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冒険者達の集い  作者: イトー
俺達は仲間になりたい
68/173

\アリだー/

 

 俺達は北と北東、それぞれの洞窟へ向かう

岐路に来ていた。



「何かあったら連絡してくれ」

「大丈夫よ、私はヘマしないから」

 美形なだけに、こういった鼻につくような

台詞が様になる。


「子供を保護して、近くで探してる村人に

預けるまでがそっちの役目だ。任せたぞ」

「ええ。預けたら村に戻って、村長の家で

お茶でもご馳走になって待ってるから」


「何で1人で優雅にアフタヌーンティーを

満喫するつもりでいるんだよ。本来の依頼は

こっちだろうに。合流だ」


「あなた、冗談にマジレスするタイプね」

「冗談言ってる場合じゃねえって言ってんだ」


「申し訳なかったわ、山よりも高く反省する」

「8848メートルの高さくらい反省したって

言うんだろ。俺はもうつっこまないからな」


「エベレスト、最近2メートル高くなったって

何かで見たけど」

「知らねえよ。あーもうほら、時間無いから

早く二手に分かれて行くぞ」




 特にモンスターと遭遇する事もなく、討伐隊の

3人は北東の洞窟へと辿り着いた。

 本番の戦闘は奥に進んでからになるだろう。


「モモ、トーチの魔法は使えるな?」

「はい、あれがあるとロウソクいらずなので

光熱費が浮くのです」

「そういう変に生活感のある説明は良いから」


 トーチが光球を作り出し、真っ暗な洞窟の中に

光源ができる。

 俺は前後左右、高めの天井にも警戒を緩めない。


 村長が言うには、モンスターは昆虫型だそうだ。

 タイプにもよるが、産卵できる女王が飛来し、

巣を作る生態のものは結構いる。


 今回はその女王を叩く事になるだろう。

 村人が困っている、という程度だからそこまで

強くはないだろうが、被害が少ないうちに叩いて

おかなければ後々増えて厄介だ。


 あっちはあっちで、そうやって生きてきた生物

なのだろうが共存できないのだから仕方ない。

 恨みつらみはねえが死んでもらいます、という

気持ちでバッサリ行くしかない。


「敵はアリみたいなやつなんですか?」

「そうだ。倒すのは女王だ」

「女王」


「アリとかハチとかエイリアンとかのあれだ。

そいつを倒せば、兵隊アリみたいのも最終的に

全滅するからな」

「エイリアンは2が好きです」


 映画の感想なんて誰も聞いていない。

 そんな事より、このメンバーで倒し切れるのか

少々不安になってきた。


 トオコは相当頼りになるが、モモは体力以外の

ステータスが初期状態だ。

 鎧を着た戦士並に頑丈だが、だからと言って

神官を盾代わりに使うのは忍びない。


「モモは転職とか考えてないの? そうだな、

その体力を生かせる戦士とかさ」

「考えてないのです。神官の服が可愛いから」


「戦士だって頼りにされるって意味じゃ魅力は

あるぞ。全身鎧をガチガチに着込んで、先頭に

立って、タワーシールドで味方を守るんだ」


「その格好だと全然可愛くないです」

「じゃあ、皆が覚えてくれる可愛いニックネームを

付けたらいい。んーあれしかないな。ベアだ」

「ベア。なんで急にクマさんが出てくるんですか?」


 モンスターと遭遇せず、60メートルほど進むと

奥から光が見えた。

 たいまつではない、何者かがトーチを使っている。

 俺達はその光の源へ走った。



「でやあっ!」

 誰かがモンスターと戦っている。

「シノヅカさん!?」


 シノヅカは俺の知る、オーガの女闘士。

 厚みのある刃で叩き潰すように斬るバトルソード、

ワンショルダー型の軽合金の胸当てと肩当てを装備し、

皮の腰巻きをミニスカート風に身に付けている。


 女性オーガは筋肉質ではあるが、男性オーガほど

ではなく、たくましさとグラマラスさを両立させた

プロポーションをしている。

 顔付きも(いか)つさは無く、美人の部類だ。


 対するアリ型モンスターはソルジャーアント。

 4本の足で下体を支え、上体を人間のように

もたげている。

 2本の前足には、粘液で固めた、土製の鈍器が

握られていた。


 シノヅカは7体と対峙していた。

 アントは頭の高さは120センチほどだが、

足を器用に使って機敏に動く。


「助太刀するぞ」

 俺達3人は駆け出した。


 俺は跳躍するとアントの背中を剣で一突き。

 ブレイズブランドが硬質の体表を突き破り、

黄緑色の体液が飛び散る。


 アントは昆虫特有の足をガシャガシャと

動かしてもがくが数秒で息絶え、消滅。

 俺は汚い忍者でさえ躊躇するような奇襲を、

容赦なく仕掛けられるメンタルの持ち主。

 先手必勝、これが戦いのならいだ。


「うお~!」

 モモがクラブでポカンと叩くが、アントは

首を数回振るだけで大したダメージがない。


 アントは口から液体を塊で発射する。

 装備品を劣化させてしまう蟻酸(ぎさん)攻撃。

 モモが持っていた割れ鍋のフタは無残に溶解。


