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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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お茶会

 


「マキシ、久しぶりだね」

「お久しぶりです、ヨシュアさん」

 マキシは軽く会釈した。


 インテリジェンスを感じさせる眼鏡と、襟に

呪文が刺繍されたスマートなローブ姿。

 しわ1つ無い着こなしは彼の几帳面な性格を

表しているかのようだ。


 賢者マキシ。

 彼はミナの副官的な立場にある。


 決められたイベントを追うのではなく、自分の

意思で考え、行動を起こすこの世界において、

彼の存在感は知識量を伴って増していた。


「彼がいるという事は、ここでただのんびり

お茶を飲むというわけではないのだろう?」

 ヨシュアはミナに言った。


 サブリーダーが客をもてなす事もあるだろうが、

ブレーン的なポジションの彼がそのホスト役の

ためだけにここにいるとは思えない。


「十分におもてなしはするつもりよ。その上で

集会としての意味合いも持てたらと思って」

 ミナは笑いながら、胸の前で手を合わせた。


 双角の塔での1件は、この世界で起こっている

様々な要因を詰め込んだ、サンプルのような物だ。

 その当事者達が一同に揃うのだから、単なる

お茶会で終わるわけがない。

 それは誰もが承知の上だ。


「アメリア、お願い」

 ミナが指示すると、アメリアと他のメイド達が

ワゴンを押して入ってきた。


 そこにはティーセットとジャムを塗って食べる

スコーン、1口サイズのサンドイッチ、繊細な

技術が必要とされるデコレーションが施された

ケーキが乗っていた。


 また別のワゴンには日本茶用の急須、せんべい、

漬け物、ヨウカンが乗せられている。

 ヤシマからの輸入品だ。


「皆さん、好きな席に座って下さいね。お茶と

お菓子はお好みのものを選んで下さい」

 不要な防具等を解除して身軽になると、各々の

パーティーは固まって座った。


 給仕が始まると部屋に良い香りが漂いだす。

 お茶の種類と好みの茶菓を選ぶと、メイド達は

それを恭しくサーブした。


「……それじゃあ、お茶会をはじめましょう」

『みんなの会』と『冒険者達の集い』。

 超大型ギルドと呼ばれた、あるいは呼ばれていた

2大ギルドのマスター達が、テーブルを挟んだ瞬間

だった。




「あっちでジョブチェンジした頃は、こういうの

よく食ってたっけなあ」

 くろうがばりばりと良い音をさせて、せんべいを

食べた。


 ニンジャへのチェンジ及び一部のスキル取得は、

ヤシマにあるニンジャの里でのみ可能だ。

 日本がモチーフなだけあって、サムライなどの

チェンジもヤシマの国で行われる。


「ヤシマにはまだ行けないんだろ?」

 たくあんの細い端っこをポリポリとやりながら、

くろうはミナに聞いた。


 だがマキシがそれに答える。

「潮の流れが原因で、海路での移動は不可能です。

アドベンチャーズギルドからの復旧報告によると、

まだ転送先と交信が出来ていない現状だそうで」


 静かにカップを傾けていたアベルが言った。

「双角の塔には海流に影響を与える効果があった。

その辺りに、何か建造物が出来ているとすれば」


「洞窟が出来た、という報告があったはずです。

そこに行けばアクセス復旧のヒントが?」

「あるかもしれない。だが、そうなのだとしたら

寝返った奴等がそこにいる可能性も出てくる」


 オディールはダンジョンを任されているような

発言をしていた。

 ならば同じく、別の担当者が常駐していても

おかしくない。


「寝返った者の話はユウキちゃんから聞いています。

……実際に戦った率直な感想は?」


「パワーだけでもデュエルマスターの俺より上だ」

「ギルドバトルの対戦みてえに、サシでやって

どうこうなるレベルの相手じゃねえのは確かだ」

「私の召喚術の直撃に耐えたんだもの」


