戦いは終わって
(このチャット機能って相手が認識しないと接続が上手く行かないのかしらね)
リンディが少しのん気に言った。
「今まで本当に大変だったんだよ。ちょうど連絡を
しようかなと思ってたんだ」
(なに? 土地の調査するだけで、そんな切羽詰る
ような事があったの? 調査中に問題が起きたんなら
警察じゃなくて国土管理局の管轄になるんだけど)
当然だが、こちらの状態を全く把握していないのだろう。
ユウキは、莫大な価値の魔法石が見つかった事から、村の襲撃、ジャックスを打ち倒した結末までを手短に説明した。
(はあ、何か凄いわね。よくあるB級アクション映画のクライマックスでも説明されてるみたい。怪我人は?)
「それは大丈夫だけど。落ち着いてないでさ、こっちは困ってるんだ。なんでも、プレイヤーを含めた大勢の増援が村に来るらしいんだよ。俺達、どうしたら良いかなって」
(あら、そういう事なわけね。じゃあ、それについては心配しなくても大丈夫よ)
随分と楽観的な言い方だった。
だが、単にあっけらかんとしている訳ではないようだ。
(増援は食い止められたの。ほら、ミナって言う、大きいギルドのマスターやってる、通称お姉ちゃんのおかげね)
「え? お姉ちゃんは知ってるけど、それって?」
(私もついさっき教えられたんだけど。昨日の夜遅くにね、スカウトの男に襲撃の仕事を頼まれたプレイヤーがいて、その場で自分の所属するギルドのマスター、つまりミナに連絡をしたらしいの。そこでミナが内偵を頼んだそうなのよ)
男を捕まえて下手に吐かせるより、いかにも依頼を受けたかのように振る舞った方が、話の行方を見定めやすいという判断だろう。
(今朝になって、男から数ヶ所に分かれて集合しろって指示が出たらしいの。ミナは自分のパーティーで王都を離れていたけど、内偵に入ったプレイヤーと何人かのメンバーに警戒するように伝えていたみたい。すぐ王都警備兵と警察に連絡して、参加者だった一部の市民は武器の不当所持の疑いで捕まえたんだけど、まだ手が足りなくて西門から数グループは出発しちゃったの)
「そのグループは、まだ捕まってない?」
(いいえ、警備兵長から応援という形で騎士団に要請が行って、騎馬隊が林道を封鎖して食い止めたわ。さすがに一般市民はただごとじゃないって竦み上がったそうだけど、プレイヤーの中には反発する者もいて。でも、この依頼自体が違法で何より、依頼者側がルイーザ殺害事件に関与している可能性が高いって、副団長が言ってくれて上手く場をまとめてくれたって)
「そうか、助かった。色んな所に顔を出しておくもんだな」
(ええ、今騎士団が村に向かってるから、ワイダルの手下達が逃げないようにふんじばっておいて。ジャックスは念入りにね)
分かった、と答えるとチャットが閉じた。
「ユウキ、リンディとはどういう話になったの?」
「ああ、増援の話は心配しなくて良さそうだ。色々と上手い具合に事が終わってくれそうだよ」
ユウキとリュウドは協力して、戦闘不能で倒れているワイダル兵達をオークから借りた縄で捕縛すると、村の隅にまとめて転がした。
ジャックスに斬られた男は既に事切れていたが、回復魔法でも一命を取り留める事は不可能だっただろう。
それが一目で分かってしまうほどバッサリと、一太刀で致命傷を浴びせられていた。
敵側とは言え、死者が出たのは残念ではあるが、魔剣で更に暴れられていたら同じような死人がもっと増えていたに違いない。
そうはならずに済んだのが不幸中の幸いと言えた。
そのジャックスは、言われた通り、念入りに手足を縛っておいたが、たとえ肉体が自由になったとしても反抗して敵意を向けられるような状態ではないだろう。
気を失いながらも悪夢でうなされる様に、ううぅと顔をしかめて唸っている。
ユウキの予想通り、しばらくは術の影響下で苦しむはずだ。
アキノは怪我人の治療に当たったが、家が焼け、あれだけ派手な戦いを繰り広げたにも関わらず、大きな怪我は負っていないそうだった。
やはり頑強さが売りのモンスターであるオーク、腕っ節に自信があるゴロツキ程度ならちょっとやそっとではやられないのだろう。
「本当に、うちの村が世話になりました」
3人が集まっていると、村長と数人が礼を言いに来た。
「こっちは気になったから動いてただけで」
「いやいや、下手したらうちの村ぁ焼かれて、どうしたらええか分からんまま途方に暮れるとこだった。あんたらのおかげだあ」
巨体の腰を折って、何度も礼を言うオーク達。
「これからが忙しいですよ、これからが」
そこに割って入るようにケネルが出てきた。
性能的に戦闘に参加出来るイベントキャラではないので、今まで隠れていたのだろう。
それについては責めるべきでは無い。
「見つかった魔法石の価値や量から見て、所有の権利は村にありますが、管理は国土管理局、国が介入する形になると思います。その手続きやら何やらでしばらくの間は王都と村を行ったり来たりで、書類や許可書の作成でデスクワークも含めれば、それはもう寝る時間が無いくらいに」
「んー難しい事は分からねえから、全部お任せしますよう」
村長がそう言い、村人達が笑った。
「騎士団が来たようだな」
リュウドが遠くを眺めながら言った。
確かに、村の入り口から見える山道、その先に鎧姿の騎馬隊が見える。
「ゲームで言うなら、これでクエストは終了って感じかな」
疲労感とそれ以上の達成感の中で、ユウキは1つ大きな息を吐いた。