王様はすぐ頼み事をする
休憩から30分ほどで、俺達はロンディ村へ
辿り着いた。
「早く依頼内容を聞いて、さっさと終わりに
しましょ」
「いや待て。その前に食べ物買ってくる」
俺は辺りを見回して店を探した。
「食べ物なんか後で良いでしょ。討伐の内容を
聞いてすぐ取り掛からないと」
「良くない、俺の体は滋養を求めているんだっ」
「お昼の事でそんなムキになって」
「良好なコンディションを保つ為に、食事を摂る
のは大事なんだろ?」
俺は商店らしい店構えを見つけ、走った。
店にはおばちゃんがいた。店主だろうか。
「なんか食べ物ありますか?」
「ああごめんね。明日にならないと仕入れの品が
来なくて、これくらいしかないんだけど」
おばちゃんが出してきたのは干し芋だった。
干し芋かあ。空きっ腹にこれ?
嫌いじゃないけど、これだけってのもなあ。
不満はあったが、15枚あるだけ買っておいた。
これは携行食に向いている。
もしアリシアが食べ物を切らして譲ってくれと言って
きたら、断固拒否しつつ目の前で食ってやろう。
ハハハ、恐れ戦け、食べ物の恨みは深いのだ。
今俺、凄く小物くさい事考えてるなあ。
俺は自分の矮小さを自覚しつつ、3人と村長の家に
向かった。
「私が村長です」
後退した頭髪を帽子で隠した、白髪の男は
そう自己紹介した。
「はじめまして、村長さん。タツキです」
「今回はお世話になります。このところ、また
モンスターが増えましてな。一昨日だったか、
襲われた者もいて、大事には至らなかった
もののこのまま見過ごす訳にもいきません。
なので、北東にある洞窟から湧き出てくる
モンスターの討伐をお願いしたいのです」
村長の家で依頼されたモンスター討伐。
奇をてらわない基本に忠実な依頼内容だ。
派手さはないが、逆に趣さえ感じる。
俺はゲームのタイトルを問わず、RPGで
この手のイベントを幾度となくこなしてきた。
非常にポピュラーでお約束感に溢れている。
村人の相談を聞くというのは定番中の定番。
困っている人がいたら快く力になるという、
プレイヤーの懐の大きさを表現するには
持って来いのイベントだな。
それはそれとして。
か弱い村人が頼んでくるなら分かるのだが、
よくいる突然頼みごとをしてくる王様とか、
どうなんだって俺は思う。
地位も肩書きも持たない流れ者の冒険者に、
国の今後に関わるレベルの悩みを打ち明ける
王様とか、ホントにそれで良いのかと。
そんな王様がいる場合、城の出入りは自由で、
門から城内を道順に進み、階段を順に登って
行くと、誰かに咎められる事もなく王の間に
入って話が出来る。
何となく入城してきた者が、約束も無しに
謁見できるってどんだけ気さくなんだと。
本来容易に顔も見られないのが王族だろうに。
しかも挨拶に来ただけなのに、話が始まると
唐突に王様のお悩み相談が始まったりして、
ねえなんとかしてくれない? とこう来る。
王に頼られるのは誇っていい事なのだろうが、
立ち寄った部外者に頼まなきゃいけないほど、
あんたの家臣は頼りないのかと。
モンスター討伐や近隣ダンジョンの探索くらい、
自前の軍隊でどうにかしないと、税を払ってる
国民からの支持や信頼が失われるのでは?
などと、どうでもいいツッコミを考えていると
村長が洞窟内部の地図をくれた。
これでマップに洞窟の構造が表示されるはずだ。
「あなた達以外にも、近くの村から依頼されて
洞窟周辺で動いている異界人の方がいるという。
何かあった時は協力でも──」
「村長!」
言い終わる前に、家に飛び込んできた者がいた。
若い男性──村の入り口にいて話し掛けると延々
村の名前を言ってきそう──そんな感じの村民だ。
「大変だ! トムとムクが出かけたまま帰って
こないんだ! おばあが結構前に、北に向かう
道を歩いて行ったのを見たって!」
何? 緊急事態的な?
イベントの趣向とか、そういう事じゃないよな。
むむむむ、と村長が唸る。
「何事なんです? そのトムとムクというのは?」
俺は緊迫した空気を読んで、聞いた。
「2人は村の子供です。きっと北にある洞窟に
行ったんです、そこには薬になる特別な薬草が
あって、2人が遊び場にもしていた」
「遊びに行っただけなんじゃ?」
「そこには行くなと言っておいたんです。前まで
安全だったその洞窟は、少し前の地割れで北東の
洞窟と一部繋がってしまったみたいで。そこから
もしモンスターが入り込んでいたら、あの子達に
危険が! ああどうしたら、一体どうしたらぁ!?」
「えー、という訳でですね。依頼が増えました」
俺は会議で議題を説明する司会のように言った。
現在俺達は村の広場で緊急作戦会議中だ。
「モンスター討伐と子供の保護をやるのですね?」
「そうだ。モンスターを倒す、子供達も助ける。
両方やらなくっちゃあいけないってのがプレイヤー
のつらいところだ」
「それなら私が子供を見つけに行くわ」
アリシアが立候補した。
「1人でか?」
「ええ。討伐は3人で行ってもらうのが最適だと
思うけど」
彼女は説明を始める。
「北の洞窟は浅いし、村人も何人か探しに出ると
言ってる。北東のモンスターは規模が分からないん
だから人数がいた方が良いでしょ」
それが恐らくベターだろう。
別パターンを考えても、モモ1人で探しに行ったら
多分迷いそうだし、トオコに人探しが出来るのかも
分からない。
俺が単身行っても構わないが、アリシアが協調性を
持って2人と行動出来るか疑問だ。
1:3で人員を割いて行くのが良策と見た。
「じゃあ、早速別れて行動しよう」
「頑張りましょう! こんな時こそ、チームワークで
乗り切るのです!」
モモが張り切った。
それはうちらに1番足りてないものなんだよなあ。
間も無く、4人は村の北側から出発した。