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冒険者達の集い  作者: イトー
カーベインへの道
37/173

西の森に潜むもの

 

 悲鳴を聞き付けた4人は森を走った。

 今の声は建物の中からではない。

 あの2人がオーレリアを森の屋敷から連れ出したの

だろう、その際に何かアクシデントが起きたのか。


 遠く木々の間から、僅かに屋敷の一部が見えてくる。

 もう少しで開けた所に出ると誰もが思っていると、

「待って、この匂い」

 アキノが鼻をヒクつかせた。

「近くで痺れ花粉が撒かれたみたい」

 痺れ花粉は植物系モンスターが放つ特殊技でその名の

通り、対象を麻痺状態にさせる。

 スキルで薬草の知識を持つアキノは、風に乗ってきた

ごく微量の花粉を嗅ぎ取ったのだ。

「アルス、これ付けとけ」

 ラリィは麻痺耐性と速度上昇を持つウイングリングを

手渡した。

 ステータス攻撃を行うモンスターが存在する以上、

立ち向かう事を想定しての配慮だ。

 4人は装備を確認しつつ、木漏れ日もまばらな森林を

駆けて行く。

 やがて視界が開け──。




「な、なんだこいつは!?」

 ラリィが叫んだ。

 屋敷前の、テニスコートが何面も入りそうな広い庭に、

それはいた。


 花だ。

 しかし、花と呼ぶにはあまりにも異様過ぎる。

 全高は2階建ての屋敷の屋根を優に超え、身近な物で

比較するならマンションの4階に相当している。

 そのサイズは10メートルは下らない。

 分厚く赤い花びらの内側には牙を思わせる無数の突起と

ヒダがあり、花の形は大口を開けた肉食恐竜を思わせる。

 茎にあたる胴体は緑色で大木を負かすほど太く、いたる

所から多数の触手を生やしている。

 それは数十匹の大蛇の群れと見紛うほどだ。

 巨体を支えるたくましい根は地面に根付いておらず、

陸上を這って移動できるように波打っていた。


 獲物を探すように触手をくねらせている、それは──。

「サ、サウルスプランターが何でここに……?」

 咀嚼するように動く花を見ながら、ユウキが言った。

 本来は大樹海という熱帯の密林地帯に分布していて、

普段は休眠状態で他の植物に紛れているが、獲物が

近寄ると動き出す手強いモンスターだ。


 ユウキはただちにサーチを使う。


 サウルスプランター亜種 レベル81


「花弁の色と模様が少し違うから、亜種の扱いか。

新モンスターとしてここに実装されたのか?」

 さっきの悲鳴は、彼女があれに襲われた時のものか。

 だが当のオーレリアはどこにも見当たらない。

 見渡すと木陰でうつ伏せに倒れている2人がいた。

 ついさっき南の森から逃げたプレイヤー達だ。

 4人は駆け寄り、ユウキが男を抱き起こした。

「大丈夫か? 一体何があったんだ?」

「す、すいやせん。ド、ドジ踏んじまいやした」

 ようやく口を動かした男は、全身が痙攣している。

 間近で痺れ花粉を浴びせられたようだ。

 アキノの魔法で回復させたとしても、すぐには動き

回れないだろう。

「お嬢さんを連れ出そうとしたら、突然あいつが。

あんなのがこの森に潜んでやがったなんて」

「オーレリアはどこにいるの?」

 アキノの問い掛けに、男は震えながら花を指差した。

「面目ねえ。あっしらの前で、丸飲みにされちまった」

「なんだと!?」

 ユウキが叫ぶ。

 アキノは口元を押さえ、声も出せないようだ。

「どうか、どうかお嬢さんを助けてやってくだせえ。

あの人が死んじまったら元も子もねえんだ」

 オーレリアを無事家に返す事が最重要の目的。

 暗にそう主張しているかのようだとユウキは感じ取った。

「それも含めて、誘拐の計画なわけか」

「え……ユウキさん、あんた……」

