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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
59/173

黒屍竜を討て

 

「さて、一か八かになるが」

 ユウキは4人がエレベータールームに入ったと同時に

準備を始めた。


 魔法の効果が一定時間アップする魔術酒を1口煽り、

高所からの落下ダメージを和らげるアブソーブリングを

2つ──効果を重複させるため──指にはめた。


「さすがに高いよなあ」

 眼下には魔法の効果か、気候なのか、雲海が出来て

おり地上の様子は確認出来ない。


 下を覗き込んだ後、彼は最上階の縁から約10メートルの

位置に立った。

助走(・・)はこんなもんで良いかな」


 助走をつけるとは、つまりそういう事だ。

 誰もがまさかと思うだろう。

 そのまさかを彼はやろうとしている。


 彼の狙いは簡単に説明するとこうだ。

 この塔から飛び降り、降下しながらドラゴンゾンビを

魔法の射程内に捕捉し、致命的な一撃を加える。


 しかし説明していたら、そんな馬鹿な真似は()せと

仲間から止められていただろう。

 プレイヤーは死亡してもすぐ復活するが、それにしても

あまりに現実的では無いからだ。


 どんなに大急ぎで塔を下りようとも、魔術師メリッサが

生きている間に戻れる可能性はかなり低いだろう。

 なら一か八かに賭ける、ユウキはそう考えたのだ。


 やり方はドラゴンゾンビが降下していく姿を見て、

それとなく思い付いた。

 我ながら馬鹿な発想だとユウキは思う。


 別に命懸けの行動をする事で、ドラゴンゾンビを

逃した責任を取ろうという訳ではない。

 そういう、個人の名誉やプライドとは全く別物の

感情が彼を突き動かしている。


 危険な行いであろうと、塔の攻略を成功させて、

一刻も早く世界中のプレイヤーを繋げたい。


 胸の奥から湧き上がる、そのがむしゃらとでも

言うべき信念がユウキの背中を押していた。

 自分でも驚くくらい、強い思いの力で。


 数々の魔法とアイテムの効果、それらを上手く

組み合わせれば上手く行くと信じている。

 根拠は全く無いのだが、彼は確信していた。



「スカイダイビングどころか、バンジーだって

やった事は無いけど」

 ユウキはスタンディングスタートを取り、

「行くぞっ!」


 全力疾走で駆け出した。

 タッタッタッタッと最上階に足音だけが響く。

 3メートル、2メートル、1メートル、

「ホッパージャンプ!」


 ユウキの足が一瞬光り、彼は縁のブロックを

思い切り蹴ってジャンプした。

 その飛距離はおよそ30メートル。


 ホッパージャンプ──キックホッパーという、

バッタ型のモンスターから得られるスキルで

ジャンプでの移動が可能となる。

 魔術酒の効果で飛距離は通常の2倍だ。


 ここままでは、ただ飛び出した勢いのまま

地面に激突する。

 だが、

「フローテア!」


 降下を始めたユウキの体が、若干だが速度を

落としながら滑空し始めた。

 上位魔術師が使う本格的な飛行魔法ではなく、

対地震攻撃用の浮遊魔法。


 この世界に来てから面白半分で練習していたが、

これなら落下中に着地ポイントを定めるくらいの

飛行と姿勢制御は可能なはずだ。


「よし、まずは上手くいった。このまま落ちる前に

ドラゴンゾンビの上を取らないと」

 のんびりはしていられない。ユウキは飛んでいる

のではなく、緩やかに落下しているのだ。



 高度は地上120メートルを切った。

 まだ上から見下ろした時にあった雲の中にいて、

薄っすらとしか地上は見えていない。


 空中停止やバックは出来ず、紙飛行機のように

真っ直ぐ進みながら降下していく。

「やつは海岸にいるはず、あっ!」


 砂浜に雷撃のフラッシュが見えた。

 ライトニングブレード発動時のエフェクトだ。

 アルスが戦っているのか。


 彼のレベルでは無謀だが、やぶれかぶれや蛮勇で

考えなしに挑むようなアルスではないはず。

 雲を抜け、海岸を見渡せる位置にまで来ると、


「アルス! ああ、剣を当てた!」

 雷鳴が轟き、ドラゴンゾンビの足が切断される。

 ぐらつくドラゴンゾンビだが、頭突きでアルスを

弾き飛ばした。


 死んでいないだろうが、恐らく戦闘続行は無理だ。

「こうしちゃいられない! 早くやつにぶち当てる

あれの発動をしないとっ」


 ユウキは岩壁近くから走り出してきたベガの姿を、

歯がゆい思いで見ながら、構えに入った。

 両手を胸の前で合掌し、対象を破壊するイメージを

思い描く。


「きたぞ、きたぞ!」

 両手を押し退けるように、手の間からエネルギーが

溢れ、ボール状に膨れ上がった。

 周囲に放電を起こす、赤黒いバスケットボール大の

魔法弾をユウキは押さえ込むように保持する。

「くぅ、今にも暴れ出しそうなパワーだ!」


 こうしている間にも高度は落ちている。

 浮遊魔法を機能させつつ、別系統の術を同時に使用

するには、大変な集中力が求められるのだ。


「あれだけ離れてるなら、今すぐこいつを──あっ!」

 ドラゴンゾンビが紫の瘴気を放ち、ジャンプした。

 空気のポンプで跳ねるカエルのオモチャのように、

上から見ると滑稽な姿だが、岩壁近くへ跳躍したのだ。


 ドラゴンゾンビは首を前へと倒し、猛毒のブレスを

放つ構えに入る。

「あの距離はまずい! アルス、聴こえるか!?」




(アルス、聴こえるか!?)