「エルザさん、グランドハイプリーストとして

対峙してみてどうでした?」

 ミナは同職のエルザに聞いた。

 スキルの差はあれど、近い感覚で参考にできる。


「次々とアンデッドを呼び、ドラゴンゾンビを

更に強化する死者操術まで見せられました。

あの瘴気を含んだ魔力は、バージョンの終盤に

現れるボスモンスターの力にも劣らないはず」


 これが強豪と名高い彼等が出した統一見解だ。

 頭を抱えたくなる感想だが、それでもミナは

撃退できる可能性はあると思い直す事にした。


「強敵ね。強敵ではあるけれど、うちのギルド

にもヨシュアさん達とレベルの近い精鋭はいる

から、攻略が完全に滞るわけではないでしょう」


「単純にボスを倒すだけではダメなんだ。塔の

妨害魔法を解いた話は聞いてるね?」

「ええ。メリッサという魔術師がいたと」


「ああ。解術にはプレイヤーが取得可能な物とは

別の大系の呪文知識が必要になってくるらしい。

彼女はルージェタニアで覚えたと言っていたが」


 それを聞き、ミナが眉をクイッと上げた。

「ルージェタニアに着いたパーティーがいると、

人づてにさっき聞いたばかりなの」


 神鳴りの日やこの世界からの脱出方法のヒントを

賢人に聞くため、ルージェタニアに向かった者達が

到着したという報は、つい1時間前に届いたばかりだ。


「転送魔法陣である程度は近くの町に飛べるように

なったから、解術の使い手を何人か募集して、連れて

きてもらう事を検討した方が良いわね」


「その手配はミナにお願いしよう。必ず解術の心得が

ある者が必要になるだろうけど、攻略にもそれなりの

人数を割かなければならないと思う」

 ギルドバトルで高い統率力を誇るヨシュアの分析だ。


「各地に現れた建造物を調査して、効率化された

やり方で攻略を目指すんだ。ベテラン勢は更なる

研鑚(けんさん)を積み、いかなる相手にも退かずに戦える

実力を維持して欲しい」


 彼の意見に頷きつつ、リュウドが付け加える。

「ベテランだけでなく戦力の底上げも重要だろう。

若手にもなるべく経験を積ませて、戦える者の

育成をしていく必要性がある」


 アルスとベガに視線が集まる中、マキシが言った。

「では、トレーナーという役割を作りましょう。

基礎から応用まで、初心者を一人前に育て上げる

プレイヤーをギルドの中から選出するんです」


 新人の育成が人より上手い者はいる。

 コミュニケーション能力やレベル上げのメニュー

作成能力といった、個々の才能によるのだろうが。


 やみ雲にダンジョンに放り込んでレベル上げを

させるより、適切な指示と補助を行うトレーナーが

いた方がキャラの成長も早い。


「そういうの昔からユウキが得意だったよな。

って、なにイチャついてんだよ」

「え?」


 くろうに呼ばれたユウキは、口元をアキノに

ハンカチで(ぬぐ)ってもらっていた。


「いや、ケーキを食べてたらクリームが口に

ついちゃって、それ拭いてもらってただけで」

「そりゃもういい。お前トレーナー向いてる

んじゃないのかって話だよ」


 モンスターの生息区域、HPや特殊技、経験値、

ドロップアイテムに至るまで全て記憶している

ユウキはその知識を生かして、よくビギナーを

レベル上げの冒険、通称合宿に誘っていた。


 ある時期はまるで趣味のように新人育成に励み、

そのほぼ全員が立派なプレイヤーに育った。

 向いていると言うより、天職である。


「昔取った杵柄、なんて言いますしね。試しに

俺がやってみますよ」

 そう言うとユウキは甘い口をお茶で清めた。



「建造物の調査、パーティーの編制、新人育成。

攻略を主眼に置いてギルドを動かしていくなら、

まずやるべきはこんな所かしらねえ」


「調査については、国土管理局にも問い合わせて

該当するデータを集めておきます」


 この話題が一段落しそうな所で、

「少し、気になってる事があるんだ」

 ヨシュアが切り出した。



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