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冒険者達の集い  作者: イトー
カーベインへの道
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西へ向かって

 幌馬車に揺られながら、3人は街道を西へ進んだ。

 舗装こそされていないものの、この辺りには町を繋ぐ道があり、

そこを通っていけば主だった街には迷わず辿り着ける。

 街道上を逸れなければ急襲して来るようなモンスターも少ない

ので、安全面でも確かなルートだと言えた。


 昼にはマップにも表示されない小さな集落で小休止し、夕方には

ラウフッドに到着した。

 武器防具屋、宿屋など一通り揃っているがいたって普通の町である。

 壊れた装備は鍛冶屋で修理済み、消耗品の類もまだ十分だったので

買い足す物も無く、一晩宿を取るだけとなった。

 ここで冒険中のプレイヤーに会ったが、これという目新しい情報を

入手する事は無かった。

 翌日、昼前に馬車は次の町トロラに入った。

 幌馬車はここから北西のルートへ向かうと言う。

 カーベインは西に向かってから海へと南下する必要があり、このまま

この便に乗り続けては遠回りになってしまう。

 数時間待てばカーベイン方面行きの馬車が出ると分かり、3人は

町の出入り口付近で待っていたのだが、

「馬、借りてみないか?」

 ユウキがそう提案したのは、数頭の馬に乗ってパカパカと蹄を鳴らし

ながら前を横切ったパーティーを見たからだ。


 馬は貸し馬屋で借りられるレンタルの乗り物で、決まったルート上を

移動するのに使える。

 最初は自分の足で歩き回るのも恐る恐るだったプレイヤー達なのだが、

慣れてきてからは徐々に馬を移動の足に使いだした。

 馬に乗る為のスキルが必要となるが、リュウドはサムライで得られる

騎乗スキルを、2人は基礎的な乗馬スキルを持っている。

 馬に乗れる効果は一緒だが、騎乗スキルでは馬具に装甲を施された

軍馬に乗れ、騎乗状態のまま一定の広さを持つダンジョンに入れたり、

馬上槍などで戦闘が可能となる。

 3人は貸し馬屋で前金を払って、穏やかそうな馬を借りた。

 ユウキは現実では馬を直に見た事もなかったが、乗り慣れた自転車に

乗るが如く、当たり前のように乗れた。

 あぶみに足を掛け、鞍に跨り、手綱を持つともう何度も乗った経験が

あるようにしっくりと来る。

 この感覚もゲーム内での出来事が記憶に上書きされている為だろう。


 軽やかな足取りの馬に乗り、馬上の3人は西へ向かった。

 ゴトゴトと揺れる幌馬車と違い、気分はさながら愛車でのドライブ

気分だと言えなくもない。

 春のような陽気の下、通り抜ける林道で柔らかな木漏れ日を浴び、

開けたその先に現れた湖畔の道では水面を渡る風を感じる。

 散り散りに流れる白雲、丘陵を越えた先に広がる草原、草の匂い。

 地形の成り立ちや気候など地球とは微妙に違うのかもしれないが、

移り行く景色は、いつか海外の風景写真で見たような眺めだ。

 雄大な自然に圧倒されるが、それでいて以前訪れている記憶もある。

 モニターの中で見ていたフィールドを、今まさに体感している訳だ。

 馬を並べて歩きながら、ユウキは自然と鼻歌を歌っていた。

「あ、それ、フィールドマップの音楽」

 アキノが気付いたようだ。

 このゲームのプレイヤーなら誰もが分かる、多分ゲーム内で1番

聴いている曲だ。

 数々の人気RPGの音楽を担当した有名な作曲家が作っただけあって

聞き飽きない魅力がある。

「私も好きな曲だけど、それ、ちょっとだけ寂しいよね」

 明るいメインテーマをアレンジした曲なのだが、どこか冒険の哀愁を

漂わせる所があり、それがまた広大なマップにマッチしている。

 ユウキはゲームをプレイしていた時以上にこのBGMが心に滲みた。

 それは、突如この世界に連れて来られた自分達プレイヤーの心象と

マッチしているからかもしれない。


 小休止しながら日が落ちるまで移動すると、3人は街道沿いにある

草原、ようは道端で野営する事に決めた。

 暗い中を強行して進むかしばらく戻れば集落はあるが今後の冒険で

役立つだろうと、試しにキャンプを試みる事にしたのだ。

 ベースに決めた場所は平屋の一軒家ほどの大きな岩がある所で、

マップに照らし合わせてみるとカーベインへ順調に近付いているのが

分かった。

 昨日辺りに他のパーティーがやったのか、焚き火の跡がある。

 こういった目印になるポイントは、休憩所として使い易いのだろう。

 馬を休め、テントを張ると、先客が残した石で簡単なかまどを作る。

 そして近くの林から集めてきた薪で焚き火を始めた。

 火種にマッチやライターは必要ない、火炎魔法1つあれば良い。

 3人とも現実ではキャンプの経験は素人だが、作業をスムーズに

進められるのは野営スキルを持っているからだろう。

 キャラ作成後のチュートリアルで得られ、キャンプセットという

アイテムで休息を取る為に必要なスキルだが、本当に野営をすると

なるとなかなか便利なものだ。

 準備が整うと、小川から汲んできた水でスープを作る。

 固形スープの素、干し肉、乾燥野菜を煮込み、アキノが摘んで来た

野草を加え、香草を散らせば出来上がりだ。

 ミナ経由でブラッドから餞別代わりに渡された、料理人の手帳。

 このアイテムは所持しているだけで調理スキルが数ランク上がり、

スープの仕上がりは上々のものとなった。

 3人はこれに塩気の強い固焼きパンとチーズで夕食を済ませた。

「明日の昼間にはシルグラスに着くな」

 焚き木を足しながら、リュウドが言った。

 小さな火の粉が上がり、皆の顔を赤く照らす。

「ああ、大きな街だからそこで一晩宿を取って休んで、次の日には

カーベイン入りかな」

「いよいよね。明日には海が見える所に出るのかな」

 海が見たい、と思っているのはアキノだけではなかった。

 ユウキも特筆するような思い入れは無いが、海を見ればまた新たな

目的に出会えるような予感があったからだ。

「しかし、実際移動してみると結構大変だなあ」

 ユウキは背もたれにしていたリュックの上に体重を預けた。

「ゲームの中じゃ、移動なんてぱぱっと済んじゃうものね」

 ゲームでは数画面分スクロールすれば移動が完了するような距離も、

この世界では馬車で半日近く掛かったりする。

 大したモンスターもおらず、危な気なく進めるのだが、長距離移動は

やはりそれなりに疲労するのだ。

 ここまで離れると、現時点ではみんなの会のメンバーや知り合いとは

メッセージでのやり取りは出来なくなり、場所によっては近くにいても

連絡の送受信がし辛い地域もある。

 やはり転送魔法陣や検索機能の復活などはプレイヤーの課題のようだ。

 他愛の無い話をして、3人は横になった。

 遠くから獣の、恐らく狼型モンスターの遠吠えが聞こえる。

 アキノの簡易結界の中なのでモンスターから夜襲の心配はないものの、

ユウキは何か良からぬ予感めいたものを覚えていた。

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