「ユウキさん!?」

 絶体絶命の中、突然開いたチャットウインドウに

アルスは面食らった。


(皆と一緒に今すぐそこから離れてくれ! あの

ブレスを浴びたら終わりだ! それにそこにいると

俺が上から叩き込む攻撃の巻き添えになる!)

「上から!? あっ!」

 アルスは見上げ、上空にユウキの姿を認めた。


(離れるんだ! 岩壁近くのあの岩まででいい!)

 アルス達一団から20メートルほど奥へ行った所に

5メートル前後の岩があった。


「わ、分かりました。皆、あの岩まで走ってくれ!」

 大口を開けたドラゴンゾンビの姿に死を覚悟していた

護衛隊だったが、走れば助かるかもしれない、という

生存本能に身体が反応した。


 スナイパーの銃口のように、逃げるメリッサに標的を

絞ったドラゴンゾンビは、首をそちらに向ける。

 この危機的状況の中で幸運があった。


 ライトニングブレードの電撃がドラゴンゾンビの体内に

留まり、部分的な機能不全を起こさせていたのだ。

 標的を追い切れず、ドラゴンゾンビは無理矢理、体を

(よじ)り出す。

 だが左前足しか残っていない状態ではその動きも鈍い。


「走って! 早く!」

「アルス、ああっ」

 足をもつれさせたベガがつまづいた。

「ベガ!」

 アルスが倒れそうになった彼女の腕をしっかり掴み、

岩の後ろへと引き込んだ。



「よし! 行けるぞ!」

 ユウキは最大威力の直撃を狙う。

 彼は意図的に降下を早めた。

 高度30メートルまで来ると、


 魔法弾を両手で押さえ込み、それを右の脇腹横へと

持ってきて、更に魔力を注ぎ込む。

 数条の閃光を放ち出したその破壊エネルギーの塊は、

ますます密度を増していき、そして、


「行くぞ! お前等、ドラゴン種の親玉から覚えた

1番の大技だ!!」

 ユウキは両手を突き出すと、限界値まで高められた

魔法弾を放つ。


「ドラゴンエンドノヴァ!」


 放たれた魔法弾は、戒めの鎖を解かれた魔獣の如く、

荒々しく空を疾駆し、ドラゴンゾンビへ襲い掛かる。


 背中に直撃したそれはドラゴンゾンビの体を、巨人に

鉄槌を振り下ろされたかのようにひしゃげさせると、

「ギュアアアア!」

 悲鳴ごと包み込んで、ドーム状の爆発を起こした。


 30メートル近い巨体が残さず飲み込まれる大爆発。

 耳をつんざく轟音、島そのものが揺れる震動。

 爆炎の中にドラゴンゾンビのシルエットが浮かび、

皮膚や肉片が剥がれ飛んでいく。


「おっおわぁ!」

 凄まじい爆風、そして魔法のノックバックを受け、

ユウキは何かに殴られたように弾き飛ばされた。


 爆発の衝撃で塔からの落下速度を減速させる、までを

計算に入れていたが、魔法の威力が想像を超えていた。


「ぐはっ!」

 ユウキは墜落(・・)し、波打ち際に叩き付けられた。

 グキャ! と体中の軋む音が背骨から頭へと響く。

 何ヶ所もの骨折、加えて内臓へのダメージも免れない。


「ううぅ。や、やつは……やつは仕留めたか!?」

 口から血を流し、ずぶ濡れになりながら上体を起こす。

 砂煙と爆煙に視界を塞がれた砂浜を見ていたが、



「なっ!?」

 紫色の瘴気が噴出し、周囲の煙を消し飛ばした。

 その噴き出した瘴気の中心部には、


「そんな、あれで、倒せなかったなんて……」

 全身が焼けただれ、皮膚は溶け落ち、筋肉組織は

炭化して黒煙を上らせている。

 双眸は蒸発、両の翼は燃え尽き、それでもなお──。


 ドラゴンゾンビは健在だった。

 アンデッド相手に健在と言うのは違和感があるが、

撃破し切れていないならそう言うしかない。


 大部分が白骨となったが、その体内では負の力で

動く心臓が未だ、偽りの鼓動を打っている。

 活動を止めていないのだ。


 何より驚く事に、ブレス発射を継続しようとしている。

 首は再び、岩の向こうにいるメリッサへと向けられ、

牙の焼け落ちた口が開き、このままではブレスが──。



「ハアァァッ!」

 岩壁の上から現れた蒼白の鎧。

 陽光の剣を構えたヨシュアがドラゴンゾンビを目掛け、

飛翔した。


「セイクリッドソード!」

 聖なる光を放つ剣がドラゴンゾンビの腐肉を、背骨を、

肋骨を断ち切り、負の心臓へと突き刺さった。


「ギュアアアアア!」

 文字通り、負の魔力を宿していた心臓部を貫かれた

ドラゴンゾンビは、天を仰ぎながら濁った断末魔を

上げると、グズグズと体を崩壊させていった。



「やった、やった……」

 ユウキはうわ言のように言うと、ガクリと砂浜に倒れ、

「これで攻略が、できる……」

 彼の意識は暗闇の中へと沈んでいった。


ドラゴンエンドノヴァの打ち方は、かめはめ波とかストナーサンシャインとか、そういうイメージで。

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