 何か言いたげな男をユウキは無言で横たわらせた。


「お嬢があいつの腹の中にいるってのか?」

「ああ、『丸飲み』だ」

「ど、どうしたら?」

 アルスはこのモンスターは初見だろう。

 だが他の3名はゲームでの戦闘経験がある。

「とにかく急いで吐き出させるんだ」

 手はある──ユウキは巨大な妖花をにらみ付けた。

 主に大型モンスターが使う特殊技の丸飲み。

 文字通り、丸飲みにされて体内でHPを吸収される。

 通常は一定時間で吐き出されるが、プレイヤーより

脆弱なオーレリアの体力がどこまでもつか。

 途中で見かけた動物の骨は、溶かされて吸収された

成れの果て。あのモンスターの食いカスだ。


 ユウキは急いで自分のモンスター知識を紐解く。

 丸飲みを解除させる方法は2つ。

「吐き出させるにはあいつを一気に倒すか、胴体に

物理ダメージを与えないといけない」

「なら魔法でドカンと吹き飛ばしゃ良いってわけだ。

お前くらいのレベルならそういうのの1つや2つ、

使えるはずだろ」


 ラリィの意見は全く以て正しい。

 動けると言っても、相手の移動速度自体は遅い。

 アウトレンジから強力な破壊魔法や特殊技を連発して

短時間で撃破するのがセオリーと言える。

 ただ、体内に誰もいない場合に限ってだが。

「魔法で集中攻撃する方法もあるが、中のオーレリアまで

傷付ける可能性がある」

「私達と違って、彼女のHPは微々たる物だろうから」

 プレイヤーと一般のエルドラド人は外見上は大差ないが、

肉体の頑強さが違う。

 ただでさえ衰弱している所に魔法の衝撃が加わったら、

それが致命傷になり兼ねない。

「それにやつは一定レベル以上の魔法や特殊技に対しての

カウンター行動で、装備を劣化させて毒状態も引き起こす

アシッドスピットを返してくる」

「あの酸性の毒液か」

「俺達は何とでも対処できるが、毒液がやつの体内を

循環するとき、その毒素が直接オーレリアの体を侵して

しまう危険性も十分考えられる」

 魔法で瞬時に倒してしまう戦法は取れない。

 となれば──。

「あたしがやるしかねえか」

 ラリィはグレイヘロンを抜き放った。

 3人もそれぞれ武器を構える。


 作戦を練った4人に、頭を向けるように花被が動いた。

 獲物の体温か、それとも空気の振動を感知したのか。

 こちらのパーティーを捕捉したようだ。

「クアアアオ!」

 発声器官があるのか、獣とは違った高音で吠える。

 陸に上がったタコのように、根を器用に使って這いずり

だすと、触手を伸ばし始めた。

 伸縮自在ではないだろうが、30メートルは伸びている。

 触手は一見非力そうにも見えるが、ムチのようにしなり、

叩き付けられれば下手なハンマーより威力がある。

 また捕縛されてしまえば、自力で振り解くのは困難だ。


 相手とパーティーの距離は約40メートル。

「プロテクション!」

 アキノが物理防御力を上げる魔法を唱えた。

 盾のように円形の光が4人の前に現れる。

「ライドウインド!」

 続いて唱えた速度上昇魔法でスッと身が軽くなる。

 花粉は耐性防具でカバーし、スピード重視の接近戦を

挑むシフトだ。


「時間との勝負だ。俺達が援護する、ラリィは強引にでも

斬り込んでくれ!」

「おうよ!」

 4人が戦闘態勢を取ると、触手が一斉に襲い掛かってきた。

 おびただしい数の大蛇が喰らい付いてくるように、それは

あらゆる方向から、同時に、あるいは時間差で。

「邪魔だ!」

 ラリィが素早い剣さばきで迫る触手を切り払う。

 アキノはロッドから槍の穂先を発して薙刀のように振るい、

アルスは1本1本動きを見極めて堅実に打ち払う。

 ユウキも初級魔法のエアカッターや魔力で周囲を切り裂く

スラッシュサイスで果敢に迎撃していく。


