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冒険者達の集い  作者: イトー
カーベインへの道
35/173

南の森の屋敷にて

 ユウキ達と2人組はホールで鉢合わせする形になった。

 イレギュラーな出来事だったのは相手も同じだったらしく、

互いに動揺で動きが止まる。


 1人は20代後半くらいの男で坊主頭にバンダナを巻き、

服装はヤシマ製の術師の法衣で僧侶に見えなくもない。

 腕輪などの装備からして、魔術師系か。

 女は20歳前半。肩までの髪で、振り袖と膝上丈の裾が

印象的な着物と似た服装で、こちらも和装だ。

 このタイミングで無関係なプレイヤーが偶然屋敷に入って

来たとは考え難い。

 2人は犯人一味に違いない。

 当人達もそう判断されたのを自覚した表情だ。


 ユウキ達はサッと横に広がり、2人とにらみ合いになった。

 様子を窺いながら、まだ互いに戦闘態勢には入っていない。

「仲間は返してもらったぞ」

 ユウキがわざとぶっきらぼうに言った。

 仲間をさらわれたという事実のみを前面に押し出して。

「突然いなくなったから心配して連絡を取ってみれば、

いきなり魔法で眠らされて拉致されたと言うじゃないか。

急いで捜しに来てみれば、わざわざこんな所に監禁して」

 ユウキは少しオーバーに憤って見せるが、法衣姿の男は

片側の口角を上げ、にやりとした。

「なるほど。自分達は仲間を助けに来ただけで例の件には

関わってないと、そうアピールしようってわけですかい」

 とぼけねえでくだせえや、ユウキさん──。

 男は顔見知りにでも話すように言った。

 名前を知られているのは分かるが、警戒心を薄れさせる

ような親しみを込めた口調が逆に寒々とさせる。

「あっしは屋敷の裏口に例の手紙をお届けに上がった時、

あんた方が出入りするのを見てる。使用人が、異界人が

放蕩息子を助けたと話していたのも聞いてるんでさあ。

あんた、それで何も知らねえってこたぁねえでしょう?」

「……何が言いたい」

「仲間を捜すのを口実に、実際はクレマンに頼まれて、

娘がいそうな所を探りに来たんじゃねえんですかい?」

 時代劇で聞くような、どこか古めかしい言葉遣い。

 これも彼のキャラクターか。

「違う、俺達は仲間を助ける為にここに来たんだ!」

 ユウキは声を張った。

「誘拐事件のことは知ってる。さらわれた仲間がその件に

関わっていると確信したのも事実だ。だが、クレマンには

何も頼まれていない。関わらないでくれと言われたんだ」

「ここに来たのはあくまで仲間を助ける為で他意はねえと。

そう、おっしゃるんで?」

「そうだ」

 ユウキの発言は真実と嘘の境目にある。

 が、ところどころ伏せながら話す事は明確な嘘ではない。

「間接的に関わった者を助けに来る事が、事件への介入だと

判断される、とは思わなかったんで?」

「オーレリアを助けに来た訳じゃない。いなくなった仲間を

捜しただけで介入だなんて言う解釈は、あの脅迫状の中には

無かったはずだ。俺は認めない」

 ユウキは頑なに言った。

 お前の認否など関係ない事だ、と突っぱねられたら不利だが、

だからこそ隙を見せずに強気で通さなくてはならない。

 女が男のほうを見たが、男は丸い頭をペシッと叩き、

「このままだと水掛け論になりやすが、あっしはどうにも

そういうのが苦手だ。今更どうこう話してもしようがねえ、

関与はしてねえって事にしておきやしょう」

 男はあっさり譲歩した。

 ユウキの腹の中をある程度は読んでいるだろうが、それでも

譲って構わないと判断したようだ。

 目的の身代金入手は既に確認済みなのだろう。


「無関係の者を巻き込んだのは、すまねえと思ってまさあ。

しかし、飛び出してきた若いのを眠らせた時、こいつは厄介に

なると思いやしたね。昨日の通りでの騒ぎの後、あんた方が

意気投合してるのをあっしは見てましてね。だからこりゃあ、

お人好しで面倒見の良いあんたが絡んで来るんじゃねえかと

