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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
45/173

その名は双角の塔

 

「双角の塔か」

 ユウキはその名を噛み締めた。

 並び立つ塔は、島から突き出た2本の角にも見える。

 天を衝くような高さではないが、小さな孤島には

何とも不似合いな建造物だった。


「あれには転送魔法陣やプレイヤーの所在検索を

妨害する機能が備わっているというのか?」

「ええ。潮の流れが乱れだしたのも、丁度あれが

出来てから」

「そう言うからにはちゃんと根拠があるんでしょ? 

聞かせて」

 フェリーチャは数字の世界で生きる人間だ。

 思い込みや想像で物を言うはずがない。

 彼女は塔を眺めながら話し始めた。


「神鳴の日、突然塔が現れたそうよ。あれを見て、

すぐに近くの漁師達と商船護衛隊っていう商船を

海の魔物から守る船乗りが島に乗り込んだの」

「随分と度胸があるのだな」

「商人ってどんな事にも縁起を担ぐ人が多いから、

目の前に得体の知れない塔が出てきたのを放っては

おけないの。この辺は自治の意識も強いしね」


 フェリーチャは自分の席へ戻った。

「彼等は腕っ節が強いから雑魚モンスターくらいは

普通に倒せる。でも慌てて戻ってきた」

「手に負えなかったと?」

「浜にも小山にも今までいなかったモンスターの姿。

ちょっと覗いた塔の中からも只ならぬ雰囲気が漂って

きて、肝の据わった彼等も危険を感じたみたい」

 漁師はまだしも、外洋に出る商船を守る商船護衛隊は

海上で海賊やモンスターとやり合う戦士達だ。

 陸戦が専門でないとは言え、彼等が無茶は出来ないと

判断するのだから敵もそれなりなのだろう。


「それと彼等が怯えたのは、あの塔の中に魔族の意匠が

使われていたからなの」

「魔族が作った建造物だと?」

「聞いた感じではまず間違いないみたいよ」

 魔族が関わるダンジョンには、彼等特有のレリーフ等が

刻まれている。

 一般人からすればそれは、見ただけで恐怖の感情を喚起

させられ、触れる事は死とイコールで結ばれる。


「害が島の中だけなら今は放置でも良かったんだけどね」

「潮の乱れか」

「うん。あれが建ったと同時に潮の流れに徐々に変化が

出てきて。それが明確な異変になった頃には、内海では

見かけない水棲モンスターも頻繁に見るようになって、

出港した船が入り江で襲われる事も多くなったの」

「それでは海運が成り立たないな。街そのものの問題に

なってくるではないか」

 リュウドが腕組みしながら言った。

 海上輸送で商売が成り立っている交易の都市である。

 船舶に降りかかるトラブルは致命傷だと言えた。


「だから、商人衆からうちに調査の依頼が来たの」

「商人衆?」

 アキノが耳慣れない言葉に首を傾げる。

「昔から自治を敷いている、商人ギルド達の通称よ。

ようは豪商の集まりで、途中で話したけど私もその

メンバーに入ってて。モンスターの相手なら異界人の

出番だろうって、もう鶴の一声で白羽の矢ってやつよ。

ああ、頼まれたからやってますってわけじゃないのよ。

障害を取り除くのは、プレイヤーとして当然でしょ? 