「くそ! 思った以上に厄介だぜ、こいつぁ!」

 動きを阻まれ、ラリィが焦り気味に叫んだ。

 触手は柔らかそうに見えて表面は硬質ゴムのように硬く、

切り落としてもすぐに切り口から生えてくる。

 それを対処している間にも胴体から新たな触手を伸ばし、

更に枝分かれさせて襲ってくるのだ。

 これはもう小規模なジャングルが出現しているのも同然で、

辺りは触手で飽和状態になっている。

 手強いと言われるサウルスプランターだが、何より脅威

なのがこの尋常ではない再生能力だ。

 強力な破壊魔法というダメージソースが使えない状況では、

ジリ貧になるのは仕方がない。


「こいつはどうだ!」

 物理ダメージを狙い、ラリィがククリナイフを連投した。

 ナイフはブーメランのように回転しながら胴体へ迫るが、

目前で触手に払い落とされた。

 こんな反射的な動きが植物に可能なのか。

 植物ではあるが、あれはやはりモンスターなのだ。


「やろうっ! 刻んでサラダにしてやる!」

 ラリィが新たに構えると、彼女の動作に残像が残り始める。

 ローグの早業スキルの1つ、ミラージュ・エフェクト。

 本人が速度上昇し、後を追う残像で相手に的を絞りづらく

させるスキルだ。

 動きが機敏になり、攻撃の回転率も上がる。

 火力が足りないなら手数でまかなうまでだ。

 実体と残像の判別が出来ないのか、触手の半分ほどが

残像のほうを狙い始める。

 ワンテンポ遅れた攻撃を潜り、ラリィは前進する。

 しかし、とにかく触手が多い。

 これは武器であると同時に、本体へ近付かせまいとする

防壁の役目も担っている。

 波打ち、覆い被さってくる緑の壁を、青いグレイヘロンが

切り開いていく。

 ユウキ達もとにかく攻撃を浴びせ、前進を援護する。

 あと1歩、あともう1歩で。

「ここまで来りゃあなあ!」

 ラリィから胴体への距離はおよそ5メートル。

 間隙を縫って踏み込めば、剣が届く。

 この一撃を加えれば──。


「っ! し、しまった!」

 剣を掲げた右腕を死角の触手に絡め取られてしまった。

 振り解こうとしているとその隙に左手にも絡み付かれ、

続いて右の足首から太ももまでぐるぐると巻き付かれる。

 左足の自由も奪われると、最後は身体を縛り上げられ、

大の字の形で宙に吊り上げられてしまった。

「ラリィさん!」

 剣を縦横に振りながら、アルスが叫ぶ。


「フレイムスロワー!」

 ユウキはワンドから一直線に火炎を放射した。

 ブレス系の特殊技だ。

 高所のラリィを助けるため、炎で触手を焼き切ろうと

試みるが、

「こいつ、なんてしぶとさだ!」

 弱点属性なので効果は出ている。

 確かに焼けてはいるのだが、よほど獲物に貪欲なのか

次から次へと触手を追加して決して放そうとしない。

 加えて憎らしい事に、触手を器用に動かして焼かれる

面積を最小限にしているのだ。

 上手く防御しつつ、空いた触手はユウキを狙ってくる。


 これはオーレリア救出の為の、時間との戦いだ。

 攻め手のラリィを欠いては大きなロスになる。

 武器を持っているからと言って、ユウキもアキノも

肉弾戦を得意とする職ではなく、接近は難しい。

 もし近寄れたとしても効果的な一撃を叩き込む前に、

ラリィと同じ結果に終わるに違いない。

 アルスもレベル不相応の相手を前に頑張っているが、

身を守る事で精一杯のようだ。


 アルスが剣を振るっていると、胴体から飛来してきた

何かが頭部に当たり、頭が後ろへ跳ね上がった。

「……つぅ、今のは!?」

 気絶するほどではないが、子供の握り拳くらいある

石でもぶつけられた衝撃。

 手で押さえた額には血が滲んでいる。

 続いて飛んできた物をアルスは咄嗟に切り落とした。

 ガキンと音を立てて転がったのは、

「種?」