ひやひやしてたんだが、案の定こうなっちまった」

 皮肉ではなく、人柄を知っているような口振りだ。

「俺を知ってるのか」

「あっしらは『冒険者の集い』傘下の小せえケチなギルドに

いやしてね。会うのはお初だが、評判は聞いておりやしたよ」

 男は隣の女を一瞥した。

 一緒に冒険した覚えはないが、集会の時などはわりと身近に

いたのかもしれない。

 自分と縁のあった者がこんな事件を引き起こしたのか。

 ユウキは口をへの字に曲げた。

「何をペラペラと喋ってやがる、この誘拐犯どもめ!」

 啖呵を切りながらラリィがショートソードを抜いた。

 羽ばたくアオサギを模した鍔を持つグレイヘロン。

 振られた剣の軌跡が、宙に水色の残像を残す。

「あたしはお嬢の事は知らねえ。だがうちの仲間をさらった

落とし前、つける覚悟は出来てるんだろうな」


 凄まれた男はわざとらしく怯んだ演技で苦笑いをすると、

両の掌を前に出す。

「おっと、荒事は勘弁だ。穏便に済ませちゃくれねえか」

「なんだ穏便ってのは」

「今しがた、仲間から身代金を無事受け取ったと報告が

ありやしてね。念のためにちょっくら小細工を仕掛けて

おいたが、まあ上手くいったようだ。あっしがその金を

確認したら、お嬢さんはすぐ返すつもりだ」

 悪びれもなく話す男にアキノは憤慨した。

「人質を無事返すから、見逃せって言うの?」

「見逃して、もらえやせんかね。1つ穏やかに」

 男は常連の飲み屋でツケを頼むような口調で言った。

 今現在、ユウキ達は耐性装備で固めている。

 よって睡眠などの異常はほぼ無効化される。

 男は戦士系に見えないし、女のほうも軽量の武器で戦う

軽戦士といったところだろう。

 真っ向勝負なら、ユウキ達は力ずくで彼らを倒せる。

 だが相手には人質という何よりも強固な切り札がある。

 身代金が支払われたとは言え、まだ手の内にある以上は、

それを最大限に活用するのは至極当然の事だ。


 アルスもその正義感ゆえ、男の態度に黙っていられない。

「貴方達は金欲しさに、プレイヤーの力を悪用してまで

こんなまねをしたんですか!? お金なんて、順調に冒険

していけば困らない程度には貯まるじゃないですか!」

「金のためだなんて、生臭え勘違いはしねえでくだせえ。

あっしらはね、ただ人助けがしてえと思ってやったんで。

憎い相手に何とかやり返す、その手助けをしたまででさあ」

 首謀者がそれを望んで依頼したのか。

 彼らは彼らなりの理念に従って、行動したという事か。


「おいてめえ、おい、法で裁けぬ悪を裁くってやつか? 

つまんねえテレビだか漫画の見すぎなんじゃねえか!?」

 ラリィが剣を構えながら1歩前に出た。

「人の仲間さらっておいて何が穏便に済ませてくれだ。

何寝言ほざいてやがる。ふざけた事を抜かしやがって!」

「さらったのは仕方なかったんでさあ。別に痛め付けて

苦しめたって訳じゃねえ。昨日から丁重にお預かりして、

ここへ来たのだって回復させるためだったんですぜ」

「何が丁重にだ。さらっておいて、お客様扱いしたから

良いだろうってか? 物は言いようで済む話じゃねえぞ!」

 ラリィは相当頭に血が昇っている。

 仲間をさらっておきながら、それを今はどうでも良い事の

ように扱われるのが許せないのだ。

 その対応は世話をしていたアルスを蔑ろにされているのと

変わらず、何としても我慢ならない。


 ここで今まで黙っていた女が口を開いた。

「そんなに騒ぐなら、あんな場所に出くわさないように

面倒見ときゃ良かったじゃないか」

「なんだと」

「こっちも仕事が増えていい迷惑だったのさ。あんな時間に

荷車盗んで、夜道を引っ張り回さなきゃならなくなった。

夜中にガキをチョロチョロうろつかせて、それで危険な目に

遭ったなら、悪いのは統率出来ないヘボリーダーだろうに」

 完全に逆ギレした言い分だ。彼女の性格が窺い知れる。

 ラリィは更にキレ返した。

「てめえ、リーダーのあたしに責任転嫁するってえのか!

