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冒険者達の集い  作者: イトー
商業都市カーベイン
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情報交換

 

 1時間で戻るから、とカタリナに告げて、フェリーチャは

3人と事務所を出た。


 3人が後を着いて行くと、立派な建物が並ぶエリアに入る。

 どの建物にも看板が出ていて、どれもこの街で商いをする

商会の物のようだ。

 通りにもいかつい船員や行商人の姿は無く、行き交うのは

一定以上の富を持つであろう商人だけとなった。


 フェリーチャと擦れ違う者は自然に道を開ける。

「そんな服着てるから、皆避けてるんじゃないか」

「そういうネガティブな理由じゃないから」

 ユウキは冗談半分に言うが、通行人が片手を胸に当てて

頭を下げる、こちらでの礼を表すらしい動作を取っている

のに気付く。


「この街は昔から、エルドラド人が経営してる一握りの

有力な商会ギルドが自治を敷いているの。私はまだまだ

新参者って扱いではあるけど、その末席に加わってるの」

「一般の商人から見たら、雲の上の存在なのか」

「まあ、それほどの事はあるけど」

 フェリーチャは謙遜などしない。

 その自信とバイタリティに溢れる姿勢で自分のギルドを

牽引してきたのだ。


「……そんな服着てるのに、実は偉いんだな」

「この服は商人の文化なの。言わばユニフォームよ」

「ユウキ、あんまり馬鹿にしちゃダメだよ。1つ1つは

手の込んだ刺繍がされてて、良いものみたい」

「分かる? 結構高いのよ、これ。セットでプレゼント

しようか?」

「え……わ、私には似合わないだろうから」

 正直に、いらない、と言わないアキノの優しさだ。


「ミナは元気?」

「ああ。お姉ちゃんは元気でいるよ。みんなの会も、

他のギルドと連絡が付かないプレイヤーを一時的に

集めて、王都の拠点でまとまりを見せてる」

「ふーん。大手のギルドを運営してきただけあって、

さすがの統率力ね」

 自分も大人数を擁するギルドを率いてきた者として、

彼女に通ずるものがあるのだろう。


「だが万全とは言えんのだ。プレイヤーの位置検索が

正常に機能しておらず、遠方にいる者との音信は不通。

転送魔法陣も再開したという話は聞かない」

「それを解消できれば良いのよね」

 含みでもありそうにフェリーチャは言った。

 心当たりでも、と聞こうとすると、

「あそこでランチにしましょう」

 彼女は、奢るわよ、と1軒の店を指差した。


 清潔感のある白塗りの壁に大きく取られた窓。

 カーテンの間から見える内装は、何とも煌びやかだ。

 貴族の屋敷だと説明しても10人が10人信じそうな

ここはどうやらレストランらしい。

 改まった様子もなく、フェリーチャは入り口のドアを

開けた。


 その中はまさに絵に描いたような高級レストランだった。

 塵1つなく、上品に輝く木製の床。

 テーブルと椅子は最上級の物を使っているが、外見の

主張は煩くなく、品の良さを窺わせる。

 天井のシャンデリアと対になるように意識したのか、

ホールの中央には色鮮やかな花が飾られていた。

 それらを窓から取り入れられた陽光が照らしている。

 豪華でありながらゴテゴテとしておらず、瀟洒(しょうしゃ)なのは

真の高級店の証と言える。

 この世界に星いくつという評価単位があるとすれば、

内観は三ツ星を貰えているだろう。


「これはこれは、フェリーチャ様」

 4人を蝶ネクタイにギャルソンエプロンをした中年の

ウェイターが出迎えた。

 接客の仕方が堂に入っている、ベテランなのだ。

「テラスの席をお願いしたいんだけど、空いてる?」

「ええ。ございます。どうぞこちらへ」


 当たり前のようにフェリーチャは男に着いていく。

 食事は食堂や屋台、宿泊先で手軽に済ませるのが定番

だったので、ユウキは少し緊張した。

 現実の世界にいた時でさえ、こんな店には入った事が

なかったのだ。

 場違いな気持ちになりながら、ユウキは後に続いた。


 4人が通された席は、海を一望できるテラスだった。

 今は航行する船は見えず、島が1つ見えるだけだ。

 オーシャンビューに柔らかな潮風、なんとも贅沢な

ロケーションだ。


 着席するとフェリーチャは手馴れた感じで、食前酒や

料理をオーダーし始めた。

 1時間と言って出たので、簡単なコース料理だろう。

 そう思い、ユウキ達は注文を任せる事にした。


 ウェイターがシャンパンを注ぎ終えて席から離れると、

フェリーチャが切り出した。

「で、情報交換と言うけど。王都にいるプレイヤーは

今どんな風に動いてるの?」

「パーティーが散らばって、少しずつ情報を集めてる。

南東のジャナルハの漁港は潮の流れが乱れていて漁に