 胴体部分にある小さな穴から放たれたシードガン。

 植物系モンスターが使ってくる特殊技でクルミ並の

硬度を持つ種子を発射する。

 現実のマシンガンのような殺傷力こそないものの、

当たり方次第ではアザでは済まない。

 腕に当たれば武器を落とし、脚に当たれば素早い

動きを奪われるだろう。

 パパパパッと発射音をさせて種が連射される。

 3人は伏せたり、地を転がってやり過ごした。


 伸縮する触手とシードガンの牽制射撃。

 その上、多少の攻撃はものともしない再生能力。

 まるで堅牢な砦だ。

 威嚇するようにサウルスプランターは再度吠えた。

 花弁の近くでは、クソォ! とラリィがもがいている。


 ただのボス戦なら撤退して出直すという手もあるが、

オーレリアの命がいつ吸い尽くされるとも知れない

状況なのだ。

 爆発魔法で触手を出来る限り吹き飛ばしたその隙に、

もしくは冷凍魔法で動きを鈍らせるのはどうだ。

 ユウキは考えるが、それらを食らわせた際、瞬間的に

カウンターで返って来るアシッドスピットの存在が

やはりネックなのだ。


「こうなったら、僕が斬り込みます!」

「いや、君のレベルじゃ無茶だ。ラリィのように素早い

踏み込みでなければ一撃は加えられない」

「この剣の固有技を使えば、一撃のチャンスくらいは

作れるかもしれませんよ」

 アルスは揺るがない瞳で言った。

 雷帝剣レプリカは、威力は大きく劣るものの本物と

類似した固有技を使う事が出来る。

「あれってSPの消費が大きいんじゃない? 実際に

使った事はあるの?」

「ないです。今のレベルに上がって、何とか1発放てる

ようになって」

「スキルとして身に付けた技と、武器の力を開放して

放つ技は別物だ。ぶっつけ本番で、出来るのか」

「出来るかどうかじゃなく、僕がやります。それに、

もう迷っている時間はない……!」

 強い意志と決断力。

 ユウキはあどけなさが残る彼の表情の中に、いずれ

パーティーを率いるであろうリーダーの片鱗を見た。

「よし、分かった。発動まで援護する」

「私も。上手くやってね」

 プレッシャーではなく、アキノも信頼している。

 彼の前に立ち、2人は迫り来る触手を迎撃する。


 アルスは固有技を放つための動作、ルーティーンを

開始する。

 アイテムの力で使える固有技や固有魔法を放つには、

決められた動きや詠唱を行わなければならない。

 剣を両手で持ち、鍔に埋め込まれた魔法石を額の前に

持ってくる。

 SPを技に必要な集中力に変換し、稲妻のイメージを

頭に思い浮かべる。

 その念とも言えるイメージが魔法石に届くと、

「うおっ、きた!」

 石から放たれた閃光が彼を包み込む。

 光が和らぐとそこには、全身にスパークする雷光を

まとったアルスがいた。

「エンター・ザ・ライトニングブレード──」

 それが己を雷の刃とし、高速で斬り込む斬撃技の名だ。

「準備できたな。行けそうか?」

「行けます、僕が必ず」

「よし。俺が、やつが反応しないレベルの爆発魔法で

触手を押し広げる。そこを抜けてくれっ」

 アルスは剣を構えて、頷く。

 ユウキは過敏にカウンターを恐れて、魔法使用を控えて

いたが、もうここで失敗は出来ない。

 やれるだけの援護でビギナー剣士を送り出してやるのだ。


「バースト!」

 ワンドからグレープフルーツ大の火球が放たれ、触手が

密集する中へ飛び込むと、ドーム状に爆発が起こった。

 爆風ではね退けられた触手の下へ、アルスは走り込んだ。

 その速さは稲妻の如く。

 触手達の防御網は接近を阻もうとするが、絡み付こうと

するものは動きを捉える事が出来ず、シードガンの掃射は

ジグザグの回避で掠りもしない。

 本体前まで一気に駆け抜けると、剣を引いて僅かにタメを

作り、そして斜め上からの一閃!