私は臨時でパーティーを組んで、偵察に出したの」

 一息に話すと、グラスの水を口に含んだ。


 鍛冶屋や薬師は戦闘職ではないが、前職として戦士や

魔術師の経験者は多数いる。

 時間があれば自分でモンスター討伐に出向き、魔物の

体から素材を集めてくる者もいた。

 即席の偵察隊でもエルドラド人より戦力になるのだ。


「メンバーを見繕っていざ出港だって時に、商人衆が

連れて来た魔術師がパーティーに加わったの。何でも

魔法の都ルージェタニアにいた事もあるって魔術師で、

是非調査に同行したいってね。ゲームの中で言えば、

イベント用のNPCって扱いなんでしょうね」

 言い得て妙な表現だが、事件をイベントだと言うなら、

関係したエルドラド人はそれに該当するのだろう。


「で、塔までは割とスムーズに行けたんだけど、中は

モンスターが多くてね。倒しても湧きの速度が速くて、

ジリ貧みたいだから無理させずに引き返させたのよ。

……ジリ貧って商人はあまり使いたくない言葉ね」

「じゃあ偵察は成果無しだったのか?」

「ううん。得てしてイベントキャラはイベントの為に

いるものだから、手掛かりを見つけてくれたのよ」


「それは?」

 アキノが急かすように聞くと、丁度そこに皿を持った

ウェイター達がやってきた。

 丁寧に仕上げられた白身魚のムニエルで、付け合せの

野菜やソースの置き方もよくデザインがなされていて、

程よい焼き加減や匂いも食欲をそそる。

 だが3人はそっちのけで回答を待った。


「あの塔は、広範囲に妨害魔法を発する特殊な装置で、

言うなれば発信用の電波塔みたいなものなんだって。

恐らくは塔の最上階に妨害魔法を発している物がある、

そこまで辿り着ければ解除できるかもしれない」

 って言ってたわ、とフェリーチャは結んだ。


「その魔術師を無事に最上階まで送り届けるのが、

ダンジョン攻略ってこと?」

「最終的な目的はそうなるわね。まずはルートを確保

してもらって、安全を確認してから」

「塔の仕組みは? 意味ありげに並び立っているのだ、

愚直に登って行けば良いというものではあるまい?」

 一筋縄で行かないダンジョンは数多くある。

 それらを攻略してきた者ならではの推測だ。


「最初の偵察チームの話だと、2つの塔には連動する

スイッチ類があるようで、2つのパーティーで交互に

仕組みを動かしながら上がらないといけない場面も

あるみたい」

「誰得なんだよ、それ」

 作った奴バカだろ、とユウキがぼやいた。


「あー……所謂めんどくさいタイプね」

「魔族が作ったらしいが、面倒なギミックを施して

作らねばならない、構造的なルールでもあるのか?」

「そもそも、作った奴が登る時不便だろうに」

 3人は皮肉るが、

「面倒な上に、外壁はよじ登れないように飛行系の

モンスターが滞空してて飛行魔法も封じられてるって」

 意地でも楽には登らせないという魂胆が見て取れる。

 魔族とは本来そういった捻くれ者なのだろうが。


「めんどい塔を攻略するにはそれなりに実力と経験の

あるパーティーが2組はいるって事だろ? どんな

条件でメンバーの募集をかけたんだ?」

「レベル100以上」

「100!? それはまた、思ったよりハードル高いな」

「今まで人を使ってきた経験からよ。低めのレベルで

四苦八苦しながら何度も挑戦するよりも、ある程度の

ベテラン勢で固めた方が効率が良いのよ」


 バージョンアップで新たなダンジョンなどが加わり、

攻略に有効なアイテムの需要が増す事はよくある。

 フェリーチャ商会はその度に傭兵を雇って新マップを

探索させ、今後需要がありそうなアイテムのリサーチを

度々行っていた。

 条件設定はそこから得た経験則からだ。


「その条件で何人くらい集まったんだ?」

「条件が厳しいからあんまり人が来なかったんだけど、

塔に登る1パーティー目はもう決まってるの」

 そこでね、と前置きしてフェリーチャは切り出す。


「もう1つのパーティーとして攻略に参加してみない? 

3人ともとっくに100超えてるでしょ?」

「条件を満たしてはいるよ」

「実力と経験を伴ったプレイヤーとして申し分ないわ。

レベル100を超える人材はすぐ集まるものじゃないし、

参加してくれたら願ったり叶ったりなんだけど」


 彼女は思い付きで頼んでいるわけではない。

 こうして海の見える店に誘い、あの塔を見せたという事は

最初からスカウトする狙いもあったのだろう。


「消耗品は全部こっち持ち、武器防具の修理もうちの店で

やるわ。勿論無料。報酬は常識の範囲内で出すし、ボスが

出たら手当てとして撃破ボーナスも付けるから」

 守銭奴などと揶揄される彼女からしたらかなりの好条件だ。

 首を縦に振るまで放すつもりは無いらしい。


 ユウキは2人と目でやり取りすると、

「障害を取り除くチャンスがあるのに、情報だけ持って

手ぶらで帰るわけにもいかない。協力するよ」

「そう? ああ、助かるわ。重要よ、その積極的な姿勢。

こういうのは皆が協力して早めに対応して行かないとね」

「ところで、決まってるパーティーはどんなメンバーが

揃ってるんだ?」

「どんな? あなたに馴染みのある人よ」

「馴染み? 誰だ?」

 会えば分かるわ、と言ってフェリーチャはムニエルに

ナイフを入れた。


 デザートまで堪能して、4人は店を出た。

 事務所に戻ってから、向かう先はフェリーチャ商会の拠点。

 そこに今回の相棒となる、もう1つのパーティーが待機

しているらしい。


 程なくして拠点、ギルドベースに到着した。

 宮殿と言うほどの規模で、その外観はゴテゴテしている。

 隙間無く煌びやかな装飾が施されていて、銭を持ってるぞ、

という主張がこれでもかと前面に押し出されている。

 近くに他所の商会が所有している屋敷があったが、似たり

寄ったりといった見た目をしていた。

 この絢爛豪華さが豪商のメジャーなスタイルなのだろうか。


 ここは商人達との商談にも使うそうで、財力を誇示する事で

他からの信頼と栄誉を表しているのだろう。

 商いとは確かな実績を積んで続けていくものだ。

 つまりそれを形にして強くアピールしている。

 彼女の服装のように、派手で高価な身なりは成功の証とされ、

商談を組む側も安心感を感じるのかもしれない。


 何人ものメイドに出迎えられ、3人は奥へと通された。

 そこには、前の街でも出入りしたような立派なドアがあった。

「一緒に行くパーティーはここにいるから。挨拶して」

 そう言ってフェリーチャがドアを開ける。

 するとそこには──

「あ、あなたは!?」


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