あたしはな、詐欺師に騙される方が悪いって言うような奴が

死ぬほど嫌えなんだ! てめえの悪事を棚上げして、人様に

落ち度があるみたいに言うんじゃねえや!」

 すぐにでもグレイヘロンで斬撃を浴びせかねない剣幕だ。

 アルスが冷静に努めさせる。

「ラリィさん、落ち着いて下さい。まだオーレリアさんは

向こうの手の中です。他に仲間がいたら、チャットで指示を

送るだけで、傷付ける事も、殺す事だって……!」

 アルスの言う通り、相手は人質を殺せる爆弾の起爆スイッチを

好きなタイミングで押せるのに等しい。

 オーレリアというカードを手札に持つ彼らは圧倒的有利なのだ。


「人を大悪党みてえに言わねえでくだせえ。あっしはお嬢さんの

玉の肌に傷1つ付けずに、親御さんへ返すつもりなんだ」

 男はやはり飄然とした態度で言った。

 手詰まり状態の中、ユウキは考える。

 オーレリアの生命が第一、何より優先されるのは変わりない。

 ここは無難に身代金取引の成立で解決と見た方が良いか。

 しかし、はいどうぞと素直に犯人を逃がしてしまったら、今後も

似たような事件が繰り返されるのではないか。

 プレイヤーはどんな一般人よりも強く、ターゲットに出来そうな

貴族や資産家は探せばゴロゴロいる。

 なら戒めの意味も込めて強引に2人を戦闘不能にして、その間に

オーレリアの居所を捜すのはどうだ。

 否、アルスが指摘したように見張り役の仲間がいるとすれば、

一言でも指示が届けばオーレリアに危険が及ぶ。

 相手と同じように、速攻で眠らせて一定時間チャットを開かせない

方法もあるだろうが、もし誘拐犯同士で定時連絡の取り決めでも

あれば、連絡が断たれた時点で仲間が異変に気付くだろう。

 やはり、人質が戻るまでは下手な行動は避けるべきか。

 さっきは見逃されたが、これから怪しい行動は誘拐事件への介入と

みなされるだろう。

 勇み過ぎた行動でオーレリアに何かあったら、クレマンに謝罪の

言葉もない。


(人質の居場所と犯人の人数が分かれば、もっと柔軟に動けるのに)

 ユウキはそこで気付いた。

 リュウドは今どうしているのだろうか。

 デコイドールの仕掛けを見抜けなかったからと、ふて腐れている

わけではないだろう。

 今この瞬間も犯人を追跡しているかもしれない。

 男は、自分が金を確認したら彼女を返すと言っていた。

 つまり受け取り役と男は合流し、そこで返す手はずや逃亡の準備を

整えるのは想像に難くない。

 恐らく合流地点かその近辺がオーレリアの監禁場所だ。

 リュウドが人質の居場所に見当を付けてくれれば、あるいは──。


「そういや、あんた方。ちぃとばかり人数が足りやせんね」

「!?」

「ひよっこ神官はお荷物だが、あの腕の立ちそうなリザードマンの

旦那がいねえってのは一体──」

 このタイミングでそれに気付くか!?

 ユウキがその驚きを表情に出してしまった瞬間、


 ガチャ


 奥のドアが開いた。

「あ、あいつら!」

 ラリィが叫ぶ。

 のっそりと出てきたのは、例の3人組だ。

 すぐさま味方の2人に加勢するかと思いきや、不思議そうな顔で

2つのグループを見ている。

 彼らは状況の把握が出来ていないのだろうか?

