。


 村民はオークだが、ユウキはこののどかな風景と、祖父母が住む田舎の原風景をダブらせていた。

 こんな穏やかな村のすぐそばで、悲惨な殺人事件が起きたのだ。


 村長宅に案内したドンズが村長の奥さんらしいオークに経緯を話すと、3人はリビングで待つように言われた。


 オークは不衛生だというイメージがあるが、小奇麗にされている。


 木で作られた、人間には少し大きめのテーブルセットがあり、3人は椅子に腰掛けた。


 床にはワイルドボアの毛皮が敷かれ、壁には鹿と似た角、キャビネットには民芸品のような木彫りの置き物がある。


 ゲームで見た内装と同じだ、とユウキが見回していると、先ほど見た奥さんらしきオークが木製カップを載せたトレイを持ってきた。


「もう少しで来ますんでね、どうぞ」

 湯気の立つカップが置かれた。中には深緑色の液体が入っている。


「あ、深緑のハーブの香り」

 採取スキルの為か、アキノは材料が分かるくらい鼻が利くようだ。

 ユウキも香りで、これが植物を煎じたお茶なのだと分かる。


 恐る恐る啜ってみると、風味に少し独特のクセはあるが苦味が少なくて飲みやすかった。


 奥さんが部屋を出ると、入れ替わりで別のオークが入ってきた。


 布の服に獣皮のベスト。

 しわが深く刻まれ、若干緑の肌が黒っぽい。

 顎には貫禄のあるヒゲがあり、一目で村長なのだと予想できた。


 オークは村長のゴッドンと名乗った、ユウキ達もそれぞれ自己紹介する。


「まず、何から話したら良いんかね」

「そうですね、見たり聞いたりした事をそのまま話してもらえれば」

 ユウキは何だか刑事ドラマの登場人物になったような気分だった。


 ゴッドンは頷く。

「騎士様の遺体を見つけたんはダンギっちゅう若いのと、それと一緒に出かけてた2人です」

 警察署を出る時にユウキがリンディから教えられた被疑者の名だ。


「出かけていたとは、どこにですか?」

「柴刈りに行っとったそうです。その帰り、森に騎士様の馬がいたと。あんた方がビッグボアを仕留めた森より、少し離れた所だろうなあ。そばに行ってみると騎士様が血だらけで倒れていて、慌てたダンギ達は介抱しようと抱え上げて村まで運ぼうとしたんだと。けどちょうどそん時、遠くから別の騎士様が馬で駆けて来て、お前達なにをしているのだと」

 怒鳴り付けられたんだってよぉ、と村長は結んだ。


 その騎士は、3人を王都へと連行した騎士見習いの事だろう。


「血ぃ付いた斧を腰に提げてから疑われたんだろうなあ」

「え、血の付いた?」

 変な意味じゃねえ、と村長を手を振る。


「ダンギは腕っ節が強くて、柴刈りに出てワイルドボアに襲われると、返り討ちにして土産代わりに持って帰ってくるんだ。ありゃあ鍋にも燻製にも出来て、毛皮も取れるから」


 衣服に使われている獣皮や敷き物等から見て、ワイルドボアはオークの生活に大変役立っているのだろう。


「一旦村に来て、今みたいにその騎士様に事情は話したんだけども、斧とか運ぶ時に付いた血を見て、怪しいから連れて行くと」


 ユウキは騎士見習いの気持ちが何となく分かる気がする。


 ルイーザは人気があり、多くの者から慕われていたのだ。

 変わり果てた無残な姿になり、そばに血の付いた刃物を持つオーク達がいれば、冷静に努めようとしても疑念や怒りで溢れ返ってしまうだろう。


「ダンギは、少し前に村に来た人と揉めて突き飛ばしちまってな。それで、被害届けって言うのかね、それが出てたもんで、余計に殺したと疑われちまったみてえで」


「人? この村にわざわざ人が来たのか?」

 腕組みして聞いていたリュウドが口を開いた。

「採掘会社の人だ」

「採掘会社?」


「んだ、ちょっと前にゲザン鉱業って採掘会社の社員が急に現れてな。調査でこの村の下にベタン鉱石の鉱脈が見つかった、立ち退き料を払うから土地を売ってくれってぇ話さ」


 ベタン鉱石は精製すると、鉄より強度は低いが安くて加工しやすい金属が出来る。


 この世界の鉱石や宝石は当然、地中にある。

 生活用品に使う安価な金属から、魔法の力を宿し、異界人の高価な装備品にも使われる希少な魔法石など、全ては採掘で掘り出した物だ。


「オラ達は住み慣れた土地を離れたくねえし、金の話はしたくねえが、払われる立ち退き料がよそで暮らすにはギリギリだったんだ」

「で、揉めたって事ですか?」


「最初はそんな事は無かった。けど来る度に何度も断ってたら、急に態度が悪くなって、柄の悪そうな連中も一緒に来るようになってなあ。ただのボディガードだとか説明してたけども」

