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冒険者達の集い  作者: イトー
始まり
22/173

数日後

2016/7/15、事件後の展開を若干書き直しました。

 村の襲撃から数日が経った。

 3人はカーベイン行きを遅らせ、王都に留まっていた。


 今回の件が解決に至ったのは、本来部外者であったユウキ達が関わったからであり、この事件の顛末を見届ける責任があると当人達が判断したからだ。


 事の発端となったルイーザ殺害事件だが、容疑者として捕まったジャックスは殺害を認め、洗い浚い吐いた。


 それが己に掛けられた呪詛を解く、唯一の方法であるかのように。


 殺害はワイダルの指示であり、あの時あの場所で殺害に関与した者達は、一緒に捕まったワイダル兵の中にいると供述した。


 証拠となった切れ端とマフラーの切り口が一致し、リュウドに折られた魔剣は凶器として押収された。


 依頼の名目で襲撃のメンバーを募っていたスカウトの男も、既に身柄を押さえられていて、ジャックスの供述によればこの男もワイダル配下の関係者とされている。


 だが男は見知らぬ人物から金を渡され、詳しい内容を知らずに仕事としてやっていただけだ、と追及をかわしている。


 同じように、事件はオークの仕業だと街中で煽っていた活動家もワイダルや人間至上主義者から金品で頼まれてやっていたようだが、あくまで自分の意思でやっていたと言い張っている。


 どちらも誤魔化しているのは、クライアントの名を出してしまったら自分達が消されてしまうのが分かっているからだろう。


 このだんまりから、強権を持った者が関わっていたのが窺い知れた。


 これらの扇動によって、村の襲撃依頼に大勢が参加し掛けた訳だが、ルイーザの敵討ちのつもりで参加していた一般市民やプレイヤーは注意されただけで、帰される事となった。


 実質お咎めなしとの判断だが、ルイーザの死から生じた義憤を利用したこの手口は最悪の場合、村で大虐殺を起こしかねない危険性を孕んでいたと言える。


 大騒ぎにならないうちに阻止出来たのは内偵の判断を下したミナ、そして王都警備隊に警察、騎士団が動いてくれたからに他ならない。


 こうして手先として動いていた実行犯は粗方捕まった訳が、裏で糸を引いていたと思われるワイダルや議員は、知らぬ存ぜぬ、身に覚えがない、でこの件を切り抜けようとしていた。


 トカゲの尻尾切りなのは一目瞭然である。

 相手が権力者であろうと王立警察はその追及を弱めるつもりはなく、まず身柄をおさえる為、違法品密売などの別件逮捕という形でワイダルが逮捕された。


 悪知恵の働く悪党ほど二重三重に保険をかけて防御策を練っているものだが、言い逃れできないほど証言は揃い、証拠は挙がっている。


 関わっていた議員の逮捕も時間の問題、悪党は一網打尽になるだろう、とリンディはアッハッハと高らかに笑いながらユウキ達に語った。


 ワイダルが捕まったことで、彼に高騰させられていたアイテムの値段は元に戻った。


 大半のプレイヤーは関わっていないこの事件だが、冒険に必須となるマジックポーションの値が安定したのは彼等の助けになるだろう。


 事件の根源と言えなくもない、オークの村近辺に埋まっていた魔法石は推定で5千万ゴールドの価値があるとの事だった。


 1ゴールド100円で計算すれば途方も無い額であるのが分かる。


 最新の掘削技術を使えば、村にほとんど影響無く掘り出せる物らしい。


 魔法石の売買で得られる金は、1つの山村ではどうこう出来る金額では無いので、国が管理するという方向で話がまとまった。


 これは村の総意として村長が申し出た事で、しかもその大部分を国が福祉などに運用しても構わないのだと言う。

 大御殿を建てる事も可能な額であるが、世の中に役立てて欲しいという村中からのお願いなのだそうだ。


 モンスターは邪悪な心を持つと人は言うが、心に(よこしま)なものを潜ませていたのは人間の悪党の方だったのだろう。


 魔法石の掘り出しや土地の保全は国土管理局の局員として、その一切をケネルが担当する事となった。

 これもルイーザが繋いだ縁だとして、全力で臨むと張り切っている。


 その国土管理局だが、ゲザン鉱業に怒鳴り込んでいたダップの山の件で、近々水源地帯に調査を派遣するらしい。


 ダップの主張が聞き届けられ、やはり尋常ではない掘削のやり方が問題なのは間違いないと判断された。


 ゲザン鉱業は提出書類の偽造捏造の疑いもあり、まずはその件で警察の捜査が入ると言う。

 ワイダルの息が掛かった会社はいくつも存在し、これを機に違法行為の摘発が進むと言われている。


 ダップの訴えも報われ、故郷でまた生活を続けていけるだろう。


 全てが丸く治まったとは言い切れないが、ベターな形で事態が解決、あるいは好転したと考えても問題ないだろう。


 事件の事後処理が進む中、ルイーザの葬儀がしめやかに執り行われた。


 教会には王族、騎士団、警察といった関係者が集まり、王都民はすぐ後に始まる告別式に参加出来ると言う形式になった。


 関係者として3人は葬儀に呼ばれ、列席する事となった。


 参列者の中には村長と数人のオークの姿があった。


 襲撃のあった日、騎士達が村でワイダル兵とジャックスを確保、連行後、改めて副団長が訪れたのだと言う。


 そこで見習い騎士が早とちりでオークを連行した事を謝罪し、是非ともルイーザの葬儀に参加してくれと頼んでいたのだった。


 人の死を悼み、惜しむ事に種族も貴賤も関係無いのだ。


 墓地にて神父が天国へと送る祈りを終え、棺が埋葬されると、葬儀に参加した多くの者達が涙した。


 泣いた者達の数が、流された涙が、悲しみを湛えた瞳が、ルイーザという騎士の生き様を雄弁に語っている。


(彼女は命を失ったが、その魂は救われるはずだ)

 この世界の死生観や宗教観はよく分からないが、ユウキの胸には自然と、そんな思いが浮かんでいた。


 思えば、ユウキはルイーザをゲームキャラとして知ってはいるが、直接会って言葉を交わした事は1度も無い。


 こんな形で関わる事になったのも1つの縁なのだろう。

 縁が交差し、束ねられ、紡ぎ合わさって1本の流れとなる。


 その流れが更に集まり、やがて大河のようになったものを人々の運命と呼ぶのかもしれない。


 運命を語ろうと思えば宇宙の真理をたとえに引っ張り出す事も出来るし、目で見て体験している、今という瞬間の連続が運命そのものだとも言える。


 様々なものに支えられて今を生きる。

 シンプルに言えば、それが運命だ。


 ゲームを模したかのようなこの世界で今、自分はその運命の奔流の中で生きているんだ。

 ユウキは改めて、そう悟った。


 その夜、ミナが親しいプレイヤーを集めて一席設ける話になった。

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