 それはともかくとして、3人の登場で場の空気が動いた。

「すまねえが、ここらでおいとましますぜ」

 男は人差し指を立てて口早に呪文を詠唱すると、開いた掌を前に

突き出した。

 するとユウキ達の視界が一瞬白け、

「な、なんだ、この炎は!?」

 次の瞬間には部屋が床から天井まで業火に包まれていた。

 突如として一呼吸で肺を焼くような凄まじい熱風が吹き荒れる。

 目を開けるのもやっとの環境で、女が斜めに跳び上がった。

 指の間には投擲用のニードルが何本も挟まれている。

「ふっ! はっ!」

 女は宙返りすると、回転の最中にそれらを放った。

 曲芸のような変則的な動きから投擲をするジャグラースローだ。

 中位の投擲スキルで、刃物が手から離れるリリースポイントが

見切りにくく、回避は困難を極める。

 ニードルはユウキ達を牽制するように飛来し、カカカッと音を

立てて手前の床に突き刺さった。

 着地した女が玄関へと走り、男もすぐ後に続く。

 荒れ狂う炎にたじろぎながらもユウキを追おうとするが、もう

2人は玄関を開けて外へ出ようとしている。

「逃げんな!」

 ラリィがナイフを投げ放った。

 ナイフは直線を描いて、締められようとするドアの隙間を抜け、

男の法衣を掠った。

 だが男は動じず、そのまま庭へと飛び出す。

 そして、僅かに開くドアから馬が駆け出していく音が聞こえた。


 まんまと逃げられた。

 そちらに気を向けるが、馬のいななきと蹄の音をかき消すように、

轟々と渦巻く炎が膨れ上がって迫ってくる。

「くうっ!」

 4人は高熱のあまり顔を伏せるが、

「………?」

 突然、室内が常温に戻った。

「火が消えた?」

 何が起きたか分からず、ユウキは周りを確認した。

 ニードルは刺さったままだが、部屋に焼けた跡はどこにもなく、

それどころかすす1つ落ちていない。

 あれだけ炎に炙られたのに、誰の服にも焦げ目さえ無かった。

「今の炎、あの男が幻術を使ったのか」

 消火されたのではない。

 最初からどこも燃えてなどいなかったのだ。


 数多く存在する魔術魔法の大系の1つである幻術。

 極意に至れば視覚だけでなく五感までをも欺き、術の効力で

心身に同時にダメージを与えるという。

 男が掌を向けた時には、既に術中に陥っていたのだ。

 幻術はステータス異常の一種と言えるが、混乱とはまた別の

精神防御耐性が無ければ無効化は出来ない。


 平静を取り戻した4人を3人組、ドミニク一味はポカンと

した顔で見ていた。

 彼らは幻術のターゲットにされなかったらしい。

「おい、お前ら!」

 ラリィは3人組に駆け寄る。

 そして細身の男、ヤンコネンの胸倉を掴んだ。

「あいつらはどこ行った! 誘拐したお嬢はどこにいる!」

「誘拐? 待って待って、私らはなんもしてないのよー」

「あんた誤解してるよ、私達はあの2人の仲間じゃない。

哀れな被害者のほうなんだ」

 ドミニクが申し開きをする。

「仲間じゃねえだと? こいつは見たと言ってるぞ」

「僕は、この人達が倒れてるアントニーに駆け寄るのを

見ました」

「アントニーも、気を失う前にあなた達を見たって」

 アルスとアキノが仲間説の根拠を出す。

「だから誤解だよ。私達は近寄ってっただけなんだ」

「おう、俺達は無実、無実だ」

 何やら必死で弁明するドミニクとゴンズを見かねて、

ラリィはヤンコネンを放してやった。

 ヤンコネンは合掌し、拝むように頭を下げた。


 ユウキは事態を把握させる為には仕方ないと、簡単に

事件を説明し、

「何があったのか、状況を説明してくれ」

「私達は昨日の晩、ちょっとばかり食べ物と酒を拝借

しようとあの界隈を歩いてたんだよ」

 誘拐犯ではないが、窃盗犯ではあるのだ。

 だが今は、それはそれという事にしておく。

「そこで、言い争うような声が聞こえてきたのよー」

「僕もその声は聞きました」

 ヤンコネンにアルスは同意する。

「まあ、普通は気になるから見に行くじゃないのさ。

そしたらあのアントニーって優男が倒れる所を見てね、

何があったのかと駆け寄って行ったんだよ」

 アントニーが睡眠魔法を掛けられた瞬間だ。

 ドミニク一味はそれを見て近寄り、アルスはその様子を

彼と3人組のトラブルだと思って駆け寄ったのだ。

「おう、俺達は近くに行って、十字路の右にマスクを手に

持った連中がいる事に気付いた」

