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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
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襲い来る難所

 

「揺れるぞ! 何かに掴まるか、船室に入ってくれ!」

 操舵輪を持つキャプテンが叫ぶ。

 その声が合図かのように、船体が左右に揺れだした。


「おいおい、なんだ難所ってのは。聞いてないぜ」

 くろうが船首から跳び、デッキの中央に立った。

 さすがのバランス感覚で揺れを物ともしていない。


「島にある程度近付くと、渦が巻いているところがある。

そこを抜けるのが一苦労なんだ!」

「渦? プロなら上手く避けて通れば良いじゃねえか」

「避けられねえ、渦がこっちを追って来るんだ!」


 くろう他、デッキにいたメンバーが海を見た。

 さっきまで穏やかだった海面に、いつの間にか幾つもの

渦が巻いている。

「最近はあの塔に近付こうとすると、海流そのものが変化

するんだ。上陸を邪魔するようにな」


 こちらから渦に入って行ったのではない。

 どこからともなく現れた渦に囲まれたのだ。

 キャプテンの話は、そういう意味だろう。

 決して天候の変化で海が荒れ出したのではない。

 現に数キロ離れた位置を航行している船には、これと言う

変化は見られない。

 海流の変化もあの塔からの妨害のうちか。


「すげえな、鳴門の渦潮のでっかいやつだ」

 ごうごうと音をさせ始めた渦に、くろうが漏らした感想は

何とものん気だ。

 よほど度胸が据わっているか、アトラクション程度にしか

思っていないのだろう。

 仲間からすれば前者であってもらいたいが。


「よし……突っ切るぞ!」

 キャプテンが操舵輪を操作すると、船は渦へと突入した。

 操縦を奪われる前に、魔法石調整用のレバーを引く。

 魔法石が反応し、高出力でスクリューが回転し始めた。

「だ、大丈夫なんですか!?」

 アルスが手すりに掴まりながら聞いた。


「やれる、こいつは最新型だぞ! この船のパワーなら

突っ切れるはずだ!」

 冒険者と言えど、スキルが無ければ船の操縦は出来ない。

 今はキャプテンに任せるだけだ。


 船体を揺らしながら、クルーザーは前へと進む。

 キャプテンの操舵能力と、新型エンジン搭載のこの船の

性能がかみ合っての前進だ。

 もう少しで渦の群れから逃れられる。

 あと十数メートル、あと数メートルで──


 ドォン! 


 衝突音がして、ガクンと船体が縦に揺れた。

「座礁でもしたと言うのか!?」

 リュウドがキャプテンに駆け寄るが、

「いや、この辺にぶつかるような岩はねえ。あれはっ」

 彼の言うあれ(・・)が水柱を上げ、船首をよじ登ってきた。



 手すりを踏み潰しながら海から登ってきたのは、

「ブラッドロクスタか」

 ユウキが脳内のモンスター事典を紐解いた。

 8メートルはある、ロブスターかザリガニかといった形で、

長い触角を複数持ち、色は青みがかった黒。

 トゲのある甲羅に身を包み、ハサミには名前の由来と

なった、血飛沫を浴びたような赤い斑点がある。

 甲殻類をモチーフとした水棲モンスターだ。


 カシャカシャと足を鳴らし、デッキに上がってくる。

 そして威嚇するように、両のハサミを上げた。

「速度が落ちたのを見計らって、這い上がってきたか。

あいつに乗られてちゃ船を上手く動かせねえ!」

 キャプテンと護衛隊員が舶刀カットラスを抜き放ち、

対応しようとすると、

「ここはこの俺に任せな」


 くろうがモンスターの前に立ちはだかった。

「かかって来い、ザリガニ野郎。ハサミを持ち上げて、

なんだ? スルメでも欲しいのかあ?」

 挑発など理解できないが、目の前に現れた獲物に対し、

ブラッドロクスタは攻撃姿勢を取った。


 ムチのようにしなった4本の触覚が、鋭い風切り音を

させてくろうを狙う。

 ヒュンッと音を立てて迫る刺突の連撃を、彼は紙一重

でかわした。

 間髪置かず、ハサミでの攻撃も放たれる。

 見た目によらず素早い上、巨木をもへし折るパワーで

挟まれたら取り返しのつかない事になる。


 これも彼はひらりと回避した。

 そこには危機感など微塵もない。

 素早さと回避を高めたニンジャマスターにとっては、

この程度の攻撃など児戯に等しい。


「随分と活きの良いエビだな。エビ料理は大好物だが!」

 影も残さず彼の姿が消えた。

 跳躍したと周囲が気付いた時、彼は既にモンスターの

頭上5メートルにいた。

「こいつぁ、煮ても焼いても食えねえな!」


 忍者刀コガラスが抜き放たれた。

 ブラッドロクスタは逸らした尾びれからトゲを発射し、

捕食者の本能で迎撃する。

 だが落下を開始したくろうは、その対空攻撃の軌道さえ

見抜いていた。


 ──ズガァ!


 逆手で握られた刀が胴体に深く突き刺さった。

 甲殻の継ぎ目を狙い澄ました、心臓部への一撃。

 くろうが飛び去ると、ブラッドロクスタは青い血液を

噴き出させ、そして──力尽き、消滅した。


「さすがはプレイヤーだな。あの魔物に成す術もなく、

無残にやられた者を何人も見てきたが」

 操舵輪と苦闘しながらキャプテンが、

「これで難所から抜け出せるぞ、もう魔物は──」

 そう言った矢先、再び水柱が上がった。

 それも7本も。


 海からデッキ上に現れたのは半魚人サハギン6体に、

新たなブラッドロクスタ1体。

「エビ料理のおかわりは頼んでないんだがな」

 くろうがぼやきつつ刀と手裏剣を構えるが、

「くろうさん、俺に任せてください」

 ユウキが前に出た。


 向かってくる妨害者は果断に撃破する。

 塔の攻略を一刻も早く終わらせるために。

 ユウキはワンドを構えた。

「衝雷波!」

 高等モンスター雷竜が放つ、雷属性のブレス攻撃。

 荒れ狂う雷撃がユウキの眼前を放射状に薙ぎ払う。


 登場から1分と経たず、モンスター達は消し飛んだ。

 水棲モンスターの弱点は雷と相場は決まっているもので、

そこを突けば瞬殺は容易い。

 そうでなくともオーバーキル気味の威力ではあったが。


「よし、今度こそ魔物は壊滅だな。渦を突っ切るぞ!」

 キャプテンの気合と共に、船は加速した。

 流れに逆らい、ようやく渦の外へ抜けると、まるで渦が

追撃を諦めたかのように海が静まった。

 難所を脱したのだ。



 再び、船は穏やかに航行し始めた。

 モンスターの襲撃で多少の破損は見られたが、支障を

きたすほどではないようだ。


 ユウキは1人、島を眺めていた。

 島にそびえる、双角の塔を。

 あと数分で到着する距離にまで近付いているせいか、

塔に掛けられた遮断魔法は効果していないようだ。


「君は表情が変わったな」

 話し掛けてきたのはヨシュアだ。

「僕に相談してギルドを離れたあの時より、何倍も

良い顔をしている。瞳に輝きが戻ったようだ」

 当時のユウキは倦み疲れた顔をしていた。

 それは本人も自覚している。


「塔の攻略が終わったら、君に話があるんだ」

「話? 何なら今でも」

「いや……今はまだ、今は攻略に集中しよう」

 肩をポンと叩き、ヨシュアは船室へ消えていった。


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