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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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ギルドの信頼

 

「魔族に寝返った者への対処やダンジョンの

攻略は最重要だと思う。それはそれとして、

素行の悪いプレイヤーを正せないものかと、

そんな事を考えたんだ」


 ヨシュアは通りで見た出来事を話した。

「大事件ではないが、自分が人より強いのを

良い事に恫喝や盗みを働く者もいると聞く」


「そういうの、あたしもシルグラスで見たな。

中には、プレイヤー同士で追い剥ぎみてえな

真似する奴等もいるって話だぜ」

 初めてラリィが口を開いた。


「僕は彼等がエスカレートしていくのが怖い。

異界人は英雄視されているが、こういった事が

続けば示しの付けようがなくなる」


「ではプレイヤー専用の法規でも作りますか?」

 マキシが言った。

 ヨシュアは否定とも肯定とも取れない表情で

顎に手をやる。


「ルールはあった方が良いとは思う。だがそれを

徹底させられるかどうか。ギルドのメンバーに

守らせる事は出来ても、他のギルドに所属する

者やフリーで冒険する者が応じるかどうか」


「なら、我々独自の警察組織を作ってみては? 

プレイヤーはエルドラド人の警察や警備兵など

恐れません、力ずくで何とでも出来るからです」


 捕まえられる者がおらず、もし捕まって死罪に

されようと、死なないのだから死刑も怖くない。

 一般の刑罰が抑止力として機能しないのだ。


「僕個人の考えだが、取り締まるルールを作り、

一部のプレイヤーが下の者を良いように統治する

システムはあまりやりたくないんだ」


「ですが、ある程度の強権は必要になるでしょう。

強く示さなければ行動を正さない者もいます」


 難しいところだな、とリュウドが言った。

「高レベルの者で取り締まれば、素行の悪い者を

取り押さえる事は可能だ。そして自分達の法律で

裁く事も出来るだろう。だがそれをやれば必ず、

反発する者が出てくる」


「法を犯す者の反発に付き合う必要はありません」

「そうとも言える。しかし、その空気が広まれば、

モラルあるプレイヤー達からも堅苦しさを嫌って

ギルド離反や反対を唱える声が出てくるはずだ」


 ヨシュアは我が意を得たりと思った。

 規制は勿論大事だが、重い空気は人を遠ざける。

 ギルドメンバーの多くの脱退を見てきた彼には、

それが肌で感じるように分かる。


 なるほど、とマキシは頷き、

「では何か有効な方法があるでしょうか」

 意見を募ると、エルザが手を挙げた。


「明確な方法ではないですが、犯罪を見かけたら

その都度対応していくしかないのではないかと。

一方でルールやモラルの概念を広めて、私達が

模範となる行動を取っていければ」


 ミナがそれに同意した。

「イタチゴッコになるけれど、今はその方法が

適しているかもしれないわね。法律を作るに

しても罰金や禁固はまだしも、傷付けるような

罰を取り入れたら、どちらも歯止めが利かなく

なるような気がして」


 取り締まる側、取り締まられる側。

 裁く側、裁かれる側。

 プレイヤーを2つに分ければ、そこにはいずれ

反発や支配欲の渦巻く溝が出来てしまう。


「こそ泥なら、まだかわいいもんだけどよ」

 くろうがヨウカンを楊枝で刺しながら、


「性根の腐った奴はいるもんで、徒党を組んで

悪事を働くためにギルドを結成する奴等とかも

出てくるかもしれねえぜ。追い剥ぎするような

奴等は、もう盗賊団や山賊と変わらねえよ」


「それの最悪な形が、寝返った連中だろう」

 アベルが言った。

 クールではあるが、言葉の端々にやりきれない

思いが滲んでいる。



「しかし、変な奴が増えて、プレイヤー全体が

白い目で見られたら困るよなあ」

 ユウキが誰にともなく言うと、

「そう、世間を敵に回す事が1番恐ろしいのです」

 マキシが言った。


「何人かの異界人が魔族側について殺戮を行った、

という噂話は既に一般人の間に広まっています。

彼等はまだ、それが真実だとは知らないものの、

我々を疑問視する目が出てきたのは確か」


 彼は眼鏡を直す仕草をし、

「中には魔族以上に、身近なプレイヤー自体を

危険視する者も、実はいなくは無いのです」


「私達を? どうして」

 アキノが聞くと、

「僕が街中に出て行って、鼻歌でも歌うように

ラストヴァーミリオンを唱えたらどうなります?」


 マキシが口にしたのは、賢者クラスでようやく

会得が可能な最強レベルの広域破壊魔法。

 最強の名は伊達ではなく、1発でも放たれれば

恐らく街の1区画が吹き飛ぶだろう。


「我々は王国から土地を買い、許可をもらって

家屋やギルドの拠点を作り、生活しています。

それは普通の人間と変わりませんが、戦闘と

なればその能力は一国の軍隊をも上回る」


 周りに英雄、勇者と言われてはいるが、誰にも

かしずかない戦闘集団が自由に行動している。

 そこに恐怖心を抱く者がいてもおかしくはない。


 怪物は力なき民にとって脅威だ。

 その怪物を倒せる異界人は英雄だろう。

 しかし、怪物を倒せる者もまた怪物なのだ。


 まだ何も発していなかったアルスが眉を寄せた。

「僕達は正義のために戦っています。それなのに、

街の皆から信用を失うかもしれないなんて」


「ええ。白眼視されるのは非常に困る。だから僕は、

権力と結び付きを持ったらどうかと提案します」

 けんりょく? と彼に視線が集まる。


「権力という言葉にネガティブなイメージや

一種のアレルギーを持つ方がいますが、僕は

悪いニュアンスで使っているのではありません」


 そう言うとマキシは窓の外を見た。

 そこからは王都の象徴、ルーゼニア城が見える。


「この国は政治が安定していて、国王への支持も

高水準で保たれています。その王族と結び付きが

あれば、王都民、()いてはエルドラドの民から

信頼されるでしょう」


 ユウキがうんと頷く。

「そうか。王に後ろ盾になってもらう、とまでは

いかなくても国が公認すればそれは信頼の証明だ」


 王様が認めた勇者が悪を討つために旅立つ。

 そんなプロローグはRPGの定番だ。

 それをこちらから積極的にやろうというわけか。


「この『みんなの会』が国王から公認を頂ければ、

傘下や同盟を希望するギルドも増える。そうなれば

先ほど話した、我々の作るルールを徹底させられる

プレイヤー人数も増えるというもの」


 いくらか興奮気味のマキシにリーリンが言った。

「でも、いきなり王様が会ってくれるもんなの? 

本来王様って、ゲームみたいに、行けばいつでも

玉座に座ってるほど暇じゃないでしょ」


 会える機会があるんです、とマキシは返す。

「機会?」

「ええ。ユウキさん達のおかげですよ」


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