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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
53/173

最上階を目指し

 

 ユウキ達が塔1Fを突破した頃。

 魔術師メリッサを護衛するCチームも、想定より

集まってくるモンスターを相手に戦っていた。

 メンバーはアルス、ベガ、まさお、隊員2名と、

船の動力部の調整を終えて合流したキャプテンだ。



 岩のような甲羅を持つ、ヤシガニと似た外見の

ロッククラブとまさおは対峙していた。

 全長1メートル以上、攻撃性は高いが強敵では

ない。しかし仲間を呼ばれると厄介だ。


「どりゃあ!」

 まさおはハンドバトルアックスで甲羅を叩き割る。

 両手で扱うバトルアクスを手斧の大きさにまで

ダウンサイジングした武器で、厚みのある両刃は

破壊力が高く、闘士系に人気の戦斧(せんぷ)だ。


 彼のすぐ近くで、アルスが海砂ザメのグループと

戦闘を始めていた。

 大きさは60センチほどで、のこぎり刃のような

鋭利な背びれと鋭い牙を持っている。

 サメ映画の演出よろしく、背びれを砂から出して

3体が砂浜を泳ぎ進んでくる。


 砂が盛り上がり、グワッと1匹目が飛び出す。

 彼はアイアンガード──支給された鉄盾──で防ぎ、

宙に浮いたところを剣で払った。


 続けて飛び出した2匹目を横から串刺しにしたが、

「ぐあっ!」

 同時に死角から迫っていた3匹目の背びれで左の

二の腕を切られてしまう。


 痛みを堪え、地中を旋回してくる砂海ザメを待ち、

「たあ!」

 突撃を切り払いで迎撃し、これを倒した。



「ああ、(はよ)うあの子に治してもらわな」

 まさおが負傷の程度を見ていると、結界の中から

ベガが駆け出してきた。

 メリッサを守る結界は海から50メートルほどの

位置にあり、砂浜は目と鼻の先だ。


「大丈夫?」

「うん。ちょっと血が滲んでるけど」

 鎧の下に着る、防護服の上から切り裂かれたのだ。

 無防備状態を狙われたが、この程度で済んだのは

アベルからもらったリングのおかげかもしれない。


「ヒール!」

 ベガが両手を添えると、痛々しい腕の傷が徐々に

塞がっていく。

 彼女の回復魔法は護衛チームの生命線だ。


「あっちも頑張ってくれてる」

 アルスが岩場付近に目をやると、護衛隊の3人が

サハギン達を相手に奮戦していた。


 エルドラド人はプレイヤーより戦闘力が劣ると

言うが、商船護衛隊だけあって海のモンスター

相手の戦いはアルス達より手馴れた感がある。

 あれなら応援に行かなくても大丈夫だろう。


 アルスの傷は完全に治癒した。

 まだ多少ヒリヒリするが、すぐ治まるはずだ。

「ありがとう。もう大丈夫だ」

「うん。無理はしないでね?」

「気を付けるよ。こうやってベガがいてくれる

おかげで、僕も安心して戦える」


 まさおはやり取りをしばらく眺めていたが、

「……彼女なん?」

「え、別に、そういう関係じゃ」

「ふーん、ついさっき知り合った俺から見ても、

随分と仲がええなあと」

「私とアルスは一緒にゲームを始めて、そこから

ずっと、助けてくれる仲間だったから」


 あたふたする2人を見て、まさおが笑う。

「一緒にて、リアルでも知り合いなん?」

「学校が同じなんですよ、それであの」

「ええなあええなあ、青春まっさかりやなあ」


 アルスはどうもこの手の話が苦手だ。

 話を変えようと、

「まさおさんはリアルではどんな生活をして

たんですか? 関西のかたなんですよね?」

「関西人違うがな」


「え、だって」

「ああ。俺な、キャラでこの喋りやっててん。

本物の関西人から、間違ってるとか、エセは

見てて腹立つとか言われててんけど、続けて

たんや。で、こっち来たらこの喋りが抜けん

ようになっててなあ。別に何も困らんけど」


 職業や設定は強い個性として焼き付くらしい。

 リアルの自分と、この世界でキャラとしての

自分は、純粋に同じものとは呼べないのかも

しれない。


「あっちも片付きそうやし、一旦一息つこか。

船から運び込んだアイテムに、何か飲み物が

あったはずや」

「ええ、お茶か何か……あ、待ってください!?」

 アルスは波打ち際を指差した。


 海から上陸してくるものがいる。

 大きなハサミに揺れ動く触覚、ガシャガシャと

