3パーティー再集結
「ここが王都か」
アドベンチャーズギルドを出たアルスは、
街を見下ろす城を見上げた。
王都の象徴たる巨城が青空に映えている。
「地方から初めて都内に遊びに来た学生
みてえだなあ。前に来た事あんだろ?」
隣に立つラリィが言った。
さすがに今は素面のようだ。
「僕とベガはビギナーの館を出て、1度は
ここに来ましたけど、すぐにレベル上げに
誘われて遠出してしまったので」
ビギナーの館はゲームのスタート地点。
キャラを作成した後、各システムの説明を
簡単な模擬戦を交えつつ行う。
チュートリアルが終わったら、アイテムを
もらって王都へと転送される仕組みだ。
「ここは設備が揃ってて、美味い店も多い
からな。マリーの店は酒も料理も絶品だ」
「1杯ひっかけてから、なんてダメですよ」
「わーってるよ。まずはギルドマスターに
しっかり挨拶しておかねえとな」
「私はマスターがどんな人か知らないです」
彼女の隣でベガが言った。
「日本サーバーの中で1、2を争う規模を
誇る、大所帯ギルドを束ねてる女ボスさ。
ちゃんと頭下げろよ」
「お、女ボスですか……」
アルスは頬の辺りを強張らせた。
「なんか王都も久々って感じだなあ、ええ」
周囲の店を見ながら、くろうが言った。
ラリィ達より一足早く転送されてきたヨシュア
達は、みんなの会の拠点へ向かっていた。
主に食料品を扱う露店が並んでいるこの通りは、
業者中心のカーベインとはまた違った活気がある。
「おやじ、これ1つな」
「へい、まいど」
くろうはゴールドを親指で弾いて店主に渡すと、
瑞々しいリンゴに噛り付く。
ヨシュア達はこちらの世界に来る前は、高難度を
誇るダンジョンの数々を渡り歩いていた。
デモンズダワー、夜魔の城、鮮血将軍の野戦場、
亡者たちの謝肉祭、ライザロス地獄の北壁……。
ケアレスミス1つで全滅さえ招く、殺伐とした
ダンジョンに浸っていた分、こうした生活感の
ある空間は心地よかった。
緩やかな空気の中で5人が歩いていると、
「お客さん、ちょっと困りますよ。そっちの
代金も貰わないと」
「これ買ってやったんだからサービスだろ」
ポーションを売る商人と鉄兜のプレイヤーが
もめている。
男が金を払わずに売り物の薬品を持ち去ろう
としているようだ。
「サービスって、買った分よりも多く持って
いかれたら、こっちは商売が」
「おい、俺は異界人だぞ? お前等が安全に
商売できるのも、俺達のおかげだろうが!」
凄む男に商人が怯むが、
「何をしているんだ」
ヨシュアが仲裁に入った。
「う、あ、あんたヨシュア」
「僕等だって商人が売ってくれるアイテムが
無ければモンスターとは戦っていけないんだ。
払うべきものは払わないといけない」
邪まな軽い気持ちで凄んでいた男であったが、
強豪パーティーとして有名なヨシュアの登場に
すっかり萎縮してしまった。
「あ、ああ、ちょっと調子に乗っちまったな。
悪かったよ。ほら、これは返すから」
数本の瓶を商人に放ると、男はばつが悪そうに
その場を立ち去った。
「あ、ありがとうございました」
「いや、良いんだ」
「ああいう客が続くと、売上にも響いてきて」
「横暴な態度を取る異界人が多いと?」
「や、あの……多いってほどじゃないですが。
なんせその、皆さんお強いですからねえ」
殴り合って一般人が勝てる相手ではない。
怯えて泣き寝入りする者もいるのだろう。
「俺達が腕っ節に物言わせてアイテムを奪って
良いのは、モンスター相手だけだよなあ」
リンゴの芯をぷらぷらさせて、くろうが言った。
「良くないな、このままじゃ」
ミナに何を伝えるべきなのか。
ヨシュアの中で固まる決意があった。
「ヨシュア様ご一行がお見えになりました」
リビングにメイド服姿のアメリアが入ってきた。
彼女は人間で実力のあるプレイヤーの1人だが、
今はここでハウスキーパー業に専念している。
何でもそつなくこなす、髪の長い美少女だ。
「あら、もう来たのね」
「やっぱり。ヨシュアさんは律儀だから」
ミナとユウキ達は、お茶を飲みながら、今後に
ついて幾つか言葉を交わし始めていた所だった。
「応接室にお招きして。私達も移動するから。
それと、先にマキシを呼んでおいてね」
かしこまりました、とアメリアは退室した。
それと入れ代わりに、アプリコットが入室。
「なんか、らりーって人たちが会いにきたよ」
それだけ言うとまた、ててててっと外へ走って
いった。
ユウキ、ヨシュア、ラリィは応接室への通路で
顔を合わせる事になった。
「ミナ、久しぶり」
「ヨシュアさん、皆さんも。遠い所はるばる」
「転送魔法陣を復旧できたおかげだよ」
「塔の話はユウキちゃんから。ギルドの件も
伺いました。それについては、これから話を
重ねて行きましょう」
「ありがたい。僕の身勝手なお願いなのに」
「いいえ。手を取り合うことが大事ですから」
ミナは慈愛に満ちた笑みを見せる。
そして今度はラリィ達に目を向けた。
「あなた方が、ユウキちゃんがスカウトした
という3人ね」
「ああ、あたしはラリィ。ローグだ。厄介になる
からには、良い仕事するぜ」
「頼もしい限りね。活躍を期待しています」
「ベガと言います。グランドハイプリーストは
私の目指すところです。頑張ります!」
「はい、熱意があって大変よろしい」
ミナは教師のような口調で言う。
彼女は次にアルスへと目を向けるが、彼は妙に
ドギマギしている。
「あ、あの、アルスと言います。何と言うか、
イメージと違って」
「?」
「大きなギルドを率いていると聞いていたので、
失礼ですが、凄くおっかない人を思い浮かべて
いて。マフィアの女幹部みたいな人を。それが、
こんな優しそうで美人な人だったなんて」
ミナは、あらぁと手を口元にやってから、身を
よじるように体を動かす。
「んんーかわいい、かわいいわねえ。私は今、
とてつもなく庇護したい欲求に貫かれてる」
「おっと、ギルドに入ってもアルスはあたしが
面倒を見るからな」
「ギルドに入る新人の育成には、ギルドの長
として関わらないわけにはいきません。そう、
これは公私混同ではなくギルドマスターの義務!」
一言で言うと、誠実な美少年であるアルスは
年上の女性に受けるらしい。
「………コホン。それじゃあ、こちらへどうぞ」
ミナは自制し、1つ咳払いすると、自ら先頭に
立って彼等を応接室へと案内した。
広々とした応接室。
大きなテーブルがあり、座り心地の良さそうな
椅子もあるが、ゴテゴテしている調度品は無く、
何ともすっきりした空間だ。
そこには先客がいた。
眼鏡にローブ姿の青年。
ギルドのサブリーダーである賢者マキシだった。