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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
50/173

名も無き孤島、そして塔へ

 

 船は島の南にある、最初の偵察隊が桟橋岩と名付けた

──船を係留出来る岩場──ポイントを目指した。

 島をぐるりと迂回し、あと100メートルも行けばその岩に

辿り着くという所で、

「俺が一番乗りだ!」


 くろうが船首で叫び、海面へとジャンプした。

 ドボンと着水するかと思いきや、彼は海の上を駆けた。

 まるで水切り遊びで水面を跳ねる石のように。

 水遁術スキルの1つで、短時間だが水上やぬかるんだ

フィールドを徒歩で移動出来る。

 これはニンジャマスターだから為せる業である。


 くろうは見事、岩場まで走破した。

 そして辺りを見回してから、頭上に両手で丸を作った。

 どうやら安全を確保するために先行したらしい。

 一番乗りしてはしゃぐ、小学生じみたメンタルという

わけではないようだ。


 座礁に注意しつつ、船はピタリと岩場に横付けされた。

 島から50メートルほど突き出た長方形の桟橋岩に、

攻略隊と護衛隊員、そして魔術師メリッサは降り立った。

 ユウキがマップを確認し、ある事に気付いた。


「あれ? この島はフィールド扱いじゃなくて、島自体が

1つのダンジョンとして扱われてるみたいだ」

 マップには『名も無き孤島』と表示され、ダンジョン内を

示す洞窟のアイコンが表示されていた。

 島そのものがダンジョンなのであり、その中に塔という

別ダンジョンが存在する、という構成なのだろう。


 彼等は岩場を抜け、砂浜に着いた。

 目の前に海が広がり、反対側には岩壁がそびえ立っている。

 岩壁の上には森があり、そこから、景観を損なう異様な塔が

こちらを見下ろしていた。

 あれが無ければ、海水浴が楽しめそうなビーチだ。


「ベースは、そうだな。岩壁を背負う形にしよう。全方位を

警戒しなくて済む」

 ヨシュアの指示でベースが作られる事となった。

 と言っても、何かを建てるわけではなく、ここを一時的な

拠点にするのだ。


 結界石という小石を四方に設置して、セーブフィールドの

魔法でエルザがその場を結界とした。

 結界はモンスターの侵入を防ぎ、安全をキープ出来る。

 帰還魔法が使えるようになれば、ダンジョンの最深部から

瞬時に帰れる即席のポイントとしても使用可能だ。


 だがフィールドとダンジョン内では術の効果時間が変わり、

前者は半日近くだが後者は1時間ほどだ。

「皆さんが攻略に向かう間、僕達がメリッサさんを守れば

良いわけですね」

 装備を念入りに確かめながら、アルスが言った。


 ユウキがうんと頷く。

「頼むよ。1時間を過ぎたらその結界は消える。結界内は

安全だけど、モンスターが集まってきたら外に出て、適度に

倒したほうがいい」

 どれだけ集まるかは不明だが、余裕があるうちに片付けて

おけば、最悪、囲まれる展開は避けられるだろう。


まさおが関西弁らしきイントネーションで、

「ユウキさん、モンスター退治なら俺に任してください。

ギタギタにのしてやりますわ」

 と胸を叩きながら言った。

 実力を過信してはいないだろうが、なかなか頼もしい。


「堅実な立ち回りが要求される。油断無きようにな」

 リュウドが言うと、

「はい。リュウドにいさんもお気をつけて」

 同種族だが、血の繋がりも無ければ、武術の弟弟子(でし)でも、

ましてやお笑い芸人の先輩でもないのだがな。

 リュウドは困惑したが、一応うむと返答しておいた。


「ベガ、無理はしないでね。ヒールは対象と回数を的確に。

MPが減ったら、遠慮せずにマジックポーションを使って」

「は、はい! がんばります!」