 唯一の防具が、焼きたてピザのチーズめいて

しまったモモの横ではトオコが奮闘していた。

 両の剣を使い、バサバサと切り捨てていく。


 俺達はあっという間に7体を撃破した。

 モモはあえて戦力としてカウントしないが、

3人で十分に倒せる敵だ。



「へえ、今日はパーティー組んでるんだ」

 それがシノヅカの第一声だった。

 深い仲では無いが、クエストなどでは何度も

組んでいるので知り合いだ。


「お礼を先に言ってくださいよ」

「ごめんごめん。助かったわ。私はこの辺の

調査を依頼されて洞窟に潜ってたの」


 村長が言っていた異界人とはシノヅカの事か。

「しかし今日は何だか珍しい面子ね」

 だろうな。


 俺は基本的に、戦闘の立ち回りを知っている、

それなりに実力のあるプレイヤーと組む。

 クセがない方がトラブルも少なくて済むからだ。

 今回は例外中の例外である。


「こっちの初級神官はモモ。その辺の神官とは

違って、体力が抜群に高い」

「体力? 神官なのに?」

「別に自慢できるようなものじゃないです」

 謙遜ではない、現にステ振りの失敗なのだから。


「こっちの乳と尻と太ももがけしからん感じの

軽剣士はトオコ。モモが連れてきた徘徊BOTだ」

「へえ。たまに見るけど、案外強いものなのね」

 コクコク、とトオコは頷いた。


「ちょっと事情があって、4人で討伐クエストを

請ける事になって、今はその真っ最中なんだよ」

「4人? あと1人いるの?」


「ああ、別行動してる。何と、あのアリシアだ」

「……へえ、そう」

 シノヅカはあまり驚かない。


「あれ、そうか。シノヅカさんは何度かアリシアと

組んだ事があるんだっけ」

「ええ。あの子がいたギルドがバラバラになった、

そのすぐ後に結構組んだわね」


 意外と身近にいたんだな。

 完全なソロになる前の彼女を知っている者が。


「せっかくだから協力しない? そっちは女王を

叩くのがメインになるんでしょ?」

「そりゃ願ってもない申し出だけど、良いの?」


「もう少し奥まで調査しなきゃなのよ。思ったより

敵が多くてもう面倒で。こっちの仕事が済んだら、

ボス戦に付き合うわよ。よしみのサービスで」


 これは思わぬ僥倖(ぎょうこう)

 昆虫型は仲間を呼ぶ上、しぶといからな。

 タフネスとパワーに優れたオーガ闘士の加入は

正直ありがたい。


「じゃあ、このまま一緒に」

「あの、これどうしたら良いんでしょう……?」

 デロデロになった割れ鍋のフタを持つモモ。

 どうしたらって言われてもなあ。


「予備が無いなら、これあげる。これも」

 シノヅカはバッグから武具を取り出した。

 拳サイズの鉄球が鎖で繋がれたフレイルと木製の

バックラーシールド。

 神官系の近距離装備としてはポピュラーだ。


「ほ、本当に頂いてもよろしいのですか?」

「どうぞどうぞ、余り物だけど」

 普通の市販品だが、基本貧乏装備のモモからすれば、

パワーアップを兼ねた思いも寄らぬプレゼントだ。


「お返しと言ってはなんですが。あのこれ、大変

つまらない物なのですが」

 モモはバッグから出した木製の小箱を開けた。


「草?」

「ついさっき作った、野草のドレッシング和えです」

 休憩中に草を引っこ抜いては、根だけ集めていたと

思ったが、あんな物を作っていたのか。


 シノヅカは一つまみ口に運んだ。

 待て待て。あれ食べ物と呼べる物なのか。

 アイテム返却するような事にならなければ良いが。


「うわ、なにこれ」

 え、怒る? 不愉快でブチギレしちゃう系?

 まさかキレて武器振り回したりしないよな?


「これ、ちょっと……超美味しいんだけど」

 おお、何たる事であろうか。

 野っ原に生えてた草に思わぬ高評価が。


「ありがとうございます。薬草のドレッシングで、

毒消しの成分が内臓にも効くようになっていて、

デトックス効果があるんですよ」


なんかいかにも美容と健康っぽい言葉が出たぞ。

モモってそういうキャラだったの?


「あ、それ嬉しい。冒険で疲れると色々たまって

くるものねえ」

「あと何種類か野草を加えると肌の張りやきめが

良くなったり、冷え性、お通じにも効果のある

サラダが出来るんですよ」


「それ簡単に作れる? 毎日食べたいわ、それ」

「刻んで和えて、少し漬けるだけなんで、朝に

作っておいて冒険から帰ったら食べ頃ですよ」

「イイ、イイ! フレンドにも教えてあげよ」

「簡単に作れるレシピは他にもあって──」


 俺は初めて目撃した。

 モンスターの巣窟内で、スゴく女子っぽい会話が

繰り広げられている所を。

 シノヅカさん、食い付き過ぎだろ。


 盛り上がるのは良いんだけど、早いとこボスを

倒しにいかないと。

 頼むからプチ女子会はそれくらいにしてくれ。


 新たな心強いメンバーが加わり、俺達は洞窟の

深部へと進むのであった。

 ──アリシアは上手くやっているだろうか。



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