出られないらしい」

「それはこっちも同じよ。何とか乗り切っているけど

海運のスケジュールが立たない状態。本当ならもっと

船が行き来してるから」

 他には、と促す。

 リュウドが問いを引き取った。


「クラルヴァイン神国、ルージェタニアを目指している

パーティーが何組かいる。魔族が動き出した今、多くの

賢人がいる国では何かしらの動きがあるかもしれないと

考えているようだ」

「あっちはうちらより遥かに高等なマジックアイテムを

独自に作れるから、特別な注文は来てないわね。ただ、

私達がこっちに来た日から何やら慌しくなってるのは

間違いないみたい」

「神鳴の日についてはこちらでも把握してるの?」

「ええ。転送魔法陣や潮の流れの乱れ以外にもこっちは

変化があったから」

 そこに皿を持った数人のウェイターがやってきた。


 給仕され、料理がテーブルに置かれる。

 前菜で、生魚の切り身と香草に調味液がかかっている。

 シンプルだが彩り豊かで盛り付けも美しい。

 料理名は聞き取れなかったが、魚のカルパッチョだと

思って良いだろう。


「この辺も潮の流れで漁に出られないんじゃ?」

「海も遠くまで行かなければ漁は出来るみたい。まだ

獲れる量は少なくて市場にもあまり出ないけど」

 彼女はその水揚げ量まで把握しているのかもしれない。

 ここは美味しい魚料理を出すのよ、と言った。


 勧められて食べてみると、確かに大したものだった。

 熟成された魚を使っているのか、旨味が濃い。

 逆にソースはあっさりしているが、素材本来の味をよく

引き出していて見事にマッチしている。

 食べるほどに食欲を増進させる、そんな仕上がりだ。

 客層から見ても豪商の御用達のようで、シェフの腕も

伊達ではないのだろう。


 料理に舌鼓を打っていると、

「ライザロスで魔族の襲撃があったんですってね」

 フォークを置いたフェリーチャが言った。

 例の情報は行商人経由で入ってきた情報だ。

 その情報網で彼女に既に伝わっていてもおかしくない。


「そうだよ。巻き添えで村が壊滅して、そこで」

「私達プレイヤーと似た者が目撃された、でしょ?」

「まだ噂の範疇ではないか。断言できる証拠は無い」

「ま、人型のモンスターなんていくらでもいるしね」

 それはそれとして、と続ける。

「ライザロスが軍備にお金かけてるのは分かってるわ。

剣や鎧は自前で揃えてるようだけど、オルテックから

マシンを次々買い入れてて、動力源の魔法石輸入量も

跳ね上がってる。全ては魔族の侵攻に備えてよ」


「製鉄で栄えるライザロスにマシンの技術か」

「前にイベントで乗ったあれが、魔族との戦いに向けて

大量に作られてるって事なのかな」

「思った以上に危機は差し迫っているのかもしれんな」

「うちもこれを機会に、マシンにも搭載可能な武器を

開発しようって話になったのよ」

 魔法石で動くマシンは最新鋭技術だ。

 だがエネルギー砲は、魔法使いが杖から魔力を放つ

技法を応用しただけで、急ごしらえの武器と言えた。


「金儲けの話には敏感なのだな」

「当たり前でしょう? 商人って字は商う者って意味

なのよ。そういう嗅覚がないと」

「なんだ、マシン用って。まさかビームライフルでも

作ったわけじゃないだろう?」

「惜しい。飛び道具って意味じゃ当たりだけど」


 そこに2皿目を持ってウェイター達がやってきた。

 濃厚な香りを放つチーズリゾットだ。

 交易の場だけあって、チーズを特産品とする地方から

仕入れたものなのかもしれない。


「試しにね、鉄砲作ってみたのよ」

 リゾットをスプーンで掬いつつ、フェリーチャが言った。

 このゲームの武器カテゴリーに銃は一応ある。

 マッチロック式のマスケット、火縄銃だ。

 しかし研究家が試作したイベントアイテムとして1挺

出てくるだけにとどまっている。

 魔力が主に発達している世界だけに、火薬を用いた

技術はそれほど重要視されていないようなのだ。


「うちの鍛冶屋に、そういうのに詳しいのがいてね。

図面引いてパーツから作ったの。鍛冶屋職のスキルは

思ってた以上に凄いのよ、旋盤で削り出したくらいに

ミクロン単位で作れて。火薬は取り寄せた物を薬師に

調合させて専用のものを準備して──」

 これが現物、と彼女は懐から灰色の塊を取り出した。


「ほ、本物じゃないか、それ」

 フェリーチャが見せたのは古めかしい鉄砲ではなく、

現実世界で見る銃だった。

 ユウキはゲームで見知った程度の知識しか持たないが、

艶のあるガンメタルで、ハンマーがあり、グリップの

下から弾倉を入れる、よく見るタイプの拳銃だ。


 誰もが刀剣や弓など、武器は当たり前に持っているが、

拳銃は変にリアリティがあるのだ。

「こんなの作れるのか」

「これが鍛冶屋の上級スキルよ。妙に気に入ったのか、

9ミリ、5.56ミリ、12.7ミリをバンバン連続で