 アキノに助言され、ベガは両手でスタッフをぎゅうと握った。

 メリッサを守り切れるか否かは、前衛を回復できる彼女に

掛かっていると言っても過言ではない。


「私は解術に備えて、魔力を温存しなければなりません。

出来るだけ、結界が残っている間に塔の攻略をお願いします」

 Cチーム3人と護衛隊2人の後ろでメリッサが言った。

「分かりました。さあ、急ごう」

 ヨシュアが先導し、攻略隊は塔に向けて出発した。


 岩壁沿いに山の裏側まで行くと、そこに切通しがあった。

 切通しとは通行できるように岩などを掘削したものを言うが、

ここは天然の通路なので呼び方としては誤りだろう。

 だが人工物のように、岩場に綺麗な道が形作られていた。

 モンスターを警戒しながら、くねくねとS字の坂道を進むと、

10分足らずで小山の頂上部分に出た。



 そこだけ木々の無い、開けた場所に塔はあった。

「これが、双角の塔か」

 ユウキは塔を見上げながら、その名を呼んだ。

 石で造られた塔で、所々に今にも動き出して襲ってきそうな

異形の石像が設置されている。

 高さは不明だが、外周は400メートルはあるだろうか。

 それが50メートルほど離れ、並んで建っている。


「なんだか、とても不自然なところね」

 エルザが辺りを見渡しながら言った。

 不自然だと感じるのは環境のせいだろう。

 山には緑が生い茂っているのに、塔の周囲から一定距離は

先日除草されたばかりのように草木がないのだ。


 それはまるで、都市を開発するシミュレーションゲームで、

整地した空き地にポンと建物だけ置いた状態に似ている。

 ある意味、そのたとえに近いのかもしれない。

 塔にはツタが絡まり、年季を感じるが、昔から建っていた

わけではなく、ある日突然ここに現れたのだ。


「そうだ、フェリーチャに連絡しておこう」

 皆が観光客のように塔を見上げる中、ヨシュアがパーティ

全員で閲覧可能な共有チャットウインドウを開いた。

「こちらヨシュアだ」

(……はいはい、フェリーチャよ。首尾はどう?)

「途中、海上でモンスターと遭遇したが問題は無かった。

無事に上陸してベースを作り、僕等は今、塔の前にいる」

(いよいよね。あなた達ならやれると信じてるわ)


 あっさりした会話だが、最初の報告は終了した。

 戦闘力に乏しいフェリーチャは、ダンジョンで前線指揮を

取る事も戦闘で活躍する事も出来ない。

 だが彼女は攻略作戦の立案者であり、支援者でもある。

 こちらはその期待に全力で応えなければならない。

 それが現場を任された者の務めである。


「これから突入する。僕等は……奥の塔を担当しよう。

ユウキ君達は手前を探索してくれ」

「分かりました。仕掛けが連動してるって話ですから、

チャットは開きっぱなしで行きましょう」

 ヨシュアは了解すると、パーティーと共に、向かって

右の塔に歩いていった。


「よし、俺達も行こう」

 4人は頷き、各々武器を準備した。

 吟遊詩人ケンの武装はエンハンスソードだ。

 見た目はオーソドックスな長剣だが、精神力と魔力に

ボーナスが付く。

 それ自体が魔法を放つ魔法剣ではないが、その性質上、

魔力の伝導率が高い。

 魔法を付与して戦う魔法戦士のスキルには最適だろう。


「なんだよ、鍵も掛かってねえや」

 入り口のドアに取り付いたラリィがぼやいた。

 2体のガーゴイル像に挟まれた両開きのそのドアは、

高さ3メートルほどで塔の規模に比べれば小さい。

 その上、仕掛けも無いとくれば拍子抜けだろう。


「何も無いに越した事はないよ。さあ、行くぞ」

 開け放たれたドア、奥に広がるは仄暗(ほのぐら)い闇。

 5人は塔の中へと足を踏み入れた。


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