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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
52/173

双角の塔3F

 


「ハアッ!」

 ヨシュアが輝く剣を振るう。

 シャインブレードが神聖な青白い軌跡を宙に残し、

スカルナイトを鎧ごと切り裂いた。


 全身を鉄製の防具で覆っているスカルナイトだが、

斬撃を受けた途端、薄紙が数秒で燃え尽きて灰に

なるようにボロボロと崩れていく。


 彼はこの聖剣でデスルーラー、ノーライフキングと

いった不死者のボスを数多く滅ぼしてきた。

 所謂雑魚モンスターではひとたまりも無い。


 アベルも両端に刃を持つ槍、デュアルランサーを

構えて鎧姿の骸骨と対峙する。

 スカルナイトは防具一式に加え、鋼鉄の剣で武装

している。

 騎士をトレースした剣術を使い、動きも単調では

なく油断ならない。


 スカルナイトは首筋を狙い、剣を振り下ろす。

 アベルはこれを穂先で跳ね上げ、胸を鋭く突いた。

 幅広な槍身が鉄の鎧を貫き、背中まで突き破る。

 そこから瞬時に前の手を順手に持ち替え、一気に

斬り上げた。


 頭頂部まで真っ二つに割られたスカルナイトは

何とか踏み止まろうとしたが、さらに縦回転を

加えた一撃を浴びせられ、地に伏す。

 倒された2体は防具の欠片を残し、消滅した。


 追ってきた8体はこれで全て撃破した。

 近距離戦で対応したヨシュア、アベル、くろうは

呼吸1つ乱していない。

「新手が来るまで少しゆっくりしよう」

 緊張感をほど良く保ちつつ、ヨシュアは剣を

鞘に収めた。

 閉まったままのドアの前で5人は一息ついた。



 ここは右の塔3Fの途中。

 モンスターの集団を物ともせず、順調に歩を

進めてきたヨシュアのパーティーだったのだが、

現在この開かないドアの前で待機中であった。


 ドア横の壁に埋め込まれた宝玉に触れる事で、

ドアが反応して開閉する仕掛けのようなのだが、

これは彼等だけでは開けられないらしいのだ。

 触れても宝玉の右側だけが光り、左側は暗く

なったまま変化がない。


 決してくろうの鍵開けや仕掛けを見抜く能力が

足りていないという訳ではない。

 多分、左の塔に類似した宝玉の仕掛けがあり、

そちらと同時に操作を行う仕組みなのだろう。

 パーティーを分けてそれぞれがスイッチを押す、

という、これと似た仕掛けをヨシュア達は知って

いた。


「ゲームだったら左右の塔が連動した仕掛けは

面白いんだろうが、実際足並み揃えてってのは

結構面倒なもんだな」

 両手を頭にやって、くろうが壁に寄り掛かった。

 彼等は今、ユウキ達の3F到達待ちである。


「向こうも懸命にやっているよ。折角だから、

こちらは休憩時間にさせてもらおう」

「ヨシュア、体を休めてね。作戦とは言っても、

魔法の援護もなく、前衛だけでこのフロアまで

来たのだから」


「心配いらない、敵はまだ無傷で倒せるレベルだ。

君達にはMPを温存しておいてもらいたい」

 エルザ、リーリンは戦闘に参加していない。

 後々、残しておいた力を発揮するタイミングが

必ず来ると予想できるからだ。


「……いるだろうな、ボスが」

 アベルは兜のバイザー越しに天井を見上げた。

 その目はきっと、最上階にいるであろうものを

見抜こうとしている。


 イベントの仕上げに、クエストの達成直前に。

 それらのタイミングでボスが配置されているのは、

古今東西、あらゆるRPGで常識だ。

 今回も例外ではないだろう。


「魔族が僕等プレイヤーを妨害する為にこの塔を

建てたのなら、それなりのボスはいるはずだ」

「しかしよ、それにしちゃあ出てくるモンスターは

雑魚だよな。俺達じゃなくても、しっかり対策を

練ってくれば誰だってクリアできるぜ?」

「そうそう。絶対守るつもりなら、もっとこう、

グレーターデーモンとかドラゴンとか配置してさ。

必死感が足りてないっていうかね」


 ヨシュアはふと考える。

 ゲームは難易度のバランスが大事だが、これは

ゲームではないのだ。

 やろうと思えば、塔を強靭な魔物で溢れさせたり、

島に入れない結界を張るなり方法はあるだろう。


 他に意味でもあるのだろうか?

