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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
46/173

5人と1人

 

「ヨシュアさん」

 数々の調度品が並ぶ来賓室には第1のパーティー、

5人のプレイヤーがいた。

 円卓で寛いでいた中からユウキに名を呼ばれた男、

ヨシュアが立ち上がった。


 歳の設定は20代半ばほど。

 肩に掛かるシルバーブロンドの長髪、人間ではあるが

エルフにも劣らない鼻梁の通った整った顔立ち。

 細身で引き締まった長身には、武具の類は身に付けて

おらず、シャツにパンツという私服姿だった。

 テーブルの4人も同様に軽装である。


 ユウキは彼に駆け寄り、握手を交わした。

「お久しぶりです、ヨシュアさん」

「ああ。ユウキ君、君も塔の攻略メンバーに?」

「そうです。ヨシュアさんが参加するなら、これほど

心強い事はない」


 ヨシュアはレベルカンスト間近の強力なプレイヤーだ。

 ただレベルを上げるだけなら誰にでも出来るが、彼は

パーティープレイは勿論のこと、ギルド同士の対抗戦、

ギルドバトルにおいても高い統率力を見せていた。

 そしてユウキが彼と親しく、信頼しているのは、彼が、

『冒険者達の集い』

 ギルドの現ギルドリーダーだからである。


「しばらくぶりだが、君はどこからスタートしたんだ?」

「王都の近くです。2人とはすぐに出会って」

 ユウキが振り向くと、リュウドとアキノが近付きながら

軽く会釈をした。

 ヨシュアは有名で2人とも交流がある。


「王都か。ミナは良くやっているかい?」

「ええ。俺達は今、みんなの会に入ってるんです」

「みんなの会に……そうか」

 美形に僅かな影が差した。


 冒険者達の集いは騒動の後に、高い求心力を持っていた

リーダーが引退し、短期間で縮小していった。

 ネームバリューやギルドバトルでの総合勝率に惹かれて

所属していた者達はギルドから去り、騒動が尾を引いて

居心地の悪さを感じたメンバーも脱退していった。

 ユウキがショックでギルドを離れてからも、ヨシュアは

苦しい期間をリーダーとして支えてきたのだ。


 ヨシュアの苦労が分からないほど、ユウキは鈍感では

ない。

 今別のギルドにいると話した事は、事実だとは言っても、

あまり良い印象を与えなかったかもしれない。

 ユウキには、世話になったギルドと距離を取っていた、

という負い目があるのだ。


 一方で、ヨシュアも自分が思わず浮かべてしまった

憂いの表情が相手の心象を悪くしたのを悟った。

 どこに所属していようと責めるつもりなどないのに。

 親しかった彼等に余計な気遣いをさせてしまうほど、

騒動が残した爪跡は大きかったのだ。


 ヨシュアは意識して気を取り直す。

「僕はここから北のシェローズアーチの街中からだ。

彼等とはそこから行動を共にしている」

 ユウキは見知った顔触れを見た。

 ヨシュアが率いるパーティーはほぼ固定のメンバーで

構成され、日本のサーバーにおける強豪パーティーの

1つとされている。


 皆、レベルはキャップの150に近いベテランだ。

 そのリーダーであるヨシュア。

 彼は聖騎士の熟練度を高め、極めた先の到達点である

最上級職パラディンだ。

 聖騎士職にのみ振るう事を許された聖剣を装備でき、

聖属性の剣技と仲間を守る盾の防御スキルを持つ。

 一部回復と支援の魔法も使え、高い攻撃力と防御力を

誇る攻防一体のステータスと言える。


「アベルさん、宜しくお願いします」

 ユウキが腕組みをして一点を見つめる男に声を掛けた。

「……ああ」

 メタリックブルーのウルフヘアーをした男は一言だけ

返すと、また無表情で視点を戻した。


 サブリーダーで人間のアベル。

 戦士、闘士、グラディエーター、デュリスト──。

 多々ある近接戦闘職をマスターした者だけが辿り着く

物理攻撃のスペシャリスト、デュエルマスター。

 体格や年齢はヨシュアと大差ないが、武器を使った

戦闘でのテクニックは彼の数段上を行くという。

 魔法は使えないが、それを差し引いてもその戦闘力は

余りあるほどだ。


 アベルはリュウドを一瞥(いちべつ)すると、軽く頷く。

 リュウドもそれに応えるように頷いた。

 両者は武人の道を往く者として通ずる物があるのだろう。


「おう、ユウキ。今回の攻略は、俺がかるーく片付けて

やるよ。かるーくな」

 アベルのストイックさとは打って変わって、軽いノリの

男が声を上げた。