「ようは、タチの悪い地上げ屋だな」

 とリュウドが吐き捨てる。


「オークは人より強いんだから、力ずくで追い返したらどうなの?」

 アキノが過激な事を言うが、一理ある。

 村長は首を横に振った。


「そうもいかね。確かにやろうと思えば出来なくねえが、オークはまだまだ人から避けられる事が多いんだ。ちょびっとでも強く出ると、乱暴者だとか、モンスターのくせにって酷い言われ様でなあ。血の気が多い奴もいる事はいるが、あまり人間とはカドを立てたくねんだよ」


 ゲームでは、人との共存を選んだオークは少数だとされている。


 一方で既存のオークは、凶暴なモンスターとして人を襲っている。

 その為、未だに理解されない部分が多々あるのだろう。


 王都の広場で見た騒ぎを見れば、慎重になろうとする村長の姿勢は尤もな物だと言える。


「ずっと気をつけてたんだが、連中に村の事をけなされて、とうとうダンギが採掘会社の社員を突き飛ばしちまった。尻餅を突いたくらいなんだが、暴力だ、王立裁判所に訴えるぞって騒ぎ出しちまって」

 その時の様子を思い出したのか、村長は片手を頭にやる。


「けど、そこに見回りに来ていた騎士様、ルイーザ様が止めに入ってくれたんだよ」

 ここでその名前が出てくるのか、とユウキは思った。

 少し冷めたお茶を1口啜り、また耳を傾ける。


「事情を話すと、連中は急に気まずそうな顔になって、ルイーザ様からの質問にはしどろもどろだった」

 そこで幾つか違反がバレたみてえだよ、と村長は顔をしかめた。


「なんでも、土地の持ち主に無断で調査したとか、調査の前にも後にもお役人に届けを出さなきゃいけねえとか、その届け出が出てねえのに掘る目的で土地を買おうとしてたとか、色々となあ」


「ちゃんとした手続きを踏んでなかったと?」

「なんか、そういう事だったみてえだ」

 そこでルイーザが1つ提案をしたのだと言う。


「ルイーザ様は、自分が正規の手続きと土地の調査を受け持つから、その後で売買の話を決めろと」

「それって、会社側の手助けにならない?」


「いやいや、オラ達の事を考えてくれたんだ。調査をすれば相場の立ち退き料も分かるっつうし、公になる取り引きだから、断ったのを力ずくで脅すような事があれば王立警察が動きやすいんだと」

 人間が出来ているな、とリュウドは呟く。


 ゲームで騎士の心構えを説くキャラだけあって、スジが通っている。

 だからこそ人望が厚いのだろう。それだけに失ったのが惜しい人物だ。


「調査の予定が決まったら伝えると言って、ルイーザ様は帰っていったんだ。あれが最後に見る姿とは、あの時は思わなかったなあ」

 村長のしょんぼりした顔に、場がしんみりした空気になる。


 ユウキがどんな言葉で切り上げようとかと考えていると、突然目の前にウインドウが展開した。


 リンディからのフレンドチャット用ウインドウだった。

 連絡が来た、と2人に告げてユウキは会話を開始する。


 ウインドウに文字が表示されると同時に、声が直接耳の奥に聞こえてくる。


(お疲れ様。今、どんな状況?)

「色々あったけど、村長さんから話が聞けた所だ」

 この様子は、携帯電話で通話している姿に似ている。

 しかし村長には、突然独り言を言い始めたようにしか見えない。


 不思議そうな顔をする村長に、アキノが仲間と連絡中だと伝えた。


「ああ、異界人はチャットっちゅう魔法で遠くと話せるってなあ」

 珍しい宝でも見るような顔の村長を前に、連絡は続く。


(ルイーザにそんな事があったなんてね。うん、ありがと。これから帰る所だろうけど、1度署まで来て。また分かった事があるから)

「ああ、分かった。それじゃ」

 会話が済んだと意識すると、ウインドウは自然に消えた。


「村長さん、ありがとうございました。俺達、そろそろ」

「あっ、ちょっと」

 待ってと手で示すと、村長はキャビネットの中から、手の平に載る小さい木箱を持ってきた。


 ユウキ達の前に出すと、蓋を開ける。

 中には、黒い布の切れ端が入っていた。


「これは?」

「ダンギがルイーザ様を運ぼうとした時、これが手に握られていたと。ルイーザ様の物でも、この村で使ってる布とも違うから、もしかしたら何かの手掛かりにでもなるかと思って」

 ユウキは、調べてもらいますと木箱ごと受け取った。


「連れて行かれた3人が早く戻ってこられるように、何とかお願いします」

「……分かりました」


 断言して良いか迷ったが、ユウキはオークの村民を信じたかった。

 ユウキ達は見送られながら村を出た。


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