足を鳴らし、青黒い巨体をした、それは──。

「……ウソやろ」

 まさおが呆然と呟いた。




 ユウキ達は6Fに到達していた。

 連動する仕掛けも頻繁にあるというわけではなく、

モンスターを倒しながら最短ルートを探すという、

純粋な探索がメインになっていた。


 現在、上に通じる階段があると思われる部屋の

前で5人は立ち往生していた。

 扉が開かないのだ。

 と言っても、室内に扉を開けるための仕掛けが

あるのは分かっている。

 右の塔で、ヨシュア達が似た作りの部屋を突破

しているのでヒントは得ている。


「床のどこかに、スイッチがあるんだよなあ」

 ラリィがしゃがみ込んだり、床を確認するように

1ヶ所1ヶ所踏んでその在りかを調べていた。

 仕掛け発見スキルが無ければ協力する事も出来ず、

ユウキは窓から外を見た。


 上下左右からみっしりと圧迫されるような石造りの

ダンジョンには、今まで窓が1つも無かった。

 だがこの部屋には左右に窓が付いていた。

 ユウキの背丈ほどで肩が出せる程度の大きさだが、

光と換気があるだけで気分も変わってくる。


 外を眺めて初めて気付いたのは、2つの塔が上に

行くに従って細くなっているという事だ。

 左の塔は左に向かって細く、右は右に向かって。

 ちょうど洒落た花瓶のような感じだ。

 下から見上げたり、遠くから眺めた時はそんな

外観だと気付かなかった。


「私にも見せて」

 アキノが言うので、ユウキは横にずれて譲った。

 新鮮な空気が吸いたいのもあるだろう。

 塔内は澱み、さっきまでは霊体系モンスターの

エビルスピリットやファントムと戦っていた。

 こんな場所にいては陰気にもなるというものだ。


「きゃっ!」

 突然、アキノが悲鳴を上げた。

「ちょ、ちょっとユウキ」

「?」

「お尻とか太ももとかそんな、あっ、いきなり

触らないで」

 やわやわと下半身を揉まれ、指を這わせられる

ような感覚を彼女は感じていた。


「え、俺は何も」

「なんだあ? 人が必死に仕掛け見つけてる時に

ちちくり合ってる奴がいんのか?」

「違うって、だから俺は何も」

 ユウキはアキノの腰の辺りを確認した。


 そこには、ユウキが誤解を受ける原因がいた。

「こいつ、うごめく影だ!」

 アキノのニーハイソックスから腰の辺りにまで、

黒い影のようなものが絡み付いていた。

 気付かれたのを悟ったのか、それはするすると

床に下りると、定まらない形で壁を登り出す。


「レイシュート!」

 ユウキが魔法の矢を放つ。

 壁を這っていた黒い塊はそれを食らうと、体を

大きく震わせ、消え去った。

 うごめく影は人の恐怖心と負の魔力が重なって

生まれた、妖怪のような存在だ。

 危険性は低いが全くの無害というわけではない。


「あんなのがいたんだ……。ユウキ、確かめずに

疑っちゃってごめんなさい」

「いや、俺じゃないと分かればいいよ」

 ミニスカートや絶対領域を見て、触りたいか、と

聞かれたら、彼も聖人君子ではないので、正直に

言えばYESだが、やっていない事はやっていない。


「ここに仕掛けがあるはずだ」

 探し当てたのか、ラリィは床をタンタンと踏む。

 そして、予想した場所に、水筒の水をまいた。

「後からはめ込まれた部分には溝が出来るんだ。

残った水を見れば仕掛けの位置が分かる」


 ラリィはおもむろに作業用ナイフを取り出すと、

床に突き刺した。

 先端をゴリゴリと押し込み、てこの原理を使い、

一部分をくり抜くように持ち上げた。


「よし、当たりだ」

 漫画の単行本ほどの大きさのブロックを外すと、

その下には隠しスイッチがあった。




「あんなもんが島におるなんて聞いとらんで。

どないしよう、結界まで逃げるか?」

 まさおが慌てて、アルスに意見を求めた。

 海から上がってきたのはブラッドロクスタ。

 船上に現れたモンスターで、彼等のレベルでは

かなりの難敵となる。


 アルスはしばし逡巡し、

「戦いましょう。2人でやれば何とかなるはず」

 彼の決断は蛮勇や過信ではない。

 決して楽では無いが、倒せない事もない。

 それにあのレベルのモンスターに居座られると、

他のモンスターとの戦いに集中出来なくなる。


「なら一気に仕留めるで。先手必勝や!」

 2人は走って、接近戦となる距離まで詰めた。

 ブラッドロクスタは4本の触覚を大きく振って、

駆け寄ってくる2人を迎撃する。

 フレキシブルに動く触角は攻撃が読みづらく、