「いつも通りと言うか。余裕ですね、くろうさん」

「俺にかかればあんな塔なんざ、ちょちょいのちょいの

ちょいだぜ」


 20歳くらいで逆立った黒髪の男、くろう。

 シーフにローグ、素早さ重視の軽装フェンサーとも言える

ライトソード、それらに加えて上級職アサシンの熟練度を

上げた者がニンジャからチェンジできる最上級職。

 それが彼の職であるニンジャマスターである。

 各種索敵警戒スキルでダンジョンを潜り抜け、戦闘でも

取り回しのいい忍者刀に加えて、忍術や忍具を用いて戦う

スピードファイターだ。


「デモンズタワーを最速攻略した俺達にとっちゃ、あんな塔は

ピクニックみたいなもんだ。ふんふんと鼻歌まじりに登ってな、

最上階に着いたら弁当を広げて皆で宴会でもやりゃあいいさ。

あそこからの見る水平線は最高だろうぜ」

 組んだ両手を頭の後ろにやり、へっへっへと笑う。

 設定上はシリアスな職なのだが、これが彼の性格なのだろう。

忍ぼうという意識が大変希薄だ。


「わざわざ登らなくても、最上階の仕掛けだか何だかを塔ごと

魔法で吹き飛ばせば良いのよ」

 くろうの向かいに座る女性が言った。


 彼と同い年くらいのリーリン。

 青緑色をした寒色系の髪を肩まで伸ばしていて、大きな瞳と

その周りに施された呪術用メイクが印象的だ。

「巨人でも召喚して基礎辺りを殴り付ければ、魔族が作った

安普請の塔なんてすぐ崩壊して瓦礫の山になっちゃうでしょ。

上手く横に倒せば、ドミノ倒しみたいに両方バターンって。

倒壊させればほら、眺めも良くなってすっきりするから」

 そう言うとケラケラ笑い出す。


 リーリンは妖人で魔術師、ソーサレス、サマナー、精霊術士、

シャーマンといった魔法系職をマスターした末に到達できる

大魔導という職だ。

 あらゆる攻撃・妨害魔法をフォローしていて、属性や効果も

隈なく把握している。


「どう、天才的発想だと思わない?」

 リーリンは両手でピースを作り、ユウキにドヤ顔する。

 いきなりドヤられても何とも返しようがない。

 ただ、まさか本気で言ってないだろうな、と不安になった。

 魔法の知識量に反して、いつも頭の中が軽そうなのだ。

 深く物事を熟考するのが苦手なのかもしれない。


 賑やかな2人のペースをどうにも掴みきれない。

 そんなユウキ達に5人目が話しかけた。

「皆さん、お久しぶりです」

「お久しぶりです、エルザさん」

 ヨシュアより1つ2つ若い、輝くブロンドヘアーを腰まで

伸ばしたエルフの女性だ。


「塔の妨害を止めれば、転送魔法陣や検索が可能になると

言います。油断無く、確実に攻略しましょう」

 リーリンとは違い、思慮深く、落ち着きがある。

 それは、良い意味で変化に乏しい表情からも見て取れた。


 彼女は神官の最上位職のグランドハイプリーストだ。

 スキルの習得に差はあるが、ミナと同じ職業である。

 回復と支援に特化された職だが、聖や光属性の攻撃魔法は

負の力で活動する魔族やアンデッドに特効で、魔術師職の

上級魔法にも引けを取らない威力を持つ。

 回復役として戦闘の支えとなり、またその献身的で芯の強い

性格から、パーティー内での精神的支柱とされていた。


 5人はプレイヤーとしての実力と経験、職業的バランスから

判断してもあらゆる場面に対処でき、高難易度ダンジョンの

デモンズタワーを記録的なタイムで突破した実績もある。

 今から(現バージョンでの)ラストダンジョンに挑戦しろと

言われても、すぐに突入が可能だろう。

 そんな実力派パーティーが自分達の相棒となるのだ。

 ユウキが頼もしく感じるのも当然と言える。



「積もる話もあるだろうけど、いいかしら」

 3人を部屋に通すと、どこかへ行っていたフェリーチャが

戻ってきた。

 その後ろに立つ1人の男、吟遊詩人職のようだ。

「彼は? 流しの歌い手ではないだろう?」

 リュウドが聞いた。

 答えはそれとなく分かっている。

「彼はあなたたち、セカンドパーティーのメンバーよ」

 フェリーチャは背後の男を見た。


 黒いコートに羽飾りの付いたつば広の旅人帽、長髪で

ギターのような弦楽器をストラップで背負っている。

 いかにもらしい格好だが、腰には護身用とは思えない

使い込まれた長剣エンハンスソードが差されていた。


「吟遊詩人?」

 アキノがそれとなく男の顔付きを窺った。

 20代後半、整った顔立ちだが影のある目をしている。

 外見で判断するのは失礼だがその目には凄味さえ覚える。

 吟遊詩人は重い武器防具が持てるような前衛職ではなく、

様々な効果を発する歌で仲間を助ける支援職だ。


