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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
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帰港

 

 クルーザーがヨットハーバーに戻ってきた頃には、

日はとっぷりと暮れていた。

 帰路は順調であの渦の姿はどこにもなかった。

 海に掛かっていた妨害魔法が消えたせいだろう。


「さすが精鋭揃いね、よくやってくれたわ!」

 出迎えたフェリーチャが、下船するメンバーに

労いの声を掛けた。


「ヨシュア、お疲れ様。例のデモンズタワーに

比べたらどうって事なかった?」

「ダンジョンそのものはそれほどの難易度では

なかったよ。ただ予想外の出来事がいくつも」


「予想外? 危険だらけのダンジョンをクリア

したあなたでも、そう思うような事があったの?」

「それは後で詳しく話す。今は攻略に参加した

メンバーを(くつろ)がせてあげたい」


 フェリーチャは次に、やたらボロボロになった

ユウキと護衛チームに目をやった。

「ユウキどうしたのそれ、防具もワンドも劣化して

服は砂まみれだし。何と戦ったの?」


「ちょっとな、しぶといのとやり合ったんだよ。

これの修理は全部そっち持ちだったよな」

「そういう契約だからね、今からでもすぐ工房に

回して直すけど」


「フェリーチャさん、俺の防具もお願いします」

 独特のイントネーションでまさおが言った。

 手には、ズタズタで血まみれの鋼の胸当てが。


「うわっ。これはちょっと修理不可能ね」

「そんなぁ、これ俺の一張羅やのに」

「もう直せないから新調しちゃって良いわよ。

折角だから鋼鉄の鎧でも持っていって」


「おお! ツーランク上の防具やないですか。

さすが大商人、太っ腹やなあ!」

「しっかり働いてくれた人にはケチケチせず

払うもの払う。まあ、当然のことよ」


 そう、当然だろう。

 人を使う上でごく当たり前の事である。

 労いと報酬を怠らない姿勢こそ、会社組織を

束ねる者の心構えと言える。


「しかし、何と戦ったらそんなボロボロに

なるのかしら?」

 装備の修理は全部ギルドが持つと言ったが、

フェリーチャの予想を超えていたらしい。


「まあ、その説明は後でしてもらうとして。

これから祝勝会をやるから、ギルドベースに

一旦集まってね」


「よぉし! 一番乗りしてたらふく食うぞ!」

「あたしも腹が樽になるくらい酒飲むぜ!」

 まるで疲れを知らない子供のように、くろうと

ラリィが駆け出していった。


「俺達も行こうか」

 勇者の凱旋、と言うほど格好良くはないけど。

 ユウキは一仕事を終えた達成感を感じながら

歩き出した。




 フェリーチャ商会の拠点、その豪華な客間で

祝勝会は開かれた。

 会とは言っても、(かしこ)まったものではなく、

攻略作戦の参加者だけのパーティーだ。


 テーブルには山海の幸がこれでもかと並べられ、

世界各地の酒も用意されている。

 調理に時間の掛かる物も多くあり、フェリーチャが

成功を信じて事前に準備させていたのが分かった。


 一切の装備を外し、ラフな私服へ着替えた彼等は、

食事の時間を楽しんだ。

 参加者にはメリッサと商船護衛隊の面々もいる。



「ま、俺からしたらどうってこたぁねえ塔だったな。

骨のあるダンジョンではあったが」

「それスケルトンが多かっただけにって言うんでしょ?」

「オチ言うなよ、パーティーを盛り上げる最高に面白い

ジョークが台無しだろう?」

「なにが最高よ。氷属性が弱点のモンスターだったら

即死するレベルよ、それ」


 好物の茹でたエビとカニをむしゃむしゃ食べながら、

くろうがリーリンに言った。

 一般にカニを食べていると人は無口になると言うが、

彼は例外のようだ。



「うーこりゃ効くなあ。こっちのはどうかなあ?」

 ラリィはここぞとばかりに片っ端から酒を飲んで、

空き瓶製造マシーンと化していた。


「ラリィさん、最低限の節度は持ってくださいね」

「んー? 働いた後のただ酒ほど美味い物はない

からなあ。まだまだこんなもんじゃねえぞお」


「そんなにガバガバ飲んでるの、ラリィさんだけ

ですよ」

「関係ねえだろ。あたしはアルコールポイントが

減ると終いには動けなくなるんだよ」

「ないですから、そういうステータスは」


 2人のやり取りを見ながら、ベガが笑った。

 このクエストを乗り切った2人はレベルも上がり、

心なしか自信がついたようだ。

 喜ばしい成長を酒の肴に、ラリィは酒を飲んだ。



「はい、これ」

「ありがとう」

 ユウキは隣のアキノが小皿に取ってくれた料理を

受け取った。


 数値上のHPは最大値まで戻ったが、体中に負った

ダメージはまだ残っているらしい。

 島にいた時はまだ緊張感でしっかりしていたが、

街に入ってからはドッと疲労の色が濃くなった。


 こんな時にそばで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる

アキノの温かみが、ユウキには何とも嬉しかった。


 そんな彼女とは対照的に、冷ややかな顔をして杯を

傾けているのがケンだった。


 気の良い吟遊詩人なら即興で弾き語りの1つも披露する

だろうが、それどころか、彼からは自分に関わるなという

オーラがにじみ出ていた。



「ソーク様がお見えになりました」

 皆と宴を楽しんでいたフェリーチャに、部屋に入って

きたカタリナがそっと耳打ちした。


 フェリーチャが軽く服装を正し、入り口のドアの前に

立つと、召使いを連れた1人の男が現れた。

「ソークさん、わざわざこちらに足を運んでいただき、

ありがとうございます」


 フェリーチャが礼を述べた50代の男──ソークは、

彼女と同じくかなりの異装だった。

 獅子のたてがみで作られた帽子、ゴートレザーの上着、

ラメのような光沢のある鱗で編まれたズボン。


 キマイラをそのまま服に仕立てたような服装のソークは、

「いやいや、災いを取り除いてくれた方々を労うのは

商人衆の代表として当然の事だ」

 と言って、テーブルに近付いた。


「はじめまして、異界人の方々。私は商人衆の代表を

務めているソーク。この度は我々の願いを聞き入れて

もらい、見事災いを放つ塔の制圧を達成されたとの事。

これでこの海域の安全は保たれ、支障の出ていた海運も

元通りになるでしょう。この街で正常に交易が行われる

という事は、国益が守られたと言っても過言ではない。

それは国力の充実、国交の安定、多くの市民の安寧(あんねい)にも

関わる事柄であり、あなた方の功績は、勇者や英雄と

呼ばれるに相応しいものだ。カーベインの商人ギルドを

代表して、ここに感謝の意を表したい」


 ありがとう、とソークは深々と頭を下げた。

 日本サーバーのプレイヤーの流儀に沿ったのだろう。

 感謝を受ける側としても、その心遣いはありがたい。


 ユウキ達はその姿を痛み入る思いで見た。

 プレイヤーの事を第一に考え、今回の作戦に参加した

ユウキだったが、商人衆側も彼等として守りたいものが

あったという事だ。

 1人1人と握手を交わし、ソークは帰っていった。



 その後、各々が食事を楽しんだ。

 くろうが腹が太鼓のようになるまで料理を食べ尽くし、

ラリィが大分出来上がった辺りで、


「そろそろ宴もたけなわ、って感じなんで。この辺で、

双角の塔で何が起こったのか報告してもらえるかな」

 居住まいを直し、フェリーチャが言った。


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