「驚いたよ、誰だって夜道であんなのを見れば驚くさ。

これは何かヤバイやつだと思ってたら、今度はそのガキが

正面から駆けて来たんだ」

「んで、私達の前に来た途端、横から飛んできた魔法を

ポカーンと食らって、眠っちゃったのよお」

「おう、けど次は俺達が眠らされた。問答無用だ」

 ユウキは3人の話を聞き、簡単に整理する。

 つまりタッチの差で誘拐現場を見つけ、次々と眠らされて

しまったというわけだ。

 そして自力で回復して監禁部屋から出てきたら、これまた

運悪く、にらみ合いの場面に遭遇してしまったと。

「じゃあ、オーレリアとアントニーが魔法を掛けられて

倒れている所を見たんだな」

「は? 倒れていたのはあの優男だけだよ」

「えっ、オーレリアはもう犯人に担ぎ上げられてたとか?」

 アキノが聞くと、ドミニクは首を振った。

「いいや、何してたかまでは知らないけど、あのお嬢様は

あたしたちが駆け付けた時には普通に立っていたんだ」

「普通に立っていた? 怯えて動けない様子だったとか」

「さあ、そこまでは分からないねえ。私達はそのまますぐ

眠らされたんだし」

 ユウキの頭に疑問が浮かぶ。

 なぜ誘拐犯はアントニーだけを、あるいは彼から眠らせたのか。

 悲鳴を上げられる前にオーレリアから眠らせるというのが、

手順としては普通ではないだろうか。

 もし彼女が気丈で騒がなかったとしても、それでも女性から

黙らせるのが常識的なやり方に思えてくる。

 この違和感、齟齬は何なのだろうか。


「これで私達が無関係だと分かったろ? じゃ、こんな所は

とっととおさらばさせてもらうよ」

 威勢の良さが戻ってきたのか、ドミニクは部下2人を連れて

屋敷から出て行こうとする。

「おい、あの街にはすぐ戻らないほうが身の為だぜ」

「?」

「お前らは誘拐犯の仲間だと思われてる。今行ったらすぐに

お縄を頂戴する事になる」

「なんだって!? 血も涙もない酷い話だねえ、そりゃ誤解も

いいとこだよ。警察は何やってるんだい」

「どっちみち捕まるんじゃないですか、泥棒してたんだし」

「あーあー全く最後まで口の減らないガキだよ。お前達、

別の街を次のねぐらにするよ」

 3人組はそそくさと屋敷を出て行った。


「あれ、何かしら?」

 開けっ放しの玄関を見て、アキノが気付いた。

 そして外に落ちていた何かを拾ってくる。

「これ、ここの鍵よね」

 アキノが手にしているのは金色の鍵だ。

「どれ。ああ、こりゃ家紋からして合鍵じゃなく、本物だ」

 ラリィがシーフ職の目で鍵を鑑定した。

 屋敷に入る時に、こんな物は落ちていなかったはずだ。

 勿論、出て行った3人組の落し物でもないだろう。

「あたしのナイフが掠って、あの男が落としたのかもな」

 ユウキの頭に、また疑問が浮かんだ。

 あいつ、何でこんな物を持ってたんだ?

 まさかここを使う為に、事前に街の屋敷から盗んでおいたの

だろうか?

 いや、そうまでして準備する必要は無い。

 玄関は鍵開けのスキルか、そうでないなら蹴破れば済む話だ。

 ただ入ろうとするだけなら、窓からだって入れるだろう。

 ならどうして、どこでこの鍵を。


 ユウキが考えていると、チャットウインドウが開いた。

 連絡してきたのはベガだった。

(あの、そちらは今どんな様子ですか?)

 宿の出発から色々あって彼女への連絡をしていなかった。

 何かあれば自分に連絡をくれと言っておいたのだった。

(アルスは助けたよ。もう完全に回復してる)

(あぁ良かった……。じゃあ、オーレリアさんも無事に

戻ってきたんですね)

(いや、実は幾つかアクシデントが重なっちゃってね。

オーレリアはまだ戻ってないんだ)

(えっあ、そうだったんですか)

(犯人も人質の居場所も分からなくて、参ってる──)

 思わず、そんな風にこぼしてしまうが。

 1番レベルが低く、だが1番心配しているであろうベガに

ベテランの自分が何を弱音を吐いているんだ。

 ユウキは自省した。

(あ、あのですね、こちらから1つお伝えしたい事があって

連絡したんです)

(ん、何かあったのかい?)

(ええ、実はですね──)

 ベガは数秒おいて、そして、

(ユウキさんが宿で話題に出した、あの青年とついさっき

会ったんです)

 彼女は確かな口調でそう言った。

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