撃てるやつをもう(こしら)えてあるみたい」

 このゲームはオリジナルの特技や自分でグラフィックを

用意してアイテムを新たに登録するシステムがある。

 性能が逸脱していなければ、ある程度は自由なのだ。


「こんなのたくさん作れるようになったら、戦闘の

やり方自体が変わってこない?」

「いやそれどころか、量次第ではこの世界のミリタリー

バランスそのものを覆すような発明になるぞ」

「大丈夫よ、その量産が出来ないんだから」

 フェリーチャは懐に銃を戻した。


「これね、それなりに撃てて当たるんだけど、もんの

凄くコストがかかるの。弾も予備部品も全部手作りで、

クリーニングやメンテは専用の知識がないと出来ない

そうだから、刃こぼれした剣を直すように街の鍛冶屋に

持ち込めないのよ」

「コストパフォーマンスが悪いのか」

 リゾットを口に運びながら、ユウキが聞いた。


「そ、そ。バカスカ撃てば、撃っただけお金がかかる。

攻撃魔法なんてタダで撃ち放題なんだから、こっちは

作ってもコスパが合わないのよ」

 剣士の剣はドラゴンの硬い鱗さえ切り裂き、モンクの

拳は岩をも砕く。魔法使いの魔法も同様だ。

 そういう世界において果たして強力な武器になり得る

のかと考えると、素直には頷けないかもしれない。


「じゃあ、マシン用の武器にはならないじゃないか」

「だからこれは試作。この技術を応用して、魔法筒を

撃ち出せる発射機を完成させたのよ」

 魔法筒とは消耗品アイテムで、缶詰くらいの大きさの

特殊な金属筒に攻撃や妨害魔法が封入されている。

 これを敵に投げ付けると、その魔法の効果が表れると

いうものだ。


「あれを撃ち出す為の機械か。グレネードランチャー

みたいなやつだな」

「作ったうちの人間も、そんな風に呼んでたみたい。

テストで及第点が出れば、オルテックに許可を取って、

ライザロスに売り込みをかけてみようと思ってるの」

 彼女の頭の中には、皮算用ではないビジネスモデルが

浮かんでいるのだろう。


「火器の販売か。1歩間違えば死の商人になるな」

「こっちは昔っから剣や鎧を売って金稼いでるのよ。

はなから武器商人よ」

 それに、とフェリーチャは言葉を継ぐ。

「魔族と戦えるプレイヤーが団結するまで、奴等を

食い止めておくには長年戦い続けてきたライザロスに

踏ん張ってもらうしかないでしょ。これも、一商人

としての援護の一環よ」


「それはそうか。でも、うちらプレイヤーが団結する

には障害を取り除かないといけない」

「遠方にいる者達と連絡を取れないことにはな」

「転送魔法陣が動かないと、移動も大変だし」

 3人を見てから、フェリーチャは海の様子を窺い、

「そろそろ時間ね」

 と呟いた。


 フェリーチャは席を立つと、テラスの手すりに肘を

のせた。

 そして、船を出せば30分とかからずに行けそうな

島を見ながら、こう言った。

「実はね、その障害を取り除けるかもしれないの」

 3人は椅子を鳴らし、彼女を見た。


「あの島……この辺じゃ、色々と曰く付きの島でね。

夜中に人魂が現れたりしてたらしいのよ」

 現実の世界なら有名な心霊スポットになりそうだが、

 アンデッドモンスターが広く認知されているここで

それを特異な事だと感じる者はいない。


「そっちでも、神鳴の日に突然見た事もない建物が

いくつも現れたって情報は掴んでるでしょ?」

「ああ、それは知ってる。あそこにもそれがあると? 

島の中にそれらしい物は何にも見えないけど」

 島は、例えるならスリッパを横から見たような形で、

西側に小山があり、東側は平たい土地になっている。

 遠くからではあるが、目立つ建造物は見当たらない。

「見てて。そろそろ見えてくるから」


 ユウキ達が何事かと見ていると、

「あっ、何か薄っすらと出てきたぞ!?」

 島の小山の上にある空間が揺らめくと、SF作品に

出てくる光学迷彩が解除されるように、そこには

2つの塔が現れた。


「なんだ、あの塔は……?」

「神鳴の日、あの島に突然現れたそうよ」

「今まで見えなかったのはなぜ? 何だか周りから

姿を隠す、遮断の魔法にエフェクトが似てたけど」

「私には意図的に隠されていたように見えたが」

「ええ、あれは遮断の魔法そのものよ。普段隠れてる

けど昼過ぎになると、ほんの数分間だけ魔法の効力が

弱くなって姿を見せるの」


「あれは一体何なんだ?」

「あの塔が……プレイヤーの障害を作り出しているの」

「なんだって!?」

「私が、ダンジョン攻略のメンバーを募集してるって

言ったでしょ?」

「ああ。それじゃあ、それは」

 ええ、とフェリーチャは頷く。

「人は自然に、あれを双角(そうかく)の塔と呼ぶようになった。

私は、あの塔を攻略したいの」


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