 アキノの視線の意味を悟り、フェリーチャが言った。

「戦闘職じゃないからって不安がらなくても良いのよ。

彼はレベル140、魔法戦士をマスターまで上げてるから

実力はたしか。──自己紹介して」

 促されると男は、

「ケンだ。宜しく頼む」

 と詩人にしては張りの無い声で言った。


 頼りになりそうか否かより、ユウキには1つの疑問が

浮かんだ。

 レベル140は相当のベテランプレイヤーである。

 それなら1度くらい、どこかで自分と顔を合わせて

いてもおかしくは無いはずだ。

 それなのに全く見覚えがないのだ。


「宜しく。俺はユウキ、こっちのリーダーをやってる。

ケンさん、所属中のギルドは? レベル上げで比較的

よく行ってたダンジョンとかあります?」

「どこにも。俺は空きのあるパーティーに飛び込みで

入るってスタイルだったんだ」


 固定のメンバーで友人のような関係を築く者もいれば、

飛び込み先で役目をこなし、冒険の後に分け前だけを

持って立ち去る者もいる。

 そういうプレイ方針を貫くプレイヤーは一定数いるし、

彼がそうだと言うのなら長年そうやってきたのだろう。

 ユウキは深く詮索するのを止めた。


「不都合が無いなら、作戦の概要を説明したいんだけど」

「ん? ユウキ君のパーティーはまだ空きがあるが」

「そこにはレベル80の、最初の偵察隊で1番強かった

鍛冶屋職を入れる。前職は戦士だから」

「それは、随分と急な話ではないか?」

 リュウドが聞いた。

「パーティーの戦力はメンバーの総合力で決まる。その

鍛冶屋職を悪く言うつもりは無いが、明らかにレベルが

足りない者を(あて)がってまで急がねばならぬのか?」


「商人衆から、一刻も早く塔の妨害を止めてくれって、

催促が来てるのよ。潮の流れが乱れている間は海運が

不安定なの。彼等はいち早くそれを解消して、船舶の

動きを正常化させたいの。バックアップは惜しまない

から、1分1秒でも早く妨害の謎を解いてくれって」

 利害の一部が一致しているだけで、商人衆は本音では、

異界人の障害なんてどうでも良いのだろう。

 フェリーチャは新参者として商人衆に属している以上、

早くやれと言われたら、悠長に構えてはいられないのだ。


「話は分かるが、メンバーの人数以上の問題があるぜ」

 くろうが椅子に寄り掛かりながら言った。

「問題?」

「ああ。そっちには仕掛けを見破れるシーフ経験者が

いないだろ? その辺の野っ原を進むなら話は別だが

今回は仕掛けがあるらしいってダンジョンだ。しかも

2つの塔でスイッチやら何やらが連動してるって言う

じゃねえか。どうぞこれがスイッチです、レバーです、

ってな具合で設置されてりゃ良いが、隠し部屋にでも

置かれてたら、そこで詰むぜ」

 個人の感想を抜きにした、冷静な分析だ。

 伊達に数々の仕掛けや罠を見抜き、パーティーに貢献

してきた男ではない。


 やはり一点を見ながら、アベルが加わった。

「足並みを揃える事が大切だ。お互いが(とどこお)りなく

進むには、シーフのスキルを持つ者が必要になるだろう」

「そうは言っても、高レベルでそれなりにシーフの経験

まであるプレイヤーがすぐ見つかるとは限らないでしょ」

「じゃあ募集を載せてる掲示板に、シーフ経験者優遇、

仕掛け発見スキル所持者優遇、とか付け加えとけば? 

あれよ、ほら、ハロワの求人票みたいに?」

 真面目なのか冗談なのか、リーリンがケラケラ笑う。

 大方、後者なのだろう。


「そう書いてすぐ人が来るなら、今すぐにでも書きに

行くっつーの。ああもう、ゲームみたいにさっくりと

メンバーが揃ったりしないもんかしらね!」

 フェリーチャがイライラし始めている。

 細やかなスケジュール管理で商売をやってきた者には、

予定が立てられない事は過酷なストレスになるようだ。


 彼女がそろそろ地団太でも踏みそうになっていると、

「失礼します」

 事務所からいつこちらに来たのか、カタリナが部屋に

入ってきた。

「お話中のところ、すみません。塔の攻略の募集を見て、

その、参加したいという方が」

「え、なに? 一言で言うとどんな人?」

「それが」

「それが?」

「酔っ払いなんです」


高水準でバランスの良い5人のパーティーという事で、

最初に思い付いたのがFF4の最終パーティーでした。

吟遊詩人はサガシリーズから。

性格やキャラクター性は違いますが、元のイメージは

そういった辺りから来ていると思います。

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