パワーで殴ると案外倒せる
「間に合ったようだな!」
颯爽と登場した俺、とその仲間達。
アリシアはソルジャーアントに囲まれて青い顔を
している。
クイーンアントの姿を確認しつつ、俺達はその
横を駆け抜ける。
新たな侵入者に襲い掛かるソルジャーアント達を
次々と薙ぎ払って。
アリシアに群がるアリどもを蹴散らし、俺達は
彼女を一旦下げる形で隊列を作った。
「待たせたな、救援に来たぜ」
「……あなた、タイミングが悪いのよ」
「もっと遅く来た方が良かったか?」
「こんな時に冗談言って。……助かった」
そこでアリシアはシノヅカの姿に気付く。
「シノヅカさん」
「向こうで一緒になってね。間に合ったようで
良かったわ」
シノヅカが持っていたバトルハンマーで洞穴を
破壊し、俺達はショートカット出来たのだ。
この救援が上手く行ったのは彼女のおかげだ。
「後ろの洞穴に、子供がいるわ。それと、奥の
壁にもう1人、捕まってて」
アリシアの説明で何となく事情は察せたが、
彼女は回復魔法を唱えるのもきつそうだ。
「ヒール!」
そんなアリシアをモモが回復させた。
ああ、そう言えばこいつ初級神官だったな。
アリシアがグッと力強く立ち直る。
ここに5人のフルメンバーが揃った。
形勢逆転、反撃開始だ。
「シノヅカさん、それにモモとトオコは雑魚の
掃討を頼む。俺達がクイーンを片付ける」
「おうっ」
「はい!」
コクコク
穴から這い出しては集まってくるソルジャー
アント。
黒い絨毯のように目の前が埋め尽くされるが、
トオコは血路を開くようにそこに飛び込んだ。
円を描く無駄のないシャープな動きで、次から
次へとアント達を切り倒す。
負けじと、シノヅカも重厚なバトルソードと
スパイク付きバトルハンマーを用い、トオコとは
真逆のパワースタイルでアリを叩き潰していく。
「おわっちゃあ!」
モモも身に付けたばかりのフレイル捌きで、
果敢に敵を叩いていく。
改めて見ると物理攻撃に片寄ったパーティーだが、
『レベルを上げて物理で殴れ』
という至言もこの世には存在する。
相手をスムーズに倒せれば、それが最善の法。
勝てばそれで良かろうなのだ。
海が割れるように、クイーンへの道が開かれる。
「よし、一気に行くぞ!」
「ええ!」
アリ達を殺され、怒り心頭のクイーンが威嚇する。
捕食と繁殖という本能的な行動を邪魔された表れ
なのだろうが、そんな都合はこちらには関係ない。
悪いが、仕留めさせてもらう。
クイーンは近付けさせまいと蟻酸を放射状に吐く。
特殊技のアシッドスプレーだ。
飛散する細かい粒は直撃ではないものの、装備の
耐久度をじわじわと減らしていく。
ここで武具を破壊されたら元も子もない。
続けて、クイーンは圧縮した粘液を高速で吐き出す
プレッシャースピットを連続発射した。
液体とは言え、高圧縮で打ち出された粘液の威力は
鉄球を投げつけられたのと変わらない。
アリ系モンスターのクイーンとしては下から数えた
ほうが早いが、いざと言う時の凶暴性は侮れない。
長引かせると面倒だ。
HPは大した事はないはず、ここは一撃で倒す!
「アリシア、ほんの何秒かでいい。あいつの目を
そっちに逸らせておいてくれ」
「え、そういうオトリ役を私に振るの?」
「そうだよ。俺は男女差別はしない主義だ」
アリシアは不満そうだったが、了承してくれた。
剣を振って相手のターゲットを一身に引き受けると
そちらに攻撃が集中する。
俺はこの剣の固有技の発動ルーティンに入る。
ブレイズブランド・レプリカを掲げ、鍔を額の高さに
合わせると精神力を集中させる。
鍔に埋め込まれた魔法石が反応し、閃光を放つと、
俺の身体は真紅の炎に包まれていた。
燃えるような昂ぶりが俺の攻撃性を高めていく。
柄を両手で握り締めると剣から炎が噴き上がる。
握った手を右頬の位置に合わせ、剣を水平に倒す。
切っ先はクイーンアントへ。
「行くぞぉ!」
俺は吠え、駆け出した。
その勢いは、まるで爆発に弾き飛ばされたかのように。
俺の疾駆した後が燃え、炎の道が刻まれる。
これが己自身を炎の刃へと変え、一撃を叩き込む
──必殺のぉ!
「炎帝紅焔斬!」
火柱そのものとなった剣がクイーンを切り裂いた。
防御しようとして出た前足を瞬時に焼き尽くすと、
左肩から入った剣は、まるで熱されたナイフが
バターを溶かし切るように胴体を袈裟に焼き切る。
俺は苛烈な勢いのまま、大きな腹部までをも斜めに
切り払ったところで停止した。
「ギャアアアア!」
体を高熱の剣でスライスされたクイーンアントは、
断末魔を上げて倒れ込むと、溶けて消滅した。
一糸乱れぬ統率を見せていたソルジャーアント達
だったが、クイーンの死によって指揮系統が混乱し、
メチャクチャに洞穴の中に飛び込んでいった。
女王を頂点に頂く彼等の生態では、女王が死ねば
他のアント達も長くは生きていけない。
何だか哀れな気もしたが、ごめんなさい、とは
言わないぞ。
これも討伐を請けた、プレイヤーの仕事だ。
エネルギーを使い切った剣は急激に冷え、水蒸気
にも似たエフェクトを出して通常モードに戻る。
アリシアが駆け寄ってきた。
「討伐、終わったわね」
「ああ。子供達も無事のようだし、これで終了だ」
「さっきの技を使うために、私をオトリに?」
「時間が掛かる技なんだ。まあでも一撃で倒せたし、
倒すところもカッコ良かったろ?」
「名前がこの上なく厨二くさい」
「俺が付けたんじゃねえってば」
モーションがいかにもトドメの必殺技って感じで、
俺の中では結構お気に入りなんだぞ、あれ。
トオコは相変わらず無表情だが、モモ、シノヅカ、
そして穴から出てきた子供の3人が、勝利の歓声を
上げていた。
アリシアも口元を緩ませている。
多分それが、俺が初めて見た彼女の笑顔だった。