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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
51/173

双角の塔1F

 

 塔の中は密度さえ感じる闇で満たされていた。

 窓はなく、火を灯した燭台も無く、明かりと呼べる

ものが存在していない。


「トーチ!」

 アキノがトーチの魔法を使った。

 光球が頭上に浮かび、パーティーの照明となる。


 だが、それでも闇は払い切れず、5人の周囲を

照らすにとどまった。

 しかしこれで周りを確認する余裕が出来た。


 通路は幅7メートル弱、天井は4メートルほど。

「ここはまとまって動くべきだろう」

「ああ。前衛はリュウド、ケン、ラリィの3人。

後衛は俺とアキノ。このシフトで行こう」

 ユウキの指示で隊列を整えた。

 警戒スキルを発揮しつつ、戦士系が前を固める

というセオリー通りだろう。


 5人はダンジョンを進み始めた。

 道幅は決して窮屈ではないのだが、石のブロックで

組まれた壁と天井は圧迫感がある。

 その上トーチに照らされた分、端々に闇が生まれ、

空気に重みを増していた。


「なんかここ、嫌な匂いね」

 アキノが鼻をヒクつかせ、顔をしかめた。

 確かに空気が澱んでいてカビ臭い。

 最近偵察隊が入ったと言うが、数百年ものあいだ

外気が入っていない遺跡の中のようだ。


「暗い、怖い、臭いはダンジョンにゃ付き物だ。

この匂いを嗅ぐと逆に調子が出てくるってもんだ」

 前衛の1歩前でラリィが言った。

 隠し通路や仕掛けを探し当てるシーフやローグには

慣れっこの空気なのだろう。


 入り口から50メートルで最初の角を右に曲がり、

続いて右、左、右と順調に進んでいく。

 3階まではマップがほぼ完成している。

 上の階に向かう道は何通りかあるようだが、安全

かつ最短のルートをユウキは選択していた。


「良いペースだな。トラップとかモンスターとか、

そういう反応は無いか?」

 事前に、モンスターが多い、色々仕掛けがある、と

説明されていた割にはスムーズだ。

 

 聞かれたラリィは、

「まあまだ1Fだからな。この辺はさくっと」

 そこまで言うと、

「いや待て、ストップだ」

 手を横に出し、パーティーを止めた。


 立ち止まった全員の目が、自然と前に集まる。

 そこで誰もが異変に気付いた。

 前方の暗闇の中に、小さな火が灯っている。

 最初はロウソクか何かかと思ったが、その火は

すぐ2つになり、4つになり、6つ、8つ、10──。

 更に増え続け、あっという間に30を超えた。


「モンスターの出迎えだぜ。皆、構えろ」

 ラリィの目は既にその姿を捉えているのだろう。

 人魂や鬼火の類だろうか?

