ギルドのあり方
ミナはパチパチと2回瞬きした。
長いまつ毛が微かに揺れる。
「冒険者達の集いに戻る?」
「ああ。ヨシュアさんと話したんだ。こちらの
世界に来て、一部のプレイヤーは荒れている。
俺達もそういう奴等は見たし、何より魔族側に
寝返った連中は何を企んでいるか分からない」
昨晩、ユウキはヨシュアと話し合った。
共同のギルド代表者になるにあたり、どんな
方針や理念を持とうかと。
「ヨシュアさんは、厳しい秩序で皆を縛るの
ではなく、良識を持って冒険を楽しんでいた
時間を取り戻したいと言っていた。それを、
自分達を育ててくれたギルドで成したいのだと」
ユウキは共感した。
右も左も分からない自分を一人前に鍛えてくれた
コミュニティは、一種の故郷だ。
1度は距離を置いた場所ではあるが、この時、
戻りたいという気持ちを強くプッシュされた。
「彼は形骸化したギルドのネームバリューに頼り
たい訳じゃない。『冒険者達の集い』という名を、
1つの象徴として背負い、戦いたいとも言った」
「背負い、戦う?」
「ああ。魔族側に寝返った連中は、これから俺達
プレイヤーの前に立ち塞がるだろう。戦わなければ
ならない、必ず。その寝返った側の大半は、例の、
ギルド騒動に加担した者達らしいんだ」
大規模なギルドの混乱だけあって、ミナの下にも
その詳細な情報は届いていた。
加担した者の名前も大部分を把握している。
「決して復讐心や仕返しするという意味じゃない。
だが多くの者に混乱を招き、今も不幸をばら撒こうと
している者達と戦うためには、やはりこのギルド名を
掲げる事は必要なのだと。ヨシュアさんは言った」
「それで、戻る事に決めたのね」
「ああ。2人にも事情を話して、一緒に来てくれる
話になってる」
ユウキは、リュウドとアキノに説明した。
仲間だからと強引な勧誘ではなく、自分の意思を
伝えた上でどうするかと問うたのだ。
「1つ旗の下に集い、事を為す。私はヨシュアさんの
覚悟に感服した。移籍させてもらうつもりだ」
「私も。ユウキの決意は固いから、その手助けを
したいなって」
ミナはただ、静かに彼等の主張を聞いている。
「俺はまだ、みんなの会ギルドを脱退していない。
わざわざ目を掛けてくれて、誘ってくれたのだから、
ちゃんと1回断りを入れるのが筋だと思って」
「……ユウキちゃん、別にそんなに畏まらなくたって
良いのよ。私はそう言われて、むしろ嬉しいくらい」
「嬉しい?」
「だって、ユウキちゃんが自分が進んでいきたい道を
決められたんだもの。何か目標に向かおうとしている
なら、おねえちゃん、そんなに嬉しい事はないわ」
ミナはにこりと笑う。
万人の心を解きほぐす、女神のような笑顔だ。
「でも現実的な話として、冒険者達の集いギルドは
今とても小さくなっているでしょう? ギルド単体で
考えたら、精鋭揃いでも心許ないんじゃないかしら」
「ヨシュアさんは、みんなの会の傘下ギルドという
形になっても構わないと言っていた。以前の規模は
無理だけど、ある程度人数が増えるまでは出来れば
協力してもらえれば」
「安心して、協力は惜しまないから。皆で協力して
こその、みんなの会よ」
「良かった。ヨシュアさん達は後で挨拶に来るって
言ってたから、詳しい事はその時にでも」
ユウキは内心、ホッとしていた。
脱退を申し出ても、ミナは怒りはしないだろうが、
それでもギルドの加入・脱退には神経質になる。
まだ無意識にギルド騒動が尾を引いているのだ。
「──これで、ユウキちゃんの報告はお終い?」
「一応そうなるかな。こっちで何が変わった事は
起きなかった?」
「そうねえ、特段これというのは。ユウキちゃん、
大きな出来事が起こらないうちにギルドの連携や
冒険の方針について幾つかまとめておきましょう。
ヨシュアさんが来てくれたら、踏み込んだ話が
出来るように」
踏み込んだ話は間も無く出来るだろう。
その日の午後のティータイム前、転送魔法陣で
王都に到着した2つのパーティーがあった。
切りが良いので、今回は短いですがここで切り。