くろうのようにひらりとは行かない。


「うりゃあ!」

 まさおが走りながらのシールドチャージで

触覚を弾き返し、超接近戦で勝負をかける。

「これでどないや!」

 闘士のスキル、オーバースイングで思い切り

振り被ってからの斬撃を放つ──が。


 右のハサミが渾身の一撃を挟んで受け止めた。

 斧を引き抜こうにも、ビクともしない。

 もがくまさおの横で、左のハサミが大きく

開かれ、それが彼に向かって急激に加速し、


「たあっ!」

 回り込んでいたアルスが、左のハサミをその

付け根から切断した。

 怯んだ隙にまさおは斧を奪い返し、大振りを

顔面に叩き込んだ。


 青い血液を飛び散らせ、ブラッドロクスタは

大きく仰け反った。

 だがこれではまだ致命傷にならない。

 アルスはくろうの立ち回りを思い出し、背中の

甲羅へと飛び乗ると、


「くらえ!」

 逆手で握った雷帝剣を、思い切り突き下ろした。

 だが──

「な、なんて堅さだ!?」

 剣が甲羅に弾かれた。

 くろうはアサシンで習得した、急所を的確に狙う

スキルで、殻と殻の間を貫いていたのだ。


 ただ闇雲に刺すだけではダメージは通らない。

 アルスは集中して甲羅の継ぎ目を見つけ出す。

「ぐわあ!」

 まさおが盾ごと殴られ、弾き飛ばされた。

 ブラッドロクスタは体勢を整えると、尻尾を

持ち上げる。トゲでアルスを狙う気だ。


 急所まで一気に貫かなければ倒せない。

 甲羅にかすって、わずかに剣先がずれたら?

 刺したところで、この剣が通じるだろうか?

 決意に不安が混じる、躊躇が決断を鈍らせる。


「アーマーウィークス!」

 防御力を低下させる魔法が掛けられた。

 放ったのは、覚えたてのベガ。

 戦いを挑んだ2人を、援護しに来ていたのだ。


「アルス! これなら!」

「うおお!」

 雑念を捨て、再度アルスは剣を振り上げた。

 無意識に込めた力が雷帝剣の力を引き出す。


 ズガアッ!


 剣は甲羅を砕きながら深々と突き刺さり、

刃から放出された雷撃がブラッドロクスタの

体内を駆け巡った。


 ブラッドロクスタは体を大きく仰け反らして

動きを止めると、そのまま力尽きて倒れた。


 背中から跳ね落とされたアルスは、砂の上で

体を起こす。

 四つん這いで、荒い呼吸をしながら勝ちを

噛み締めた。

 ギリギリの辛勝、だが勝利には違いない。


「やった、なんとか……!?」

 彼は波打ち際を見て、言葉を失った。

 そこには新たなブラッドロクスタの姿が。

「皆さん、早く戻ってきてください……!」

 喉元まで出た弱音を飲み込み、アルスは

自分の剣へと走った。




 8F最後の部屋にユウキ達はいた。

 扉の近くには、床に設置されたレバーがあり、

ユウキはそれに手を掛けている。

 これも一緒に動かさないといけない、連動の

仕掛けのようだ。


 ヨシュアとチャットで息を合わせ、

 3、2、1

 で同時に引いた。


 ガコンと音がして扉が開く。

 扉を(くぐ)ってみると、部屋の中央には

丁度5人で乗れる円柱のゴンドラがあった。

 ゴンドラの中には何やらスイッチのような

ボタンが付いている。


「これは、エレベーターだな」

 ユウキが分析した。

 ワイヤーなどで吊ってあるわけではないが、

魔力で上下させる仕組みだ。

 他のダンジョンでも見た覚えがある。


 これ以外に上に登る手段は無い。

(こちらもこれで上がってみる事にするよ)

 ヨシュアが言った。

 他に選択肢は無く、ユウキ達も乗る事にした。


 ゴンドラに乗り込み、出入り口をしっかりと

閉め、上昇を意味するボタンを押した。

 ゴンドラが動き出し、エレベーター特有の

あの体が引っ張られるような感覚に襲われる。


「かなりスピードが出ているようだな」

 リュウドが言った。

「ああ、相当な速度で上がってるのが分かる。

もしかしたら行き先は最上階かも」


 1分と経たないうちにゴンドラは減速しだし、

目的階の床の穴から室内へと入るような形で、

その階へと到着した。


 見渡すとそこは小さな部屋だった。

 ゴンドラの乗り降りの為の部屋なのだろう。

 目の前に高さ3メートルほどの両開きの扉が

ある。他には何もない。

 ユウキがそれを開けると、

「なんだ、ここは?」


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