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冒険者達の集い  作者: イトー
俺達は仲間になりたい
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村への道

 

「まずは2人と合流。それから村に行って、

モンスターの居場所を聞いてから討伐だ」

 俺はすぐ前を歩くアリシアに言った。


 ここはルーゼニア王国の北西に位置する、

グレーデル国。

 森林が多く、気温は肌寒いくらい。

 だから俺は鎧の下に厚めの防護服を着ている。


 国の北方にある街セルタットから近所の村に

向かって、俺達は歩みを進めていた。


 この辺りはモンスターが多い。

 定期的に増えて、人を襲ったり農作物を荒らす。

 しかし騎士団や軍隊が出張るほどではないので、

こういった仕事はプレイヤーに任されていた。


「……そうね」

 依頼の内容など言われなくても分かっていると、

そう言いたげに、アリシアは振り向きもしない。


 さっきからコミュニケーションを取ろうと試みて

いるが、芳しい返事は1度もない。

 これでは1人で延々喋っている頭がおかしい奴か、

彼女のストーカーか何かだと周囲から思われかねない。


 変質者か犯罪者なんかに誤解されたらたまらない。

 俺はメンタルは強いが世間体は気にする。

 誰だって、変な目で見られるのは嫌だろう。


 むしろ犯罪者だと言うなら、いきなり俺を掴んで

投げてきた、彼女が傷害罪に問われるはずだ。


 最初の接触が暴力。

 これほど最悪なファーストインプレッションが

あるだろうか。1番やっちゃいけないやつだ。


 しかしそんな事で不愉快になっても虚しいだけ。

 だからこうして穏便にコミュニケーションを

取ろうと、努めている。


 努めてはいるのだが、なしのつぶてだ。

 俺は組んだ相手に深入りはしないが、冒険中の

コミュニケーションは大事にする。

 それがクエストの円滑なクリアに繋がるからだ。


 しかし彼女とは言葉のキャッチボールが成立

していない。

 アリシアにとって仲間とは、コンビニで貰う

レシートくらいの価値しか無いのだろうか。



 それならそれで仕方ない。

 俺は自分のやるべき事をやろう。

 アリシアの前に、俺は走り出た。


「ここからは俺が先頭で警戒する」

 2人は林道から森の中へと入り始めていた。

 モンスターとのエンカウントがグッと上がる。


「……別にそういうの良いから。気が散る」

「良くないだろ。俺は今でこそフェンサーだが

忍者の経験だってある。警戒能力においては、

猟犬のタツキと呼ばれているんだ」


 俺をそう呼んでいるのは主に俺自身だ。

 一般的には自称とも言うかもしれない。

 俺は神経を尖らせ、周囲に目を配りながら歩く。



「なんか、猟犬って言うより、お腹を空かせた

野良犬がうろうろしてるみたい」

「おい、その言い方はないだろ。謝れよ」


「野良犬に?」

「俺にだよ」

「……ええ。今の失言、海よりも深く反省したわ」


「いや、改まってそんなに深く反省しなくても」

「いいえ、反省したわ。水深10911メートル

くらい」

「マリアナ海溝かよ!」


 やっとコミュニケーション取れたかと思ったら、

こいつ実はふざけてるな。

 クールなのは表面上だけなんじゃないか。

 美形なだけに逆に表情から意思が読み取れない。



「ん、モンスターの反応だ」

 警戒スキルを発動させていた俺の眉間の辺りに、

ググッと来るものがあった。


 木陰から現れたのはウィローマン5体。

 古びた枯れ木に低級の邪霊が宿り、人型になって

襲ってくるモンスター。通称木人(ぼくじん)だ。


「木人、この程度なら相手じゃないわ」

「そうだな。倒しても拳法の腕は上がらないが」

「……なに?」

「いや、知らないならいい。行くぞ」


 アリシアは白百合の長剣を抜き放った。

 細身で無垢な剣身を持ち、素早さにボーナスの

付く武器だ。


 だがレアリティはそれほど高くない。

 身に付けている防具も、俺の市販の鎧よりは

レアだが逸品というほどのものでもない。


 ライオの話だと、彼女はレベル不相応の装備を

たくさん持っているというような話だったが。


 アリシアの剣が閃くと、3体のウィローマンが

切り裂かれ、ガラガラと木屑に戻った。

 こちらも負けてはいられない。


 俺も腰から長剣を抜いた。

 ブレイズブランド・レプリカ、伝説の火炎剣の

模造品だが性能は十分だ。


 炎属性が弱点のウィローマンとは相性が良く、

俺は残りの2体とも一撃で倒した。

 属性のフォローが無くとも手こずるような相手

ではないが。


「このくらいの相手なら、警戒しなくても大丈」

 俺が言い切る前に、アリシアの剣が俺の背後を

突いた。


 振り向くとそこには、多分茂みから飛び出して

来た、膜のある羽が生えた蛇型のモンスター、

ウイングスネークが串刺しになっていた。


「悪いな」

「野良犬じゃないんでしょ。しっかりして」

 アリシアが剣を払うと、死骸は消滅した。


 彼女の剣捌きは達者だと認める。

 それはそれとして、仲間の背中をカバーする

動きは、パーティーでの戦闘方法を熟知して

いるという証だ。


「君は長い間、ソロで戦っていると有名だよね」

「あなたも、自分はソロが中心だって、今までの

道のりの中で3回くらい言ってたようだけど」

 そんなに言ってたっけ。まあそれはいいや。


「君はいつからソロなんだ? パーティー戦の

立ち回りがしっかり出来るって事はそうやって

戦ってきた経験があるって事だよな」


「………」

「何かきっかけがあって、ソロになったのか?」


 彼女はしばし沈黙を続け、そして

「そういうあなたは、何故ソロをやってるの?」


 質問を質問で返された。

 テストの答案用紙に質問を書いたら減点だ。

 だが彼女から理由を聞くには、自分から話して

おいた方が良さそうだ。


「俺は、強いて言えば人間不信かな」

「人間不信?」


「ああ。始めたばっかりの頃、仲良くなった人が

いたんだが、俺が超低確率で敵からドロップする

レアアイテムを手に入れたら、まだ価値や相場

なんて分からない俺に、二束三文のアイテムを

渡してきて、これと交換しよう、悪くない話だと

言って、半ば強引に持ち去られたんだ」


「鮫トレね」

「そうだ。それからゲームの中で仲良くするのに

抵抗があってな。いつまでもしみったれた話を

してんなって言われそうだが」


 俺は冷笑されるかと思ったが、アリシアは眉根を

寄せ、黙り込んでしまった。


「どうかしたか?」

「……いいえ」

 どこか動揺が見えたので、俺は彼女から理由を

聞くのを後回しにしようと思った。


 何も相手の過去をほじくり出してまで聞く事では

ないのだ。

 今は、クエストを共にする2人と合流を急がねば。


 俺達は森の道を進んだ。


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