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冒険者達の集い  作者: イトー
王都ルーゼニア
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西より王都への帰還

 


 えも言われぬ浮遊感が徐々に薄れていき、足が

しっかりと地に着く。

 同時に閃光で白けた視界に彩りが戻ってきた。


 居眠りから覚めたような、不思議な感覚──。

「……戻ってこれたみたいだ」

 ユウキの目に入ってきたのは、見慣れた部屋。


 転送の出発先であるアドベンチャーズギルド・

カーベイン支部とよく似ているが、微妙に違う。

 ここは同ギルドのルーゼニア王都支部だ。


「良かった、転送事故とか無くて」

「体調に変わった所はない。アイテムもロスト

した物は無いようだ。上手くいったな」


 3人が転送成功に一安心していると、ギルドの

制服を着た若い女性が部屋に飛び込んできた。


「えっ!? あなた方は、一体どこからここへ!? 

転送魔法陣は機能不全で止まっていたはずじゃ」


「色々あって、俺達が一部復旧に成功したんだ。

転送元はカーベイン。どのくらい機能が戻ったか

分からないから、転送可能先のチェックを頼む」


 慌てた様子でギルドスタッフは部屋を出て行く。

 ユウキ達も、開けっ放しにされたドアを潜って

メインロビーへ出た。



 ロビーでは、クエストの状況を確認しに来た者や

そこを普段溜まり場にしている者達が事態を察知し、

ちょっとした騒ぎになっていた。


「転送魔法陣、直ったのか?」

「動くようになったの?」

「ガーラルク行きの転送は可能なのか?」


 カウンターにプレイヤーが殺到し、その中では、

「少々お待ち下さい。こちらも現在状況の把握に

努めておりますので」

 と受付スタッフが四苦八苦している。


「おい、部屋から出てきたの、あのユウキだぜ」

「動かなかった原因をお前達が突き止めたのか?」

「助かるぜ、これで移動の手間が省ける」


 口々にプレイヤー達が話し掛けてくる。

 ユウキは両手で軽く制してから、こう言った。


「転送を妨害する魔法を発信していたダンジョンを

攻略してきたんだ。それで、まだ一部だけど復旧した。

それと使える地域は狭いけど、検索機能も使用可能に

なってる。みんな出来るだけこの情報を広めてくれ」


 各々がやり取りして、その中から、

「ホントだ、検索ウインドウが動くぞ」

「細かい所在地はまだ出ないけど、どの辺にいるか

までは調べられるみたいだな」

「これなら元のパーティーに戻れるぞ」


 ロビーに広がる、驚きと喜びの声。

 この調子なら情報はすぐにでも街中、いや遠方の

プレイヤー達にも広まるだろう。


「ユウキー!」

 彼等の間を縫うように、ててててっと擬音でも

付きそうな感じで1人の少女が走って来る。


「えいっ」

 ぴょこんとジャンプすると両足をユウキの腰に

回し、まるでコアラが木の幹に掴まるかのように

彼に抱き付いた。


「ユウキ、おかえり」

「た、ただいま、アプリコット」

「うん。おかえりの抱っこ」


 飛び付いて来たのはアプリコット。

 ユウキによく懐いている獣人の少女だ。

 小学生くらいの大きさなのでさほど重くない。


「アプリコットは、何かクエストでも請ける為に

ここへ?」

「ううん。フルーツジュースを飲みにきてた。

ここの、のうしゅくかんげんのが好きだから」


 ギルドロビーは待ち合わせにも使われるため、

酒は出さないがソフトドリンクを置いている。

 安価なため、それ目当ての常連も多い。


「ユウキ、なんかすごい事やったの?」

「転送魔法陣を使えるようにしたんだ。早く

おねえちゃんにも知らせないと」


「じゃあ、ギルドベースにいっしょに行こ。

おねえちゃん、今日は冒険に出てないから」

「そうか。分かったから、アプリコット」

「なぁに?」

「降りてくれ、歩けないから」




 王都ルーゼニア。

 現在は正午前で、街の通りは賑やかだ。


 ユウキ達は朝早くに向こうを出たかったが、

装備品の損傷が思った以上に激しく、修理が

終わるまで待つ事になった。


 それでも並の職人なら2日は掛かる仕事を、

鍛冶屋のアレックスが突貫でやってくれた

おかげでこの時間に戻ってこれたのだ。


 小腹が空いていたが、ユウキ達は報告を

済ますため、ベースに直行した。



 日を浴びて佇む、みんなの会の拠点。

 貴族が暮らす大屋敷にも見えるそこへ入ると、

何人かのプレイヤーと出くわした。


 ホッシュ、シンノスケ、カイザ──。

 名うてのプレイヤー達だ。

 数日前にはいなかった者達で、カーベインへ

行った後にもギルドのメンバーは増えたようだ。


「おねえちゃんはこっち」

 アプリコットに手を引かれ、ギルドマスター

ルームに向かうと、そこにミナがいた。


「あら、ユウキちゃんおかえりなさい」

「ただいま、おねえちゃ」

 言い終わる前に、ミナはユウキをハグする。


 極上の爆乳をギュウギュウと押し付けられて、

その圧は軽鎧越しでも感じるほどだ。


「ユウキちゃん、お疲れ様」

 ミナは体を離さず、目を見つめて、鼻に吐息が

掛かるくらいの距離で話す。


 部屋に置かれた乾燥ハーブのせいか、あるいは

彼女自身が発する匂いか、ほのかな良い香りが

ユウキの鼻をくすぐる。


 ユウキは不快ではなかったが、隣のアキノが、

奥歯が疼くような顔をしていたので1度離れて

もらった。


 ミナはリュウドとアキノにも、両手をしっかり

握って、お疲れ様と心から労いの言葉をかけた。

 アプリコットはその様子を横から見ている。


「早速だけど、話す事がたくさんあるんだ」

「良い話がたくさん?」

「……そうだと良かったんだけど。良い話、ばかり

じゃない」


 伝えなければならない。

 カーベインで何が起きていたのか。

 あの地で誰が何をしていたのかを。


 ミナは柔和な笑顔を崩さない。

 決して物事を楽観的に見ている訳ではない。

 魔族侵攻が噂されている昨今、良い話ばかりでは

ないはずと腹の中で覚悟は決まっているのだろう。


 見かけに寄らず胆力があり、芯も強い。

 ただ優しいだけでなく、いつも心構えを崩さずに

いる姿勢が、彼女のもとに大勢のプレイヤーが集う

理由でもあるのだ。


「3人とも、お昼はまだ?」

「え、ああ。まだ食べてないけど」

「それなら、長くなりそうだから何か食べながら

話しましょう。今作ってもらってるから」

 ミナは朗らかに笑った。


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