 斬撃と共に雷鳴が轟き、稲光を宿した剣閃が唸る。


「……やった!」

 必殺の一撃には及ばないが、確かに一撃は加えられた。


 胴体へ攻撃を受けた妖花はビクビクと全体を震わせると、

花の中心からゲボッとオーレリアを吐き出した。

 オーレリアは落下中に触手にぶつかると、弾むように

茂みへと落ちた。

 体内からの放出を喜んだのも束の間、アルスが片膝を

ついた。

 一度にSPを限界まで使ったため、その消耗が体へと

急激にバックしてきたのだ。

 剣を杖代わりに立とうとするが、力が入らない。

 そこへ息を吹き返した触手が怒涛の勢いで殺到し、

「アルス!」

 3人が彼のピンチに叫んだ次の瞬間、

「どうやら間に合ったようだな」

 アルスの周りの触手は残らず切断されていた。

 いつの間にか彼の隣に立っていたのは、

 刀を持ったリザードマン。




「リュウドさん!」

 リュウドは頷くと、彼を脇に抱え、触手の群れの中から

跳躍した。

 ユウキの元まで跳ぶと、

「リュウド!」

「ハイペースなマラソンをした甲斐があって、上手く合流

できたようだ」

 犯人の馬を走って追っていたようだが、顔に疲労の色は

見られない。

 色と言っても肌は碧鱗なのだが。

「うりゃ! どうだっ!」

 胴体へのショックで捕縛が緩んだのか、ラリィは自分を

縛る触手を切り払い、自力で脱出したようだ。

 高所からの落下だが身軽に着地し、ユウキ達の所まで

飛び退いてくる。


「生きてる! オーレリアさんは軽い怪我だけよ!」

 隙を見て、茂みに走ったアキノが叫んだ。

 バウンドして茂みに落ちたのが幸いしたようだ。


「これでもう遠慮はいらないな」

 ユウキは両の掌を前に出し、構える。

 炎の属性を意味する赤い光が、体の奥底から溢れ出た。

「サラマンダーストーム!」

 掌を更に前へと押し出すと、サウルスプランターの

周囲に数多くの火の粉が舞い始める。

 そしてそれは急速に数を増やしながら回転していき、

やがて渦巻く火柱となった。

「ギャアアアア!」

 炎の竜巻の中心部で妖花がのたうつ。

 触手を振り回し、断末魔の奇声を上げながら。


 火炎の渦巻きが再び火の粉となって天に昇っていくと、

その下にはひび割れた表皮の間からぶすぶすと煙を上げて

倒れているサウルスプランターの姿が。

 だが、まだ完全に死んでいない。

 焼かれながらも、再生力でその身を起こそうとしている。

 かま首をもたげようとする蛇のように。

 ラリィとリュウドはアイコンタクトすると、同時に走る。

 そして花の前で交差しながら剣を閃かせ、後ろへ抜けた。

 ベテランが為せる、打ち合わせなしの寸分狂わぬ同時攻撃。

 頭部のようなサウルスプランターの花がずるりとずれて、

椿の花がポトッと落ちるように、ドスンと地に落ちた。

「しばらく野菜炒めは食いたくねえな」

 急速に萎れて行く触手をラリィは蹴飛ばす。

 再生する様子は皆無、完全に死滅したようだ。


「オーレリアさんは無事よ。怪我も回復させたから」

 アキノが彼女に肩を貸しながら歩いて来た。

 ドレスが所々溶け、肌も少しただれて赤くなっているが

大怪我はしていないようだ。

 ユウキの前まで来ると、まだ立っているのも大変なのか

ぺたりと座り込んでしまう。

「ありがとうございました。もうダメかと」

「無事で何よりでした」

 冷淡、ではないが落ち着いた口調でユウキは言った。

 ピンチから救った喜びを抑え、冷静に努めている。


「おい、首謀者はどこ行っちまったんだ!? まだ屋敷の中に

いるのか? それとも、もうとんずらしちまったか?」

 ラリィが焦げた妖花の残骸を蹴りながら言った。

 そう、人質を助け、出来るなら首謀者と実行犯を捕まえる

ためにユウキ達はここへ来たのだ。

「お父様の指示で、貴方がたは助けに来て下さったのですか?」

「いいえ、俺達が勝手にやった事です」

「勝手に? 自主的に、という事ですの?」

「ええ。だから、首謀者が誰かを報告する義務は無いんです」

「………」

 アキノがユウキの発言に違和感を覚えた。

 ラリィがワーワー騒ぎ、リュウドとアルスはこちらに近付いて

来ている。

 オーレリアは──沈黙していた。

 ユウキはゆっくり跪いて、彼女の瞳を見て、そして、


「誘拐事件の首謀者はあなたですね、オーレリアさん」



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