 ──いや、違う。

 暗闇からガチャガチャ音をさせながら近寄って

きたものは──。


「ボーンソルジャーか」

 骸骨系のアンデッドモンスター。

 落ち窪み、真っ暗な両の眼窩に炎が宿っている。

 ロウソクの火に見えたのはこれだ。

 負の魔力がドクロの中で燃え盛っているのだ。


 同種下位のスケルトンは素手か、有り合わせの

武器を持っているだけだが、ボーンソルジャーは

なめし皮製のメットと盾と胸当てを装備しており、

武器は長剣、棍棒、手斧などだ。

 どれも中古屋にさえ並ばないような、ボロボロの

ジャンク品だが、それでも相応の攻撃力・防御力は

持っている。


「またゾロゾロと出てきたものだな」

 リュウドが兼光をすらりと抜いた。

「数出てこなきゃ、この手のモンスターはカッコ

つかねえだろ」

 ラリィもショートソード、グレイヘロンを構える。


 アキノはセレスティアルロッドから精神力で作った

槍の穂先を出した。

 聖属性の武器だ、負の力には特効のはずである。


 ユウキはワンドを構えながら、

「ケンさん、あなた吟遊詩人の歌スキルの聖歌か

鎮魂歌は使えないか? あれならアンデッド相手に

大ダメージを」


 ケンは島に着いて、初めて口を開いた。

「まだ覚えていない。だがこれで十分だ」

 鞘から右手で剣を抜き、顔の前で水平に持つと、

 左の掌で剣身をなぞっていく。

 手の後を追うように、剣は真紅の炎をまとった。

「エンチャント・ファイア……完了」


 最初に踏み込んだのはラリィだ。

 早業スキルから放たれる、高速の一撃。

 斬撃は皮の鎧を易々と貫き、ボーンソルジャーは

肋骨から胸骨へと切り裂かれて倒れた。

 ──だが。


「ちっ! これだから厄介なんだ」

 舌打ちするラリィの前で、傷など意に介さないと

ばかりに起き上がってくる。

 人間なら確実に致命傷だろう。

 生きた人間ならば。


 一般的なモンスターの生態は動物に近い。

 痛みを感じれば警戒し、時に恐れ、逃げもする。

 生者は生の証である痛みを感じる事で死を予感し、

恐怖するのだ。

 だがアンデッドはそれが欠落している。

 体を裂かれ、皮膚が剥がれ落ち、たとえ腕や足が

千切れようとも向かってくる。

 奴等は体の損壊に怯まず、襲い掛かってくるのだ。

 アンデッドモンスターの脅威は、既に死んでいて、

死を恐れないことである。


「イヤァ!」

 リュウドが唐竹割りで相手を真っ二つに断ち割る。

 ボーンソルジャーはバラバラになって、そのまま

装備品ごと消滅した。

 一概には言えないがこのくらい損傷を与えないと、

通常武器ではアンデッドを倒し切れない。


 ケンが無言で長剣を振るう。

 エンハンスソードの軌跡に火の粉が舞った。

 最初の一振りで2体のボーンソルジャーが炎上し、

返す刀で更に1体が炎に包まれる。

 カラカラに干乾びた白骨体である奴等は、爆発に

近い勢いで燃え、骨の欠片となって転がった。


 ボーンソルジャー達もやられてばかりではなく、

動作は荒いが攻撃を仕掛けている。

 武器を振りながら前進し、反応しきれる攻撃は

盾で防御、という基本的な動きで集団を維持し、

人海戦術で5人を食い止めているのだ。


「ちっとも減らねえな、めんどくせえ!」

 ラリィは拾い上げた手斧を投げ付け、胸当ての

下の背骨を切断した。

 アキノが転がった上半身を突いて、トドメを刺す。

 通路に詰め込まれているのかと疑いたくなるほど、

奥から次々とボーンソルジャーが出てくる。


 アンデッドモンスターは憎悪や無念の思いから

自然発生するタイプも多いが、何者かが死体に

魔力を注いで生み出し、戦力として使役されて

いるものも多い。

 目の前に現れた者達も恐らくそうだろう。


 アンデッドを使役し、戦力として活用する利点の

1つは、死体の再利用にある。

 墓を荒らすなりすれば幾らでも材料が手に入る。

 質より量という言葉があるが、手軽に一定の量を

揃えられるという点が、アンデッド使役のメリット

だと言える。


「おい、ユウキ! なんかでかい魔法でドカンと

吹き飛ばせ! きりがねえ!」

 ファイアボールなどで応戦していたユウキに対し、

ラリィが注文を付けた。

「こんな狭い場所じゃ爆風がどう広がるか」

「良いからやれ! 時間が無くなる!」


 こんな所で時間を使ってはいられない。

 ユウキはとっさに決断し、ワンドを構えた。

「プロミネンス弾!」

 炸裂する火炎弾を放つ特殊技だ。

 グワッ! と1メートル近い火の玉が発射された。


 のたうつ炎をまとった火の玉が先頭グループの

ボーンソルジャー達を一瞬にして炭化させると、

勢いを失わずに集団の中央に突っ込んで爆ぜた。

 飛び散った炎は火柱となり、それに巻き込まれた

モンスター達は体の大半を焼失させて崩れ落ちた。



「うう……あれはここで使っちゃダメだってばぁ」

 尻餅をついて足を大きく開き、見方によっては

大変扇情的な格好でアキノが言った。

 爆発魔法は敵味方問わずにノックバック効果が

発生し、それで吹き飛ばされて転倒したのだ。


 受け身に失敗したのはアキノだけで、他の者達は

しゃがみ込んで上手くやり過ごしたようだ。

 リュウドが着物に付いた燃えカスを手で払っている。


 ユウキはアキノを助け起こすと、

「上手い具合に片付いたな。これでロスタイムを

フォロー出来る」

 通路はボーンソルジャーの残骸で溢れ、動く者は

いない。完全に全滅状態だ。


 ユウキは戦闘で一時閉じていたマップを開く。

 次の角を曲がれば、2階に上がれる階段がある。

 進行状況を連絡しておこう、とチャットを開いた。


「こちらユウキです。ヨシュアさん、こちらは

これから2階に向かいます」

(……こちらヨシュア。僕等は今3階に向かう

ところだ。そちらは無理せず進んでもらいたい)


 さすがは高難易度ダンジョンを幾つも突破してきた

強豪パーティーだ。

 急ごしらえのユウキ達のパーティーとは違い、長年

組んできたメンバーだけあって、連携行動に無駄が

無いのだろう。


 スピードを競い合ってるわけじゃないが、こちらも

負けてられないな。

 ユウキは隊列を整えると、焦げた白骨と武具の残骸を

踏み越え、2階へと進んだ。


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