 あらゆる可能性を考えようとしたが、ヨシュアは

考えるのを止めた。

 今は塔の攻略の事だけに集中しなくては。


 そこにユウキからのチャットウインドウが開いた。

(ユウキです。こっちも3Fの宝玉の仕掛けが

あるドアに辿り着きました)

「お、早いじゃないか。さっき2Fに入ったって」

(マップに無かった隠し通路を見つけたんです。

2Fのショートカットですね。最初の偵察隊は

リサーチが甘かったんですよ)


 2つのパーティーはタイミングを合わせ、宝玉に

タッチした。

 左右の塔内にある宝玉がゆっくり数回点滅すると、

ガチッとロックが外れるような音がした。

 扉が開閉可能となり、彼等は奥へと進んだ。



 左の塔。

 扉の奥へ入ったユウキ達だったが、そこは天井が

20メートル近くある部屋だった。

 入り口から30メートルほど進んだところにある、

真正面の壁に扉がある。

 壁は10メートルくらいの高さで、その上には

そこそこ奥行きのある空間があるようだ。

 便宜上、下の部屋、上の部屋とする。


 下の部屋は左右、奥行き共に30メートル程度。

 正面の壁の高さに合わせたように、左右の壁の

高さ10メートルの位置には、ガーゴイル像が

並べて設置されていた。

 上の部屋は入り口からでは確認しようがない。


 まずは扉から調べてみるか、と進もうとすると、

ガチャンと重量のある金属が擦れる音がした。

「ダークアーマーだ」

 3メートルある、負の魔力で自律行動する全身鎧。

 兜のバイザーのスリットから赤黒い光が漏れる。

 その様は起動した殺人マシンのようであった。


 所々に石像が置かれているダンジョンだったので、

皆それが動き出すまで気付かず、オブジェの一部

だと誤認していたのだ。

 左右の暗がりから現れた2体のダークアーマーは、

その巨躯に似合ったブロードソードを右手に持ち、

ズンズンと重々しく歩いてくる。


「私が1体片付ける。もう1体は任せた」

 そう言うと、リュウドは刀を抜いて踏み込んだ。

 ダークアーマーは緩慢な動きで剣を振り上げると、

力一杯それを振り下ろした。

 ドガァ! と床が砕け、その破片が飛散する。

 リュウドの姿は、そこには無い。


 碧鱗の侍は、標的の頭上に跳んでいた。

「兜割り!」

 大上段の構えから気合一閃!

 兼光は兜を叩き割り、鎧を斬り、床で止まった。

 蝉の抜け殻のように体を切り開かれてしまった

ダークアーマーは、ガシャアと耳障りな金属音を

立てて突っ伏した。


 鎧そのものであるダークアーマーは高い防御力を

誇るが、頭部には、機械で言うところの制御装置に

当たる魔法石が組み込まれている。

 ずばり、弱点はそこだ。


 ケンはリュウドに倣うように駆け、跳んだ。

 手にした長剣には既に炸裂魔法が付与されている。

「……」

 またしても無言で剣が振るわれた。

 2体目のダークアーマーも1体目を倣うように、

剣を空振りし、頭を割られ、地面に転がった。

 見た目こそいかついが、強敵ではない。



「こいつぁ、さっきのと同じタイプの扉だな」

 正面の扉を調べたラリィが言った。

「開けるためのスイッチが近くにあると?」

「そういうこった。まあ、上だろうな」


 ラリィはぐるっと辺りを見回し、

「あれを使えば登れそうだ。ちょっと見てくらあ」

 と言ってガーゴイル像の下に行った。

 腰のツールポーチから細いロープを取り出すと、

それを壁の窪みに置かれた像目掛けて投げた。


 ロープの先にはフックが付いているらしく、

像の台座に巻きついてしっかりと固定された。

 ラリィは、よっと声を上げると、スルスルと

登っていく。

 山地などで役立つクライミングスキルだ。


 登り切ると彼女は像に掴まりながら、

「ああ、あった。奥の壁に宝玉がはまってる」

 そう言ってから下に手招きをして、

「誰か1人来てくれ。ダークアーマーが2体

守ってる。あれを始末しねえと」


「私が行こう」

 立候補したリュウドは素早くロープを登った。

 ニンジャで会得した体術の身軽さが生きる。

 登り切ろうとした、その時、


 カンッ!


 と、ガーゴイル像に太い矢が突き刺さった。

「あぶねえ! あいつ弓タイプだ」

 ダークアーマーには強弓を引く者もいる。

 壁伝いに上がってくる者を迎撃する想定で

持たされたのだろう。


 ヒュンヒュンッ、ヒュンヒュンッ


 2体が矢を射り始めたのだ。

 次々と飛来する矢を避けながら、2人は

石像から上の部屋へとジャンプで辿り着き、

「にゃろお! ガラクタにしてやるぜ!」

 威勢の良い叫び声と共に、ユウキ達からは

見えなくなった。


「あれもどうせ、向こうの塔と連動してるん

だろうな。急がなきゃいけない場面なのに、

面倒な仕組みもあったもんだ」

 ユウキがぼやいた。

 2人がしくじるとは爪の先ほども思っていない。

 だからこそこぼれる、のん気な愚痴である。


 奥から響いていた戦闘の音が止んだ時、

「あれは」

 と珍しくケンが口を開いた。


「新バージョンのダンジョンに採用される

予定だったギミックなんだ。ギルド単位で

挑むダンジョン、そういうコンセプトから

生まれたアイデアだ」

「へえ。ん、それどこから出た情報ですか? 

公式のウェブやゲーム雑誌でも見かけた事が

無いような」

「……スタッフ、の中に知り合いがいるんだ。

そこからな」


 スタッフの友人知人経由で、未発表の情報が

世に出回る事は何度かあった。

 彼の情報源もそんな所なのだろう。

 何とも言いがたい、妙な違和感は残ったが、

ユウキは深く考えないようにした。


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