表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
47/173

ミーティング

 

「酔っ払い? ひやかしなら丁重に断ってきてね」

「かしこまりました、では」

 退室するカタリナをユウキが呼び止めた。

「その酔っ払いって、もしかして獣人じゃないか? 

レベルの高くない仲間を2人連れてて」

「はい。獣人の女性です」


「知り合いか何か?」

「ああ。多分、前の街で会ったローグだ」

「! シーフの上位職じゃない」

「シーフとしてのスキルは十分だし、レベルも装備も

申し分ない。募集の話になった時に、この街に来たら

参加してみようかって言ってたんだ」


「ホント? そういう事なら話は別よ。カタリナ、

早速呼んできて」

 一礼するとカタリナは部屋を出て行った。

 よく働く有能な秘書である。

「そんな優秀な人材がいるなら、先に言ってくれれば

良いのに」

「ちょうど今言おうとしてたんだよ」


「お待たせしました、こちらの方です」

 部屋のそばまで呼んであったのか、カタリナはすぐに

戻ってきた。

 その後ろには女獣人のローグ、ラリィと、連れである

アルスとベガの姿があった。


「おう、ユウキ。……なんだ、有名人だらけだなあ。

条件がレベル100超ともなると、そうなるか」

 ラリィは片手に酒瓶をぶら下げ、もう一方にはつまみ

だと思われる干しイカを持っていた。

 一目で酔っ払いと分かる酷いスタイルだ。

 褐色なので顔が赤らんでいるかは分からないが、軽い

酩酊状態にあるようで気分は良さそうに見える。


「少し前に街に着いてな。アドベンチャーズギルドの

掲示板を見て、ここだって言うから直行したんだよ」

「ラリィさんは嘘を吐いています。途中で輸入品の酒を

扱う酒屋に入って、ガブガブと呑んでたんですよ」

 アルスの正道を行く性格が出た。


「んーああ、ちょっと寄り道な。ってお前、言うなよ。

印象悪くして仕事請けられなくなったらどうすんだ」

「大丈夫よ、見合うだけの実力さえあれば。と言うか、

あなたは私達にとって渡りに船なの」


 フェリーチャは募集内容と攻略対象である塔にまつわる

情報を簡単に説明した。

 商談で慣れているのか、酒の入ったラリィにさえすぐに

理解出来るような要点の伝え方だった。

 淀みない最適な言葉選びだとユウキは密かに感心した。


「ちょうど塔を探索出来るスキル持ちが欲しかったのよ。

正式なメンバーとして是非お願いしたい。やってくれる?」

「望まれてるなら、こっちも気持ち良く仕事出来るわな。

けど、1つ条件をつけて良いか?」

「報酬とか? 無茶じゃない程度なら話を聞くけど」

「そういうのは別に良いんだ。この2人にな、何かさせて

やれねえか? そっちが出してた条件には足りてねえが、

経験を積ませてやりてえんだよ」


 昨晩話していたが、彼女等の参加目的は主にそこにある。

 未だ冒険の勝手が分からない2人の、レベルと経験値を

高めようというのだ。

 ベテランが率先して行うべき新人の育成であり、ラリィの

不器用ながら親心めいた思いもある。


「あなた達、名前とレベルは?」

「初めまして、僕はアルスといいます。レベル20の

フェンサーです」

「は、はじめまして。ベガです。初級神官でレベルは

まだ、じ、15です」

 アルスは苦戦の末、一撃を浴びせた例の戦闘でレベルが

上がっていたようだ。


 フェリーチャは腕組みをして2人を見た。

 使えるか否か、悪く言えば品定めをするような目だ。

 やがて彼女は頷き、

「OK、塔の攻略隊以外にもそれなりに戦える人手は

欲しかったの。今回のメンバーに採用するわ」

 2人は、ほっと息を吐いた。



「早速だけど、今回の概要を説明する。皆座って」

 全員が自己紹介を交わした辺りで、フェリーチャが言った。

 各々が円卓に座ると、彼女は奥の席に腰掛ける。

 その斜め後ろに、定位置のようにカタリナが立った。


「攻略の目的は1つ、塔から発せられる妨害魔法を解除

するため。魔法は何らかの魔術的な装置から発せられて

いて、助っ人の魔術師なら解除が出来るかもしれない」

「まず僕等が安全に進めるルートを確保すると」

 ヨシュアが言った。

 その魔術師は術解除には秀でているそうだが、戦闘は

得意ではないらしい。


「その装置ってどっちの塔にあるの? 右? 左?」

「分からない。最上階付近から強力なマジックアイテム

特有の強い波動みたいなものは感じたって」

「まずは上まで登ってみて、という事だな」

 アキノとリュウドが顔を見合わせた。


「移動に関しては……今共有マップを開くわね」

 フェリーチャが言うと、全員の視界にマップウインドウが

開かれた。

 この場にいる全員に同じものが見えているはずだ。


「商港からじゃなく、ヨットハーバーから船を出すわ」

 カーベインの港にマーカーが付けられ、矢印が伸びる。

 矢印の先端が島に到達すると、島内がズームアップされた。

 リアルな3Dで描かれ、視点移動も可能なマップだ。


 カタリナが半歩前に出る。

「片道おおよそ30分です。当商会が所有のクルーザーに

乗船していただき、操縦は商船護衛隊が担当します」

「魔法石でスクリューを回す、オルテックから買い入れた

最新型よ。海のモンスターも簡単には追いつけないわ」

 フェリーチャが自慢げに言った。


「快適な船の旅にご案内ってやつだな」

「……客船で旅行事業もありね」

 くろうの軽口に彼女が新たなビジネスを閃いたかどうかは

定かではないが、数秒して、

「島に乗り込むのは3チーム、仮にABCとしましょう。

ABは攻略隊、Cは島に作ったベースでの魔術師の護衛を

やってもらうから。Cチームはあなたたちよ」

 視線の先にはアルスとベガ。


「え、僕達が?」

「私は、回復くらいしか」

「大丈夫よ。他にも1人加わって、護衛隊からも隊員が

2人参加する手はずになってるから」

 フェリーチャがマップから生息モンスターを表示させる。

 データさえあればこういった情報を追加可能だ。


 別枠のウインドウには、

 岩石のような甲羅を持つロッククラブ

 水中だけでなく砂浜も移動できる海砂ザメ

 モリで武装したサハギンランサー


「レベル10以上あれば何とでもなる程度の敵だけど、

間違っても魔術師には怪我させないで。もし大怪我でも

したら攻略自体を打ち切らないといけないから」

 ゲームであれば、

『イベントNPCが戦闘不能でクエスト失敗』

 とでも条件が付くところだろう。


「あの、発言良いですか? その魔術師さんを守るなら、

島に入らずに船で待った方が良くないですか? 決して

自分の役目を軽くしたいとか、そういうわけではなく」

 アルスが律儀な態度で意見した。


「この辺の水棲モンスターは、人が乗った船を見つけると

浅瀬でも攻撃してくるの。船に何かあったら大変でしょ」

 航行不能になれば帰りの足を失う事になる。

 すぐ助けは来るだろうが、船を壊されないに越した事はない。

「ベースは結界魔法で万全な物を作る予定だから。安心して」

「分かりました」

 彼は納得したようだった。


「私達はどう動けばいい?」

 リュウドが尋ねた。

 ABは塔攻略チーム、つまり主役である。

 フェリーチャはマップに矢印を追加した。

「島の南に桟橋代わりになる長い岩があるから、そこから

上陸してもらう。砂浜からすぐの岩壁、ここに切通しの

坂道があって、それを登れば塔がある山の頂上に出るわ」

 難所などは無い、緩やかな一本道。

 モンスターさえいなければ散歩に丁度良さそうだ。


「塔の内部はどこまで分かってる?」

 続いて、ユウキが聞いた。

 行動前にいかに情報を整理できているか。

 無知は弱点であり、何事にもデータは必須なのだ。

「最初の偵察隊は3階までしか行けなかったの。原因は、

モンスターの出現量に対して殲滅力が足りなかった」


 フェリーチャがエンカウントしたモンスターのデータを

表示させる。

 ボーンソルジャー、スカルナイト、ダークアーマー、

エビルスピリット、うごめく影──。

「あとリサーチャー、あの侵入者を見つけると仲間を

呼ぶ目玉のやつ。それと仕掛けを動かすと、いかにも

動くぞって感じの石像が何体も設置されてるみたいよ。

どれもレベルは平均80、倒しても湧きが早いから」


「ザコいザコい、ポカーンとでっかい魔法打ち込めば

さくっと片付くって」

「だな。デモンズタワーの地獄のような湧きに比べたら、

鼻ほじりながらでも楽勝なレベルだぜ」

 リーリンとくろうは相変わらず余裕綽々である。


 極まったパーティーからすれば歯牙にもかけない程度の

雑魚であり、またどれも負の力で動くタイプだ。

 負の力を打ち破るパラディンやプリーストを擁している

パーティーなら対応は更に楽だろう。


「出発はいつの予定なんだ?」

 ユウキがフェリーチャに聞くと、

「あなた達の準備が出来次第、すぐにでも出てもらうわ。

1時間後でも30分後でも。出来るだけ早く」

「はあ、40秒で支度しろって言われないだけマシってか」

「冗談言ってないで。そのくらいの意気でお願いね」

「時は金なりか」

「あの双角の塔がある限り、プレイヤーもこの街も損失を

受け続けてる。リアルタイムでね。今あれを排除出来るのは

ここにいるあなた達だけよ」


「へへへ、よーし、やったろうじゃねえか!」

 くろうが右の拳を掌に打ちつけた。

 彼はモチベーションが上がりやすい性格らしい。

「攻略に必要なアイテムはうちが全部バックアップするわ。

ヒールポーションから万能治療薬まで、何でも用意するから」


「なあ、行きの船で飲む酒も用意してもらえるのか?」

「それは却下。さすがに攻略は素面(しらふ)で参加してもらわないと。

と言うかあなた、酔いは大丈夫なの?」

「ああ、あんなのは呑んだうちに入んねえよ。へーきへーき」

 このミーティングの間にすっかり醒めたようだ。


「そっちのパーティーは、必要な物はある?」

「とりあえずマジックポーションを多めにもらえると助かる。

それと、酒とごちそうの準備だな」

「? あなたもあのローグみたいに船で酒盛りしたいの?」

「そうじゃない。島から戻ったら、祝勝会くらいやるんだろ?」

 ユウキの決意の表れにフェリーチャは口元を緩ませた。

「それは了承するわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